キヴォトスに転生したけど銃撃戦とか嫌なのでコンビニでバイトする 作:Minus-4
前略。本日入荷された新聞に最低最悪の見たくもねー連中の名前がちっさく載ってた。
「はあ……ほんと、あんま人をナメんなよ……」
「……どうしたんですか、いきなり不機嫌になって」
「んーや、なんでもないよん。ただちょーっと嫌なこと思い出しちゃってさ」
ちっ。せっかく久々にソラすけとシフトが同じなのに、こんな嫌な気分になどなりとうなかったぜ。
がりがり。口に含んでた棒付きキャンディを齧る。ストレス発散になるかと思ったけど、全然そんなことはなかった。30円無駄にしちまった。
はあ──ムカつく。久しく忘れていたけど、まだ全然解消できてねーや。
「……その、本当に大丈夫ですか? キョウカちゃん、いつにも増して目付きが険しいですけど」
「んー、んー……まあ、そーだな──聞いて楽しい話でもないと思うけど、聞きたい?」
「それでキョウカちゃんがいつもの調子に戻るんだったら聞きたいです」
そっか、そっかぁ。それほどまでに今の私は
そんならしょーがねー、理由も明かさず不機嫌なやつとか社会の悪だし、ここは一つ語るか、私の身の上話。
話題。
「いやさ、ソラすけ覚えてる? 面接の時に私が『三ヶ月前の私にそっくり』って言ったの」
「もちろん覚えてます。面接の途中にいきなり壮絶な過去を仄めかすからびっくりしました」
「だろーね。あん時はごめん。んで、今から話すのはその三ヶ月前についてなのよ。私がどーゆーやつだったかってことと、
「……
「まーそーね。ただあん時はそう言ったんだけども、実際はそんなにスケールの小さい話でもないのよ」
そう説明すると、ソラすけは目を丸くしたあと、何か悪い想像でもしたのか、ほんの少しだけ顔色を悪くした。
多分きみの想像ほど酷くはないから安心しなさい、ソラすけ。
「あの時の私は、水道代が払えなくなった──つーか、
「……えっ?」
「うーん、なんかこれも違うな。水道代を払うべき場所が
「ちょっ、ちょっと待ってください! 話がいきなりすぎて頭が追いつかないというか……!」
「まあまあ、驚くのはここからだぜ、ソラすけ。意地の悪いクイズみたいになっちゃうけど──問題です。つまり三ヶ月前の私に、
シンキングタイムスタート!
制限時間は10秒。はい9、8、7──
ぽん! はいソラすけ早かった! 解答は……家から追い出された、と。そう思ったのね。
不正解! 私は両手で大きくバツを作る。残念、
「正解は『家が爆破されて消し炭になってた』でした。消し炭っつーか、残骸? まあつまりは廃墟だわな」
「そ、想像の60倍壮絶……」
「あ、ちな今も廃墟だよ。廃墟住まいのキョウカちゃん、ルインズガールのキョウカちゃんだぜ」
「引っ越してないんですか!?」
ソラすけが驚きのあまり叫ぶ。うひゃー、耳が痛え。二重の意味でね。
いやさ、私も引っ越そうかなって考えたんだけどもね。しかしそれにしたって
そーゆーわけで、私はバイトに入りまくっているのです。学校とか行ってる場合じゃねーからな、マジで。
「……私の家、泊めてあげましょうか?」
「いやいーよ、遠慮しとく。そこまで迷惑かけらんねーしさ。こうしてバイトに来てくれてるだけでも本当ありがたいのよ」
「私と同居しませんか? ほら、私と四六時中話せます」
「言い方の問題じゃないんだ。魅力的な提案だけど断らせてもらうよ、ごめんね。ちょっと色々とね、私にも思うところあってそこに住み続けてるんだ」
「……ちなみに、その理由って何なんですか? 私、キョウカちゃんに嫌な思いはしてほしくないんです。優しくしてもらってるし……」
……いい後輩を持ったなあ!
