キヴォトスに転生したけど銃撃戦とか嫌なのでコンビニでバイトする 作:Minus-4
エンジェル24に戦車の砲弾が撃ち込まれ。
一秒経ち、二秒経ち、そして三秒が経った。
……あれ、なんか変じゃね。私の背中は今頃爆炎で焼き尽くされていないとおかしいはずなんだけどな。
目の端からぽろぽろと涙を溢しながら、口と瞼を一文字にきゅっと結んでいるソラすけから身体を離し、レジ台の上へとそろっと頭を動かす。
「──あー、なるほど、
「ひぁ……? ふ、不発弾……?」
「おおっと、ちょっと待ってなさいソラすけ。まだ安全とは限らねーからさ、いっちょ私が確認してくるよ」
「……大丈夫、なんですか……?」
「多分平気だよ。着弾の衝撃に耐えてる以上、ちょっとやそっとじゃ爆発しない──はず!」
店内は酷い有様だった。が、想像してたほどじゃないね、うん。
もっとこう、爆発四散! 木端微塵! 死屍累々! みたいなのを想像してたから、正直助かったよ。
つってもまあ、惨状であることには変わりないんだけどね。窓ガラスの破片もヤバいし、折角フェイスアップしたばっかの棚もぐっちゃぐちゃ。
お菓子なんかは端まで吹き飛び、米飯やサンドイッチ、チルド系の食品なんかの残骸と混ざり合っちゃってる。どーすんだよこれ、全部廃棄じゃねーかよ。
からんころん──口の中の棒付きキャンディを弄ぼうとして、既にそれが口からこぼれ落ちていることに気付いた。ソラすけ庇う時に落としちまったらしい。もったいねー。
……さて、と。過ぎたことはどうでもよくて、だ。私が今ここで対処すべきなのは、どっかの馬鹿がぶち込みやがった砲弾の方なんだよね。
「いやマジで、何で撃ってきたんだよ……」
ガラスの破片を踏まないようにしながら、私は悲惨なことになっている売り場に移動した。砂埃が舞ってるし、相手方に見られる心配はない。
スマホを開いて、SNSで『D.U. 暴動』と検索してみる。D.U.とは関係ない場所での暴動の情報が沢山出て来た。ポンコツが。
つーかさ、本当に撃たれた理由が分からない。いくら事故物件じみたビルだとはいえ、そこまでやっていいわけないだろ。
天井に目をやると、この前交換したばかりの蛍光灯がバッキバキになっていた。ますますムカつく。どうしてやろうか、あの連中。
……ごちゃごちゃ考えていてもしょうがない。買い物カゴを手に取り、
「ショットガンの弾でしょ、手榴弾でしょ──つーか、よく無事だったな、こいつら……」
あれだけの衝撃だ、全滅しててもおかしくないだろうに。運がいいのか悪いのか分からんね。
あとはまあ……ライターオイルと、マッチと、虫除けスプレーと──日用品コーナーから移動して──小麦粉、お酢、そしてわさびくらいでいっか。
おっと、そうだ忘れてた。おやつも買っとかないとな、さっき落としちゃったし。棒付きキャンディ(ラムネ味)を選び、カゴに入れた。
「さて、と。ソラすけ、レジお願いしていい?」
「えっ、今……ですか?」
「うん今。はいこれ、商品を入れたカゴです。私は今『お客様』だから、接客の練習だと思って! ね?」
「あっ、そういう……いっ、いらっしゃいませ! レジ袋はご利用になりますか?」
「いや、大丈夫です。ほらあれだ、すぐ使うから」
「失礼いたしました──合計で3,323円のお買い上げになります!」
「はいよー」
財布を取り出す。ばりばりって音がしないタイプのやつ。
……うーん、ううむ……結構な痛手だぞ、この臨時出費。コンビニってなんかついつい買いすぎちゃうんだよね。
だがまあ、背に腹は代えられないね。砲弾をぶち込んで来やがったアホ共にお灸を据えるためだもの、安い安い。ふはははは。
そうやって強がりながら、財布から5,000円札を泣く泣く取り出し、ソラすけのちっちゃい手に受け渡す。ああ、私の5,000円が。
