「お! あれじゃねえか?」
「ええ。 やっと着いたみたいね。」
ドラゴンとの戦いの後、仲間となった孫悟空とルフェ。 共に旅を始めた二人は、最初の目的地である村『ナラブ村』へと辿り着いていた。
村の近くまで来ると、二人は一度馬を降り、村の入り口まで歩き始めた。
「意外と普通の村だなぁ。」
「こう見えても、数々の勇者が最初に訪れたと言われる村よ。 案外すごいものがあるかも!」
「へぇーっ!うめえ食いもんもあるんかな?」
「あなた、さっき食べたばっかじゃない…」
「ははっ、オラまだ食い足んなくてさぁ…」
「はあ…けどこの村、妙に活気が無いわね…」
ルフェの言う通り、村は何処か活気が無いように見える。
人通りも少なく、おまけにいくつかの店も閉まっている。まるで災害か何かにあったかのようだ。
「なんかあったんかな?」
「魔物にでも襲われたのかしら…」
「…ん? 誰か走ってきたぞ。」
二人が歩きながら話していると、村の入り口から老けた村人が走ってきた。
「お、お二人とも、まさか勇者様ご一行でしょうか!?」
「ええ。と言っても、まだ冒険に出たばかりだけど。」
「…! 良かった、まさか数年ぶりに勇者様が来てくれるとは…」
二人が勇者だと分かると、村人は暗雲が吹き飛んだかのようにホッとした表情を見せた。 どうやら事件か何か起きたらしい。 悟空は村人に何が起きたかを聞いた。
「なあ、この村でなんかあったんか?」
「は、はい…折角来てくださった所、悪いのですが…」
「気にしなくて良いわ、私たちは冒険者。困った事があるなら、何でも言ってちょうだい。 報酬はちょっと頂くけど。」
「あ、ありがとうございます! では勇者様方、立ち話もなんですし、こちらで話を。」
村人は、二人を村の真ん中にある一軒の家に案内した。
二人が室内のソファに腰を下ろすと、村人も向かい側のソファに座り、名乗り始めた。
「話の前に自己紹介を。 私はラナバ。 この村の村長をしています。」
「私はルフェ。 エルフの冒険者よ。」
「オラは孫悟空! よろしくな! おっちゃん!」
「ええ、こちらこそ。」
「にしてもおでれえたな、ラナバのおっちゃんって村長だったんか!」
「ハハハ…自慢ですが、こう見えても二十年くらい村長をやっていますよ。 …では、話をさせていただきます。」
村長のラナバは和やかに笑った後、一転して真剣な眼差しとなり、村で起きている事を話し始めた。
「…今から数週間前、この村にある近くの洞窟で、ゴブリンの集団が住み始めました。」
「ごぶりん? ってなんだ?」
「人間のような知能を持った魔物よ。 さっきの平原でも、緑色の奴を何匹か見かけたでしょ?」
「ん? あぁ、あいつらか!」
ゴブリン。 人に匹敵する知能を持ち、姑息な手段で冒険者を追い詰める魔物である。 ある話では、ゴブリンを軽視した冒険者の一団が壊滅した事があったそうだ。
ラナバは話を続ける。
「そのゴブリンの集団は、かつては比較的穏やかでした。 村にも干渉して来ることは無く、外で遭遇してもすぐに姿を消し、襲っては来なかったのです。」
「魔物なのに優しい奴らだったんだなー。」
「魔物が優しい訳無いでしょ。 どうせ、自分たちより強くて数の多い人間にビビってたのよ。 …それでラナバさん、そのゴブリンが一体どうしたの?」
「ええ。 実は最近、そのゴブリンたちが食べ物を盗んだり、人を攫ったり…遂には、村まで襲ってくるようになったのです。
おかけで村は人手と食糧不足となり、普段の活気も消え、混乱が続いています。」
「そいつら、いってえ急にどうしちまったんだ?」
「それは分かりません。 本性を現しただけかどうかは知りませんが…ですがこうなってしまえば、彼らはもはやただの危険な魔物としか言えません…」
「なるほど、つまりは洞窟まで行って、そのゴブリンを討伐すれば良いってこと?」
「…そうなります。 報酬は弾みますので、お二方、どうかよろしくお願いします。」
ラナバはどこか苦しそうな顔をしながら、悟空とルフェに頭を下げた。
「分かったわ! 私たちに任せときなさい!」
「おう! オラたちがそのゴブリンっちゅう奴ら、こらしめてやっぞ!」
「…ありがとうございます! 孫悟空様、ルフェ様。」
「馬はここに預けるわ。 それじゃあ、行ってくるわね!」
そうして村長からの依頼を受けた悟空とルフェは、ゴブリンが住むと言われる近くの洞窟へ歩いていった。
そんな二人を、村長が見送っていた頃…
「ゴホッゴホッ…なんだ、別の勇者に依頼したのか?」
「おい、また起きたのか? 安静にしてろとあれほど…」
「…おっさん。 今の奴らじゃ、このクエストは少々キツい。 俺にはそんな予感がするぞ。」
「…だが、こうするしか無いだろう。 そもそも、万全じゃ無い今のお前を動かす訳にはいかんからな。」
「…昔っから俺に対して、妙に過保護な奴だよ、アンタは。 何なんだ?」
「…」
「ふふっ、良い?悟空! 初めてのクエスト依頼、気合い入れていくわよーっ!」
「…」
(…ラナバのおっちゃん、なんかありそうな顔してたな… ほんとにゴブリンっちゅう奴らを、ぶっ飛ばして欲しいんかな?)
