僕の触手は留まることをしらない 作:ホルン バグハンド
触手、というものをご存じだろうか。
一般的には無脊椎動物に生える伸縮自在の突起とされているが、ここで言う触手とは
ぬめついた触腕に、催淫の体液をもち、夜の闇に紛れ、人間を絡めとり、自身の巣に持ち帰って繁殖のための苗床にしてしまうあのエロ同人御用達しのモンスターである。
異形が人を弄ぶアブノーマリティ。
その特異性ゆえに多くの人間には敬遠されがちではあるが、しかし近年の成人向け同人誌では少しずつ規模を増やし、一つの性癖としての地位を確立している。
とはいえ、触手と一言でいってもいろいろある。
細い触手、太い触手、粘液まみれもあれば、毒針を持っていたりもする。服や物体に擬態するし、淫紋を刻んだり、生き物の体内に潜り込んで寄生したりするのもなかなか趣がある。最近の同人作品では感覚遮断する落とし穴型や快楽光線を放つタイプもいたが、素晴らしいと認めざるを得ない。
色欲の具現みたいな生き物が、ありとあらゆる手練手管で人間に快楽を与える。
どれだけ人が理性的だろうが気高くあろうが関係ない。
圧倒的な不条理、理不尽な快楽をもって、人の尊厳を踏みにじる人間の被虐的性癖による、人間の負の性欲ための背徳の化身。
それが触手である。
――――――そして僕が従えているモンスターのことでもある。
***
エルンスト王国について説明をしよう。
辺境の小国であり、誰も欲しがらない魔獣が蔓延る大地を切り拓いて建国したという、なかなか根性のある国家なのだが、それ故にエルンスト王国は長年の間、魔獣と戦い続けてきたという歴史がある。そして必然というかなんというか、日々襲い来る魔獣を退けるために戦闘能力が異様に高い。
国民の大半がある程度の魔獣と戦う技術を身につけているのは当然として、例えば王国を守護する剣騎士団長は、鍛え上げた剣術でドラゴンだろうと当たり前のように狩るとか。
魔術塔における賢者は、単独で地形を変えるほどの火力、複雑怪奇な秘術を保有するとか。
聖協会を束ねる聖女の癒しの力は、死者でも蘇生するとのもっぱらの噂だ。
そして何より王国の最高の英雄とされる『勇者』。
歴史上に時折現れる光属性の魔法の使い手。
『騎士団長』『賢者』『聖女』に匹敵あるいは凌駕し得るとまで言われる存在だ。
人は違うが千年前には、エルンスト王国を興したり、魔王を討伐したなんて逸話が語られているほどには、勇者という存在は特別視されている。
まあ、普通に生きていればまあ関わることのない人間だ。
一般
――――――そう思っていた時期が僕にもありました。
いろいろ見誤った。
完全な誤算だった。
周辺の魔獣を倒せば金一封を貰えるというエルンスト王国特有の制度を利用し、育てている触手を連れての魔獣狩りに行ったまでは良かった。だが天気があまりにも良すぎた。
触手に魔獣を狩るように指示を出して、あとは日向ぼっこしながら爆睡してしまったのだ。
「あー、やっばいねコレ…………」
僕の前でイソギンチャクみたいな体を震わせ、触手が歓喜の咆哮を上げる。
状況を説明しよう。
僕の育てた触手(命名:ハンニバルくん)が、人間を捕食していた。
しかも勇者を。
勇者を捕食しているのである。
今、触手の隙間からチラっと顔が見えたから間違いない。
今回の犠牲者である彼女はエルベル ノクステラ。
つまりエルンスト王国にて最強として扱われている英雄の一角を、僕の触手が貪っているのである。
まあ貪ると言っても、別に肉を裂いて血を啜るみたいな感じではない。自慢の触手で相手の身体中をまさぐりまくり、撫で倒して魔力やら体液やらを吸収しているだけだ。命の危険はあんまりない。それだけではあるのだが、触手にとってはとにかくそれが美味いので、全身を咀嚼するように震わせながら狂喜乱舞している。
「人間うんめぇぇぇええええええええええ!!!」
言葉にすればこんな感じだろうか。
現在進行形で絡めとった勇者を体内で転がしながら味わい続けている。
触手の接触が気持ち良すぎるようで、被害者である彼女は中で痙攣しながら暴れているが、正直抵抗になっていない。
扱いは口の中に放り込んだキャンディーである。
もごもご、ぺろぺろ。
うん、うまっ! とでも言いたげだ。
そこら辺で日向ぼっこをしながら、気持ちよく昼寝をして、目を覚ませばこれである。
ため息を吐く。
「場所は気を付けてたつもりだったんだけどなぁ」
