キヴォトスに転生したけど銃撃戦とか嫌なのでコンビニでバイトする 作:Minus-4
あまりにも突然すぎる先生の登場。
当然の如く、ワカちゃんはフリーズする──かと思ったんだけど、
「……こほん! ようこそいらっしゃいませ、
「"あ、あなた様……?"」
咳払いを一つ挟んだとはいえ、立て直し、取り繕うまでが早すぎるでしょ。ソラすけも目を見開いて驚いている。
ちぇっ、何だよ。赤面して恥ずかしがるワカちゃんが見たかったからモモトークで先生呼んだのに、つまんねー反応しやがって。
ついさっきレジ横のコーヒーマシンで淹れたインスタントコーヒーを流し込む。にっっが。もっといい豆使えよ。
はーあ、つまらんつまらん。慌てふためくワカちゃんを見たかったのに──ん? どーしたのよソラすけ、かわいらしく私の袖なんか引いちゃって。
「いや、あの……ワカ、ワカちゃんって、普段は狐のお面を付けてるんですよね?」
「んー、そうらしいね。だから狐の面を外しちゃえば、その辺の人との見分けが付かないらしーよ」
「そうですよね? ワカちゃん、今は
「……えっと、ソラすけ? 何をそんなに慌ててんのさ。あっ、もしかして先生にワカちゃんの正体がバレることを心配してんの? それならへーきだよ、先生は──」
「
……逆?
いや、どういうことだろう。
ふむ、逆。言葉の通り受け取るなら──ワカちゃんの正体がバレないことを危惧している、ということになるよね。
うーむ、それの何が問題なんだろうか。
私はコーヒーを再び飲み──っあぁ!?
まずい、まずい、マジでまずい……! そうだった、忘れてた、完全に何も考えないで先生を呼んじゃった……!
「一目惚れの相手である先生に『えーっと、誰……?』とか言われたらワカちゃんの精神が壊れるってことを心配してるのね……!」
一も二もなく頷きまくるソラすけ。私の服を握る力もだんだん強くなってきている。制服のしわがエグいことに。
いや、つーかマジでまずい。一目惚れの相手に「誰?」って言われたら誰でも精神が崩壊する。
あっ! 多分ワカちゃんも気づいてるわこれ! はっとした表情を浮かべて不安げな視線をこっちに寄越してきた! マジごめん本当に!!
……しょーがねー、ならばその前に私が会話に割り込めばいい! 先生に「覚えてます? この子、ワカモっていうんですよ〜ほら狐のお面の〜」と伝えてやればいいだけのこと!
よし、そうと決まれば話は早い。私はコーヒーを乱暴に置き去り、先生とワカちゃんの会話に割り込むことにした──瞬間。
「"もしかして、ワカモ?"」
「──!! はい、はいっ……! あなた様のワカモでございます……!!」
……先生、あんたマジで、最高かよ。
今度80%引きのクーポンを贈呈させてもらう。
てか、ワカちゃんの表情がヤバい。恋する乙女ってレベルじゃねー、あれはもはや
おーい、ワカちゃん。ソラすけがちょっと引いてるから
……後でワカちゃんに謝っとこう。土下座しても許されるかどうか分かんねーけど、マジで申し訳なさすぎるので。
「あー……先生? あんまり驚かないんだね。ワカちゃん、一応はこの前の暴動の主導者なわけだけど」
「"まあ、誰にでも間違うことはあるから。でも、これからは周りに迷惑をかけたらダメだよ?"」
「はい! あなた様がそう仰るのでしたら、
絶対抑えないだろその言い方。
まあでも、先生は納得しているみたいだし、私が横から口を挟むこともないだろう。ソラすけの方を見る。私と同じ目をしていた。
だよね、やっぱそう思うよね。私は間違ってない。ワカちゃん、生き方そのものを変えるつもりはあんまりないだろうし。
それも変えられるとすれば、やはりそれは一目惚れの相手──シャーレの先生ということになるのだろうけど。
いやしかし、先生はここ最近、割と有名になりつつある。先の暴動を終息させたという噂が出回っていることが、それを助長しているらしい。
多分ライバル増えるぜ、ワカちゃん。
私? 元男だぜ、何を間違っても
「"いやー、ワカモがここで働いてたなんて知らなかったよ! バイトは最近始めたの?"」
「ええ、はい、そうなのです。そちらのキョウカさんに頼み込みまして、昨日からここで働かせていただいております」
「そーそー、いやびっくりしたよ本当に。あの暴動の日の私に伝えたところで、絶対信じてもらえないだろーね」
