キヴォトスに転生したけど銃撃戦とか嫌なのでコンビニでバイトする   作:Minus-4

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Shift.5 ムシクイーンの新パックですか? うちはお客さんも全然来ないから箱で残ってますね

 

 

 スーツ姿の成人男性が私を心配して駆け寄って来てから、大体一時間くらいが経って。私とソラすけはようやく、店内の片付けを粗方終わらせたのだった。

 

 ふぃー。よし、お店もさっぱり──はしてないな別に、うん。

 

 何せ窓ガラスは木端微塵、自動ドアは粉砕。雑誌コーナー・栄養ドリンク・お菓子・日用雑貨・調味料類・化粧品コーナー・冷食用冷凍庫・パンの棚・カップ麺・一部常温の酒。全部ダメになった。

 

 恨むぜ、ワカちゃん。

 

 

「……今更ですけど、その、キョウカちゃん、本当に怪我とかしてないんですか?」

 

「ん、元気ピンピン! ワカちゃん──〈災厄の狐〉とやり合わずに済んだからね、いやあ、ラッキーだった!」

 

 

 むきむき。ソラすけに向き合い力瘤を作った。全然できなかった。恥ずいぞ。

 

 おい、ソラすけ、笑いを堪えるな。私が滑稽に見えちゃうでしょーが。いやまあ、笑顔でいてくれるのならそれでいいんだけどさ。

 

 ……つーか、さっきの男の人、何であんなところにいたのだろうか? 心配して駆け寄って来たところに「大丈夫っすよ!」と返したので、その辺は今まで気にしていなかったなあ。

 

 ()()()()()()()()()()のも気になるけど、しかしどーせ二度と会わないでしょ。つーか会いたくない。ちゃんと人の形を取ってる男性、キヴォトス(こっち)に来てからは見るの初めてだし。

 

 ああいやだいやだ、怖い怖い──ぶち抜かれた窓ガラスに段ボールをはっ付けながらそんなことを考えていると。

 

 件の男が、自動ドアから入って来やがった。

 

 

「"あっ、さっきの子! 本当に大丈夫そうだね、良かったよ"」

 

「えっ、誰……?」

 

「──いらっしゃいませー。あの、失礼かもしれないんですけど、一つ質問してもいいですか?」

 

「"えっ? うん、もちろん。どんなことでも聞いてね"」

 

「なんか、ストーカーの方なんですか?」

 

「"本当に失礼だね!?"」

 

 

 いや、本心では失礼とも思ってないからね。

 怖いだろ、ちょっと話しただけでバ先までわざわざ様子見に来るやつ。

 

 これさあ、百億歩譲って私狙いならまだいーんだけど、仮にソラすけ狙いだったらお前、ただじゃおかねーぞ。

 

 ……って、あれ? この男、首にカードホルダーを下げてんじゃん。はははは、自ら身分を明かしにくるとは、何たる失策! 職場に連絡して立場をおじゃんにしてやるぜ。

 

 えーっと、なになに……S.C.H.A.L.E──シャーレ? 何かどっかで聞いたことあんな、この組織。

 

 えっと確か、そうそう、このエンジェル24の住所がそうだったな。考えてみれば、この店の正式名称は『エンジェル24シャーレ居住区店』だったっけ。

 

 あとそうだ。そういやバイト初日にワンオペさせられて、ムカついてこのビル探索したんだけど、エレベーターで上った先にあったな、S.C.H.A.L.E(独立連邦捜査部)って組織の部室が。

 

 気になってその日のうちに色々調べたんだけど、確か連邦生徒会のホームページに色々と書いてあったんだよね。なんか「生徒の味方がどうのこうの──」みたいな。

 

 …………あれ。

 もしかして、この成人男性。

 

 ()()()()()()

 

 

「……えっ、とぉ……その、まず、どちら様なのか、お聞きしても……?」

 

「"あっ、そういえば自己紹介がまだだったよね、ごめんごめん。今日からシャーレの先生として赴任してきた──"」

 

 

うわああああごめんなさいごめんなさい生意気言ってごめんなさい!! 知らなかったんですそうとは知らなかったんですぅぅ!!!!