僕だって触手使いのはしくれだ。
自分のモンスターが世間ではいかがわしい存在として見られていることは理解している。
実際は案外そうでもない触手もいるのだが、それはそれ。
森の入り口付近は剣騎士団が魔物を狩っているし、目立たず強力な魔物を倒しに行くため、より深部に潜っていたのだ。
恐らくは同じく勇者も深部で魔物狩りをしていたのだろう。
そして彼女は普段見かけないモンスターを目撃することになる。
そう、触手だ。
ちょっとした小屋ほどもある無数の触手の集合体。
控えめに行っても禍々しいビジュアルのモンスターに、咄嗟に攻撃してしまったのは想像に難くない。
そして戦闘。
激闘の末、戦いを制した触手に捕食されたと思われる。
僕の触手は人を襲わないように躾けているが、命のやり取りともなれば話は別だ。触手のハンニバル君も全力を持って迎え撃った結果として、美味しく勇者を頂いているというわけである。
「じゃあ、そろそろ吐き出そうかハンニバル君」
「■■■■■■■■!?」
「これは事故なんだから多めに見てやってよ。どうせほぼ一方的に勝ったんでしょ?」
「■■■■■■」
「え? 光の斬撃で体積半分になった? どうせわざと囮に切り捨てたんでしょ。キミめっちゃ強いんだし」
「■■■…………」
反応は芳しくない、普通に嫌がられてる。
ハンニバルくんが体躯を揺らし、みょんみょんと全身の触手を震わせる。自然と体内に生やしている触手も蠢くので勇者がくぐもった悲鳴を上げる。
面倒だし証拠隠滅とか、解放しなきゃバレねーよなとか雑な考えが頭をよぎるけど、頭を振って思い直す。
食べ終わったフライドチキンの骨並みに、滅茶苦茶にしゃぶり倒されている勇者を見る。
流石に勇者はネームバリューが違い過ぎるし、行方不明なんてなれば途端に大ごとだ。
流石にアウト………。
「今度なんか埋め合わせ考えるからさ」
「■■■■■」
残念そうに触手が鳴く。
どうやらOKのようだ。
太めの触手を操って、身体に埋もれている勇者をずるりと引き出す。
軽金属の鎧を身につけた金髪の少女が、全身をもみくちゃにされ、媚薬成分を含んだ粘液を塗りたくられた無惨な姿で吐き出された。
よく見ると結構若い。
極東で言うところの学生くらいだろうか。
激しい刺激で意識が飛んでいるのだろう。
瞳は裏返り、死にかけのカエルのようにぴくぴくと四肢を痙攣させていた。
「大丈夫?」
「………ぉ、ごぇ……っ♡」
「よし!」
生存確認、ヨシ!!
ぱっと見た感じ瀕死の様相だが、弱っているくらいがちょうどいい。
そもそもハンニバルが手加減したとはいえ、触手の体積を半分以上持って行くのは普通にバケモノである。
流石は4英雄の一人。
まだ少女というのが末恐ろしい。
まあそれは良いのだ。
問題は未熟だったとはいえ、勇者を倒してしまったことだ。
あとは結果的にとはいえ触手のエサ代わりに体内にぶち込み、媚薬粘液塗れの触手塗れにして快楽攻めの尊厳破壊フルコースにしてしまったことだろうか。
うん。
大問題だな、これ。
王国の面子といっても過言ではない英雄にあんなことやこんなこと。
全ては巡り合わせの不運とはいえ、下手しなくても重罪人として処されそうだ。
早急に対策を打つ必要がある。
困ったときのアレでいこう。
「ハンニバル君、説得準備で」
「■■」
触手がいつものね、みたいなノリで蠢きだす。
別にいつもやってるわけじゃないんですけど。
「はーい、身体起こすよー」
「ぁぇ………?」
まあなんにせよ、手早く済まそう。
憐れな粘液塗れの少女を身体を起こしてやる。
なんなら顎を優しくささえ、頭部を固定し、そして彼女の目線にハンニバル君の
触手から光が放たれる。
少女の目に。
「はーい気持ちいいよー、あと危なくないからねー」
「あっああ、あっあっあっあっ………!」
少女がビクリと身を震わせ、ガクガクと痙攣を始める。
ちょっと危険な感じがするが、これで正常である。いまの少女には強烈な快感と共に暗示を与えている状態なのだ。
そう、暗示。
つまり催眠である。
触手って結構色々なことができるのだ。
擬態、寄生、増殖したりと肉体改造の方向に秀でているのだが、
この能力のお陰で、割と穏便にことを進めることができる。
そう穏便に済ませることができる。
「直近の数時間くらい全部忘れようねー」
「あっあっあっあっあっあっあっ………♡」
僕は勇者の記憶を飛ばすことで解決することにした。