「はぁ〜おいしかった〜!」
「そうか、それならよかった。」
俺は皿洗いをしながらエルの幸せな顔を見て、少しだけ気分が和らいだ気がする。
エルは食器を持ってきてくれて、すぐに話しかけた。
「僕、今からお風呂入るんだけど、よかったら一緒に入らない?服取ってくるよ。」
「風呂?それなら確かにもう沸いてるとは思うが、10分くらい待っててくれ。後片付けをする。」
「うん!」
食べて、動いて、学んで、眠って…そんな当たり前の生活はここにもないのか。
ん?【ここにも】?
やっぱ分からない…一体前はどこで何をしていた??
俺の記憶喪失には、ちょっと特殊というか、なんて説明するべきか。自分のことは大方知ってる。名前もイブキだったのは間違いないし、前のところの記憶も少しある。
例えば日本に暮らしてる。暮らしてた時期は2000年から2500年のどこかだ。あとは…平和に暮らしてたくらいか?
今の世界と違って、争いなんてない世界…
「イブキちゃん〜お風呂行くよー!」
「あぁ!今行く」
無条件な平和なんてあるのだろうか?
WORLD door。願いを叶えるために存在する扉。なんでも願いが叶う、その裏には、戦争という代償が必要なのかもしれない。
無償などという言葉はガラクタに過ぎないだろ。
泡がうっすらと浮いている。
「イブキちゃんってさ、好きな人とかいないの?」
俺は少し下を向いてこたえた。
「正確には思い出せない…ただ、好きな人はいたと思う。」
これも、WORLD doorで戦う一つの理由?顔も知らない好きな人のために、戦うなんて相当思い入れのある人か?
「エルは、WORLD doorで戦う理由って?」
エルは少し自分の左手を見つめて喋った。
「僕は家族と過ごしたいのもあるけれど、それはガビルドを倒せば叶うし、一番の願いは、イブキちゃんや花済真ちゃんと争いなく平和に過ごしたいだけだよ」
平和…か。
闘争、平和。バカ、天才。弱者、強者。そして、帰れる者も、帰れなき者も、あらゆる存在があってこそ、均衡が保たれるものだ。
当然、俺だってこの世界から淘汰される可能性もある。何のために戦う理由があるのかと言われるなら、もう決めた。
「俺が理由と世界を創ってやる。」
「え?」
突然の反応にエルは少しだけびっくりしたようだ。
「あぁ、いや気にしないでくれ。ただ、少し思い詰めすぎたようだ。俺は先にあがる。のぼせるなよ?」
俺は、湯船から上がったタイミングで、背後から声が聞こえた。
「イブキちゃんならできるよ。きっと!」
そっか…必ず勝とうな。
しばらくして、俺は夜景を見ながら、足を組んで座り、煙草を吸っていた。
「未成年だったらあれだけど…」
とかいう、独り言を浮かべていた。
エルもついてきて、柵にもたれながら、横で煙草を吸っていた。
「イブキちゃんってタバコ吸うんだ?」
「うーんなんて言うか、気の迷い?ちょっと前まで吸ってた記憶あるけどやめた記憶もあるんだよな。てかそういうエルだって」
エルはゆっくり吐きながら言った
「別に僕は吸わないよ?ただイブキちゃんが吸ってたから一緒にならいいかな?って思っただけ」
「煙草とかを吸ったって、結局のところは、神類だから体に悪影響もないんだろ?」
「まぁ人によるけどね、耐性ない人とかは弱いけど、基本神類はあらゆる耐性があって強さがある。タバコを吸おうが、肺は黒くなったりしないし、横で吸われてる人にも影響なんてない。花済真ちゃんなんてよく吸うけどね。」
俺は不安だけが、残る。
「イブキちゃん、君にはこれから理解してもらいたいことが沢山あるんだ。長くなるけど、聞いて欲しい。
WORLD doorの世界は、ここでは願いの鍵。言い換えればたかがもの一つで絶えず戦争が起こる。裏切りや欺瞞に溢れ、誰もが自分の命を優先すると思う。でも、君はすごい誠実なんだ。
ここで死んだ人間は甦ることなんてない。だからこそ、イブキちゃんには、もっと強くなって欲しい。」
俺は疑問に思った
「待ってくれ?死んだ人間は蘇ることがない?エル達は家族と会うために、戦っているのだろ?それなのにどうして?」
「WORLD doorの扉は願いを叶える扉と言われるけど、それは大半は誤解している。確かに願いは叶う。だけど、叶う形は【再開】。簡単に例えるならやけにリアルに見える夢のようなもの。というよりは別か…会話はできるし、触れることもできるけど…この世界に連れてくることは出来たりしないってだけさ。
それでも扉ができることは、幅広い。死んだ人間と再開する。地形を創る。会えなかった空想の生物と会うことが出来る。なんなら、相手の発言だって思い通りにできる。」
そっか…あくまで今俺が立っているこの世界こそが俺の現実(リアル)なんだ。叶えられなかった夢を少しでも見ることができる機能…