「私は……今でも信じられません。まさかそんな、ワカちゃんみたいな人と関わるだなんて、今まで想像したこともなかったので」
「でしょうね、私もあまりソラさんのような方と関わったことはありません。本来ならば一生関わらなかったのでしょうが──運命のいたずら、というものでしょうか?」
「"でも、アルバイトっていうのはきっとそういうものだよ。色々な人がいて、色々な事情や生き方がある。案外、出会いの場としてはちょうどいいのかもね"」
笑顔でそんなことを言う先生。ワカちゃんも「ええ、ええ! このワカモ、まったくの同意見です♡」と同調した。
まあ、まあね? 確かにその論には同意の姿勢を取るけど……うーん、前世を思い出すよ。
いやね、あれなんだ。女の子と話すこと目当てでバイトに来るやつとかいてさ、そーゆー奴に限って
その点このコンビニは全員真面目でいい。ワカちゃんだって動機は不純だが、仕事は真面目にやってくれるし。
……もしかしたら、今後ワカちゃんも話にならなくなってしまうのだろうか。何と言うか、それは、嫌だな。
「……えっと、キョウカさん、どうして私と先生の間に立つのです?」
「いや、なんか、二人の様子を見てるとね、ワカちゃんが先生に取られちゃうんじゃないかと思って」
「"そんなことしないよ……?"」
「してくれないのですか!?」
「"しないからね!?"」
なんか余計に話が拗れた気がする。
いやでも、こんなに優秀な従業員を引き抜かれたら、こっちとしてはたまったもんじゃないのよ。
ほらソラすけもこっち来て。この優男からワカちゃんを守ろう。がるる。今にも噛み付かんばかりに構える私。
これ以上私の仕事を増やされてたまるか! ソラすけとイチャつく機会が減るんだよこちとら!
「キョウカさん、邪魔です、どいてください」
「っす、ごめんなさいでした」
「ええ、いい子です。私が上で、あなたが下。忘れないでくださいね」
「キョウカちゃん、先生にワカちゃんを取られちゃうどころか、このままだとワカちゃんにお店を取られますよ」
うるさい、ちくちく刺すな。
私だって従業員のこれからを決めるつもりなんかない。
ワカちゃんがシャーレ直属になりたいのなら、それだって止めない。ちょっと寂しいけどさ。
私の横をワカちゃんがすり抜けていく。何をするつもりだろうか──どうせやることもないので、その姿を見送る。
まさか本当にシャーレに? それならそれでいい、後腐れなくざぱっとやめてもらったほうが、こっちとしても引き摺らなくて済む。
……はあ。がさごそ、からんころん。棒付きキャンディを取り出し、口に突っ込む。味がしない。
「先生、一つお話があるのですが、よろしいですか?」
「"……何かな? 私に聞ける話なら、何でも聞くよ"」
「いえ、そこまで難しい話ではないのです。その……はぁ……ふぅ……」
顔を朱に染めて、胸に手を当てて深呼吸するワカちゃん。
そうして何分が経っただろうか。案外そんなに経っていないのかもしれない。
とにかく、しばらく経って。ワカちゃんはようやく意を決したのか、その口から、普段よりもいくらか必死そうに、声を出した。
「──わっ、
「"……うん"」
「モモトークを交換していただけませんか!」
「えっ?」
「"うん、いいよ!"」
「──っ!! ありがとうございます、これから毎日メッセージを送らせていただきますわ……!」
……あれっ。流れ的に、どう考えてもワカちゃんがこの場を去る流れだと思ったんだけど。
私は混乱した。口からキャンディがこぼれ落ちる。つまり、唖然とするほかなかった。
そうして私が目をぱちくりさせていると。
先生とモモトークを交換した熱が少し落ち着いたらしいワカちゃんは、少しだけいじけたようにしながら、私の方を振り向いて、呆れながらもこう言ったのだった。
「あのですね、キョウカさん。この際だからはっきりさせておきますけれど、
……つまるところ、今回の件は。
徹頭徹尾、私が空回りし続けただけなのだった。
ちょっと、友達ができて浮かれてたかもなあ……。
今度は私が、顔を紅くする羽目になった。
本来昨日投稿分とひとまとめの予定だったので少し短いです。ごめんなさい。
たくさんの評価と感想、そしてここすきありがとうございます。とっても嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします!