キヴォトスに転生したけど銃撃戦とか嫌なのでコンビニでバイトする 作:Minus-4
前略、キヴォトスに転生してもうた。敬具。
……詳細省きすぎか? いやでも、別に経緯とか前世とか興味ないだろ。野郎の過去なんざ私も興味とかないし。
つっても何の説明もありませんってんじゃあ説明不足だわな。基本的に社会において『説明不足』っつーのは唾棄すべき悪だし、しょーがねー、ここは一つ簡潔に説明してやるとするか。
自己紹介。
髪の色は濃いめの紺。やや長めのウルフになりかけみたいな髪型。身長は165cm。やけに細い。あと肌も白い。ピアスもばちばちに開けちゃってるぜ。
自己紹介、以上。
さて、早いとこ本題に入っちまおう。まず私は
いや、もしかしたらっつーか、多分死んでんだけど、少なくとも自覚のある死ではない。ぶっちゃけ転生なのかどうかも怪しい。
次に考え付くのがいわゆる『神様転生』ってやつだけど、しかしこれも違う。神様とかそんなけったいなもん目撃してたらこんなに冷静じゃない。
その次に考えたのは『憑依』ってやつ。しかしこれもまた違う。なんてったって、私は私のような見た目の生徒を前世で見たことがない(何やら変な言い回しになっちゃうけど)。
つまりはまあ、原因は不明! それでいいのかって感じだけど、これでいいのだ。
人生、諦めが肝心なんだぜ。しゃららん。私は誰にも見られていないことを確認しつつ、キザぶって髪をかき上げた。
「ははは、流石にダサすぎか」
そう声を漏らしながら両手を伸ばしてカウンターに突っ伏す。眼前には冷凍食品用のボックスケースがあった。右にはさっきまで伽藍堂だった米飯用冷蔵ケース。
酷い有様だった店内は私のおかげでだいぶ綺麗になった。見たまえ、このフェイスアップ技術を。FF什器にはフライヤー商品が欠かさずに補充されている。見栄えがいい。
床はピカピカ、弾丸の欠品もなし。さっきまで重要要素欠落しまくりの欠陥コンビニだった当店は、私一人の手によって大改造され、完全無欠のパーフェクトコンビニになりました。どやさ。
……いやしかし、誰がこんなこと予想できるよ。TS転生したと思ったら部屋はボロボロだったしベッドのバネはびよんびよん。
部屋に電気は通ってねーし、当然ガスも止められてる。水道だけはギリ生きてたけど、それにしたってほぼ死に体。
おまけに通ってる学校はゲヘナ。
殺す気かて。死ぬて。実際死んでんだけどさ、多分。
いや、マジにビビったね。ハードコアモードかよって。理解できない現実ってハードでコアなんだって、ここに来てようやく気付いたよ。遅すぎ。
私はブルアカ未プレイのにわかだったもんだから、SNSとかで流れてくる生徒のイラストとかしか見たことなかったから、この三ヶ月はそりゃもう苦労しましたとも。
銃で撃たれると痛いし、絡まれるとめんどくさい。私からカツアゲしようとした馬鹿野郎(女性だったので『馬鹿女郎』というべきか)はきっちり潰したが、銃撃戦なんか二度とごめんだ。
いやしかし、それにしても
現在私はエンジェル24というちんけなコンビニでアルバイトをしている。というか、
うむ、つまりは今日が初出勤というわけだな。
出勤時に勤務内容の説明とかはなかったし、店長らしき輩も他の店員と思しき人物もいやしなかったけど。
初出勤からこのしけたコンビニをワンオペで回さざるを得なくなってるせいで、やることもなくてクソ暇だけど。
でもそんなこたぁどうでもいい。何より一番私の精神にキたのは、バックルームのロッカー開けたとき、
冗談じゃなく『ウッソだろおい』って言っちゃったもんな。今でもあんまり信じられてない、現実味なさすぎて。
いや、百歩譲って譲りに譲って、私一人しか店員がいねーってのは理解できるんだけどもさ。しかしそれにしたっておかしいだろ。
「店長どこ行ったんだよ……」
なんで店長の分の制服すらも存在しないんだよ。じゃあこのコンビニは今誰がどうやって経営してんだ? あれか、怪奇現象か? この雑居ビルは事故物件なのか?
