キヴォトスに転生したけど銃撃戦とか嫌なのでコンビニでバイトする 作:Minus-4
知ってるぞ、私はこいつを知ってる。
特徴的な狐の面。黒を基調とした和服。狐耳。
──〈災厄の狐〉。
何故こいつがこんなところにいる? 冗談じゃない、噂を聞いた限りだと、私程度がまともにやって勝てる相手じゃない。
……幸いなことに、向こうさんはこっちを攻撃しようって腹づもりではなさそうだし。ちょいと勇気を出して、話しかけてみるとしましょうかね。
「あー、災厄の狐さんっすよね? お噂はかねがね。それで、えーと……『どういうつもり』っつーのは、つまりどういうつもりで?」
「うふふ、嫌ですわ。矯正局の中にいてもあなたの評判は聞き及んでいたほどだというのに──そんなあなたが、まさか
「は、ははは、そーね、そーっすね……ま、あれだ、ゲヘナ出身なもんでナメられるのが我慢ならないんすよ」
「それで、アルバイト先を破壊してきたクルセイダー戦車を破壊したのだと。ふむ、つまりはそういうことでしたか。聞きしに違わぬ実力ですね、〈ゲヘナの亡霊〉さん?」
「……っす、どーも、お褒めに与り光栄っすわ」
何で私のことが知られてんだよ!? こちとらただのゲヘナ生徒で、ただのコンビニ店員だっつーに。何なんだよ†〈ゲヘナの亡霊〉†(笑)って。誰だそいつは。
あれか。ボロい家に住んでるのがいけないのか。こちとらだって好きであんなとこに住んでるわけじゃねーんだよ。
……つーか、
戦車吹っ飛ばしたからかな?
いやでも、それもなんか違う気がする。
さて、何を置いても私が知るべきは、目の前の女が
正直見当もつかない。災厄の狐ったらお前、個人で一個大隊を相手取れる上に、情け容赦なく気に入らない全てを『破壊』するやべー化物って話だったのに。
何で私はまだここに立ってる? やろうと思えばいくらでも闇討ちできただろうに、それをせずこうして話すことができている理由は何だ?
……まさかとは思うが、私に用があったのか?
「てか、そもそも何であんたがこんなところにいるんです? 私を即座にその物騒な銃剣で始末してない辺り、何か目論んでそうですけど」
「ふふ、及第点……とは、流石に言い難いですね。曖昧すぎますわ、亡霊さん──有働キョウカさん」
「ははは、名前まで押さえてるとは……流石に〈災厄の狐〉の名は伊達じゃないってことですか」
「そんな呼び方をしないでください、キョウカさん。別に
「……わ、ワカモ、だから……ワカちゃんって、呼ばせて、もらおっかなー、はは……」
「ええ、まあそれでいいでしょう。うふふ、
許された、許された!
正直賭けだったけどなんか許された!!
いやほら、私だっておふざけでこんなことやってる訳じゃないからね。何故か私は襲われてないから、ワンチャンいけっかなーと思ったんだよ。
本当に意味分かんないけど、ワカモ──じゃなくてワカちゃんは
裏の人間が友好的な時は大抵企んでんだよ。
その狐の面の下で、一体何を考えてんのかは知らねーけどさ、そっちがその気ならこっちだって乗らせてもらうかんな。
「ま、まあこれで自己紹介も済んだし、仲良くなったということで! ちょっと聞きたいことがあるんですけども、質問よろしーですか?」
「ええ、はい、構いませんとも。答えられる範囲なら、何でもお答えさせていただきます」
「ぶっちゃけワカちゃん、
「あら、そうは思いませんけど。だって、
……ほお?
