「…んん? もう異世界っちゅうとこに着いたんか?」
オラは目を開けて、寝ていた身体を起こした…オラ、いつの間に寝てたんか? そんな事を考えてる間に、近くを見渡してみた。
オラが寝てた場所は広え草原だった。 吹いてくる風はすげえ心地よくて、そんで穏やかだった…パオズ山を思い出すな。
そんだけじゃ、まだオラの世界と変わんねえように見えた。けど、遠くを見渡すと全然違った景色も見えた。見たこともねえ生き物もいた。
青色のぷよぷよした小せえ生き物、棍棒持ったナメック星人みてえな体の色した奴…それと。
「おわっ!? なんだあれ!?」
神龍みてえな頭の形した、でけえ鳥…恐竜か? とにかく、そいつが向こうのほうで飛び回ってるのが見えた。
「うっひゃー! すんげえな! あんなに強そうな動物がいんのか!」
「…ん?」
あれ? よく見たら、あの恐竜の先に誰かいんぞ? 馬に乗って走ってやがる。…もしかして、追っかけられてんのか?
「いやああああああっ! 誰か助けてえっ!」
まじいな、あのままじゃ食べられちまう。 餌になる前にさっさと助けに行かねえと。 そう思って走ってみたら…
「…あれ? オラ、こんな足遅かったか?」
どうにも身体が思うように動かねえ。 舞空術も試してみたけど、それも出来なかった。
するとオラは、ここに来る前ナテアが言ってた事を思い出した。
『転移の際、力の均衡を調和するためレベルは1にリセットされます。 それを踏まえてご注意を。』
「…あ!」
オラの元々のレベルは300だったらしい。 そっからレベル1ってなると…とにかく、随分弱くなっちまった事は分かる。まずは修行して、どうにかそのレベルを戻さねえとな〜…
「食べても美味しくないわよおおおっ!」
「っと、今は考えてる場合じゃねえ!」
何とかこいつらの速度には追いつけそうだ。 あとはあの恐竜を止めねえと。
「…か…め…は…め……ん?」
…あれ? 気が溜まんねえ…舞空術みてえに、今のオラにはかめはめ波はまだ使えねえのか?
「冒険初日でドラゴンの餌になるなんて、嫌ああああああっ!!…えっ?」
けど、普通の気弾なら出せた。 こいつであいつを止める!
「ど、ドラゴンと馬のスピードに追いついてる…? ここ、低レベル地帯のはずよね…?」
「でりゃあぁぁっ!!」
オラは恐竜の腹に向かって勢いよく気弾を投げつけた。 気弾は恐竜の腹に思いっきし当たって、爆発した。
「ギャオオオオッ!!」
「いいっ!? やべっ!」
恐竜がオラの方に落ちてくる! このままじゃ下敷きになっちまうっ!
「マグネプルッ!」
「おわっ!?」
追っかけられてた奴が急に叫んだかと思うと、オラの身体がそいつに引き寄せられて、そのまま馬の上に乗った。
「いやー助かったぁーっ! サンキュー!」
「こちらこそ助かったわ。 けど、あなたは一体…?」
「オラは孫悟空! こことは別の世界から来た…ってとこだ。 つっても、ついさっき来たばっかだけんどな!」
「べ、別の世界!? じゃあ、あなたは…」
「ギャオオオオオオオオオオッ!!」
「むっ!?」
今のは…さっきのでけえ恐竜の声か? まだぶっ倒れてなかったみてえだな。
「ま、まだ死んでなかったの!?」
「あれぐらいじゃダメか…オラ、ちょっくらあの恐竜ぶっ倒してくる!」
「えっ!? 無茶よ! この世界に来たばかりで、しかも一人でドラゴンと戦うなんて!」
…『ドラゴン』? なるほど、通りで神龍に似てる訳だ。
「
「何とかならないわよ! って、ちょっと!」
オラは馬から飛び降りて、『ドラゴン』っちゅう奴の方へ向かった。
「そんじゃ、先行っててくれ! えーっと、おめえ何て言うんだーっ!?」
「ルフェよ! …まだ死ぬんじゃないわよ! 新米勇者様ーっ!」
…降りる前に聞いとくべきだったかな。 上手く聞こえねえや。
とにかく、またな『ルヘ』! おめえには後で、この世界の事色々聞きてえんだ!
