キヴォトスに転生したけど銃撃戦とか嫌なのでコンビニでバイトする 作:Minus-4
同じような感覚になったのは、一体いつだったか。
覚えている限りでは──この前ワカちゃんと……〈災厄の狐〉とやり合った時ぶり。
「ホシノ先輩、何でこんなとこにいるのよ!?」
「ちょーっと、先生の仕事をお手伝いしに来たんだよ〜。そしたら見慣れた子がいたから、何でこんなとこにいるのかなーって思って!」
あとは、
頭のてっぺんから、爪先の先の先まで、全身が『こいつとは戦うな』と警告する感覚。
「とりあえずさ、うちのセリカちゃんも嫌がってるみたいだし……手、離してもらっていい?」
がし。私の手首を握ってきた。握り込む力があまりにも強い。折る気か? いやしかし、流石にそこまでではない。
セリカちゃんの顔を見ると、ちょっと困ったような顔をしているだけである。なるほどこれが
そんなら、ゲヘナと大差ないね。
「……こーゆーのって、本人の意思が大事だと思うんですよね。多分セリカちゃんの先輩なんでしょうけど、ホシノさん、手ェ離してくれません?」
「うーん、先にそっちが手を離すのが先じゃない? ねえ、ゲヘナの〈亡霊〉さん」
「えっ? キョウカさんって、
「うん、そう呼ばれてるらしいね。で、私がそう呼ばれてることと、セリカちゃんをバイトに勧誘してることはまったくの別問題だと思うんですけど」
「いやね? おじさんが過保護かもしれないっていうのは重々承知の上なんだけどさ、この前偶然
つまり、私が
ナメやがって。こんなに真面目な私をあんな連中と同じ扱いとか、ふざけてんのか。
ナメられるのは嫌いだ。飴を舐めるのは好きだけどな。とにかく、気に食わない。過保護すぎるんだよてめえは、一丁前に保護者気取りか? それはまだ早いんじゃねーのかよ。
……てか、
「何はともあれ、今は業務中なんで、手、離してくださいよ。話はそれからです」
「話が分からないね。セリカちゃんの手を離すのが先。何度も言ってるでしょ? それに、セリカちゃんは言い寄られて困ってるように見えたけど?」
「だーかーら、そーゆーのは本人の意思が重要っつってんでしょうが。セリカちゃんはわざわざこんな所まで単発バイトしに来てんだ、
「えっ、まあ……それは、そうなんですけど……」
先輩の手前歯切れが悪いな。でもまあいい。そんならやっぱり、セリカちゃんはうちで働いたほうがいい。
私は知ってるぜ、アビドス高校は
それなら単発バイトなんかより、普通にバイトした方がいいに決まってる。セリカちゃんのためになるし、アビドス高校のためにもなる。
それをお前、どういうつもりで止めてんだ? みしみし。私の右手首は悲鳴を上げ始めているが、知ったことじゃない。
「……セリカちゃんはさ、どうしたい? おじさんとしてはね、やっぱりさっきのセリカちゃんは強く言い寄られて
「おいおいなあなあなあ待てって言ってんだろ。お前さ、それは望む答えに誘導してるだけ」
「今はセリカちゃんと話してるから、ちょっと黙っててもらえる?」
「………………………………」
てめえ、マジでさ。先輩だか何だか知らねーけど、あんまナメた真似しないでくれないかな。
いや、そりゃあさ? 私だってテンション上がって急に言い寄ったのは悪かったなって思ってるよ?
