例によって原作既読推奨です。
某日、朝からホテルに悪魔が発生したということで特異4課からアキくん、姫野さん、荒井くん、コベニちゃん、パワーちゃん、"デンジ"、の6人が向かった。男に"くん"で呼ばれても嬉しくないという本人からのクレームでこれからはデンジ呼びにすることになったんだ。
「僕も行きたかったんですけど、僕指名の任務でも入ってたんですか?」
ここはマキマさんの執務室だ。来て早々に呼び出されてしまった。呼び出したマキマさんは机を離れて外を眺めていた。
「ミミくんを行かせるなら、その分人数を少なくしなくちゃだからね。新人教育のためにも今回はなしだったんだ」
「あと、任務とかも特にないよ」と付け加えられる。
「ちょっとした面談をしようと思うの」
マキマさんが窓から振り返り机に座る。その瞳が持つ、ニュートンリングのような同心円状の模様が今日はやけに目についた。
「キミの契約している悪魔の力はまだ不明なことが多いからね。再び情報を取って更新して欲しいというのが上層部からの指示です」
「なるほど……大丈夫ですよ」
もっとも、拒否権はないだろうけど。
デンジのような人間にも効果があったという報告が上層部の興味をひいたみたいだ。
「では、始めていきます。ミミ君が契約している悪魔の名前は可能性の悪魔。可能性の悪魔の姿を忘れることとミミ君の何かを捧げること、今後他の悪魔との契約をできないことを条件に制限のかかった力の一部を借りる契約をした。その何かが何だったのかは君自身も忘れているし、身体検査でも異常はなかったため概念的なものだとされている。間違いはないね?」
「そうですね」
「以前の記録だと、借りた力は他人の目から避けられた状態を条件にあり得る事象を実現させる、となっています。これはどう?」
「………最近気づいた条件があります。同じ時間死んでた人でも生き返ったり生き返らなかったりすることに何の違いがあるのか」
マキマさんの目が資料からこちらへと向く。続きを促されているみたいだ。
「おそらくですけど、その人がどれだけ周囲の人に死んだことを意識されたか……同じ経過時間でも多人数の野次馬の前で死んでしまった人は生き返らず、バディのみに死んだことを認識された人は生き返ります」
「つまり、なるべく誰にも知られずに君のところに来ないと打つ手がないわけだ。他人の認識も関係することは、周知させておいた方が良さそうだね」
マキマさんは手元の資料を捲り、質問を続けた。
「上層部は君が何で公安に居続けるのかその理由がわからなくて怖いみたい。話せるなら話してみて」
これはなかなか答えに困る質問だ。知ってることを全部話すことはできないし……。
「うーん………」
「僕の好きな人が公安に多いので、力になりたいんですよ」
「そうなんだ」
少し考えるような仕草をした後マキマさんは口を開いた。
「命令です。私のものになりなさい」
「は?」
「えっ…………。ちょっ、は⁉︎」
「ほ、本性出すの早いよ!!??」
「具体的には、半年ぐらい」と小声で付け加えた。急にメチャクチャ冷や汗が出てきているのを感じる。
マキマは「何でだろう」と首を傾げている。
確かに可能性の悪魔はかなり強力でマキマが無制限の力を用いれば彼女の目的にかなり近づくだろうと思う。にしたって早急すぎるとミミは思った。
マキマは片目を閉じながら開いている右目の前にゆっくりと指で輪っかを作って僕の方を覗いている。マズイ、何かの悪魔の力で解析してるか、殺そうとしてるかでしかありえない動作だ。ゆっくりとやっているのは早く降参しろという意思表示に違いない。
マキマは輪っかからこちら見たままで動かない。早く話せってこと⁉︎そっちから話してよ‼︎??
