とある狂人の聖杯戦争   作:フォークス

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第一話『召喚』

 呼吸をする。吸い込んだ息が全身に行き渡るイメージを浮かべる。指の先まで届いたら吐き出す。

 そのルーチンを数回繰り返した後、私は瞼を開いた。

 

「……ふむ、召喚は成功のようじゃな」

 

 声がした。振り向けば、そこには老人がいた。

 何者だろうか? 疑問を抱くと共に、情報が下りて来た。

 

 聖杯戦争 サーヴァント 英霊 クラス セイバー ランサー アーチャー ライダー アサシン キャスター バーサーカー イレギュラークラス スキル 狂化 医術 洗脳 破壊工作 人体改造 執着 ステータス 筋力 敏捷 魔力 幸運 耐久 宝具 該当なし

 2004年 日本 日本語 冬木市 人 風説 文化 鎧 寺 御三家 新都 深山町 川 電灯 電気 科学技術 自動車 自転車 列車 電線 線路 道路 交通 法律 警察組織 刑務所 極道組織 七人 マスター 

 召喚 依り代 令呪 三つの命令権 根源 魔術回路 魔法 魔術刻印 医者 医学 聖杯による知識伝授

 

 聖杯による情報のインプットが行われたようだ。だが、肝心の情報が入ってこない。

 この場には私を含めて、三人(・・)の人間がいる。私を挟む形で後ろに老人、そして、前に少女がいる。

 どちらかがマスターなのだろうが、二人の情報はない。たしか、この国では画竜点睛を欠く言ったか? まさしく、そういう感じだ。

 あまり得意ではないが、先生の教えに従いながらラインを辿ってみる。すると、目の前の少女との間に繋がりが見えた。

 

「君が私のマスターかい?」

「……はい」

 

 元気がない。目も淀み切っている。こういう子は殺しておいた方がいい。けれど、その判断は私には出来ない。

 先生に聞かなければいけない。

 

「とりあえず、挨拶をしておこう。私はアルベルト・ルークス。クラスはバーサーカー。戦術としては、暗殺を得意としている」

「……アルベルト?」

「聞かぬ名じゃな」

「そうだろうね」

 

 生前、私の名前を知る者は片手で数えられる程度しかいなかった。先生のように記号となる呼び名などもなかった。

 

「君の名前は?」

「……桜です」

「サクラ。よろしくね」

「はい……」

 

 それにしても、随分と奇妙な場所で奇妙な人に召喚されたものだ。

 壁や足元に陰茎を模した蟲が這いずり回っている。視た(・・)ところ、その蟲はマスターの体内にも大量に入り込んでいる。

 背後の老人に至っては、蟲の集合体を人型に成形しているという有様だ。

 あまり、良い趣味とは思えない。けれど、否定もしない。陰茎を尊ぶ風習は世界中にある。生命の象徴として、神様のように崇めている地域もある。

 この二人も陰茎をこよなく愛する者達なのだろう。

 

「さて、私は何をすればいいのかな? 聖杯戦争ならば、まずは索敵かい? 諜報はそこそこ得意だよ」

「その前に会わせたい者がおる」

「かしこまりました」

 

 誰に会うのでもいいが、そこには陰茎が少ない事を望む。

 そう思って、部屋の外に出ると、そこはとても広い空間だった。そして、床が波打っていた。何かと思えば、無数の陰茎が蠢いていた。

 そこかしこに人間の物であろう部位が浮かんでいる。どうやら、人間の肉を餌にしているようだ。

 やはり、この二人は殺しておいた方が良い気がする。けれど、その判断は私には出来ない。

 先生に聞かなければいけない。

 

「こっちじゃよ」

 

 老人に導かれて、蟲の海を横切る。足元が陰茎だらけだ。何匹か、服の中から登って来てしまっている。私の体内に侵入して来た。そういう趣味は無いのだが、快楽のようなものを感じる。

 どうやら、表面の粘液にそうした成分が混ざっているようだ。

 除去しようと思えば出来る。だが、これがマスターの意図によるものならば受け入れるべきなのだろう。

 小さく溜息を零すと、足元に人間の頭部があった。まだ、微かに息がある。私ならば命を救う事が出来る。けれど、その判断は私には出来ない。

 先生に聞かなければいけない。

 

「こっちじゃよ」

 

 階段を上った。すると、驚くほど普通の部屋に出た。床は蟲の海ではなく、質の良い絨毯が敷かれている。壁にも天井にも蟲がいない。陰茎を模した置物もない。

 

「おい、ソイツが僕のサーヴァントか?」

 

 陰茎の蟲の代わりに少年が居た。

 少女や老人と比べて、体内の蟲の数が少ない。視た所、魔術回路すらもない様子だ。

 この場にこのような人畜無害な少年が居る事に強い違和感を感じる。

 

「そうじゃ、慎二。バーサーカーよ、お主はこれより慎二に仕えるのじゃ」

「かしこまりました」

 

 老人やサクラとは違って、瞳の中の淀みも少ない。

 

「私はアルベルト・ルークス。クラスはバーサーカー。戦術としては、暗殺を得意としています。よろしくお願い致します」

 

 シンジと呼ばれた少年の前に跪くと、少年は嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

「ッハ! 弁えてるじゃないか! これからは僕がお前の主人だ。いいか? 僕の言う事に逆らうんじゃないぞ。絶対服従を誓うんだ」

「かしこまりました」

 

 まるで、初めておもちゃを買ってもらった子供のようで微笑ましい。

 

「それにしても、バーサーカーって言ったか? その割には……」

 

 狂っているようには見えない。シンジはそう呟いた。

 

「恐れ入りますが、私は狂っています」

 

 狂っていない筈がない。正常な者ならば、生前にあれほどの血を流したりはしない。あれほどの罪を犯したりはしない。

 

「そ、そうなのか? まあ、いい。アルベルトだったな。まるで、男みたいな名前だな」

 

 シンジはおかしそうに笑った。何がおかしかったのか、分かったのは一時間後の事だった。

 

「お前、男だったのか!?」

 

 最初の命令が夜伽だった。その過程で彼は絶叫した。どうやら、私を女だと思っていたらしい。

 私は思わず笑ってしまった。

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