 

 

「"えっ!? いや怒ってない怒ってない、ストーカー呼ばわりも全然気にしてないから!!"」

 

「うわあっ!? いきなりどうしたんですかキョウカちゃん!? 落ち着いて、落ち着いてください!!」

 

 

 これが落ち着いていられるか! やっべーやっちまった、普通の人を犯罪者扱いしちゃった! 終わった! 絶対終わった! もう終わりだぁ、この店はこのまま潰されちゃうんだあ!! うわぁん!!

 

 ……こんなところで終わるのか、私は。折角私なりに店を頑張って守ったっていうのに! はは、ははは──

 

 

「ちょっと、先生……でしたっけ? キョウカちゃんがこのままだとお店のカーペットみたいになっちゃいます、どうにかしてください……!」

 

「"えっ、私!? うーん……それじゃあ──ええっと、キョウカ……だっけ? その、何だかお店が大変みたいだし、私にできることがあれば何でもするから、ちょっとお話を聞かせて──"」

 

「いいんですか!? えっ、それなら全然話しますめちゃめちゃ話します!」

 

「急に元気になった……」

 

 

 何だこの人、すげーいい人じゃん!

 

 んんっ。咳払いをした。さっき叫んだせいで喉がいがいがする。だけどこんなチャンスを逃す手はない。

 

 私たちの現状を知れば、もしかしたらこのめちゃめちゃになった店内も補修できるかもしれない。連邦生徒会肝入りの計画(プロジェクト)って、まず間違いなくシャーレのことだろうし。

 

 もしかしたら連邦生徒会も引っ張り出せるかも。そうなれば、むしろ前よりもいい設備だって取り揃えられるかもしれない。

 

 

「よーし、それじゃあ何から話そうかな。ことの始まりは一時間ほど前です。近くで暴動があって──()()()()()()()()で──こうなりました」

 

「"なるほど。それでさっきは、戦車が勢いよく燃えてたんだ。大変だったね……それじゃあ私も、新しい陳列棚を探してみるよ"」

 

「えっ? 先生、今ので分かったんですか? 本当に……?」

 

 

 ソラすけだけが困惑しているが、先生には上手いこと伝わったらしい。そうなんです、大変だったんですよ。

 

 よよよ。わざとらしく泣き真似をしてみる。ソラすけに変な目で見られた。やめて、その目で見ないで。

 

 あっ、そういえば紹介してませんでしたね。私は有働キョウカといいまして、そんでこっちの可愛い看板娘がソラちゃんと言います。いい名前ですよね、そう思いますよね。私は先生とがっちり握手をした。

 

 ソラすけは恥ずかしがって「可愛いだなんて、そんな、やめてください……」と縮こまっている。顔が真っ赤っかだ。そーゆーとこが可愛いって言われる原因なんだぞ。

 

 

「というか、もしかして先生、連邦生徒会本部からここまで生身で来たんですか? よく無事に辿り着けましたね」

 

「"ああ、それはね。偶然その場に居合わせた()()()()()が私を守ってくれたんだよ。もちろん、それじゃあ申し訳ないから、戦術指揮だけはさせてもらったけどね"」

 

「……ふぅん。なるほど、ワカちゃんが言ってたのはこのことか──」

 

「"あっ、そうだ! 私の方も聞きたいことが一つできたんだけど、聞いてもいい?"」

 

「んぇ、そんなそんな、いいっすよ別に! 一つだけと言わず、何個でも答えますから」

 

「"ありがとう! その、さっき言ってた『ワカちゃん』って、もしかして、()()()()()()?"」

 

「…………まあ、そっすね。さっきばったり出くわしまして、それで少しだけ仲良くなったんです。そんなことを聞いて、どうするつもりですか?」

 

 

 もしかしてこの人、私に事情聴取でもしたいのだろうか。それは勘弁願いたいな、その間ソラすけがワンオペになってしまう。

 