「イブキちゃんは、これからもっと強い敵にだって会うし、心強い仲間にも巡り会える事だと思う。でもこれだけは言う。」
「何があっても、自分は自分で在ること。」
「結局のところ、ここの戦争の終点は生き残り。誰を生かすかなんて1番強い人間が決めることの生存戦争(サバイバル)誰かのためじゃなく、自分が決めることなんだ。遠慮はいらないよ。僕とイブキだっていつかは敵になるかもしれない。今だって君は利用されているかもしれない。」
俺はそれを聞いた瞬間、唾を呑んだ。
エルは安心した眼差しでこちらを見た。
「イブキちゃん、困ったことがあれば【混ざってもいい】んだよ。」
「混ざってもいい…?」
「うん、絵の具だって、色と色が混ざれば、新たな色となるでしょ?そうやって新たな可能性を産むんだ。」
「なるほどな。俺はもう寝るから、ゆっくりしろよ。」
俺は指を鳴らし、エルのタバコに火をつけ、その場を去った。
「おやすみ。イブキちゃん。」
「計画は進んでいるのか?」
灰色と青のメッシュの狐の仮面を付けた女性が、膝をついて、会話をしている。
「次は、風絶(ふうぜつ)がエル、花済真、及び変数のイブキを始末する予定です。ですが、彼の実力では3人は無理でしょう。私がイブキのみを引きずり込み、彼を始末します。」
「いいや、イブキは生け捕りだ。あいつの力は使えるからな。それにもし、あの方の器なら、イブキは使える存在だ。この世界に破滅をもたらしてくれる。あの方ならばな。」
「分かりました。ガビルド様。」
「ん…」
身体中が痛い…昨日のいきなりのトレーニングがあれだったか…
「おはよ!イブキちゃん!」
「わぁ?!びっくりしたぁ?!」
「ふふ、筋肉痛?」
「あぁ、どうしよう、今敵に襲撃なんかされたら…」
エルは俺の体に手を当て、衝撃を放った。
「うっ?!いきなり何をするん……あれ?治ってる?どうなってんだ??」
「神類の体は特殊な上に、治りも早い。筋肉痛程度なら魔法なんて使わなくても治るんだよ〜」
やっぱ不思議だな…
すると花済真から電話がかかってきた。
「もしもし…花済真?」
…
「エル…俺に掴まれ。」
「え?」
「四天王のひとりが村を襲撃している…」
「まずいな…俺一人じゃあいつにかなわないか…」
ハヤトさんも別のところで調査任務を行っている。すぐには来れない…イブキに連絡は伝えたが、
奴が四天王の1人…風絶…俺よりリーチの長い剣。間合いに入る前にダメージを食らう。
「花済真、状況は?」
イブキとエルが気がつけば後ろにいた。
「な?!どうしてここに?」
「シュルを使ったんだ。俺もMPは残り少ない。花済真とエルが前線に出てくれ。俺は後方支援する。」
花済真は頷いて、エルと肩を並べた。
「俺達もイブキやハヤトさんみたいに弱いわけじゃないってところを見せる機会だな。こいつと手を組むのは、納得いかないが、状況が状況だ。」
「僕は花済真ちゃんと戦えるの嬉しいよ?」
二人は一気に飛びだした。
「ほざけ!」
花済真が風絶の攻撃を受け流しながら、エルは回り込んで銃を撃ちまくる。
連携の取れた攻撃。だけど、風絶は右手で花済真の攻撃を防ぎつつ、左手でエルの銃弾をクナイで、弾いている。
ならば!
「来い。カルファ。」
イブキの背中から赤く燃え上がる炎の鳥が出てくる。
「燃やせ。」
炎の火炎玉を作り、イブキが短剣を取り出し、火炎玉に当て、風絶の方へ飛ばした。
風の属性魔法を纏った短剣。振り降ろしただけでさえ、強力な風を呼び起こす!炎と混ぜることによって組み合わされる炎嵐(えんらん)!
花済真とエルは咄嗟に気づき、風絶に直撃した。
「よし。」
だが、もちろん。
炎の嵐を斬り、風絶は姿を現した。
「どうした!貴様らの実力はこんなものか!」
やはり、ノーダメージ…
カルファと打てる属性魔法も次の1回が限界。
この世界において、MPは、様々な役目を担う。属性魔法も、能力も全てMPがあってこそだ。シュルなんて慣れてなかったり、より遠くの場所へならたったの1回で、9割近くはMPを持っていく。
ただ、ひとつだけ例外がある。
この世界には「主能力」がある。主能力はMPを使用しない。俺も使えればいいのだが、今は花済真とエルの主能力こそが勝利の鍵。
それと、風絶の主能力も…
「埒が明かないね…」
スナイパーライフルじゃ攻撃数が限られてる。あいつの見切り能力は半端じゃない。
「エル、イブキ!攻撃の手段をもっと増やすぞ!」
まさか3人攻撃?いや、ありかも…
俺はすぐさま短剣を両手に携え、風絶の方へ突っ込んだ。
一撃必殺担当の、花済真
手数の多さの牽制の、イブキ
隙を狙える音を立てない、エル
いける!!