つまりワカちゃんがこのゴーストタウンに来た理由は、事故物件みたいな扱いを受けてる
えっ? 確かワカちゃんって矯正局に収監されてたんだよね。あそこって確か連邦生徒会によって運営されてんだよね。
いや、厳密に言ったらあそこはヴァルキューレ警察学校の管轄なんだけど、あそこは連邦生徒会の下部組織みたいなもんだし──
はぅ!? ぴきーん。なるほどそうか閃いてしまったぞ。点と点が繋がって線になった感覚だ。私は名探偵さながらに自信ありげな表情を浮かべる。
「つまりあれだ、ワカちゃんは自らを矯正局にぶち込んだ連邦生徒会に対する報復として、この事故物件みたいなビルを『破壊』しに来たんだろ!?」
「…………まあ、ええ、そういうことにしておきましょう。仔細を説明している時間はないですし──」
「なるほどなー! いやはや、そーゆーことだったのね。それじゃあつまりは……あっ、もしかしてだけど、私を初手でぶちのめさなかったのはこのビルを案内させるためだったり?」
「ええ、及第点と致しましょうか。うふふ、実は
「……へえ〜。ちなみに、その、どれくらい壊すつもりで?」
「徹底的に、圧倒的に、壊滅的に。目も当てられなくて、手も付けられなくて、足の踏み場もなくなるくらいに。悲惨に、凄惨に、爆散させる腹づもりです♡」
……なるほどねえ〜!
いやまあ、気持ちは分かるぜ。矯正局は退屈だって聞くし、そりゃ恨みはらさでおくべきかって感じにもなるでしょーよ。
がしかし、だがしかし。ちょーっと私的には、聞き捨てならない言葉があったもんでさ。少しばかりつつかせてもらおうかね、重箱の隅。
なに、単純なことでね。
つまり
いやいや、ちょいとお待ちなさいな、ワカちゃんよ。その発言を鵜呑みにしたとするじゃない。するってーと、私とソラすけのバ先は
「じゃあさ、ワカちゃん。私のバ先はぶっ壊さないで残してもらえたりするととっても助かるんだけど、どう?」
「あら、そうはいきませんよ。申し訳ない──とは思っていませんけれど、しかし破壊するなら徹底的に壊し尽くさねばいけませんから」
「ん〜それは困るなあ〜……ほら、あのお店って実質私のものみたいなもんなんだよねえ。あそこまでボコられてるんだし、これ以上の破壊は勘弁願いたいんだけど」
そこそこ話が通じるから、ワンチャンに賭けてそんなことを宣ってみる。頼むから聞き入れてくれ。
困ったような表情を浮かべながら、ワカちゃんに向けて「ダメ?」と聞いてみる。しかし返ってきたのは「ダメです」という答えだった。
そっか、ダメかあ。どうしようかな──と、そんなことを考えていると、ワカちゃんはそれから続けて、とんでもない爆弾発言をぬかしやがった。
「何か勘違いしているのかもしれませんけど、そもそもあなたの仕事先に
「は?」
「ですから、先の暴動を扇動したのはこのワカモなのです。
「…………あ、さいですか」
ふーーん。お前それで、さっき「申し訳ないとは思ってない」とかぬかしてたよな。ナメてんのか? いやまあ、ナメてんのか。
ナメられるのは嫌いだ。飴を舐めるのは好きだけどな。どうにかしてこいつに一泡吹かせてやりたい。一言参りましたと言わせたい。一発ぶちかましてやりたい。
「……ところで、キョウカさん。先ほど振り向いた時、
「……あ? いきなりどうした、聞き間違いだろ、そんなの。生憎だけど、今の時間帯は私のワンオペでやってんだよ。アホの店長が飛びやがったからな。つーかそんなことはどうでもよくて、このタイミングであのコンビニを破壊するのだけは──」
「
「──そりゃあアレだ。私はお喋りが好きなんだよ。折角できた友達候補なんだ、できるだけ大切にしたいと思ってるっつーわけ」
「ふぅん、そうですか、嬉しいことです──」
マズい。
少しイラついていたせいで誤魔化し方をミスった。
