キヴォトスに転生したけど銃撃戦とか嫌なのでコンビニでバイトする   作:Minus-4

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Shift.6 別に何でもいいんだけどさ、面接を希望する日程くらいは先に言っとこうよ

 

 

 ワカちゃんと知り合い、そして先生とモモトークを交換した、例のクソ忙しい日から実に三日後である。

 

 商品の陳列棚とか、そういう基本的なものは徐々に揃いつつある。発注も問題なくできていたから、普段よりも少ないとはいえ、商品も充実していた。

 

 ……暇なのである!!

 

 いやいや、冗談とかではなくてね、ほんとーに暇で暇で、暇に殺されるんじゃないかと思ってる。

 

 シャーレが活動を開始してから三日目ということになるのだが、今のところ目立った動きは見られない。周知が足りないんだよ。

 

 

「おまけに今日はソラすけもいなぁい〜……」

 

 

 何やら急用ができてしまったらしいのだ。私はその辺り臨機応変なんで、即座に「全然気にしなくていーよ」と返信している。かわいいスタンプ付き。

 

 そーゆーわけで、本日はワンオペということになる。からんころん。棒付きキャンディで口の寂しさを紛らわすのもそろそろ限界か。

 

 いやあ、どーすっかなあ。いっそのこと先生呼んでみるか? 暇だよー助けてーっつって。いやでも、この時間は普通に仕事中だろ。迷惑だわな。

 

 先生、毎日来てくれてるんだよね。多分色々買うと同時に、私たちの現状を確認しに来てくれているのだと思う。だとしたら優しすぎな。ありがたい限りでござんす。

 

 ……はあ。それにしても、目下問題視すべきなのは、この()()()()()()()()()()()()()()だよね。

 

 

「せめて出身校くらいまでは書いとけよ……」

 

 

 ぴら。茶封筒から取り出した履歴書をまじまじと眺める。狐坂ワカモ。証明写真欄には何も貼られていない。履歴、空欄。

 

 ナメてんのか? 私をとかじゃなくて、社会を。こんなんが許されるわけねーだろーがよ。

 

 本部にお前の情報を送るのは私なんだぜ、ワカちゃんや。こんな履歴書じゃあんたの情報の九割を捏造するしかなくなる。

 

 したらお前と私で二人仲良く矯正局行きだ。私は御免だよそんなの。前科とか付けたくない。

 

 

「……つーか、そもそも面接にはいつ来んのさ」

 

 

 履歴書だけさらっと出されても困るのよね。まず面接の日程のアポを取ってちょうだいよ。こっちも準備とかあるしさ。

 

 こちとらワカちゃんがいつ来るのか把握できていないせいで、この三日間ほとんどずっと()()()()()()()()である。

 

 ……お風呂とかはちゃんと入ってるからな。

 

 そんなこんなで、暇なのだ。ここには暇を潰せるものもない。一応お店の向かいにはシャーレ管理のゲーセンがあんだけど、私は仕事中ですし。

 

 

「はあぁ。誰でもいーから、お客さんの一人でも来てくれねーかなあ」

 

(わたくし)を呼びました?」

 

「うっわぁあビックリさせんな!! 気配消して近付くのやめろ!!!」

 

 

 ……心臓が、心臓が! 痛い!! 死ぬかと思った、大事な血管とか爆発して死ぬのかと思った!!

 

 もうほんと勘弁してくれよ──っつーか、ワカちゃんてめーやっと来やがったな、この野郎(野郎じゃないけど)。

 

 てかそうだお前、この履歴書は一体どういう了見だ。私を困らせるために持ってきたのか。私は振り返り、ワカちゃんの──……んぇ?

