ユメ先輩(銃の魔人) 作:虎3
石畳で舗装された大通りは、ここトリニティではありふれたものだ。
両脇には、レンガ造りの建物が肩を並べている。
平時であれば通り沿いの喫茶店や雑貨屋は、生徒たちの声で賑わっていたことだろう。
それが今や、見る影もない。
あちこちに瓦礫が散乱し、建物の外壁は蜂の巣状の無数の穴や、内部まで抉り取られた破壊痕でボロボロになっている。
まるで、街そのものが撃ち殺されたような有様だった。
そんな閑散とした大通りで、羽川ハスミは銀鏡イオリと共に、銃の魔人と対峙していた。
「さあ、楽しもっか!」
銃の魔人は、子供のように声を弾ませている。
目元はマスクで覆われて見えないが、きっと爛々と輝いているのだろう。
ハスミが睨みつける銃の魔人の後ろには、ここに駆けつける前にやられた正義実現委員達が倒れ伏している。
──まずは奴を、みんなから引き剥がさなくては。
ハスミが駆けつけた時、委員の一人が首を絞め上げられていた。
あと少し遅れていたら、本当に殺されていたかもしれない。
目の前の敵を、普段相手にしている不良生徒と同じと考えてはいけない。既に戦闘不能になった生徒に、手を出す可能性もある。
──拘束、あるいは誘い込んで……
と、思考を巡らすハスミの視線の先で、ふいに銃の魔人が小さく屈んだ。
「──っ!回避っ!!」
イオリの叫び声で、ハスミは咄嗟に横に転がった。
唸るような風切り音が耳元を通り過ぎ、遠く後方でドンッと炸裂する。
慌てて振り返ると、地面に突き刺さった銃の魔人の右足が、周囲の石畳を吹き飛ばしていた。
衝撃で、その脚が不自然に折れ曲がっているのが見える。
ハスミは飛び出そうとしたイオリの肩を掴み、隣に並んで銃の魔人を追いかけた。
「ここは協力しましょう。『高速移動』、『吸血』、『再生』、『銃撃』、他にそちらで把握しているものはありますか?」
「私がアコちゃんから聞いてるのも、それだけだ」
そう答えたイオリは、気遣わしげな視線をハスミに向ける。
「でも、いいのか?そっちの副委員長は、ゲヘナ嫌いって聞いたけど」
「有事にそんなことは、言ってられません。それに、そちらのチナツさんにはお世話になりましたから」
「あぁ、先生が来た時の!チナツも助かったって言ってたよ」
銃の魔人は懐から手のひらサイズの水筒を取り出して、ぐっと傾けた。
それから小さく喉を鳴らすと、折れていた右脚はベキベキと音を立てて再生していく。
「き、気持ち悪っ!」
「あれが再生能力……何かを飲むのがトリガーだとすると、情報から推測するに血液かもしれません」
「厄介だな……」
イオリは苦虫を噛み潰したように、眉を顰めた。
「イオリさん、先程の突進はなぜ分かったのですか?」
「え?いや、なんとなくゾワッときて」
なるほど、直感で戦うタイプだ。
持ち前の頭の回転とセンスで勘所を捉え、思考の過程を省いて即座に最適解を叩き出す。
その分、搦手には弱い傾向があるが、そこは自分がフォローすればいいだろう。
幸い、そのタイプとの共闘は慣れている。
何せその極致が、正義実現委員会が誇る剣先ツルギなのだから。
──ツルギは……いえ、心配する必要はありませんね。
先程までハスミは、ツルギと二人で敵の大軍を相手にしていた。
ガスマスクの生徒達と、突如戦場に湧いたシスター服の集団。
あえて他の委員を近付かせないように取り囲み、その数は異常だった。
特にシスター服は、倒しても倒しても数が減らない。
撃つと霧のように消え、また後から音もなく現れる。
またガスマスクの生徒が使う銃も特殊なものなのか、見た目よりずっと高威力で厄介だった。
倒されはしないが、押し切れもしない。
そんなもどかしい膠着状態に、別の委員から通信が入った。
曰く、『銃の魔人』と呼ばれる敵に、委員会のみんなが蹂躙されている。
ツルギの判断は、迅速だった。
『ハスミ、あなたが行け。そいつを他の委員にも、先生のところにも、行かせるなぁっ……いひっ、ひひひひひひ……あぁぉ!!死ねぇ!!』
そうしてツルギが切り開いた突破口に飛び込んで、ハスミはこうして銃の魔人と相対している。
つまりツルギは、敵の大軍を一人で相手している。
だが、不安はない。
周りを気にせず暴れられる環境は、むしろツルギの得意分野だ。
伊達に『トリニティの戦略兵器』とは呼ばれていない。
──私は、私の役割を果たしましょう。
「イオリさん、私達の任務は奴をここに留め、どこにも行かせないことです」
「うん、アコちゃんにも同じことを言われてる」
「警戒すべきは『高速移動』ですね。大きい溜めで、他の場所に飛ばれる危険性があります」
「溜め?」
「突進の直前、屈む動作をしていました。おそらく溜めが大きい程、距離が長く、そして速くなるはずです」
「なるほど。要するにその隙を与えないほど、攻め続ければいいんだな!」
イオリは我が意を得たりと言わんばかりに、好戦的な笑みを浮かべた。
「えぇ、イオリさんは好きに動いてください。私がサポートします」
ハスミは小さく息を吐いて、銃口を敵に向かって構え直す。
幸い銃の魔人の方から、負傷した委員達の側を離れてくれた。
直に救護騎士団が彼女達を回収し、治療するだろう。
視線の先の銃の魔人は治し終えた脚をプラプラとほぐすように揺らし、こちらの動きを待ち構えているようだった。
互いに引き金に指をかけ、火蓋を切る寸前の静寂。
ピンと張り詰めた空気が、両者の間に満ちる。
「さあ、行くぞ!!」
そんな沈黙を踏み砕き、イオリは銃の魔人に向かって駆け出した。
※※※※※※
──う〜ん、やっぱり、そっかぁ。
イオリとハスミとの戦いの最中、銃の魔人はある確信を得る。
二年間、アリウス自治区の生徒と演習を重ねる中で、何となく感じていたことだ。
──梔子ユメ。おまえ、そんなに強い生徒じゃなかったでしょ。
イオリの銃撃を肩に受けながら、銃の魔人は少し眉を顰めた。
契約によりユメの肉体を掌握し、神秘を手にしたあの日以降、銃の魔人はアリウスの訓練に入り浸った。
その時感じたのは、この肉体の脆弱さだ。
宿す『神秘』の総量だとか、そもそもの身体機能だとか、覆しようがない器としての強度のようなもの。
アリウススクワッドどころか、そこらの一兵卒と比較しても、この身体より優れている生徒がちらほらいた。
だけどそれは、復讐に牙を研ぐアリウスならでは、という考えもあった。
他学園の生徒について、今日まで知ることはできなかったから。
しかし、こうして相対してよく分かる。
やはり、いたのだ。
戦いのためによく整備された、素晴らしい銃のような生徒達が。
肉体は研ぎ澄まされ、銃撃は鋭くこちらを貫かんばかりだ。
その根幹となる『神秘』も、全身に満ち満ちている。
──あの日砂漠で死んでたのが、イオリちゃんかハスミちゃんだったらなぁ。
銃の魔人は、もう数段強くなれただろう。
もちろん、『神秘』の使用には難儀したかもしれないけれど。
そんな夢物語を想像するほど、目の前の二人は素晴らしい。
迫り来るイオリに、右の人差し指を向ける。
「ぱんっ」
イオリは沈み込むように身を屈め、その銃撃を掻い潜る。
その低い姿勢のまま一歩、二歩と地面を蹴って加速。
瞬きの間に、銃の魔人の視界から消えた。
──はやいっ!