「グルルルルルル…」
「っと、そういやおめえの餌逃しちまったんだっけな。」
ドラゴンの奴、随分怒ってるみてえだ。 折角の飯を邪魔しちまったからな。
「けどよ、人間食わす訳にゃいかねえんだ。 どうしてもってんなら、オラと戦ってもらうぞ!」
「ギャオオオオオッ!」
「わわっ!?」
ドラゴンは怒りながらに、オラに噛みついてきた。 ギリギリ避けれたけど、あの図体でなんちゅうスピードだ。
「グウウウウウ…」
「あっぶねえ…いきなり攻撃してきやがって…」
こりゃ一筋縄じゃ行かなそうだ。 けどまずは、オラが使える技を確認しねえとな。
「んっ!」
デコに指を当てて、『瞬間移動』を試してみる。 …これは駄目そうだ。
「グオオッ!」
「あっ!?」
今度はグルンと回りながら尻尾で攻撃してきた。 なんとか跳んで避けた。
「こんにゃろっ!」
瞬間移動の次は、片手を上に上げて『気円斬』を試してみた。 …こいつも駄目そうだな。
そうしてる隙に攻撃されそうだったから、咄嗟に気弾に切り替えて攻撃した。
「だあっ!」
「ギャオッ!?」
顔をこっちに向けてたおかげで、気弾はドラゴンの顔に直撃した。 さすがのあいつもこれは効いたみてえだ。
「グウゥッ…」
「よーし、隙ありっ! だだだだだだだだだだだっ!」
僅かに出来た隙を突いて、ドラゴンの顔に気弾を撃ちまくった。
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」
どうやら、オラが持てる気の量も減ってるみてえだな…もう息切れし始めちまった。けど、今のはだいぶ効いたろ…
「ギャオオオッ!!」
「いいっ!?」
嘘だろ!? まだそんな動けんのか!? あの野郎、攻撃で出来た煙を吹き飛ばしながら、顔を突っ込ませてきやがった! …仕方ねえ、一か八かだ!
オラは両手をデコに当てて構えた。
「太陽拳っ!!」
「ギャッ!?」
なんとか太陽拳は使えたみてえだな。 太陽拳の光で、ドラゴンの野郎は目を痛そうにしながら怯んでやがる。
…今がチャンスだ!
「トドメだっ! でりゃああああああっ!!」
「ギャオオオオッ!?」
オラは怯んだドラゴンの腹に近づくと、思いっきし力を込めて、拳を叩き込んだ!
「オ……オ…」
どうやら、今の攻撃がトドメになったらしいな。ドラゴンはやっと力尽きて、横に倒れた。
「オラの勝ち…か…」
…倒したはいいけど、なんか神龍の仲間をぶっ倒したみてえでちょっぴり気分わりいな。 …ん?
「わわっ!?」
オラが一息着いてっと、急にさっき見た光る板が目の前に出てきた。 えーっと、何て書いてあるんだ?
『経験値を5000獲得。 孫悟空のレベルが5になりました。』
『気合砲が使用可能になりました。』
『かめはめ波が使用可能になりました。』
…んん? よくわかんねえけど、さっきのドラゴンを倒したおかげでオラが強くなって、使える技が増えたみてえだな。 かめはめ波が使えるようになったんはありがてえ。
なるほど…ここじゃ強え奴を倒せば、もっと強くなれんのか。 こりゃもっともっと戦って、強くなんねえとな!