何やら連邦生徒会肝入りの
D.U.とて、別にゴーストタウンというわけでもないのにね。このビルの近辺だけには誰も近寄らない。どうなってんだよマジでさ。
まあ別にもう何だっていいんだけどさ。やるべき仕事は全部やった。あとはここにいればそれだけでお金をもらえるんだから、こっちとしちゃあボロ儲けよ。
つーかあれだな、キヴォトスって折角可愛い子がいっぱいいるらしいのに、こんなところで一人きりなのももったいないよなあ。
からんころん。口の寂しさを紛らわすために舐めてる棒付きキャンディを舐め回す。
いっそのこと、あれだ。街中で勝手にビラ配りでもして、
とか、そんなセコいこと考えていたところで。
さっきまで一度だって動くそぶりすら見せなかった自動ドアがウィーンと、その高性能さを無駄に見せびらかすような音を立てながら開き。
「ん……いらっしゃいませー」
そしてそこから、ここに来てようやく見る、私以外の生徒が現れたのだった。
「あっ、あの! アルバイトの面接っ、を、受けさせていただきに参ったのですが……!」
「……は、面接? ここで働くの、キミが?」
「ひっ……こ、コンビニ店員にしては風貌が威圧的……!」
斜めがけのカバンの紐を不安そうに握りしめながら入店してきたその子は、見た感じまだ中学生なんだけど……キヴォトスでは中学生から働いてもいいのか?
──というか、この子、かわいいな。金髪のストレートロング、おでこがよく見える髪型で、後ろはリボンで留めてるっぽい。身長は……140cmくらいか?
いやしかし、面接ねえ。この店、店長が(何故か)飛んでるくさいし、どうしよっかなあ。
「面接って、今日やるの? 今ここには店長もいなけりゃ正社員もいないけど」
「えっ? いやでも、メモ帳には確かに今日って──」
「…………」
これ私は店長のことマジで一回ぶちのめしてもいいよな?
いやどーすんのよ。流石の私でも前世含め面接の経験なんかねーんだけど。とりあえず、一旦店長に電話かけてみっか?
……ま、繋がんないよな。再三かけてんのに繋がらねーし、マジで飛びやがったくさいなこのアホ。
はあ、もういい。
あれこれ考えるの、めんどくせーや。
「やい、そこのちみすけ、とりあえずこっち来な」
「……えっ? その、ちみすけってもしかして、私のこと呼んでます……?」
「そうだよ、今ここにいるのは私とちみすけだけだし。はいはい、分かったらさっさとバックルーム来て。面接したげるからさ」
私は重い腰を上げ、バックルームへと仮称ちみすけを案内した。立ち上がってみると、身長差がより際立つ形になった。
……流石に緊張しているらしい。そりゃそうか、私も初めてのバイト面接は緊張したもんな。
ほらほらこっち来なされ、仮称ちみすけ。私がきみを見極めてやろう、見定めてやろう、見透かしてやろう。
しゃがみ込みながら視線の高さを合わせ、バックルーム側へと手招きしてみる。そうしたらやっとこさこちらに来てくれた。
「……こわくないよー」
「っな!? こっ、子供扱いしないでくれませんか!!」
「いや、そうは言ってもねえ、ちみすけ。こっちとしても折角バイトの面接に来てくれた子を怖がらせたくないのよ」
「……いやでも、やっぱりその髪型にピアスって、どうしても威圧的に見えますし……」
「ははははは、中々言うじゃない、ちみすけ。ささ、とりあえず中に入りなさい。履歴書は持ってきた?」
「あっ、はい! 履歴書と……こちら粗品ですが、お納めいただければ」
間違ってる間違ってる。
ちみすけお前それ、賄賂のつもりじゃねーだろうな。
まあ折角だし頂戴いたしますけども。はいどーも、ありがとね。
さて、と。受け取った履歴書を眺めながら私はバックルームの椅子に腰掛ける。すると数秒経ってから「失礼します」と一礼したちみすけも椅子に浅く腰掛けた。
……ちゃんとしてるじゃないの。中学生とはいえしっかりしている。