単なる速度の話じゃない。
動作の起こりや次への繋ぎ、そういった行動一つ一つの判断が早い。
スナイパーライフルを担ぐイオリは、しかしその実、機動力を活かした突撃兵のような戦闘を仕掛けてくる。
素早いステップで相手を撹乱し、目まぐるしく立ち位置を変えていく。
そんな激しい動きの中でも、狙いは常に最適解だ。
その動きには、無駄な思考を介すコンマ数秒の遅れもない。
きっと、勘がいいのだろう。
直感のままに戦場を舞う姿は本能的で、獲物を狩る肉食獣のような美しさがあった。
──獣には、罠を仕掛けてあげないとね。
視界から外れたとしても、銃の魔人は気配で相手を察知している。
真後ろに回り込んだイオリが、銃を構えているのが分かる。
もちろん、ここにはトラバサミも落とし穴もない。
だから銃の魔人は、背後から迫り来る銃弾をそのまま受け入れることにした。
両の膝裏に、計二発。
衝撃で、ガクンと膝が抜ける。
続け様に、後頭部に一発。
銃の魔人は前のめりに倒れ込み、地面が目の前に迫り来る。
「あぁ……素晴らしいね」
無駄のない三連撃に、銃の魔人は感嘆の声を漏らす。
二発のジャブで体勢を崩し、続く一発で急所を撃ち抜く。
イオリの銃撃はまるで、リーチの長いボクサーのようだった。
倒れ行く銃の魔人は、大きな隙を晒している。
それを見たイオリはチャンスを逃すまいと、後ろから飛び掛かった。
「くらえっ!」
「あはっ、来ると思った!──ダダダダダッ!」
銃の魔人はうつ伏せで倒れる姿勢のまま、地面に向かって乱射し、その反動で宙に跳ね上がる。
イオリは銃床を押し出し、腰の入った殴打を繰り出していた。
当たると確信した横薙ぎが、空を切る。
銃の魔人はイオリの頭を飛び越えて、その背後に着地した。
イオリの鋭敏な直感は、きっと決定打を逃さない。
だから敢えて隙を作り、誘いを掛けた。
目の前には、イオリの無防備な背中がある。
銃の魔人は指先を向けて、そして──
「撃ち抜くっ!」
その手が、ハスミの狙撃によって払われた。
続けて数発、銃の魔人とイオリの間に差し込まれるように撃ち込まれる。
その間に、イオリはくるりとこちらに向き直り、バックステップで距離を取った。
──さっきから、上手いなぁ。
もしイオリと一対一だったなら、きっともう、決着は付いていた。
その要所要所を、ハスミの狙撃が弾き飛ばす。
ハスミはイオリとは対照的に、純粋なスナイパーとして特化していた。
中長距離の間合いを保ち、常に的確な位置どりでこちらに銃口を向ける。
何より、その狙いとタイミングが絶妙だ。
今のような場面や、イオリが装填をする隙を埋めるように、的確な狙撃が飛んでくる。
銃の魔人はこの広い戦場で、枷を嵌められ、檻に囲まれているようだった。
優れたスナイパーは状況に合わせて、戦場に銃弾の線を引く。
戦場を区切り、相手の動きを制限する。
「あぁ、本当にすごいっ!うん、期待以上だよ!」
個々の能力、それが噛み合った素晴らしい連携。
銃の魔人は嬉しくなって、惜しみない賞賛を送る。
怪訝そうに眉を顰める二人に、銃の魔人は満面の笑みで応えた。
──オレはどうやら、強い人間が好きらしい。
悪魔であった時には、思いもしなかった。
人間は戦う相手ではなく、ただ蹂躙するものだったから。
それが地獄で自我に目覚め、その後こうして魔人として、ある程度人間と同じ規格で戦うことになった。
そうして初めて獲得した、生まれたての嗜好のようなもの。
銃が卓越した技術の上で、その素晴らしい性能が十全に発揮されるのは、見ていてとても楽しい。
それを扱う人間そのものも、研鑽を重ね、戦いのために心身を磨き、その様はよく整備された銃のようで美しかった。
そして、そんな人間こそ倒し甲斐がある。
勝利の美酒として啜る血も、素晴らしい味がするはずだ。
だからこそ目の前の二人に敬意を表し、叩き潰そう。
銃の魔人には二つ、今日の戦いに向けて用意した『とっておき』がある。
その内の一つを、ここで使うことにした。
何度か手をぐっぱと開閉し、指先に意識を集中させる。