がり、がり、がり……口の中に棒付きキャンディの味が広がる。ラムネ味が鬱陶しくてたまらない。不味い。
何がマズいって、エンジェル24の跡地には
あの子には、怖い思いをしてほしくない。現状私の癒しはソラすけの笑顔からしか摂取できないのだ。愛しの後輩を傷付けさせたくない。
だからそのことを勘付かれてはいけない。私は何としてでもこいつに「コンビニは破壊しない」と約束させなければならない。
頼む、気づいてくれるな、その気になってくれるな、ワカモ。お前を相手取るのは、いくら何でも無理だから。
だから、頼む──そう考えていたのも束の間。
ワカモは私に背を向けて、言い放った。
「──
──
──
──
────────────────────
私は、棒付きキャンディを、
「待てよ」
「…………気安く触らないでいただけませんか?」
ワカモの肩に手を置き、力を込め、全力で引き止める。想像よりも呆気なく、ワカモは歩みを止めた。
そうだ、止まれ。そんで、私の話を聞け。物騒な気配を醸し出してやがるけど、その程度で私は怯まねーぞ。
ワカモがこちらを振り向く。
見るからにイラついていて、先ほどまでの柔和な態度はすっかりどこへやら、だ。
「手を離してください。ここであなたとやり合うつもりは毛頭ないのですから」
「誰が離すかよ。つーか、なんでこっちだけテメェの言い分を聞かなきゃいけねーんだ。ちょっとくらい私の話も聞きやがれ」
「キョウカさん。あなた、もしや忘れていませんか?
「…………ま、その件については完全に同意の姿勢を取るけどね」
痛いのは嫌いだ。
死んでも銃撃戦なんてしたくない。
一度死んでるけど、怖いものは怖い。
キヴォトスの全部が怖い。
私の現状がどうなっているのか分からなくて怖い。
いつか
だけど。
大切なものが壊されるのは、
だから私は、命を賭ける。
「──さっきから、ずっと気になってたんだけどさ。ワカちゃん、
「……はい?
「聞き逃したと思ってるかもしんないけど、お前さっき確かに『仔細を説明している時間はない』っつってたよね」
「……ええ、まあ」
「それから、『あなたと戦うつもりもない』とも言ってた」
「言いましたけれど、それが何か?」
ずっとおかしいと思ってた。
だって〈災厄の狐〉だよ、ワカちゃんって。
私を十秒でぶちのめせるのに、それをしないで済まそうとしてる。大した手間でもないのに、その手間を惜しんでる。
暴動に戦車を引っ張り出せるほどのやべー奴であるワカちゃんが、そうせざるを得ない理由があるとしか。
矯正局から脱獄してきたばかりである以上、火薬類は没収されているはずだし、ワカちゃんが用いることができたのはあくまでも自らが持ち合わせる技能だけなはず。
そう考えると、自ずと答えも見えてくる。
「ワカちゃんさ、アレでしょ。追われてるんだろ、
「…………」
「ヴァルキューレの連中は……まあ今のワカちゃんでも突破できるでしょうよ。てことは、追ってきてるのはそれ以外の集団だ」
「…………」
「そいつらの正体が何であれ、捕まったら困るんでしょう。
「…………意固地になっても事態は好転しなさそうですし、そうですね、ここは素直になりましょうか。ええ、その通りです」
ほーら、思った通りだ。
ぶっちゃけほとんど当て推量だったけど、上手くいってよかった。
……だけど、まだ手を離すわけにはいかないからね。油断なんかしない。私はワカちゃんの動きに睨みを利かせた。
「連邦生徒会肝入りの
「四人! へえ、そりゃあ凄い。相当な強者が集まってんだろうね、いやはや、頼もしい限りだ──」
「いいえ、いいえ。あの四人は一般の生徒でしたから、本来
「──えっ? いや、それ、冗談でしょ?」
「
狐の面に手を当て、おかしそうに笑うワカちゃん。
……マジで言ってんの? 一般の生徒がたったの四人いるだけで、悪名高き〈災厄の狐〉に脅威を感じさせたの?
