キヴォトスに転生したけど銃撃戦とか嫌なのでコンビニでバイトする 作:Minus-4
ソラすけことソラちゃんを勝手に個人の裁量で雇用してから三週間が経った。つまりはまあ、ソラすけが働き始めてから実に二週間である。
ちなみにこの間に来た客は両手で数えられちゃいます。きゃはは、乾いた笑いが止まらないね。
いやあ、それにしても凄いねこの子。一応マニュアル作って渡したんだけど、一回目を通しただけで全部覚えちゃうの。
もともと真面目だってのもあるんだろうけど、しかしいくら何でも飲み込みが早すぎる。
難しいゴルフバッグの配送手続きや、バイクの自賠責保険関連なんかもお手のもの。接客は……まだ緊張しているようだけど問題ナシ。客が全然来ねーから、慣れるまでには時間かかりそうやんね。
流石に発注とか、本部への送金とか、そういうディープなところまでは任せてないけどね。ミスったら気負っちゃうでしょ。
しかしマジで、マージで雇って正解だった。未だに飛び続けていて連絡の一つも寄越さねークソ店長と引き換えにこの子が雇えたと思うと、逆に感謝しかないね。
「キョウカ先輩、このモモフレンズくじはどこに置いておけばいいですか?」
「ん、くじの陳列は初めてだったっけ。これはねー、本部に決められた日時からしか販売しちゃああかんのよ」
「へえ~、覚えておきますね。メモしとこう……」
「メモりついでにもっかい言うよ。私のことはキョウカちゃんと呼んでくれていーんだぜ」
「……何度も言いますけど、年上の先輩をキョウカちゃんって呼び捨てにするの、ちょっと抵抗があるというか──」
むう。別にいいって言ってるんだから呼び捨てでいいのに。
ソラすけと仲良くしたいから、その第一歩としてこうして呼び掛けてるんだけど、いやはやままならねーな。
しかしこのモモフレンズとかいうキャラクター共、私には魅力がさっぱり分からん。ウェーブキャットとかいうのだけはいいセンスしてると思うがね。
からんころん。レジ台に頬杖突きながら棒付きキャンディいちごミルク味を舐める。この甘ったるさがたまらない。
「いやしかし、本当に暇で暇で仕方がないなあ。今日の仕事も一通り終わっちまったし、ソラすけを撫で回すくらいしかやることがないよ」
「あわ、あわわわわ……おでこが! おでこが広がっちゃいます!」
「そこまで強く撫でてないから安心しなって。ふはー……ソラすけを撫でている時が至福のひとときだよ。バイトの疲れも一気に消し飛ぶね」
「……そう、です、か……?」
マジだよマジマジ。こんなに「生きててよかった!」ってなることないって。いやまあ一回死んでんだから、そもそも今こうして生きてるのがおかしいんだけどね。
あ、そうそう、一回死ぬで思い出した。ついこの間も死にそうな目に遭ったんだよね。
つっても簡単なことでさ、つまりは
……ここ最近。つまりは連邦生徒会長が
それはここ、ゴーストタウンじみているD.U.の端くれも例外ではない。近頃は何だか人通りも増えて来はしたけど、それに伴い犯罪率も増加しているらしいしな。
ちなみにだが、我がゲヘナは犯罪率3000%とかいう噂まで立ってるぞ。いや流石に嘘だろうけど、迫力も説得力も十分あるんだから凄いよな。
そうそう、一応言っとくと、カツアゲして来た馬鹿共は全員潰した。銃で撃たれたら痛いからな、その前に制圧するに限る。
三人がかりとかさ、卑怯だと思わないのかね。
「ソラすけはどう思う? ここ最近の治安について」
「……暇なのは分かりますけど、何で
「こっちの方が撫でやすいじゃない。どうせ客なんて来ないしさ、のんびりしちゃおーよ」
「のんびりって話題でもないような気がするんですけど……」
たは。言えてんね、それ。
まったくもう、ソラすけは欲しいところに欲しい言葉をくれるからどんどん好きになっちゃうぜ。
手を取って半ば無理矢理私の膝に着座させられたソラすけは、もはや抵抗の意思は見せない。ここ二週間で会うたびやってっからね。慣れたんでしょう。私が慣らした。いぇい。
「……キョウカせんぱ……キョウカちゃんって仕事は真面目にやるのに、どうして私と話す時だけ変になるんですか?」
「私は可愛いものに目がないの。だから『真面目』からも『目』がなくなって『マジ』になるってこと」