目に見えない力の奔流──『神秘』がそこに渦巻くのを感じた。
『神秘』は身体を頑丈にし、銃撃の威力を高める。
しかしキヴォトスの上澄みには、もう一段階先があった。
『神秘』が、ある種の属性を帯びるようになるのだ。
銃撃が、榴弾のように炸裂するもの。
また徹甲弾のような貫通力で、敵を撃ち抜くもの。
通常の弾丸が射手の『神秘』によって、その在り方を変容させる。
銃の魔人の知るところだと、例えばアリウススクワッド。
そして、目の前のイオリとハスミもまた、同じ領域にいる。
──みんな、無意識なんだろうな。
きっとキヴォトスにおいて、『神秘』は生まれた時からそこにあるもの。
当たり前すぎて、誰も認識することができない。
アリウス自治区でも、『神秘』を使い熟すような訓練はなかった。
もし自由に属性を切り替えられるのであれば、戦いの技術として組み込まれているはずだ。
おそらく先天的に、『神秘』の量や属性の有無は決まっている。
実力者とそれ以外を分つ壁は、無慈悲な程に高く、分厚い。
しかしこの世界の例外たる銃の魔人は、その壁を悠々と踏み越える。
銃の魔人は『神秘』の存在しない世界から来て、後天的にそれを得た。
だからこそ、その馴染みのない異物を知覚し、外付けのアタッチメントのように弄ることができる。
両手に渦巻く『神秘』を練り上げて、それぞれに意味を与えていく。
右手の『神秘』は、鋭く研ぎ澄ますように。
左手の『神秘』は、熱く弾けるように。
銃の魔人が使用できる属性は、二つ。
それらはゴルコンダによりテクストとして見出され、『貫通』と『爆発』という名前でラベル付けされた。
『この『神秘』に内包されたテクストは、戦いに身を投じる貴下だからこそ見出せたものです。であれば、あの爆弾も……さらなる研究への階をくださり、感謝いたします』
彼が協力的で、本当に助かった。
最初は感覚で扱おうと四苦八苦したが、名前が付いただけで驚くほど制御しやすい。
銃の魔人はイオリとハスミが纏う『神秘』を、つぶさに観察する。
二年間の演習で、攻防における属性の相性があることも把握している。
「ぱんっ!」
『貫通』を宿した右手で、小手調べに発砲する。
思ったとおり、二人ともこっちのがよく効きそうだ。
銃の魔人は『爆発』を帯びた左手を差し出し、斜め下を指差した。
そのまま、その場で踊るように、くるりと回りながら乱射する。
指先が円弧を描き、その軌跡をなぞるように石畳が吹き飛んだ。
砕けた石片やモルタルが、粉塵となって噴き上がる。
「なっ!?」
ハスミは咄嗟に顔を庇うが、反射的に目を瞬かせてしまう。
その間に灰白色の土煙が辺りを覆い、互いの姿を見えなくした。
「奴は、どこに──」
「ハスミ!上だっ!」
焦燥が滲むハスミに、イオリが警鐘を鳴らす。
銃の魔人は地面を蹴って、煙を突き破るように飛び上がっていた。
眼下には未だ土煙が滞留し、二人の姿は見えない。
だが、気配を辿るまでもない。
覆われている範囲を、丸ごと飲み込んでしまえばいい。
両手の属性を『貫通』に切り替えて、真下に二つ、ピースサインの指先を向ける。
「ダダダダダダダダダダダッッ!!」
ドーム状に吹き溜まった靄を、上からすり潰すような弾幕が張られる。
局所的に降り注ぐそれは、ゲリラ豪雨のようだった。
時間にして、約10秒間。
飽和攻撃が絶え間なく続く。
ようやく銃の魔人が着地した時には、攻撃範囲の石畳は穴だらけのスポンジのようになっていた。
銃の魔人は力の解放感に浸りながら、肩を僅かに上下する。
消耗した『神秘』は、どこかでまた補充しなくてはいけない。
巻き上がった土煙が晴れると、そこに傷だらけのハスミが蹲っていた。
制服は襤褸になり、覗く柔肌には痣と鮮血が目立つ。
大きな翼は特に損傷が酷く、毟られたように疎らで、その黒い羽が足元に散らばっていた。
乱れた黒髪から覗く赤い瞳には、しかし未だ闘志が燃えている。
銃の魔人は舌なめずりをして近づき、ふと足を止める。
──待って、イオリちゃんは?