「…どうしたのよ? 浮かない顔して。」
「え? あぁ、わりい!」
「もう、しっかりしなさいよ? この最初のクエストに、私たちのこれからの冒険者人生がかかってるんだから!」
「そうなんか? よく分かんねえけど、頑張らねえとな!」
「まったく…あ! 見えてきたわよ、洞窟!」
そう言ってルフェが指した方には、森の木に囲まれ、長いツタが生える小さな洞窟があった。
二人は一度その洞窟の前で立ち止まり、暗い洞穴の先を見つめた。
「ここにゴブリンが住んでんのか?」
「らしいわね。 まだゴブリンの姿は見えないけど…」
「…噂をすりゃ、出てきたぞ!」
すると、ゴブリンたちが暗闇の中から現れた。 ざっと見るだけでも、数は10人以上いた。
「ギギギッ…」
「お、思ったより多いわね…」
「なあに、心配すんな! オラがみんな相手してやる!」
「えっ!? また一人で相手するつもり!?」
「おう。 こいつらなら、オラ一人で何とかなりそうだ。」
「あ、あんたなら確かに何とかしそうだけど…」
「ギャハアーッ!」
悟空は余裕の笑みを浮かべながら、ゴブリンに対して構える。 すると、ゴブリンの一人が持っていた棍棒を振り回しながら走ってきた。
「いやぁっ!? 来たわよ!」
「むっ!」
ゴブリンは接近すると、悟空の頭目掛けて棍棒を振り回した。
「ギッ!?」
「だりゃぁっ!」
しかし悟空はその棍棒を片手で受け止め、もう片方の手でガラ空きのゴブリンの腹に一撃を叩き込む。
「ギャオオッ!?」
吹き飛んだゴブリンは、集まっていたゴブリンの集団に当たり、ボウリングのピンのように何人かのゴブリンが吹き飛んだ。
「ギッ…!?」
「どうした! もうおしめえか!」
「ギギギ…ギャアアァッ!」
残りのゴブリンが続けて悟空に攻撃するが、その全てが軽々と捌かれ、カウンターを喰らっていく。
ルフェはその光景を、呆気に取られたような表情で眺めていた。
「こ、これがドラゴンを一人で倒す実力…」
「ギィヤァァァッ!」
そして最後に、他のゴブリンより一段と巨体な一匹が悟空に襲いかかる。 流石にこのゴブリンの攻撃は、受け止めると逆に傷を負いそうだ。
「ハァッ!」
「ギャオァァッ!?」
「ええっ!?」
しかし、悟空が手のひらをゴブリンに向けたかと思うと、ゴブリンは何かの力に吹き飛ばされ、洞窟の壁に打ち付けられた。 そのままゴブリンは気絶し、戦いが終わると悟空はふう、と一息ついた。
「今ので最後みてえだな…ん?」
すると、悟空の目の前にメッセージボードが現れた。
『経験値を1500獲得。 孫悟空のレベルが6にアップしました。』
「いいっ!? 今の奴ぶっ倒しちまったんか!?」
メッセージボードが現れた事で、うっかりゴブリンを殺してしまったのかと思い、悟空は焦り始めた。
そんな悟空を傍に、先程の攻撃を見ていたルフェは開いた口が塞がらなくなっていた。
「えっ…ど、どういうこと? 声だけであのデカいゴブリンを吹き飛ばした…?」
「…今は仕方ねえか。 ルへ! さっさと先行こうぜ!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
気絶したゴブリン達を後にして、二人は洞窟の奥へと進んでいった。
「何だか暗えなあ…」
「私に任せて。 グロウライト!」
ルフェが落ちていた棒を拾ってそう唱えると、棒の先が眩い光を放ち始めた。
ルフェは悟空の後ろで道を照らしながら、共に洞窟を歩いていく。
「おっ、サンキュー! やっぱ魔法って便利だなー。」
「…ね、ねえ…さっきのは何?」
「え? 何の話だ?」
「さっきデカめのゴブリンを吹っ飛ばしたあれよ!何の魔法なのよ?」
「ああ、ありゃあ気合いで吹っ飛ばしたんだ。」
「気合いで…!? ドラゴンの時の変な魔法弾と言い、あんた一体どんな力使ってんのよ…?」