冗談じゃない。何だそれ、どういうカラクリだよ。これから先、キヴォトスはどうなっちゃうんだろうか。震える。
「ですから、それらの相手は暴徒に任せて、急いでこのビルまでやって来たというのに──そこにあなたがいたものですから、
「……? と、言うと?」
「キョウカさんは私と戦いたくないと仰っていましたけれど、
「えっと、ちなみに、それは何故? シンプルに時間がないから?」
「時間はあります。それこそ、掃いてゴミ箱に捨てるくらいには。もう、とぼけないでくださいません? 私は確かに、キョウカさんの四肢を十秒で破壊し尽くせますけど──」
やはりどこかおかしそうにしながら、ワカちゃんはそんなことを言った。
……仮に、ここから戦闘開始したとしても。
まあその後、私はボロ雑巾になっているだろうから、そんな無謀なチャレンジはしないんだけどね。痛いのは嫌いだから。
「と、まあそういう訳なのです。間違って今ここで敵対したとして、それで足の一本でも折られようものなら、矯正局に逆戻りなので」
「まあ、そうだろーね。つーか、今のままならそうせざるを得ないんだけども」
「うーん……そろそろ例の連中が追いついて来てしまいますから、この手を離してほしいのですけれど」
「……二つほど、約束してくれるなら離してあげる。それでどう?」
「内容をお聞かせ願えます?」
「一つは『エンジェル24を破壊に巻き込まない』こと。そんでもう一つが、『コンビニぶっ壊されたのも元を辿ればお前のせいだから、後日きっちり弁償しに来い』ってこと。どうだ!」
いやマジで、これだけは譲れないからな。バ先が潰されると次のバ先が見つかるまで、私とソラすけは素寒貧になってしまう。
そんでもって、店がボロすぎて客が来なくなるのも困る。元から来てないようなものだけど、雀の涙ほどのお客様は来ていた訳だし。
これが飲んでもらえないなら、仕方ねーけど。
やりあうしか、なくなるわけだが。
ワカちゃんはたっぷり十秒ほど思考を繰り広げていたようだった。
そしてようやくこちらを向いたかと思うと、はっきりとした声で言い放った。
「ええ、とっても業腹ですが、それで構いません。私にできる限りの弁償もさせてもらいましょう。責任も取れない惰弱な狐と思われては敵いませんので」
「その言葉、信じていーんだよね? もし嘘だったら──」
「地獄の果てまで追いかけ回してもらって構いません。〈ゲヘナの亡霊〉──キョウカさん」
「りょーかい。じゃ、行っていーよ。右の方にビルの入り口はあるから、そっち通ってってね」
手を離す。ばびゅん。直後、ワカちゃんはあり得ない速度で走り出し、風のように駆け抜けていった。もう見えなくなっちゃった。
よっしゃ、言質は取った。ひとまずは上々って感じだわね。冗談は嫌いっつってたし、ちゃんとこの借りは返してくれるだろう。狐ちゃんだし。
……はあ〜〜!! 死ぬかと思った〜〜〜!!!!
「くっそ、冗談じゃねーっつーの……何でこうも私は危険人物と縁が出来がちなんだ……」
本当に納得がいかない。もっとこう、世界は私に優しくてもいいんじゃないのか? バイトはほぼほぼワンオペだし、戦車の砲弾は飛んでくるし、ワカちゃんと
鞭、鞭、鞭! 飴のターンが全然来ない! マジでそろそろ、私に都合の良すぎることが起こってくれないかなあ。
いやでも、ソラすけが来てくれたのは特大の飴だったよなあ。人生万事塞翁が馬、割り切るしかないんだろーか。
と、爆炎に包まれる戦車を背景に、アスファルトに寝転びながら、ニヒルぶって独りごちていたとき。遠くの方から、誰かが走って来ているのを目撃した。
「"おーい! そこの子、大丈夫!?"」
「んあ……」
駆け寄って来ていたのは、
本当に、今日はもう。
プロットも書き溜めもない小説なのですが、何だか書けてます。
読んでくださる皆様のおかげです。
ありがとうございます。