ユメ先輩(銃の魔人)   作:虎3

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お遊戯会

 

銃の魔人がこの世界で最初に見たのは、透き通るような青空だった。

歩き続けて数時間、太陽は西に傾き、その空を茜色に染め上げていく。

 

銃の魔人がこの世界で最初に聞いたのは、弱々しい誰かの声だった。

きっと、自分に向けられたものではない。

それは死ぬ間際に復讐を願うような、聞き慣れた怨嗟の声ではなかったから。

 

──きっと、オレをこの世界に呼び出した誰かがいるはずだ。

 

そして、そいつはきっと撃ち殺して欲しい何かを願っている。

自分を呼び出すとは、いつも、そういうものなのだから。

 

それに、銃の恐怖を高める方法も考えなければいけない。

そのために、やはり情報が必要だ。

 

銃の魔人は、ただひたすら人間の気配がする方に進み続ける。

 

途中で、鳥や獣の血肉を食らうことも忘れない。

今自分が器にしているこの死体は、遭難者だ。

もちろん、持ち物に水や食料はなかった。

 

今手元にあるのは、左脇のホルスターに入れたハンドガンと、用途不明の現金だけだ。

防弾盾は重くて邪魔なのと、銃撃が弾かれて腹が立ったから捨ててきた。

 

こんなにゆっくりと歩くのは、何だか違和感がある。

地獄で生まれ変わる前の記憶は朧げだが、何となく覚えていることもある。

いつも照準を定められ、銃弾を撒き散らしながら飛ぶようにこの身を放っていた。

銃の魔人にとって、人間の世界との関わり方はいつもそれだった。

 

一歩一歩踏み出すごとに足の裏で砂の感触を味わう感覚は新鮮で、銃の魔人はこの歩みが嫌いではなかった。

 

そうしていると、徐々に人間の気配が近くなる。

最初に感知した人間達は、また別のグループと合流したようだった。

 

その人間達の、声がする。

それは、怒鳴り声や罵声のように聞こえた。

 

──やっぱり、戦争かな?

 

敵同士の部隊がかち合い、火蓋が切られる間際なのだろうか。

胸の高鳴りが抑えられない。

 

瞬間、パンッと発砲音が響いた。

 

──オレも、オレも混ぜてほしい!

 

衝動のままに、銃の魔人は駆け出した。

 

 

 

※※※※※※

 

 

 

「いってぇな!やりやがったなてめぇ!!」

 

「はあっ!?そっちが先に難癖つけてきやがったんだろうが!」

 

駆けつけた先では、乱闘が行われていた。

 

そこは廃墟となった大きな倉庫だった。

天井は所々剥げ落ちて、窓もヒビが目立っている。

外から入り込んだ砂が床に積もり、砂漠と地続きになっているようだった。

 

その開け放たれた出入り口から、中を覗き込む。

倉庫の中では6人ほどの人間が、銃声を響かせながら口汚く罵り合っていた。

全員年若い少女のように見える。

 

銃の魔人は、この世界で初めての銃撃戦を目にする。

そして──ひどく落胆した。

 

「まるで、子供のごっこ遊びだ、こんなの・・・」

 

銃の魔人は、額に手を当て、かぶりを振った。

 

銃を撃つ理由は、なんでもいい。

それが金でも国でも宗教でも、銃を手に取る人間が増えるなら大歓迎だった。

 

銃を握る人間も、誰だって構わない。

どんな人間がどんな人間に引き金を引こうと、等しく血が流れるのが銃の素晴らしさだ。

 

だけど、この目の前の光景は違う。

何というか、そう、重さが足りないんだ。

撃つ側の殺意も、撃たれる側の恐怖も、本来あるべきものより随分と軽くなっているように感じる。

銃声一発で一つの命が消えるような緊迫感が、銃を用いた戦いには相応しかった。

 

それが、ここにはない。

 

目の前の銃撃戦は殺し合いというより、殴り合いに近かった。

相手を害する暴力にはなっても、命までは脅かさない武器。

 

それが、この世界における武器としての銃の地位なのだろう。

 

──この世界では、銃が恐れられていない。

 

その事を自身の目で確認し、銃の魔人は大きなため息を吐いた。

 

その音が聞こえたのだろう、その内の一人がこちらに怒鳴りつけてくる。

 

「あ?てめぇ、そこでなに見てんだよ!」

 

「なんだ、お前らの増援か?ビビって頭数増やそうなんざ、情けねぇなぁ!」

 

「あぁ!?ちげぇよ、ブッ殺すぞ!!」

 

ぜひ、そうしてみてほしい。

銃の魔人は、仕方なく口を開いた。

 

「銃声が聞こえたからさ、結構ワクワクして走ってきたんだ。オレも混ざりたいなって。それがこんな、ちんけな小競り合いだったなんて・・・」

 

銃の魔人は、心底がっかりした表情で答えた。

 

今まで互いに向け合っていた敵意が、一斉にこちらへ向くのを感じる。

そして口々に、罵声が飛んでくる。

 

「なんだこいつ、舐めてんのか?」

 

「おい、まずこいつからやっちまおうぜ!」

 

「ウチ、こいつ見たことあるぞ。ほらあのアビドスの・・・」

 

「あれ、あそこの学校ってまだあるんだっけ?」

 

「どうでもいいじゃん、さっさと身ぐるみ剥いじまおう」

 

「山分けだからな!」

 

彼女らが、各々こちらに銃口を向ける。

 

──今、何か気になることを言ってるやつがいたな。

 

銃の魔人は、当初の目的を思い出す。

 

必要なのは、やはり情報だ。

 

 

 

※※※※※※

 

 

 

銃の魔人は、相手が携える銃を観察する。

 

ハンドガン、アサルトライフルが2丁ずつ。

ショットガン、スナイパーライフルがそれぞれ1丁。

 

計6丁の銃が、こちらに襲いかかってくる。

 

まずは後方から、スナイパーライフルがこちらを撃ち抜いた。

狙いは頭、悪くない。

衝撃で、後ろにたたらを踏む。

 

──なるほど。

 

その隙に、ハンドガンとアサルトライフルの銃撃が体を叩く。

それぞれ左腿、腹、右肩、左胸に着弾し、さらに上体が後ろに倒れる。

 

──なるほど、なるほど。

 

ショットガンを持つ少女は、それらの射線を潜るようにステップを踏み接近していた。

想像より、随分と速い。

大きく仰け反ったこちらの体を、そのまま押し倒し馬乗りになる。

 

顔面に銃口が向けられる。

 

「オラァ!!」

 

ドンッと衝撃が、仰向けになった銃の魔人を、さらに強く地面へ押し付けた。

砂煙が舞い、銃の魔人の周囲を覆い隠す。

 

──うん、大体分かった。

 

もちろん大前提として、銃の魔人を銃で傷つけることはできない。

自分が名を冠しているものだから、当然だ。

 

その上で銃の魔人は、一度全ての銃撃を受けるつもりだった。

その衝撃を肌で感じ、銃の威力を推し量るのが目的だ。

 

結論として、その威力は知っているものと遜色なかった。

普通の人間が当たれば、まず間違いなく致命傷になるような、素晴らしい威力だった。

 

──この世界では、銃の性能が低いわけではない。

 

「それなら、特別なのは的の方かな」

 

馬乗りになったショットガン使いは、相手がまだ意識を保っているのに驚いたようだった。

 

銃の魔人は、向けられた銃身を左手で掴み、こちらに強く引き寄せる。

すると相手は馬乗りになった状態から、覆い被さるようにつんのめり、こちらに倒れてくる。

 

銃の魔人はその頭を右の人差し指でツンと指し、そのヘルメットごと吹き飛ばすつもりで発砲する。

 

──硬い。

 

ヘルメットが、ではない。

銃の魔人が知っている人間の強度を、はるかに凌駕している。

 

鈍い音が響き、自分の上から飛び退くように横を転がった。

 

跳ね起きた銃の魔人は、掴んだショットガンをその手にしたまま、前進する。

 

──この体のことを知っていたのは、奥のスナイパーだったかな。

 

砂塵が晴れる。

トドメを刺したであろう仲間が転がり、仕留めたと思った相手が目の前で銃を構えている。

動揺したのだろう、前方4人組の足が止まった。

 

続け様に、ショットガンを4発。

それぞれ胸に命中し、肺から空気が押し出されたような呻き声が聞こえた。

 

スナイパーは、呆けたような顔をしている。

楽勝だと思っていた相手に仲間達が蹂躙されていくのだから、当然だろう。

 

すると後ろで、最初に頭を撃ったショットガン使いが、まだ動いているのを感じた。

 

──やっぱり、一発では仕留められないか。

 

銃の魔人は右手を頭上に伸ばし、人差し指で天井を指す。

そして、間合いが遠いスナイパーを範囲から外すように能力を発動した。

 

『周囲およそ50m内の、全ての女性の頭部』

 

銃の悪魔は、指定した範囲内、条件の場所を正確に撃ち抜く能力を持つ。

もちろん出力は落ちるが、それは魔人になった後も行使可能だった。

 

範囲外のスナイパーを除いた5人の頭部に、銃弾が飛来する。

強い衝撃が脳を揺らし、ついに彼女らは気絶した。

 

1人きりになってようやく、スナイパーは状況を理解したようだった。

慌てて逃げ出すが、もう遅い。

ある程度の距離を無視できる点も、銃の素敵なところだ。

 

ショットガンを捨て、両手の人差し指を前に突き出す。

 

『ぱん』

 

それはちょうど左右の膝の裏あたりに命中し、スナイパーは崩れ落ちるように倒れ込んだ。

 

──Battle Complete

 

しかし、銃の魔人の心持ちは、決して晴れやかではなかった。

 

 

 

※※※※※※

 

 

 

銃の魔人がこの戦闘で欲しかった情報は、三つだ。

 

一つ目は、この世界の銃の性能。

実際に銃弾を受けてみて、これは知っている性能と遜色ないことが分かった。

 

二つ目は、この世界の人間の性能。

これは速さも硬さも、知っているものとは段違いだった。

生物としての規格が違うようで、これには本当に驚かされた。

 

銃が恐れられていない理由は、撃つ側の銃そのものか、撃たれる側の人間か、どちらかにあると考えていた。

答えは、後者だ。

 

銃の魔人は顔をしかめる。

 

この世界の銃が弱いのが原因なら、話は簡単だった。

銃の魔人は人間の世界の、あらゆる銃の機構を理解している。

例えば技術が風化したとかで、この世界にそれがないのなら、その知識で強い銃を作ってばら撒くつもりだった。

ただそれだけで、銃は人を殺す武器として恐怖の対象となるだろう。

 

しかし、撃たれる側の人間に原因があると、話は複雑になる。

銃の威力はそのままで、ただ人間の強度が高い場合だ。

こうなると、銃の魔人が知っている既存の銃では太刀打ちできないということになる。

何か別の方法で、今までにないような強い銃を考える必要があった。

 

そのためにも──

 

銃の悪魔は、唯一気絶させなかったスナイパーに近づく。

先の発言も含めて、この人間だけは情報源として確保することに決めていた。

 

欲しい情報の三つ目は、この世界のこと。

銃の恐怖を高める策、自分を呼び出した人間、そいつが殺したい標的。

それらを考えるために、今は雑多でもこの世界のことが知りたかった。

 

その少女は膝裏に大きな痣ができて、痛みで歩けないようだった。

それでも必死に距離を取ろうと、芋虫のように砂の上を這っていく。

 

──痣、か。

 

銃に撃たれて、穴でも欠損でもなく、痣。

 

血すら流れない赤紫のそれを見て眉を顰めながら、銃の魔人は少女の横っ腹を蹴飛ばして仰向けにした。

 

呻く少女に、銃の魔人は問いかける。

 

「いくつか、オレの質問に答えてほしいな。逆らうと殺すよ」

 

「はっ・・・やれるもんなら、やってみやがれ」

 