「5,000円のお預かりになります。そうしますと、お釣りが1,000と677円ですね、ご確認ください」
「はい、どーも。うん、まあまあいい感じだね。その調子で私以外にも接客できるようになってくれれば完璧だよ」
「ありがとうございます──ところで、その、キョウカちゃん? ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「ん? いーよ別に何でも聞いてくれて。じゃんじゃか答えっからさ」
「えっと、今買った商品、何に使うんですか?」
「何って……んー、そりゃあ、報復」
「やっぱりそうですよね!? 今からあの集団と喧嘩しにいくんですよね!?」
そこまでは言ってないけども。
かるーく潰してくるだけだから、へーきへーき。
喧嘩になったら普通に勝てないしね。じゃけえ、やられる前にやるしかないってわけよ。
ぺり、からんころん。棒付きキャンディのラムネ味が口内に広がった。これこれ、この甘さと酸味が醍醐味よな。
バックルームのロッカーから愛銃と普段使いの肩掛けバッグを取り出し、その中にさっき買った物品を片端からぶち込む。よし、大容量さまさまだね。
よいしょっと。私は不発弾を持ち上げて、肩に乗せた。愛銃であるショットガンは背中に担ぎ、これで準備万端……じゃないな。まだ足りない。
「ソラすけ、ちょっとそこにある防犯シールド取ってくれない?」
「えっ、防犯シールドって、このちっちゃいやつですよね? これで足りるんですか?」
「いけるいける。最悪顔面守れればそれで十分よ。流石に顔に傷が残るのは勘弁願いてーからさ」
「それじゃあもう一つ質問しますけど!
「いやほら、
「あっ、ちょっ……!」
すまんなソラすけ、私はナメられるのが嫌いなのだ。飴舐めるのは好きだけどね。そーゆーわけで、私はエンジェル24を飛び出し、
戦車は一台──おそらくクルセイダー──周囲には複数名の護衛らしきチンピラ生徒ども。あの感じからするに、戦車に搭乗しているのは多くても五人くらいか。
油断しているらしいお客様共は、まだ私の存在には気付いてない。よっしゃ、好都合。さっさと落とし物を返却するとしよう。
全力で走り、戦車との距離を詰める。と、そこでようやくお客様のうち一人がこちらの存在を認識したらしい。
だけどなお客様、もう遅いんだよ!!
「お客様! 落とし物ですよお客様! あーお客様、これ落としてましたよお客様ぁ!!」
「うわあっ!? なっ、何だよこいつ!? 店員か、店員なのか!?
「さっきの砲弾担いでんぞ! 相手は一人だし、さっさと潰しちまえ!」
「いやっ、つーかこいつ、確か
ばがんっ。何か言おうとしていた奴がいたので、左手に持った防犯用シールドで殴り飛ばした。迷惑客め、てめーはブラックリスト入りだ。
……さて。ひとまず動揺は誘えたかな。周囲にいたチンピラ連中は私が強襲仕掛けるなんて思ってなかったのかモタモタしている。
つまりは攻め時。私はさっき買った小麦粉をばら撒き、視界を奪った上で近くにいたチンピラを盾で殴り飛ばす。ばぎゃん。ちょっとやばそうな音がした。ごめん。
戦車の砲身はまだこちらを向いていない。やはりと言うべきか、操作には慣れていないらしい。今のうちに距離を詰めなければ──っと。誰だ撃ってきたやつ。
「危ねーな、私の反応が間に合ってなかったら今頃全員お陀仏だっつーに」
「アタシらがその程度の爆発で死ぬかよ! つーかお前、こっちに集中してていいのか?」
「……と、言いますと?」
「後頭部がお留守だぜって言ってんだ!!」
すると、背後から気配。なるほど、目の前のあいつは陽動係か。
ふむ、中々やるじゃない。こっから振り返って、盾で殴り飛ばす──いや無理だな。それよりも不発弾が銃でぶち抜かれるのが先だろう。
ただまあ、
「今更! 振り返ったって──」