 と、そんなことを考えていたんだけど。しかし私の予想に反して、先生はただ「いや、さっき目を合わせたら逃げちゃったから、少しどんな子だったか聞いてみたかっただけ」と答えた。

 

 ……ふむ? 先生は一応連邦生徒会の人のはずなのだが──別にワカちゃんを捕まえようってわけでもないのか。

 

 

「そーですか。まあ私もあの子のことはよく知らなかったんで、聞かれても答えられなかったでしょうけどね」

 

「えっと、キョウカちゃん? その、ワカモって人、どなたなんです?」

 

「んー? さっきの戦車けしかけて来た人だよ」

 

「何でちょっと仲良くなってるんですか!?」

 

 

 本当だよ。

 つーか、私が聞きたいわそんなの。

 

 ワカちゃん、色々と調べてみたところ、どうやら破壊と略奪の限りを尽くしてきた大犯罪者らしいからね。私が無傷なの、マジで奇跡。

 

 ソラすけに肩を掴まれ、思い切り揺さぶられる。ぐわんぐわん。やばいちょっと待って酔いそう。やめて、やめて。

 

 

「あっ、ごめんなさいやりすぎました……っと、そうだ。えっと、それで、先生はどうしてこちらに来たんですか? 申し訳ないんですけど、今はレジ前の商品以外は全部ダメになっていて……」

 

「"今日はね、とりあえず二人に挨拶しに来たんだ。ほら、私たちって同じビルにいるでしょ? だからまあ、顔見せ程度にね"」

 

「本来なら、こっちから伺うべきなんでしょーけど……いやはやすいませんね、ご足労いただいて」

 

 

 お近づきの印に棒付きキャンディをどうぞ。プリン味です、嫌いなわけがありませんよね? ですよね。

 

 あっ、どーもどーも、お返しの品まで……えっ、いやこれ、お高いやつでしょう。もったいないです、というか食べきれませんから。

 

 えっ? あー、いや、ははは……この店最近できたばっかで、私とソラすけしか店員がいないんですよ。そういうことなんです、はははは。

 

 

「というか、そーだ。折角来てくださったんですし、何か買ってきません? レジ中の商品なら無事なんで、全然お売りできますよ」

 

「"そう? それなら何か買っていこうかな。きっとその方が、二人にとってもいいだろうし──えっと、どんなのが売ってるの?"」

 

「ソラすけ、接客練習ついでに説明したげて」

 

「ここでいきなり私に振るんですか……まあ、そうですね。今売れるのは、レジ横の什器にあるホットスナックと、タバコと、あと切手類、粗大ゴミのシール──あと何かありましたっけ、キョウカちゃん」

 

「えっとね、あれだほら、()()()()()()()()()()()──」

 

「"カードゲームの新パック!? じゃあそれ、それを売れるだけください!!"」

 

 

 うわっ、びっくりした。

 さっきまであんなに優しそうな顔をしてたのに、カードゲームという単語を聞いた瞬間に決闘者(デュエリスト)の顔になりやがった。

 

 やっぱ男の人ってカードゲーム好きなのか。そういう生命体なのか。私が呆気に取られている内に、ソラすけがカードゲーム──ムシクイーンのパックが入った箱を持ってきた。

 

 つーかソラすけあんた、涼しい顔して全然動揺しないのね。これがキヴォトスクオリティか。

 

 

「"……あれ、箱? いやいや、売れるだけで大丈夫だよ。ほら、購入制限とかあるでしょ? おひとり様三パックまで、みたいな"」

 

「あー、他んとこならあるかもしれないですけど、うちはお客さん全然来ないんで、旧弾だろーが新弾だろーが購入制限はありません

 

「"ちょっと待ってね、もう一回言ってくれるかな? もしかしたら私が聞き間違えてるかもしれないし"」

 

「旧弾だろーが新弾だろーが購入制限はないので一箱まるごとお買い求めいただけます」

 

「"そんなことが許されていいの……!?"」

 