っと、そういやルヘと合流するんだった。 えーっとあいつの気は…こっちか! 時間かけたし、随分遠くまで行ってんな。 駆け足で行かねえと。
…その前に、こいつの尻尾を貰ってくか。 焼いたら美味そうだ。
「…助かったは良いけど、勇者様の事置いてきちゃった…大丈夫かしら。」
エルフの新米冒険者『ルフェ』は、馬と共に平原から森へ入っていく最中、先ほど自分が置いてきた『孫悟空』と名乗る謎の新米勇者の事を気にかけていた。
なんとかなるとは言っていたが、来たばかりという事はレベルは1…あのドラゴンが、比較的大した事がない部類に入るとしても無謀な挑戦だ。
自身が閉鎖的だったエルフの里を抜け出して冒険者になった理由…その一つの存在である勇者を置いてきたという現状は、あまり耐えられるものではなかった。
「…やっぱり心配だわ。 村はこの先だけど、一度戻らなくちゃ。」
そう言って一度馬の足を止め、戻ろうと振り返った瞬間だった。
…思わぬ光景が目に入った。
「へっ?」
「おーいっ!ルヘーっ!」
なんと、先ほどの新米勇者が、土煙を巻き上げながらものすごいスピードでこちらに追いついてきたのだ。 しかも、担いでいるのはさっき追いかけてきていたドラゴンの尻尾。 新米勇者がレベル1でドラゴンを倒したと知るには、十分な証拠品だった。
しかし、にわかに信じがたい事実だ。レベル1が、レベル5のドラゴンを倒すなんて。 だが呆気に取られている間に、新米勇者はブレーキをかけてこちらの目の前に止まった。
「ふーっ、なんとか追いついたみてえだな。」
「あ、あんた…一人でドラゴンを倒したの…?」
ほぼ確定しているものの、恐る恐る確認してみる。
「おう! ま、だいぶ苦労したけどな!」
やっぱり倒してきたらしい。 一人で。 さすがに腕力だけでどうこう出来る相手ではないだろうし、何かしらの戦法を使って勝利したのだろう。
…一体どういう戦法を取ったのか、気になるばかりだ。
「…ど、どうやったのよ、あなた…」
「へへっ、まあ色々やってな。 ところでおめえ、これ食うか? さっきのやつの尻尾だ。」
誰でも見れば分かる。 こんな形の尻尾なんてドラゴン以外にいない。 …それはともかく、ドラゴンの尻尾なんて食べた事が無かった。 美味しいとは聞いていたので前から興味はあったが、まさかこんな形で食べられるチャンスが来ようとは。
グウ〜…
…ルフェの抑えていた食欲が、腹の音となって漏れ出した。
「…じゃあ、ちょっとだけ食べようかしら。」
「おう! 遠慮せず食え!」
ルフェは、今この瞬間は自身が走っていた目的を忘れる事にした。
そうして今日、二人は冒険を始めて最初の食事にありついた。
「…んでさ、ルヘ。聞きてえ事があんだけどよ。」
「ルフェよ…で、なに?」
尻尾を焼くために起こした焚き火の光に照らされながら、悟空はルフェに対して質問を投げかけた。また名前を間違えながら。
苛立ちながらもルフェは、焼いた尻尾の一切れをかじりながら返事した。
「おめえ何で追っかけられてたんだ? あいつになんかちょっかいでもかけたんか?」
「…まあ、たまたまバッタリ会っちゃったのよ。 そしたら、急にあのドラゴンが追いかけてきたって訳。 私が美味しそうに見えたのかしら。」
「ははっ、まあおめえちょっと太ってっからな。」
「太ってるって何よ!? レディに向かって失礼ね!」
悟空の何気なく発したデリカシーゼロの発言に、ルフェは語気を強めて怒鳴った。
他のエルフと比べて太っているのを、ルヘはちょっぴり気にしていた。
「いいっ!? わ、わりい…」
「まったく、デリカシーが無い勇者様ね…」
「…ん? そういやさ、何でオラが勇者だって知ってんだ? オラ、おめえになんも言ってねえぞ?」
「あなた、さっき『オラは別の世界から来た』とかなんとか言ってたじゃない。 ここじゃ別の世界から来た人間ってのは大抵、勇者だって認識があるのよ。」