仕方ないので僕は口を開く。
「マキマさんは1999年の7月に起こることを止めたいんですか?チェンソーマンが欲しいんですか?」
「驚いた。……ノストラダムスはついでで、本命はチェンソーマンだね。それより、何で知ってるのかな?」
思ってた通りマキマさんはチェンソーマン第一主義者のようだ。
「情報源は秘密です。デンジを殺すのには協力したくないですが、銃の悪魔ならいいですよ」
「銃の悪魔はもう倒されてるけど……。もしかしてアメリカかソ連が銃の悪魔で私を殺そうとした未来でも知ってるのかな?」
「まぁ、そんな感じです。その時だけ言うことを聞いてあげますので、あとで一回だけお願いを聞いてください」
当然エッチなお願いではない。これで可能性の悪魔の力には起こる可能性の高い未来を予測する力があるとでも誤解してくれれば転生のことを隠せそう。
それよりもこの交渉が上手くいくと後で楽なんだけど、どうなるだろうか。
「いいでしょう」
嬉しいが嬉しくない。これは契約ではなく約束だし、こんな約束をしたところでマキマが僕をメチャクチャにする方法なんて星の数ほどある上、僕の身の安全が確保されたわけではない。かなり家に帰りたくなってきたが、マキマは一旦この辺の話は終わりにするようだ。
「最後の質問です。公安の収容所から姿を消した可能性の悪魔について、知っていることはありますか?」
「ないですね。部屋を出て振り返ったら居たのが嘘みたいに消えてたんです。まだ上は信じてくれないんですか?」
「私としてはこれが嘘でも本当でもどうでもいいかな。姿を見られないことを条件に自主的に捕まった可能性の悪魔が君と契約してすぐ消えたんだ。君だけに力を貸したように見えて不気味なんだろうね」
「おかげで休日でも死人のために呼ばれるんですから迷惑な悪魔ですよ。今度捕まえたら絶対逃がさないで大勢のやつと契約させるよう言っといてください」
「確かに、君を操らないと可能性の悪魔を使えないのは、私も不便かな」
不便だって話をしている割にはマキマは目に見えて嬉しそうだ。全然殺すそぶりがないのを見るに一旦僕を見逃してくれるみたいだ。本性を知ってる身としては嬉しそうなのを見ると逆に怖くなってくる。とはいえ相手はマキマ。急に気が変わって殺される可能性はまだなくなってない。
「これで面談はおしまいです。部屋に戻ってデスクワークを始めてください」
「わかりました。ありがとうございました」
緊張しながらマキマに背中を向けて扉へと歩き出す。早いとこかいた汗を拭き取りたくて仕方がない。まだ来て1時間も経っていないのにベッドが恋しい僕にマキマから声がかけられる。
「ミミ君もいつか犬にしてあげるね」
人を堕落させるような甘い響きだが、こちらとしてはごめん被りたい。怖いけど言われっぱなしは癪だ、振り返って言ってやろう。
「ワンって返事したとしても急に殺しにくるかもしれないんで、その時は気をつけてくださいね」
こんなことを言ってもマキマは微笑みを崩さない。一時的ならともかくずっと操り人形なんてごめんだ。
部屋を出て腕時計を見ると、もうそろそろ8時18分だ。右脇腹を刺されて応急処置のまま3日ぐらい過ごしたアキくんを連れて4課のみんながホテルから出てくるはずだ。パワーちゃんに止血されてはいるはずだが、そのまま3日過ごしたのは流石にヤバい。デンジだってボロボロのはずだし、入院するのは変わらないだろうが2人とも治してあげよう。僕なら今からでも間に合う。汗を拭く時間はなさそうだ。
勝手に抜け出すのは怒られるかもしれないが、個人的にも気分転換に一旦外にも出たい。
僕は現場のホテルへと移動しながら考える。
そのうち新人歓迎会があるだろうけど、その後は『〜銃持ちヤクザともみあげマン、蛇の悪魔との契約者を添えて〜』だ。知っている限りだとそこで大勢死ぬ。
まだ考えても仕方ないことなのに、心配からか最近そのことについてよく考えてしまっていた。
この能力でマキマに興味を持たれないことは不可能ではないかと思いこうなりました。その上でマキマに見逃されるとしたら気に入られるぐらいしか思いつかなかったです。
許して欲しい。
マキマが本性を表したのでミミは心の中で呼び捨てにすることにしました。