「へへっ、『気』って奴だ。」
「キ…? き、木の力…?」
「身体ん中にはそういう力が眠ってんだ。その力を外に放って、ああいった事が出来るようになるっちゅう訳だ。」
悟空が軽く『キ』について説明するが、ルフェはまったくピンと来ていないようだった。
「そ、そんなの、この50年生きてきて全く聞いた事が無いわよ…」
「…おめえ、意外と年取ってんだなぁ…」
「失礼ねっ! エルフの中じゃまだまだ若い方よ!」
「そ、そういうもんなんか…んっ?」
薄暗い洞窟の中で話をしていると、悟空が突然足を止めた。
「悟空?」
「気いつけろ、またゴブリンが来っぞ!」
「え? まだ何も見えないけど…」
すると悟空の言う通り、ゴブリンたちが影の中から姿を現した。 先程とは数を減らし、3人程度であった。
「ギヒヒッ…」
「ほ、ほんとに来た!? よく見えたわね…それもキの力って奴?」
「ま、そんなとこだ。 」
「ギヒャァッ!」
「おりゃぁっ!」
ゴブリン達が二人に襲いかかるが、悟空は先程と同じように難なく撃破。
「ギギ…ギ…」
「ふう…この調子じゃ、まだいっぺえいそうだな。」
「…妙ね…」
しかしその中で、ルフェは襲ってくるゴブリンに対して違和感を抱き始めていた。
「ん? ルへ、どうしたんだ?」
「…私の知ってる限りでは、ゴブリンはもう少し理性がある奴らのはずよ…けど今までの奴らは、無鉄砲に襲いかかるだけで、おまけに変な鳴き声ばかり…まるで理性のない獣よ。」
「え? ゴブリンってそう言うもんじゃねえのか?」
「ええ。 ほんとはもうちょっとカタコトな言葉を喋ったり、罠の一つくらい仕掛けてくるはず…とにかく、何かがおかしいわ。」
「ふーん…なんかに操られてるんかな?」
「魔物を操る何か…そんなの、ネクロマンサーかその辺しか聞いたことがないけど…」
「…!?」
ルフェが自分の感じた違和感の正体を探っていると、悟空は突然驚いたような表情を見せた。
「どうしたのよ? またゴブリンが来るの?」
ルフェはゴブリンが来るであろう前の暗闇を警戒し、手をかざして魔法を唱える準備をする。
「今度は私にもやらせてよね、私もそろそろ経験値が欲しいんだから。 ファイア…」
「ルフェ! 前じゃねえっ! 後ろだっ!」
「えっ?」
「ギャヒヒッ!」
するとルフェの背後から、一匹のゴブリンが棍棒を振り回して襲いかかってきた。
「きゃっ…!?」
「でりゃぁっ!」
「ギャオッ!?」
しかし間一髪で、悟空の援護が間に合った。
ゴブリンは悟空の回し蹴りを受け、奥まで吹き飛ばされた。
「あ、ありがとう…」
「…いってえ、どうなってやがんだ…」
すると、先程のゴブリンに続くように、ぞろぞろとゴブリンが現れた。 そのゴブリン達は、先程悟空が倒したはずのゴブリン達だった。
「こ、こいつらって…さっき悟空が倒したはずのゴブリンじゃ…?」
「確かにそのはずなんだけどよ…むっ?」
再び現れたゴブリン達を睨んでいると、悟空はある事に気付いた。 ゴブリンたちの耳から、木の根っこのようなものがうごめいている事を。
「ひっ…!?」
「ギヒ、ギヒヒヒヒッ…」
「な、何だあ? 気味わりいな…」
「何あれ…!? まさか、本当に何かに操られてるって事?」
ゴブリンたちは悟空によって、一度気絶した。 しかしゴブリンたちは、操っている"何か"によって無理やり動かされ、再び悟空に牙を向いたのだ。
「そんなら、もっかいぶっ飛ばすしかねえっ! ハァッ!」
復活したゴブリンの集団目掛けて、悟空は気弾を放った。 この気弾の爆発に巻き込まれた、ゴブリン達は一網打尽となったはずだ。
「ギャオオオオオオオッ!!」
「や、やった…!」
「…いや、まだだ!」
しかし悟空の言う通り、攻撃を受けて倒れたゴブリン達は、ゾンビのように身体を起こして立ち上がった。