瞬時に気配を辿る──後ろだ。
繰り出される銃身の刺突を、半身ですれ違うように躱した。
「もう、銃はもっと丁寧に扱ってよ」
イオリの褐色の肌には所々血が滲んでいるが、ハスミに比べたら幾分ましだった。
ツインテールの片方は解け、その銀髪を振り乱しながら迫ってくる。
──そっか、ハスミちゃんが庇ったんだ。
その大きな翼で覆い被さり、雛を守る親鳥のように。
イオリの機動力が、この銃弾の雨が止んだ後の要になると信じて。
『神秘』を練り上げるのに夢中になり、索敵が疎かになっていた。
扱いには、まだまだ課題が残る。
「おまえにはっ!こっちの方がっ!効きそうだからなっ!」
続け様に殴打、足払い、銃床による追撃。
それらを捌きつつも、受けた手足には確かな痛みが残る。
──うん、やっぱり勘がいい。
銃を司る存在に、銃でダメージを与えることはできない。
だけどもちろん、それ以外の攻撃であれば通る。
銃の魔人が発砲しようと振り上げるより早く、その左手が掴まれた。
イオリはそこを支点に飛び上がり、こちらの側頭部にハイキックを飛ばしてくる。
反射的に右腕を盾に差し込み、頭部を庇う。
しかしそれは、後方からの狙撃によって弾かれた。
──ハスミちゃん、まだ動けるんだ!
無防備な頭が晒される。
銃の魔人は仕方なく、その蹴りを大口を開けて受け止めた。
口の端が、ブチリと音を立てて裂ける。
だけど普段から生徒に歯を突き立てている分、顎の強さには自信があった。
そのままイオリの足に滲んだ血をペロリと舐めて、回復にまわす。
「ひゃんっ!?くそっ、どいつもこいつもっ!」
空中で攻撃を受け止められ、イオリの体勢が大きく崩れた。
銃の魔人は、その腹に右足を押し当てる。
『高速移動』に必要な要素は二つ。
距離に応じた溜めと、移動の始点となる足場。
足場として蹴るのは、地面でも人体でも何でもいい。
イオリの腹を、つま先で弾くように蹴り込んだ。
──これは、今のイオリちゃんには耐えられないでしょ?
パァンッと空気が弾け、イオリの身体がピンボールのように吹き飛ぶ。
そのまま直線上の家屋をぶち破り、遠くで瓦礫が崩れた音が聞こえた。
銃の魔人はその反対、ハスミがいる方向にその身を撃ち出している。
腕を顔の前でクロスし、激突。
しかし想像よりも、ハスミの力が健在だ。
ハスミは銃の魔人を受け止めたまま、両足で石畳をガリガリと削り、数メートル大きく後退した。
「すごいね、まるで重戦車だ!」
笑いかける銃の魔人の両腕が、握り潰される程に強く掴まれる。
ハスミはそのまま全体重をかけて、上から地面に押し付けるように力を込めた。
「それで、ここからどうするの?睨めっこでもする?」
銃の魔人はハスミと顔を合わせたまま、おどけて見せる。
ここに味方はもう居らず、決定打もない。
この掴み合いは時間稼ぎにはなるが、そうなると先に倒れるのはハスミの方だ。
「ふふっ、ねぇ、もう限界でしょ?」
ハスミはこちらを見下ろしながら、訥々と言葉を紡ぐ。
「……私たちは、学園の治安維持組織です」
「うん?」
「他にもっと、楽しい部活はいくらでもあります。それでも自らの正義のために、奔走する道を選びました。誰に強制されたわけでもない、自らの意思で」
──朦朧としてる?
ハスミの言葉は誰に向けられたものでもなく、自らの歩みを確かめる独白のように聞こえた。
「さっきから、何を……」
「私たちは、そういう生徒の集まりです。つまり──」
瞬間、背筋にゾクリと冷たいものが走る。
振り向かなくても、気配で分かる。
何かが風を切って、すごい勢いでこちらに駆けてくる。
──まさか、あのダメージで、どうやって……
銃の魔人の背後に、既に処理したはずのイオリが迫り来る。
イオリは銃身を握り、グリップ側をバットのように立てて大きく振りかぶった。
身体はハスミに抑え込まれたまま、動けない。
地面を蹴っても、この拘束は破れないだろう。
「ゲヘナ風紀委員会を、舐めるなぁぁっ!!」
「組織は違いますが、そういうことです」
銃の魔人の脇腹に、イオリのフルスイングが突き刺さった。