僕の触手は留まることをしらない   作:ホルン バグハンド

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淫紋

 

 

 

 あらすじ

 

 

 僕は触手を使って催眠で記憶を飛ばそうとしました。

 

 とはいっても記憶をイジるのはそう簡単じゃない。

 触手の能力にそういうモノがあるというだけで、エロモンスターの中では記憶やら精神の操作に長けているわけではないのだ。

 

 ココロは淫魔とか夢魔の分野なので、触手が催眠を掛けようとすると相応に時間がかかる。

 なので身体を触手で拘束したうえで、快楽光線に暗示を乗せながら記憶をじっくりと書き換えるわけだ。

 

 そんなわけで小一時間程かけてばっちりと催眠を掛けて、今に至る。

 

「そろそろいいかな.........、なんか覚えてる?」

「触、手のぉ………っ、バケものっ…………!」

「めっちゃ覚えてんな」

 

 何も忘れてないなコレ。

 

 全身をがくがくと震わせながら喘ぐ少女を見る。

 全く聞いてないわけではなそうだけれど、肝心の記憶が全然飛んでいない。

 

 え?

 

 今の時間全部無駄だったってこと?

 触手も得意じゃないだけで手間さえかければ、都合がいい感じに記憶書き換えるくらいは出来るはずなんですけど。

 

 もう一回掛け直すか?

 

 いやいや、流石に日が暮れるしそもそも成功する確証がない。

 

 どう考えても相手の精神耐性が高すぎる。

 

 なんでだ。

 

「あー、勇者だからか」

 

 そういえば勇者は、希少な光属性の魔力持ちなのだった。

 熱線で相手を焼却したり、邪悪を浄化したり、傷を癒したりとできる事が異様に広いのが光属性。もともと闇の属性に特攻を発揮する属性なので、今回はそれが悪いように作用したのだろう。

 

 なるほどね。

 

 じゃあ催眠で証拠隠滅できないじゃん。

 

「まいったなぁ」

「あっな、たは………! 何もの、ですか………っ♡」

 

 なんなら質問ができるまで回復してるし。

 

 変に耐性が付き始めてるな。

 穏便に済ませたかったけれど、ここまでになるともう催眠はまともに効かなそうだ。

 

 めんどくさすぎる。

 

 少し悩んで、諦めたように溜息を吐く。

 

 

 

 仕方ない、プラン2で行こう。

 

 

 

「キミ、お酒って飲める?」

「…………っ♡」

 

 

 

***

 

 

 

 私はエルベル ノクステラ。

 

 

 勇者だ。

 

 

 家族は幼い頃にモンスターに殺された。

 住んでいた村は巨大な魔獣に踏み潰されて跡形もなく消し飛んだし、気心の知れた幼馴染は野生の魔狼に嚙み殺されたし、私を引き取ってくれていた養父は野良仕事中にゴブリンに殴り殺されて死んだ。

 

 運命に嫌われている。

 

 そう錯覚するほどに私と親しい人間はモンスターに殺された。

 

 復讐心から剣を握った。

 幸いなことに戦う才能だけはあったようで、魔物を片っ端から殺している内に気が付けば勇者と呼ばれていた。

 

 まあ相も変わらず、私と親しくなった人間はすぐにモンスターに殺されるので、王国の剣騎士団にも所属せずに一人で魔物狩りをするだけだったが。

 

 魔物は殺す。

 

 それだけだ。

 

 それだけを繰り返す日々を送っていた。  

 

 

 今日までは。

 

 

「初めまして、僕はホルン バグハンド。触手の従魔士(テイマー)で性別はメスでーす。しくヨロ」

「……………」

 

 酒場で酒を飲みながら、「ぶいぶいっ」と二本指を立てるふざけた態度の女従魔士を見る。

 

 紫紺色の掛かった黒髪と瞳。

 どこか妖しげな雰囲気と美しさを纏った相手を睨む。

 

「あれ、お酒飲まないの? お子様だった?」

「ちゃんと成人しています、飲む気が無いだけです」

「へー、じゃあ君の分の飲んどくね」

 

 ふざけた人間だ。

 

 ふざけた人間だが、強力な怪物を従えている。

 

 

 触手群(テンタクルズ)

 

 

 無数の触腕を操るモンスターだ。

 

 浴びせられたのはたった一太刀のみ。

 その瞬間に触手と粘液で絡めとられ、毒を撃ち込まれて無力化された。

 

 

 抵抗する暇すら与えられなかった。

 

 