「ギヒヒ…ギヒッ…」
「こいつら…アンデッドにでもなってるの…!?」
「こりゃ埒があかねえな…ルへ! こっちだ!」
「えっ!? ちょっ!」
このままでは一生倒せないと悟った悟空はルフェの腕を掴み、洞窟の奥へ走り始めた。
「ちょっと! どうするのよあいつら!?」
「あの様子じゃ、何度ぶっ倒しても復活する。 そんならさっさと奥にいる親玉ぶっ飛ばして、あいつらを止めるしかねえっ!」
「親玉…? この先にいるの!?」
「ああ、ゴブリンたちとは違う強え気を感じる!」
「キ!? キって感じるものなの!?」
「ギヒャァァッ!」
「おめえら、邪魔だぁっ!」
悟空は道中にいるゴブリンを蹴散らしながら、猛スピードで奥まで進んでいく。 圧倒的な力を持つ悟空を止められるゴブリンは、幸いこの洞窟にはいなかった。
そうして進んでいくと、ついに悟空たちは、洞窟の最深部と思われる広い空間に辿り着いた。
「や、やっと着いたみたいね…」
「ああ、ここに親玉がいる。」
「…でも、何もいないわよ? 一体どこに…」
「ギヒヒ…よくここまで来ましたね。」
「っ!?」
「下だ、ルヘ!」
すると突然、目の前の地面が盛り上がり、謎の植物の化け物が現れた。 テッペンの大きい花には、魔物らしく恐ろしい顔が付いている。
「ぎゃぁぁっ!? 何よコイツ!?」
「まさか、私が操ったゴブリン共を軽々と突破してくるとは…何者です?」
「オラは孫悟空! ゴブリンたちを操って村を襲ってたんは、おめえだな!」
「その通り、私はエビルフラワー。我が主人の命により、この洞窟のゴブリン共を支配させてもらいました。」
「し、支配って…アンタみたいな植物がどうやって!?」
「簡単な話です。 ゴブリンの頭に、私の種を植え付けたのですよ。」
「…!」
ゴブリンたちをおかしくした張本人は、エビルフラワーと名乗る緑色の植物の魔物だった。 未知の魔物の出現に、ルフェは身体を震え上がらせる。
「言っておきますが、逃げようとしても無駄ですよ。 既にこの洞窟には、私の根が張り巡らされていますから。」
「そ、そんな…」
「…オラたちは、誘い込まれたっちゅう訳か。」
しかし悟空は怯える様子も見せず、ただ目の前の魔物を睨むのみだった。 その目には、この魔物を絶対に許さないという意思が込められていた。
「なあ、聞いてもいいか?おめえの主人ってのは、魔王って奴か?」
「それはあなたに答える義理はありません。」
「し、しらばっくれてんじゃ無いわよ! どうせ魔王軍の幹部か何かでしょ!?」
「…じゃあ、攫われた村人たちは無事なんか?」
「どうでしょうねえ。 私は何もしていませんが、下賎なゴブリン共がどうするか。」
「…」
ニヤニヤと悪魔のような笑みを浮かべながら、淡々と返答するエビルフラワー。 すると悟空は、エビルフラワーの前まで歩くと、最後の質問をした。
「それじゃあ、おめえを倒せばみんな助かんのか?」
「…ギヒヒヒヒ!出来るものならねぇ!」
「…ヘッ。」
「んん?」
新米勇者如きが勝てるはずがないと鷹を括り、悟空を嘲笑うエビルフラワー。 そのエビルフラワーに対して、悟空もニヤリと笑みを浮かべた。
「良かったぜ…そんな簡単な方法で。」
「…ほざけぇっ!!」
悟空の一言にエビルフラワーは憤り、新たな戦いが始まった。
はたして悟空とルフェは、現れた緑色の魔物に、勝つ事が出来るのか…!?
ゴブリン編前編です。
今回、ゴブリンのお話という事で書く際にゴブリンスレイヤーをちょっと見てみたんですが、思った以上に面白くてまずい。 この話に影響出過ぎてないよね…?
ちなみに悟空の現在のレベルは7、ルフェのレベルは5、エビルフラワーのレベルが10相当です。
レベル差によるステータス差は、DB戦士固有の気の力によってバフをかけて埋めてるって感じです。