「へぇーっ…じゃあ、オラの他にもいっぺえ勇者がいるって事か?」
「そうよ。 ま、どれもあなたよりカッコいい勇者ばかりだけど!」
「ちぇっ、なんか悔しいな… その勇者って、どんな奴がいんだ?」
「そうね、特に有名なのは巧戦の勇者ミネハラ、閃撃の勇者アオイ…そして、最強の勇者ユウト様よ。」
「最強…!」
最強という言葉に、悟空が反応を見せる。
「ちなみに、私の推し勇者もそのユウト様! ユウト様が残したたくさんの逸話を聞いて、私は村を飛び出して冒険者になったのよ!」
「よく分かんねえけど、そいつが勇者ん中で一番強えんだな? いっちょ戦ってみてえな!」
「…」
自身が冒険者になった最大の理由を『よく分かんねえ』で切り捨てられ、ルフェは少しムカッとした。 おまけに、この新米勇者は無謀にもその最強勇者様と戦おうとしているらしい。格上のドラゴンを倒したからと、調子に乗っているのではなかろうか。
「…レベルの低い今のあなたじゃ、戦ってもホコリを巻き上げる事すら出来ないわよ。」
「あ、そういやそっか。 じゃあ、戦うのはある程度強くなってからじゃねえとな。」
「そもそも! いくらドラゴンを一人で倒したからって、あなた程度が戦っていい相手じゃないわよ!」
「今はそうかもしんねえけどさ、まだこれからだろ? オラはこれからどんどん修行して、その最強の勇者と戦ってみてえ。」
「な、何よそれ…」
楽観的なこの勇者の発言に、どうにも言葉が詰まり始める。 呆れからきているのか、それとも『そうかもしれない』と納得しかけているのか…どうにも、自分でもよくわからなくなり始めた。
そうして頭を痛めていると、悟空はまた質問を投げかけてきた。
「ってかさ、そんだけ勇者がいんなら、もう魔王なんか倒されちまってんじゃねえのか?」
「残念ながら、まだ倒されてないみたいよ。 まだ魔物が活発に動いてるのがその証拠。」
「マジか…そんだけ強えって事か、この世界の魔王ってのは…!」
最強と謳われる勇者がいても尚未だに魔王が生きているというのはかなりまずい事なのだが、悟空はそれを聞いて嬉しそうな顔をした。
「…何でそんな嬉しそうなのよ。 魔王が強かったら困るわよ。」
魔王は世界の脅威で、そんな魔王が強いという事は大きな問題だと言うのに。 思えば、ユウト様の『最強』という肩書きを聞いた時も嬉しそうにしていた。
「ん? ああ、確かにこの世界の魔王ってのはわりい奴らしいしな。 けど、オラはそれよりも、強え奴と戦えるってワクワクする気持ちの方が強くてよ…!」
「……何言ってんのよ、全然ワクワクしないわ…」
…ただのバカなのだろうか? わからない。 一体何なのだろうか、この男は。
ルフェの悟空に対する得体の知れなさは、さらに強くなっていった。
「…ところであんた、このまま着いてくるつもり?」
「ん? そうしてえけど、ダメか? オラこの世界の事分かんねえし…」
「…別に良いわよ。 勇者様が側にいると心強いし。」
「ホントか!? サンキュー!」
…確かに得体は知れないが、それと同時に、この孫悟空と言う男には妙な安心感があった。 それは勇者全員から共通して感じられるものか、それとも…この男特有のものなのかは分からない。
本当にこの男は、何者なのだろうか。 それは、これから知っていく事になるのだろう。
「じゃ、これからよろしくな! ルヘ!」
「…ル"フェ"よ。」
でもやっぱり、ただのバカかもしれない。
…ルフェが向かっていた、ある村の近くの川。
「おい、誰か倒れてるぞ!」
「上から流れてきたのか…?」
「誰か手当て!早く!」
「……あ…」
「…!?意識があるのか!?」
「……み…」
「み…?なんだ!?」
「み…ず…」
「……そこの川にたくさんあるぞ。」
「うぅ…」
「あっ!? おいしっかりしろ!」
悟空にまた、新たな出会いが待ち受けようとしていた…
戦闘描写がちょっと地味になっちゃった。 小説って難しい。