いやマジで、これが普通の事情なら喜んで泊まらせてもらいましたとも。私の家事スキルをいかんなく発揮するところだ。
しかし、しかし。私にはどーしても譲れないのよ、ここだけはね。
どうしても。
どうしてもどうしても。
どうしてもどうしてもどうしても。
「どうしても譲れないし、譲るつもりもない──私があそこから引っ越したら、私の家はたちまち
「……えっ、おん、せん──って、あの温泉ですか?」
「いぐざくとりー。あの温泉だよ、心が安らぐ温泉だ、裸で付き合う温泉だ──」
ソラすけは知ってるかな。
私の宿敵で、怨敵で、天敵で、仇敵で、大敵。
──温泉開発部。
文字通りに温泉を開発する部活。それはまあいい。
問題なのは、温泉を開発するためなら
「まーつまり、私の家はそれに巻き込まれたわけよ。学校から帰ってきたら家が消し炭なんだもん、たはは、笑っちゃうよね」
そう、笑っちゃえるのだ。笑い飛ばせるのだ。
今となっては笑い話の種なんだよ。
あは。あはは。あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。
……だからさ、ソラすけ。
「……話、ここでやめとこっか?」
「……いえ。最後まで聞かせてください。ここまで知って、なあなあでは終わらせたくないです」
「そっか。そんじゃまあ結論から言っちゃうとね、私は温泉開発部の連中と超が付くほどの大喧嘩をしたのよ」
「……それで、〈ゲヘナの亡霊〉って呼ばれるようになったんですか?」
「なあんだ、知ってたの──ワカちゃん辺りから聞いたのかな、それとも……まあいーや、その通りだと思うよ」
私はナメられるのが嫌いだ。飴舐めるのは好きだけどな。そーゆーわけで、私はどうにも我慢ならなかった。
家がなくなったのは、
私がどうしてもムカついたのは
──あの笑い声が、今でも耳にこびりついている。
ナメやがって。
バカにしやがって。
ゲヘナでは、ナメられたら終わりだ。
だから、二度とナメたことをできないようにしてやらないといけない。
「っつーわけでね、私はどうにもこうにも感情を抑えきれなくって、怒りに任せて温泉開発部とドンパチやり合ったのよ」
「…………」
「連中、頭数は多い上に銃撃戦も
「……7割……えっ、7割?」
「奴ら、結束力はあるもんでさ。全員束になって主要メンバーを逃すわけよ。だから部長とその側近みてーなやつには逃げられた。一発はぶち込んだけどね」
当然私の怒りは収まるわけもない。絶対にあのいけすかない部長に責任を取らせたかった。
そしたらあいつ、私から逃げてる途中に呼んだんだろうな、
私は暴れに暴れた。温泉開発部の部長を追いながら、温泉開発部員を蹴散らしながら、万魔殿の武装を破壊しながら。
温泉開発部員はどいつもこいつも口を割らなかった。
万魔殿の連中は武装を破壊してやれば大人しくなった。
そうして、それを続けること、
暴れて、暴れて、暴れ尽くした。怒りは収まらなかった。
「えっと、今のキョウカちゃんからは想像できないんですけど……」
「私もおんなじ。あん時の私はどうかしてたね、いや本当に」
それから、万魔殿の連中に
後から知った。そいつらはゲヘナの風紀委員会と、そして便利屋68という連中だった。
風紀委員も便利屋も、
風紀委員はまだいい。よくはないが、全力で暴れれば大抵何とかなった。何人倒したのかな。全部で500人くらいだろうか。別に数にこだわっていたわけではないので覚えてない。
問題なのは便利屋の方だ。ちょくちょく狙撃やら罠やら爆弾やらを仕掛けられていたので、私は先に便利屋から潰すことにした──
「……こっから先は」
「聞きます。聞かせてください」
「……りょーかーい」
んでもって、まず私は切り込み隊長的な子──たしか
そしたら逆にぶちのめされた。
ナメてたわけじゃない。侮ってたわけじゃない。けど、私は一捻りされた。