 

 許されていいのだよ、ははは。

 マジでお客さん来ないからな。人気のカードゲームは特別発注になるのだが、売れなさすぎて困っていたところだし。

 

 わなわなと震えながらカードを取り出す先生。ふふふ、歓喜に打ち震えているらしい。

 

 ソラすけに変な目で見られているが、もはやそんなことは気にも留めていないらしい。大人といえど、男の子だな、先生。

 

 ぴっ。ソラすけはバーコードを読み取り、商品をスキャンする……いや高っ。これマジ? 棒付きキャンディが180本買える値段だぞ、これ。

 

 

「おきゃっ……お会計が5,400円になります。カードでのお支払いでよろしいですか?」

 

「"うん、カードでお願いします!"」

 

「そうしましたら、こちらのカードリーダーにカードを差し込んでいただきまして──はい、大丈夫です! レシートはお持ち帰りになりますか?」

 

「"うーん……持って帰るよ。帳簿にちゃんと貼っておかないとね"」

 

「お買い上げ、ありがとうございました──キョウカちゃん! えっと、接客、どうでしたか?」

 

 

 ソラすけは不安そうな表情を浮かべながら、両手を胸の前に持ってきて、私にそう聞いてきた。まあまあ、そう不安がんなって。

 

 ぐっ、にっ。サムズアップをして笑顔を見せてやる。するとソラすけは「はあぁ……緊張したぁ……」といいながら、大きく息を吐いた。

 

 いやいや、実によろしい。接客にもだいぶ慣れてきたようで、私は鼻が高いよ。ふふん。

 

 

「"それじゃあ、私はこれで! これからは基本シャーレの部室にいるだろうから、何か困ったことがあったらいつでも来てね! 二十四時間三百六十五日、いつでも待ってるよ!"」

 

「ええ、また何か困ったら頼らせてもらいますよ──あっ、そうだ。これ、私のモモトークです」

 

「あっ、じゃあ念のため私のもどうぞ。その、キョウカちゃんに繋がらなかった時とかは、私に連絡してくれれば」

 

「"モモトークね……オッケー、交換できたよ。これからよろしくね、二人とも」

 

「ええ、よろしくお願いします。ムシクイーンが入荷したら真っ先に連絡させてもらいますんで、今後ともエンジェル24をご贔屓に」

 

「ごっ、ご贔屓に……!」

 

 

 できるアルバイターである私はこーゆーセールスチャンスも見逃さないのである。どや、どやさ。

 

 つーか私の真似してるソラすけ可愛すぎな。おうちに連れて帰って世話焼きまくりたい。嫌がるだろうからしないけどね。

 

 そうして、ドヤ顔しながら先生を見送って。

 それから、さて店内の片付けを続けるかと振り返ったところで。

 

 ()()()と音を立てて、割れた窓ガラスと補修用段ボールの隙間から、一枚の茶封筒が投げ込まれた。

 

 

「……? 何だこれ……」

 

 

 ソラすけは既にぶち壊れた棚の廃棄に行ってしまったので、この封筒には気付いていない。帰ってくる前に、私はささっと封筒を開けてしまうことにした。

 

 果たして中には、()()()()()()が入っていた。なるほど、アルバイトの面接でもしてほしいらしい。そうならそうと口頭で言えっつーの。

 

 私は履歴書に目を通し始めた。てゆーか、こういうのは、直接言いにこい、よ……????????

 

 ぐいーん。思いっきり首を傾げる。意味が分からない、何だこれ──と、そう叫ばなかった私を褒めてやりたい。

 

 だって、そうだろう。

 その履歴書に書かれている名前には、正直言って()()()()()()()()()()()()()

 

 ……てか、()()()()()()()()()

 

 

ワカちゃん、マジで何してんの?

 

 

 ──()()()()()

 履歴書には確かに、はっきりとそう書かれていた。

 

 いやマジで何なん?

 間違いなく厄日だろ、今日。

 

 はあ。

 私は一人、ため息をついた。

 

 






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