「ぷっ!!」
「──ぁっ!? んだこれ、
正解! 念のため口に含んどいた棒付きキャンディを、顔面目掛けて吐き出したってわけだ。飴はまだ空中を舞っている。
当然隙ができるので、その横っ面に盾をぶちかましてやる。めき。うへぇ、痛そうな音。
そんでもって、吐き出した飴を完璧に口でキャッチ。からんころん。へへへ、一日に二本も無駄にしてたまるかっての。
おっと、忘れずに報復もしとこう。今まで殴り飛ばした連中の鼻に、さっき買ったわさびやらお酢やらを詰め込んでやる。はっはっは、反省しろ。
「さて、と……で、陽動係。お前はどうすんの」
「……な、何がだよ……」
「私をここで止めんのか、それとも止めないのか。逃げるなら逃げなよ、今なら許したげるから」
そう言いながら途方に暮れてるチンピラに近付いてみる。じりじり。近付けば近付いた分だけ後ずさった。
うん、あの調子なら気にしなくてもいいだろう。見た感じ、攻撃の意思も見受けられない。そんならこっちから攻撃する必要もねーや。
私の目的はあくまでもお客様の落とし物を返すことであって、敵部隊の全滅とかではないしね。
「よっと……うん、これで勝ち確だね」
私は戦車の上部へと登り、一息吐いた。ビビってるのか何なのか知らないけど、操縦している連中は中に引きこもって顔を見せない。
私が戦車の上にいるせいで、護衛のチンピラ連中も手を出せないらしい。そりゃそうだ、不発弾が爆発したら困るもんな。
よいしょっと。不発弾を戦車の上に置く。ふぅ、めちゃ重かったからだいぶ楽になったぜ。
……さて。ハッチが開いてると楽なんだけど──おっ、ラッキー。ボロい戦車でよかった。開いてなかったら面倒だったから、これは僥倖。
「よお、忘れもんあったから返しにきてやったよ、感謝しろ」
「なっ……えっ!? 鍵閉めたはずなのに……!」
「バカ、ちゃんとマニュアル読んどけっつったろ!?」
「でもっ! 焦っててそれどころじゃ……!!」
へえ、中には四人か。まあ妥当だな。なんか言い争ってるし、今のうちにやることやっちゃおう。
がさごそ、どん。私は不発弾を戦車の中に投げ込み、それからさっき買ったライターオイルをぶちまけた。
追加で虫除けスプレーの缶と、そこに火をつけたマッチを投入。瞬間、燃え上がる戦車内。火が完全に回り切るまでは十秒も必要ないだろうな。
すると、流石に搭乗員たちも冷静になった、つーか青ざめた。
ぴん。手榴弾のピンを抜き、戦車に投げ込む。
「はい、ごー、よーん、さん──」
「うわあああ!? こいつマジでやばい逃げろ逃げろぉ!!」
途端、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出す搭乗員たち。
私も即座に退散し、そして。
ドカァン!! とんでもない爆発音を響かせ、戦車は木端微塵に粉砕された。ははは、いい気味。
……一歩間違えてたら、私たちがこうなってたんだよな。ソラすけを守れて本当に良かった。
愛銃のショットガンにさっき買った弾を込めながら周囲を見渡すと、チンピラは全員逃走したようだった。そりゃそうだ、私だってそうする。
残ったのは燃え盛る戦車の残骸と、ショットガンを手に持った私だけ。からんころん。飴を舐め回す。いやー、いい仕事したぜ。しゃららん。かっこつけて髪をかき上げた。
さて、と。
それじゃあソラすけのとこに帰るか。
そうして私は踵を返して、声を出した。
「おうい、ソラすけ。とりあえず終わっ──」
「あなた、どういうつもりなんですか?」
「──たよ……っつーか、うん……
振り返った直後、私の視界には、特徴的な狐の面が飛び込んで来た。
あ、そう。
ちょっと、流石にまずいかも。
なんかいっぱい評価されてて嬉しい。
感想もとっても励みになっています。
みんな読んでくれてありがとうね。