チームワークっつーのかね。便利屋の4人はまさしく一心同体ってやつだった。正直なすすべもなかった。
「……キョウカちゃんが、やられたんですか?」
「そ。キョウカちゃんはけちょんけちょんにされた。コッテコテのギッタンギッタンにされちゃった」
「そんな、ガキ大将みたいな擬音で……?」
いやまあ、流石に比喩だけどさ。
ともかく、私は一回ダウンさせられた。つまるところが負けちゃったわけだ。
でもここで退いちゃったらさ、それってつまり、私が温泉開発部の部長を追い続けた二週間は、まるきり無駄ってことになっちゃうじゃん。
それが私にはどうにもこうにも我慢ならなかった。多分温泉開発部に雇われたんだろう便利屋に負けたまんまになっちゃうのが我慢できなかった。
「どうしてか、分かる?」
「……多分、そうなったら、また温泉開発部がキョウカちゃんの家を掘削し始めるから……?」
「ん、まあ大体そんな感じよ。『便利屋さえ雇えば有働キョウカは無力化できる!』って
ゲヘナでは
だから私は、ナメられたくなかった私は、便利屋に奇襲を仕掛けた。
負けっぱなしでは終わらない。終わらせてやらない。そうしないと、かろうじて廃墟として残っていた私の家は、今度こそ完璧に大衆浴場にされてしまうから。
私は便利屋に嘘の依頼を吹っかけて、呼び出した先で奇襲を仕掛けた。最初にハルカって子を沈めた。やられたらやり返さなきゃいけないから。
そしたら、まあ当然っちゃ当然なんだけど、便利屋の残り3人が
思い出したくもないし、二度とやり合いたくもない。銃口を向けられただけで全身びりびりと震える拳銃、四方八方から飛んでくる爆弾、関節と頭にしか当たらない狙撃。
当然ながら、私はボッコボコにされた。されたけど、なんとか便利屋を撤退させた。具体的には、
疲労困憊している便利屋がその時使ってた事務所に先回りとかしてね。そしたら向こうが降参してきたから、そこで手打ちになったっつーわけ。
「そん時気付いたんだけど、私って結構粘着質らしくてね。カヨコって子から『二度と関わらないから二度と関わるな』って言われちゃった」
「いや、当たり前ですよそんなの……」
「ね。そりゃそうだ──こりゃあ先生のことをストーカーって言えないな」
その後も私はゲヘナで暴れ散らかした。全身怪我まみれになりながら、温泉開発部の部長を追い続けた。
道中で風紀委員の子たちが何度も立ちはだかってきたから、私に攻撃してきたやつにだけ攻撃し返した。
ナメられたら終わりだから、間違ってもナメたことができないように、徹底的に。
「今思えば悪いことしたけどね。当時は全部万魔殿の邪魔くさい連中だと思ってたから、ただ責務をまっとうしてるだけだったあの子たちには、本当に悪いことをした」
「まあ、そうですね……ちゃんと謝りに行ったんですか?」
「そりゃあもちろん。謝罪行脚の土下座三昧よ。菓子折りとかめっちゃ持ってったからね」
「むしろ、それでよく許してもらえましたね……」
「ま、
つっても、私が謝りに行ったのは、風紀委員長──ヒナヒナにありえないくらいボコボコにされたからなんだけど。
忘れもしないよ、本当に。忘れたくても忘れられない。あんな思いは、本当に二度とごめんだ。
気持ちは分かるけどやりすぎよ。そう言ったヒナヒナはまず私の右腕を
いやあ痛かった。便利屋にぶちのめされた時なんか目じゃないくらいに。いや私が悪いのよ、暴れすぎだったからね。
でも当時の私ときたらそれで頭に血が上っちゃってね。ヒナヒナが出てきたんだから相手にしてたのは風紀委員だって気付いてたのに、引くに引けなくて、そのまま戦ったわけよ。
「あの、話の腰を折っちゃうかもしれないんですけど、えっと、
「えっ? ああ、うん。そーだよ。この前仲良くなったんだよね」
「よく仲良くしてもらえてますね……」
「本当にね……懐の深さに感謝するしかねーわな」