「はい、事実上の店長であるキョウカです。本日は面接の方、よろしくお願いします」
「ソラです、よろしくお願いします!」
「はいソラすけね、お願いします」
「ソラすけ……?」
「じゃあまずは志望動機の方から聞かせてもらおうかな。ウチを志望した理由は?」
「はい、この学園都市キヴォトスでは、何をするにもお金がかかるものですから、生活費を稼ぐために──」
「あー分かるわ。水道代とか払えなくなったら死……
「──えっと、あの、面接中にさらっと壮絶な過去を明かさないでください」
まあまあ、そうお堅いこと言いなさんなって。現にこうして生きてるんだからさ。
つーか正直、動機とかどうでもいい。ちゃんと働いてくれるのが一番だからさ。
前世でもいたなあ、綺麗事抜かしてる割には真面目に仕事しないやつ。アルバイトとはいえさ、もうちょいちゃんとしてほしかったよね。
「動機は『生活費』ね。じゃあ……そうだな、自分が思う長所と短所を教えてくれる?」
「はい、長所は……真面目なことです。あと、いつでもシフトに入れます! 短所は、寝付きが悪いこと……? 疲れてると、変な夢とか見ます」
「はい。いつでもシフトに入れる、そりゃあいい。ま、ここはそんなにお客さんもこないから暇だけど、それなら隔日くらいで入ってもらおうかね。短所は……形式上聞いただけだから、その話はまた今度聞かせてよ」
「……あの、一つ聞きたいことがあるんですが、質問してもいいですか?」
「おっ、いいねえ逆質問ってやつだ。何でもどうぞ、答えられることなら答えたげるよ」
「さっきから面接の合格を仄めかしているのはわざとですか??」
「わざとに決まってんじゃん絶対逃さないから」
「合格までが早すぎませんか!?」
「顔見た瞬間から決めてたから」
「今の時代に顔採用!?」
んなこと言われてもねえ。正直言っちゃうとこんな可愛い子と仕事できるチャンスとかみすみす見逃してたまるかって話なんよね。
それに多分、この子
一人で色々やるよりも二人で山分けした方がいいっしょ。ほらあれだ、あなたとコンビにってやつだ。上手いこと言っちゃったぜ。しゃららん。髪をかき上げた。
ソラすけに変な顔をされた。解せない。
「うん、じゃあそういう訳なんで。ソラすけ、来週からよろしくね。色々マニュアルとか作って待っとくからさ」
「えっ、あっ、これで面接終わりですか!?」
「うん終わり。はい、来てくれて本当にありがとねソラすけ。今この瞬間をもって、ソラすけはこのエンジェル24……D.U.事故物件店? の一員です、おめでとう」
ぱちぱちぱちぱち。茶化しながら手を叩いてみる。すると仮称ちみすけ──ソラすけは「えっ、ここって事故物件だったんですか……?」と顔面蒼白になった。
嘘だよ嘘嘘、嘘だって。泣き出しそうなソラすけの頭──主におでこ──を撫でながら、ポケットに常備している棒付きキャンディを舐めさせた。プリン味のやつ。税込30円とか。
「あっそうだ。裏にある廃棄の弁当とか、好きなだけ持ってっちゃっていーからね。フードロスとかもったいないし」
「あっ、ありがとうございます……?」
「あとこのコンビニ社割もあるからね。お金に余裕ないんだったら、このコンビニで色々買っとくといいよ。あとどうせ店員私しかいないしちょっとおまけもしてあげるからさ」
「……それ、いいんですか?」
「本当はダメだけど、店長がもっとダメなことしてるから平気っしょ。大丈夫、どうにかなるって。はい、じゃあね、ソラすけ」
そんなことを言いながら、私はソラすけを見送った。別れ際の彼女の目つきはジトッとしていて、とても信じられない物を見たかのような目付きだった。
……さて、と。無駄に揚げたホットスナックの廃棄登録しないとな。
がさごそ、からんころん。私はポケットから棒付きキャンディコーラ味を取り出して、口の中で弄んだ。
うふふ。来週からソラすけと一緒にバイトか。
今から楽しみだ。