 

 

「……誰、あんた」

 

「うふふ、ご冗談はよして下さい、キョウカさん。というか、そんなに警戒しなくてもよいではありませんか?」

 

「……えっ? あれ、ワカちゃん……で、合ってんだよね? あの、狐坂──」

 

「ええ、はい。一点の曇りもなく、狐坂ワカモそのものです。お久しぶりですね、キョウカさん」

 

「…………あ、うん、久しぶりっつーか、三日ぶり」

 

 

 え? いや、あ、そう。

 ワカちゃん、()()()()()()()()()()()()()

 

 マジで綺麗じゃん。可愛さと美しさが共存してるっつーか、大和撫子然としているというか……これがあの〈災厄の狐〉だと言われても信じないだろ。

 

 ……()()()()()()()

 三日前は〈災厄の狐〉として破壊の限りを尽くしていたから付けていただけとか……いやでも、目撃情報によれば、別に普段からあの調子だったらしいしな。

 

 

「うーん……何か勘繰っているようですけど、そこまで難しい話でもありませんからね?」

 

「勘繰っているって、ワカちゃんお前……まあいーや。狐の面を外してきた理由があるなら、教えてちょーだい」

 

「理由は二つあります。まず一つは、つい先ほど、履歴書に貼るための証明写真を撮ってきたからです。こちら、提出が遅れてしまいましたが、受け取って下さい」

 

「腰が低いのか横柄なのかはっきりしてくれ」

 

(わたくし)の証明写真です、光栄に思いなさい」

 

 

 そうじゃねーよ。

 こんなところで二分の一を外してんじゃねえ。

 

 押し付けるな前が見えねーよ。はいはい受け取る、受け取るから! 何なんだよもう、絶対ワカちゃんそーゆーキャラじゃないでしょ。

 

 まったく……えー、どれどれ。うん、これなら履歴書に貼っても問題ないだろ。いや、つーか証明写真のくせに美人すぎてムカつくな。

 

 ぺたり。証明写真を糊付けして履歴書に貼る。こんくらい自分でやってくれな。

 

 

「はあ……そんで? 二つ目の理由は?」

 

「いや、狐の面なんて付けてここまで来たら、(わたくし)が〈災厄の狐〉だってバレてしまうじゃありませんか」

 

「急にまともじゃん、本当にお前ワカちゃんか?」

 

(わたくし)のこと、一般常識すら持ち合わせていない蛮族と勘違いしてませんか?」

 

 

 えっ、違うの? とは流石に言わなかった。一応とはいえ、曖昧とはいえ友達……候補みたいなもんだしな。そしてバイト仲間候補でもある。

 

 ……ワカちゃんはわざとらしくむくれてみせているが、その姿すら様になっている。凄いな、そんな表情を私がしても滑稽なだけだろうに。

 

 むう。顔面偏差値が違いすぎる。仮にワカちゃんを雇ったとすると、ソラすけと合わせて美少女コンビによる最強コンビニができあがっちまうな。その場合、私が足を引っ張ることになるんだが。

 

 私は何か、美少女って感じじゃない。意識してないとだいぶ感じが悪そうに見えるし……ほら、初対面のソラすけに「攻撃的な見た目」って言われるくらいには。

 

 からんころん。自分で言ってて落ち込んできたので、棒付きキャンディを舐め回す。甘ったるい。

 

 

「……何を落ち込んでいるんですか」

 

「いや、世界は残酷だなあと、そう思い知りまして──ま、いいや。人生は配られたカードで戦わなきゃいけねーし」

 

「何をいきなり悟ったようなことを……頭でも打ちました? それでしたら(わたくし)が打ち直して差し上げますが」

 

「いやいーよ、遠慮どころか断固拒否だそんなの。さて、それじゃー形式に則って、面接でもしましょうかね──」

 

 

 履歴書の経歴欄は相変わらず空欄だが、まあこんなのは後でどうにでもなる。

 

 えーっと、確かワカちゃんは百鬼夜行連合学院から()()()()を喰らっているんだったか。それならまー、私が書き足しとこうかな。

 

 私は胸ポケットからボールペンを取り出しながら立ち上がり、バックルームの方へと歩みを進め──しかし、すぐさま歩みを止めることになった。

 

 ()()()第六感が働く。今すぐ振り向けと。

 遅れて、()()()私はボールペンを握り込み、振り返りながら思い切り手を振った。

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……まあ、そう簡単にはいきませんよね。うふふ──どうもこうも、()()()()()()()()()()()()()()()()♡」

 

 

 ……私の首筋には小刀。刃は潰されていないので、刀を引けば()()()()()()()

 