何が何でも自分で温泉開発部の部長をぶちのめしてやりたかった私は、そのままヒナヒナに攻撃し続けた。
けどねー……あの子硬すぎ、まともに攻撃通んないのよ。んで、カウンターでぶっ飛ばされて、壁やら床やら天井やらに激突。
もう痛すぎてさ、泣いたよね普通に。どーして私がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ、私はただ平和に暮らしたいだけなのに、って。
ゲヘナに住んでるのが悪いんだけどね。
それから、
結局、私の
でも私はそれでも立ち上がった。信じらんないよね、全身骨折してんだぜ? 私も信じらんねー。
私じゃヒナヒナには勝てない。分かってるよ、元からそんなに強くもない。ただちょっと、怒ってて遠慮がなかっただけだからさ。
んで、結局その後、私は決死の一撃を叩き込んで、でもまるで効いてなくて、気絶したってわけ。目ェ覚めたら保健室だったよ。
「そしてそこで、ヒナヒナから『温泉開発部のことはこちらに任せて』って言われたから、私はそこで大いに反省して、温泉開発部を追うのをやめたってわけ」
「波瀾万丈すぎませんか!?」
「んー、んー……だからこの話すんの嫌だったんだよー……当時の私はマジでどーかしてた。恥ずかしすぎる……」
「えっと、聞いた私が言うことでもないと思うんですけど……キョウカちゃんが今のキョウカちゃんになってくれて本当によかったです……」
「うん……結構頑張ったんだぜこれでも。油断してるとちょくちょく『ゲヘナ流』が出ちゃうけど」
「出ちゃうんだ……」
ほら、初日にソラすけも言ってたじゃん。見た目が高圧的ってさ。あれもねー、店長に飛ばれてムカついてたが故なのよね。
あん時はごめんね! 今更ながらお詫びに棒付きキャンディをあげましょう。いらない? そんなあ。
おほん。そーゆーわけで、私は大暴れに大暴れしすぎたせいで──
いわゆる〈亡霊〉の真相は、つまりそんなところだった。
「──っと、そろそろ米飯に値引きシール貼らなきゃいけない時間だわ。ソラすけ、お願いしていい?」
「もちろんです。というか、さっきの話を聞かされて断れる人はいないと思います」
「いやっ、いやいやいや! 別に今のは脅してるとか、そーゆーことではなく……!」
「きゃー、〈亡霊〉に脅されてまあす、早く仕事をしないと何をされるか分からないので仕事してきまあす」
「ソラすけ──!!」
……行ってしまった。
うん、本当にいい後輩を持ったよ。私に気を遣わせないようにしてくれているのだ、あの子は。
いやはや、不甲斐ない先輩で申し訳ない──これから仕事で挽回していくしかないだろーね、うん。
……しかし、そうだな。
「まさか、
ソラすけ。実は私、一つだけ嘘ついたよ。
……いや、嘘をついたというか、
ヒナヒナに言われた言葉──「温泉開発部のことはこちらに任せて」って、そう話したけどね。
あれ、実は
保健室で目覚めた私に、ヒナヒナは話しかけてきた。その左腕を──
温泉開発部のことはこちらに任せて。
そうじゃないと、あなたは。
……言われないでも、そんなのごめんだね。
せっかく友達も増えてきたんだ。シリアスは私にゃ似合わねーっつーの。
そーゆーのは外野でやっとけ。私は普通に普通な普通のコンビニ店員として生きていくからさ。
だからマジで、温泉開発部の部長、
その右腕、
そしてその他大勢。
これ以上、私の帰る場所をなくさんといてくれな。
ほぼ二週間ぶりです! ここ最近本職の二次創作の方書いてました! したらバイト全然関係ない内容になっちまいました!
評価人数ももうすぐで200人越えそうです!! 何が起こってるんでしょうか!!
気付かぬうちに総合評価6000pt越えてました! いつものことながら読んでくださり、また評価や感想、お気に入り登録にここすきなど本当にありがとうございます!!!!