「まさか、この程度だとは思わなかったぜ!さぁ地獄に連れてってやるよ!主能力!「乱光糸」(らんこうし)!」
糸のような鋭い刃物がイブキやエルや花済真を拘束する。
これが狙いか…!くそ!動けない…!!
「まずは貴様からだ。エル…」
風絶はエルの首元に刀を当てる。
「くっ…」
「さぁ!死ね!!!」
思いっきり、刀を振りかぶった時、風絶の腕が急に斬れる。
「…なに?!」
イブキが短剣を振りかぶって、風絶に一撃を与えた。
「やっぱりカルファに属性魔法を残しておいて正解だったよ。どんだけ鋭くても、糸は糸。燃やせば、解けるからな!」
「このガキ!」
イブキは思いっきり風絶を蹴り飛ばし、エルと花済真の糸を斬った。
裏切り、欺瞞。もしかしたら俺はエルや花済真に利用されているだけかもしれない。例えそうでも、これからそんなことがやって来ようと、最後にこの世界の頂点に昇るのは俺だ!!だから…!
「エル!花済真!頼んだ!!」
「「あぁ!!」」
イブキが作ってくれたこのチャンス!
逃したりしない!!
だから…!俺が俺自身を信じ、たとえ相手が誰でも勝ってやる!
イブキはそのまま、地面に倒れ込み、エルが風絶の膝に銃弾を撃ち込んだ。
「ぐっ…!これじゃあ立てない!!」
すかさず、花済真は、風絶の前に立ち刀を鞘から抜いた。風絶は焦った顔で腕を再生し、刀を思いっきり振り上げた!
「舐めるなぁぁ!花済真!!!!」
「お前らこそ…甘く見すぎだ。主能力、奥義。桜吹雪」
刀ごと風絶の首を斬り、花済真はその後を、去った。
そして、刀を鞘におさめた瞬間、下から桜の風が現れ、風絶の体全てを討ち滅ぼした。
イブキは溜息をつき、こっちに向かってきたエルと花済真とハイタッチをした。
四天王をこれで2人…あと2人とガビルドのみだ。
俺はすぐさま家に帰り、そのまま眠りについた。
「間もなく、来る。エルフマ・イブキ。私は…貴方を試さなければならない。器なのか、そして、この世界を救い、私の謎を解き明かしてくれる探偵だという事を…私は信じている……」
よく眠れた…MPも全回復。
てか、ハヤトはまだ帰ってきてないのか…
あれからエルもまた泊まりそうにしてたが、さすがにまた襲撃があったら困る…俺の家から村まで、7km近くあるしな。すぐには向かえない。
俺は短剣を持ち、服をただし、家を出ることにした。
「今日も訓練したいしな…さて、村に向かおう。」
玄関で靴を履き、立ち上がった時自身の、周りに黒紫の穴が出現した。
「…は?」
俺はそのまま落下してしまう…
「いてててて…なんだこれ、」
周りを見渡しても黒い空間がどこまでも広がっている。
「なんだこの空間…」
まるで別の場所へ転送されたみたいな。間違いない…
やつの主能力の仕業か…。
足を組み、1人の少女が、横に長い棒を置いて、瞑想をしている。
こんなことをしてくるのはただ1人。
四天王の3人目。だけだ。
いちばん弱いであろう俺だけを孤立させたのか…
WORLD door端末も、圏外で繋がらない。エルや花済真に助けも求められない。
いいだろう。一騎打ちだ!!
花済真はその剣術、誰かから教わったりしたのか?
いや全て独学だ。主能力の奥義も自分で作り、開発したんだ。
やっぱ花済真って天才なんだな。
俺も多少は自分の腕を自負している。だが、記憶喪失から目覚めたお前も、戦い方がとてつもなく上手いじゃないか?
あー…えっと(戦闘アニメとかよく見てたからかな?)
まぁ、いつかイブキも教える側になれば化け物じみたやつ才能の持ち主が現れるはずだ。その時は嫉妬せず鍛錬に励めよ。
あぁ!花済真も超す強さになってやるよ!世界一はこの俺だ!
次回、第1節 1章 7話 まさに禁忌!秘密の戦争
まさかこれが今年最後なんて言わないよな?
…善処はする。