「何ですか、それ……それっぽく言ってますけど全然意味分からないですからね」
「ははは、冗談だよ冗談冗談。私はこれでも、ソラすけのことを真面目に可愛いと思ってっからね」
「…………この二週間で、何回言われたか分かりませんよ、それ」
なでなで、すりすり。好きなように頭を撫で回す。私の撫でテクを喰らったソラすけは体温が上がって来ている。恥ずかしがり屋さんめ。
よし、ここまで来たなら段階を進めるか。くんくん、ずももももも。つむじの匂いで脳内を埋め尽くした。
「うわああああああ何やってるんですかあああああ!!!!!」
「あれ、流石にダメ? おっかしいな、ゲヘナだと普通なんだけどね、こーゆーの」
「嘘つかないでください適当こかないでください!! そんな根も葉もない嘘っぱちで私は騙せませんからね!?」
「ゆーてコンビニバイト中だから揚げ物とか商品とかの匂いが混ざってて、ソラすけの匂いは全然感じ取れなかったけどね」
「血も涙もない真実もいらないんですよ! というかそもそも、どうしてそんな風に私に絡むんですか!!」
「タイプだからに決まってんじゃん。一日中でも撫で回してたいしお菓子とかアイスとか食べさせまくりたい」
「子供扱いしないでくれませんか!?」
ソラすけはぎゃーすか騒ぎながら私の膝の上で暴れる。こんにゃろう、私の拘束から逃げ出せると思うなよ。ぎゅーぎゅー、ぎゃーぎゃー。
よっしゃ、諦めたな。わはは、私に力で勝とうなど五年は早いわ。撫で回しを再開するぞ。
飴ちゃんあげるよ。いらない? あ、そう。美味しいのに。
そんな風に騒いでいた折。私の視界が店外に向く。
「…………はあ?」
そこには
うへぇあ……何なんだよあいつら。この前ぶっ飛ばした不良どものお礼参りにでも来たのか──と、そう思ったのだが、どうにも違うらしい。
……あれまさか、
からんころん。棒付きキャンディを弄びつつも考える。
「うわあ、最近は本当に物騒ですね……強盗とかされちゃったらどうしよう……」
「心配せんでいーよ。強盗とか来ても私が全員撃退してやるからさ。ゲヘナ流で行かせてもらうぜ」
「キョウカ……ちゃん、もしかして結構強かったりするんですか? 見た目も……その、強そうだし」
「んーにゃ、全然。撃たれると痛いし、痛いのは嫌だからそれよりも先に叩き潰してるってだけだよ」
「十分強いような……」
しかしあの集団、まさかこの事故物件みてーなビルが標的というわけでもあるまい。向かってる先は……どこなんだろうな? 数十km先には連邦生徒会の本部があるけど。
うーん、とりあえず防犯用のカラーボールでも用意しておくか。ソラすけを不安にさせないため、撫で回しながら。
よっしゃ、カラーボールはいつでも投げれる位置にあるぞ。来るなら来い。返り討ちにしてやるから。
「──あっ、見てくださいキョウカせんぱ……キョウカちゃん。珍しいですね、こんなところを戦車が通るなんて」
「あん、戦車? うわ本当だ珍しー。ゲヘナでもそうは見な──ッ!!」
そうは見ないよ、あんな立派な戦車。
ソラすけに対して、そう返そうとしたんだけど。
それよりも先に
私はソラすけを撫で回すのを止めて、そのまま椅子から床へと押し倒し、その上に覆い被さった。
「なっ、ちょっ!? 何するんですか、あれですか、
「ソラすけ! いいから口閉じて目ェ瞑れ!! 早く!!」
言葉を遮って申し訳ないとは思うけど、そうしてもらわないと困る。私の鬼気迫る様子から何かを感じ取ったのか、ソラすけは身を縮こまらせ、目を瞑った。
よーし、偉い子だ。私が守ったるから安心せい。ソラすけに覆い被さったまま、私は背を丸める。
どうして私がいきなりこんなことをしたのか。まさか語るまでもあるまい。
つまりは、まあ。
戦車がこっちに砲弾をぶっ放して来やがった。
流石の私とて砲弾をぶち込まれた経験などあろうはずもない。が、しかし
……痛いだろうな。嫌だけど、でもソラすけがそんな目に遭うのはもっと嫌だ。
せっかくできた可愛い後輩。何としてでも守り抜かなきゃあかんだろうよ。
「ああ、クソっ──!!」
直後、窓ガラスが割れて、轟音が響き渡り。
店内は、めちゃくちゃになった。