 ワカモの首筋にはボールペン。ペン先は出しているので、力を込めれば()()()()()()()()()()

 

 膠着。何秒──何分経ったのだろうか。互いに目の前の相手に集中しているせいで、動くにも動けない。

 

 逃げるのは無理だ。既に至近距離すぎるし、そもそも私の速さではこいつから逃れられない。

 

 ……こうしていても、何にもならないし、どうにもならない。しょーがねーから、私は一か八か、ワカちゃんに話しかけてみることにした。

 

 

「いいか、圧迫面接っつーのは本来こっちがやるもんであって、志願者(お前)がやるべきことじゃねーんだよ」

 

「あらそうなのですか? うふふ、(わたくし)は最近まで矯正局に囚われていたものですから、その辺りの社会常識には疎くて」

 

「ワカちゃん、お前分かってる? 私が少しでも力を込めれば、お前は呼吸もままならなくなる」

 

「キョウカさん、あなたこそ分かっているのですか? (わたくし)が少しでも刀を引けば、あなたはたちまち血塗れです」

 

「……あのさあ、何か目的があるならはっきり言ってくんない? そーすりゃこっちだってやりようがあんだよ」

 

「目的ですか? そんなの簡単なことです、()()()()()()()()()()()ただ『そうする』と約束していただければ、それでいいのです」

 

 

 解せないなあ。そこまでしてうちで働きたがる理由がまったくもって分からない。

 

 ……まさかこいつ、弁償費用をうちで稼ごうとしてるんじゃねーだろーな。もしそうだったらぶちのめして叩き出すぞ。

 

 いやまあ、無理なんだけどさ、そんなこと。痛いのは嫌いだ。怖いから。

 

 はあ、しょーがねー、ここは一つ、いっちょこの場で面接かましちゃおうか。

 

 

「一応言っとくとね、私はこれで一応店長みたいなもんなんだよ。ちゃらんぽらんに見えるかもしれないけどね、責任持って仕事してんだよ」

 

「だから何ですか、それがどうしましたか? あなたはただ(わたくし)の問いに対して、ただ首を縦に振れば──」

 

「違う違う、()()()()()()()()()()()()()ってこと。理由によっては、この場で即採用したげるからさ」

 

「──……何だかんだ、あなたって結構無法者ですよね」

 

 

 お前が言うなよ!! 言っとくけど、私がこんな滅茶苦茶をやらかしてるのはワカちゃんのせいだからな。

 

 ……まあ、こんなの本部にバレたら私はクビだろうけど、そんなん言ったらうちの店長の方が色々ヤバいことしてるしな。

 

 

「で、理由は何なのよ。そろそろ気を張ってるのも疲れてきたから、さっさと教えなさいって」

 

「……その、あー……このコンビニに、よくシャーレの先生がいらっしゃるじゃないですか?」

 

「あー、うん……? まあ、今んとこ毎日来てるしね。そんで、それがワカちゃんの働きたい理由とどう関係があるっつーのさ」

 

「恥ずかしいので一度しか言いません。つまりですね、このワカモは──」

 

 

 一拍置いて。

 深呼吸して。

 そして、言い放った。

 

 

先生に一目惚れしたのでここで働きたいのです

 

 

「……え?」

 

「二度は言いません! そういうことなので、真面目に働きますので! このワカモをこのお店で働かせて欲しいのです!」

 

「…………あ、そう……」

 

 

 ワカちゃんは思い切り頭を下げて懇願していた。この子、謝るとかできるんだ……じゃなくて。

 

 えっと、つまり、好きな人に会いたいから、ここで働きたいってこと?

 

 ──……それ、青春(かわい)すぎかよ。

 

 

「えっと……うん、じゃあ、採用ってことで──」

 

「本当ですか! ありがとうございます、ありがとうございます! このワカモ、全力を尽くして働かせていただきますから!!」

 

「あ、はい、よろしくね……」

 

 

 と、まあこんな感じで、何やかんや、ごたごたしながらも。エンジェル24シャーレ居住区店は、三人目の従業員を手に入れたのだった。

 

 うふふ。

 これで私の負担も、さらに減るでしょう。

 

 今から一緒に働けるのが楽しみだ。

 

 






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