 王国でも上から数えられる程度には実力があると自負している。

 

 それでも相手が上手だった、完全に手玉に取られる形での敗北。

 単独で軍に匹敵するとされる水氷魔術の天才である賢者、剣一本であらゆる存在を打破すると謳われる剣騎士団長と模擬戦をした時と同質の感覚。

 

 それほどの底知れなさだ。

 

 

 ――――――得体が知れない。

 

 

「さっきはごめんね! まさか触手に挑む人がいるとは思わなくてさ。まあ肌の表面を舐めてただけだからスキンシップだと思って勘弁してよ」

 

 間違ったことは言っていない。

 確かに舐め回されただけだ。減ったものは確かにないし、弱みを握られたわけでもない。

 

 思えば、従魔に手を出した自分にも非があった。

 

 スキンシップといえばまあそうかもしれない。

 

 だが、微妙に納得がいかない。

 

 とはえいえ、それでは話が進まないので一旦置いておく。

 

「いえ、こちらにも誤解がありました。その、ハンニバルくん? は、何処に?」

「今は僕の影で寝てるね」

 

 思わず、彼女の足元を見る。

 酒場の明かりで象られた影が、妖しく揺らいだ気がした。

 

「お詫びといっちゃなんだけど、できる限りのお願いを聞くよ。僕にできることならなんでも言って」

「………では、質問をしても?」

「おっけー、何が知りたい?」

 

 どうやら問題はないようだ。

 

「貴方は、この国の人間ではありませんね?」

「んー、まあね。完全に縁がないわけじゃないけど」

「そうなんですか?」

「子供の頃に少し住んでたことがあった程度の話だよ。珍しくもないでしょ?」

 

 酒で顔を赤らめながらホルンが答える。

 

「そうですね、今までは何処に?」

「最近は極東にいる知り合いの家に居候かなー、あっちは娯楽が多くてご飯も美味しくて最高だよ」

 

 ゲームとかー、漫画とかーなど、聞き覚えのない単語が羅列されるが、様子を見る限りこの従魔士は嘘を言っているわけでもなさそうだ。

 

「ならなぜ、再びこの国に?」

 

 そうだ。

 

 何故、この国に来たのか。

 

 エルンスト王国は国内外を問わず魔獣の被害に溢れている。

 それは国交が十分には行えないほど、旅行者などもってのほかだ。相当な手間と危険を冒してようやく訪れることができる場所、それがこの国だ。

 

 ならば紫紺の従魔士(ホルン・バグハンド)は、面倒を掛けてまでこの国に来た?

 

「ん-………、秘密!」

「は?」

「なんか気分じゃないからヤダ」

「なんでも言う事聞くって言いましたよね?」

「えーじゃあ、出来る限りだから、これは今のところ出来ないってことでヤダ」

「………………」

  

 なんなんだコイツは。

 

 自分の立場を解っているのだろうか。

 ただの旅人と自分では、権力だけで言うなら自分が圧倒的に上だ。そんなことはするつもりはないが、勇者としての立場を使えば一瞬で牢獄にぶち込めなくもないのだが。 

 

「………騎士団に通報して、力尽くで吐かせますよ」

 

 様子見で脅してみる。

 少しは考え込むか、そう思っての発言だったが、女従魔士はあっさりと答える。

 

「あっゴメン、それは無理かな。キミ、触手に負けた時に淫紋刻まれてるし」

「…………………淫紋?」

「契約魔術の一種なんだけどね。何かを得る代わりに別の制約が掛かるって仕組みのやつが、下腹部に刻まれてるんじゃないかな」

「つまり?」

「やらしーことがめっちゃ気持ちよくなれるメリットを得る代わりに、僕に不利益を与えられないようになってる」

「………………」

 

 なんだそのカスの理論の契約は。

 

 契約の意味を調べ直したほうがいいんじゃないのか。

 

 唐突に人権の一部を剥奪してます宣言に、思わず呆然とする。

 特に気にした様子もなく、従魔士がビールを呷る。

 

「ちなみに程度にもよるけど、制約に触れると理性が消し飛ぶレベルで発情するから気を付けてね」

 

 なんとなく理解した。

 

 ホルン・バグハンド。

 

 悪意はなさそうだが、人としての倫理観は底辺に近い。

 

「あっ、でもほんと気持ちいいらしいから! 触手貸そうか?」

死ね

 

 悪態一つで下腹部が熱を持つのを感じ、逃れられないナニカに絡めとられた事実に私は頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ホルン バグハンド
一般の従魔士、倫理観がカス
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