でもそれをお前、そんなふうに扱われたらさ。
みし、みしみし。私の右手はついに限界を迎え、セリカちゃんの手を離してしまった。
「……私は、正直、その……突然『うちで働かないか』って言われて、びっくりしただけっていうか──」
「……そうだったの。そういうことなら、やっぱりここで働きたいと思ってる?」
「うーん……時給はいいんですけど、アビドスからはちょっと遠いかなー、とか、そんな感じ……?」
「なるほどねえ。だってさ、キョウカちゃん! いやあ、ごめんね? おじさん出しゃばっちゃって。でも、働き先っていうのはそんな急に決めるものでもないと思うんだよね」
「──……っす。何で名前まで知ってんだよ……」
ううむ、ううん……まあ、そうなんだよなあ。
この一件、別にどっちも間違ってるってわけじゃねー……とまでは言い過ぎか。普通に私が焦りすぎってだけまであるんだよね。
これから先、多分お客さんはもっと増える。そうなった時、私とソラすけ、そしてワカちゃんだけで回せるかっていうと、流石に厳しい。
そーゆーのもあったもんで、正直私は焦ってる。働き詰めなのはまあいい、私が選んだ生き方だ。
でも、これをソラすけとワカちゃんにも強要したくない。あの二人には、もっと楽に、楽しく働いていてほしい。
だからまあ、そういうことだ。
私が謝って、セリカちゃんには普通に働いてもらって、それでこの話はおしまい。
「……ごめんね、セリカちゃん。さっきはちょっとテンション上がっちゃってさ。もう勧誘とかしないから、安心してね」
「ま、まあ? 別に私は気にしてないんで、そんなに謝らなくても大丈夫だけど……でも、はい。これからもたまに単発で入るくらいが、ちょうどいいかなーって」
「うん、その方がいーよ。てか、私もこれ以上ホシノさんに目ェ付けられたくないし」
「いやいやいや、本当にごめんね? この前セリカちゃん、誘拐されたりしたばっかりだからさ。おじさんも過敏になっちゃって」
「はあ!? 誘拐!? そーゆーことはもっと先に言ってくれませんか!?」
「声でっか」
「うへ……」
何だよそれ、誘拐!? アビドスってそんなやばいとこなのかよ、だったらそうって早く言ってくれって!
何だよもう……私は頭を抱えてうずくまった。あー……そりゃそーなるわ、過保護にもなるわな。
ちょっと整理しようか。まずセリカちゃんはちょっと前に誘拐された。そんで今日、私は嫌がっている(ように見える)セリカちゃんの手を掴んで、何かしようとしてた。
そんでちょうどそのタイミングをホシノさんが目撃──そして今に至る、と。ははあ、なるほどね。全貌が見えてきたぞ。
私は〈亡霊〉って呼ばれてる(らしい)。理由は分からんけど、まあまともな理由ではないでしょ。多分ゲヘナで大暴れした過去があるからだと思う。
だからまあ、ホシノさん視点としては、ゲヘナの危険人物(?)が可愛い後輩の手を取り、嫌がるセリカちゃんをどうにかしようとしていたと。そーゆーことね。
「ほんと、すいませんでした」
「いやいやいや! おじさんの方こそごめんね、多分早とちりなんだろうなーとは思ってたんだけど、それでも、万が一ってこともあったからさ?」
「いや、先輩。それにしたって過保護じゃ──」
「
……おーっと。
これ、アレだな。突っ込んじゃいけないとこだ。
セリカちゃんは「先輩っていっつもそうよね……」と、気付いていないようだけど、ちょっと何もかもが予想以上だ。
アビドス行ったことないけど、絶対行ってやんねー。断片的に得られる情報がいちいち怖すぎるんだわ。
……とりあえず、仲直りしといた方がいいよな。がさごそ、ぺりぺり。ポケットからチェリー味の棒付きキャンディを取り出した。
「これ、どうぞ。仲直りの印っす、受け取ってもらえれば」
「えっ、くれるの? そんじゃー遠慮なく……うへぇあ!? 酸っっぱぁ!?」
「ふははは、右手の仕返しだコラ。これでおあいこよ、どう? 仲直りには最高っしょ?」
「……おじさんが言うことじゃないかもしれないけど、いい性格してるね、キョウカちゃん……!」
がし。お互いに右手を出して握手。ぎり、ぎりぎりぎり。互いに握る力をどんどん強めていく。負けねーぞコラ、やってみろやコラ。
その余裕綽々ぶってる面の皮剥がしてやるぜ、絶対ぎゃふんと言わせたるからなお前おい。あんまナメんなよ私の握力を。
互いの顔が赤くなり始める。右手が握りつぶされそうだ。でもまだまだ、こんなところで負けてたまるか。
「ぐっ、うぅぅぅぅぉぉ…………!!」
「なっ……かなか、やるねぇ……!!」
「……もう、何なのよ、本当に……」
呆れているセリカちゃんの表情が私たちの視界に入ることは、ついぞなかった。
ホシノ、今度また来やがれ。次こそはボコボコにしてナメた口効けなくしてやっから。
あっ、でもガチバトルはなしね。それは流石に勝てる自信ないから。
何か気付いたら悪友みたいに!
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