「やれるよ。目か口の中か、粘膜の柔いところに死ぬまで銃弾を撃ち込む。一発で仕留められないのは腹立たしいけど、まあ、今は仕方ない」

 

そう言いながら、銃の魔人は人差し指を向ける。

少女は怯えながらも困惑したような表情だった。

そうか、と思い、左脇のホルスターからハンドガンを取り出して向け直す。

脅しは、分かりやすい形をしていなくてはいけない。

 

少女は悔しそうにこちらを睨めつける。

 

「前の時は雑魚だったくせによ・・・!」

 

「そう、まず聞きたいのはそれだよ。お前は、オレのことを知っているね?」

 

少女は心外だ、と言わんばかりに怒声混じりで答えた。

 

「はぁっ!?てめぇ、忘れたのかよ!前に何発か撃ってやっただろうが!くそっ、後からあのチビが横槍入れてこなきゃよ・・・」

 

「チビ?この梔子ユメには、仲間がいたってこと?」

 

「てめぇの名前なんて知らねぇよ!だけど、あいつは有名だろ。いっつもウチらをボコボコにしやがって・・・」

 

「その子の名前は?」

 

「はぁ?」

 

「名前は?」

 

銃の魔人は、ハンドガンの銃口を少女の右目に近づけながら問いかける。

 

「分かった、分かったって!──小鳥遊ホシノ!いっつも金魚の糞みてぇに一緒いたお前が、なんだってそんなことを聞きたがるんだよ・・・」

 

「小鳥遊、ホシノ・・・」

 

──ホシノちゃん・・・

 

ドクン、とこの体の心臓が大きく跳ねた気がした。

重要な、とても大きな意味を持つ何かを聞いた感覚。

銃の魔人はその名前を、この世界で聞いたことがある。

 

──まあ、いい。

聞きたいことは他にも山ほどある。

考えるのは後にしよう。

 

「それで、お前はなんで銃をもっているのかな?」

 

「はぁ?」

 

少女は心底意味がわからないと言った様子で、目を2、3度瞬いた。

 

「だから、銃を持っている理由だよ。どこかの軍隊の、兵士だったりするのかな?」

 

「まじで、何言ってんだ?」

 

少女は、困惑しながら言葉を続ける。

 

「銃なんて、持ってない方が珍しいだろ」

 

──それは、いったい、どういうことだろう?

 

銃の魔人は、混乱しながら言葉の意味を考える。

持っていない方が、珍しい?

つまりこの世界では、誰もが銃を持っている?

それは、ということは──

 

押し黙った銃の魔人を、少女は隙と捉えたらしい。

懐に隠してあったハンドガンを取り出し、こちらに向けてきた。

 

「あ」

 

銃の魔人は反射的に、構えていた銃の引き金を引いていた。

相手の眉間への、ダブルタップ。

少女はガクリと、気絶したようだった。

 

「しまった、オレとしたことが・・・」

 

もう少し情報が欲しかったが、仕方ない。

 

馬乗りの姿勢から立ち上がり、気を失った少女の体を見下ろす。

 

「どれくらい撃ったら殺せるか、試してみようかな」

 

いずれは、銃弾一発で相手を殺せるのが理想だ。

今はこの世界の人間の耐久値と、理想までの距離を知りたかった。

 

よし、やってみよう。

そうして倒れ伏した少女に再びハンドガンを向ける。

 

すると突然、後ろに気配を感じた。

 

「クックックッ、いらっしゃって早々、派手に暴れたものですね」

 

声を投げかけられ、振り向きざまに照準を合わせる。

 

それは、人間の姿を模したような、異様な存在だった。

 

黒いスーツを几帳面に着込み、まるで人間の大人という記号を纏っているようだった。

しかし、首から上や袖から覗く身体は影のように黒く、人工物のような質感をしている。

黒いマネキンのような頭部には、所々穴やヒビが入っており、その内側から青白い光が漏れていた。

 

「初めまして。あなたをお迎えに上がりました」

 

ヒビ割れが、たまたま人の顔に見えたかのような表情で、その存在は怪しく笑っていた。

 

 

 

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