最強以外ありえない   作:てんぞー

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別名、都落ち

『拝啓 ニヒリズムをカッコいいと勘違いしてそうなアホな孫へ

 

 このメールを読んでいるという事は俺の葬儀がカスの集まりみたいな事になって終わり、それから少し経って俺からのプレゼントを現地で確認している所だろう。で、どうだった? 俺のガキはどいつもこいつも酷いもんだっただろう? 俺に似て性格が最悪だしな。

 

 誰が家督を継ぐのか、誰が遺産を継承するのか、誰が俺の後を継ぐのか……そんな話ばっかりでまともな葬式にならなかっただろう? 糞みたいな光景だが想像できてしまう。まあ、元々俺がカスみたいな父親だったのが十割悪いんだろうけど。

 

 だけど父親として最低限の仕事はしてきたと思っている。不自由のない暮らしはさせたし、学校にも叩き込んでやった。ここまでまともに暮らさせてやったんだから今更文句の一つもないだろう。少なくとも文句を言わせるつもりはない。良い父親じゃなくても義理も義務も果たした。

 

 さて、このファンメールはここからが本題だ。

 

 これを読んでるって事はちゃんと俺の葬式に顔を出したって事だよな?

 

 なら聞いてる筈だ。俺は自分の遺産を使ってとあるゲームを始めた。

 

 ルールは簡単だ。俺の血を引いた孫の中で最初にSランクのモンスターマスターになった奴が次の家主だ。俺がこれまでの人生で集めた財産も、これからの家の舵も……俺が大事に育ててきたモンスター達も全部ソイツのもんだ。全部だぞ? 俺がグランドマスターとして稼いできた財産全部だ。

 

 ここまで話せばアホなお前にも理解出来るだろ。

 

 このゲームにお前の席を用意した』

 

 ―――ここで、漸く手に握っていたスマートフォンから顔を持ち上げる気力が出てきた。

 

 開け放たれた車の扉から外に出る。都会では到底味わう事の出来ない新鮮な空気と静けさ。見渡す範囲にあるものは大きな家が一軒、それを除けば遠くに湖や林が、更に遠くには山が見える。何もない僻地、辺境、田舎、そこはそんな言葉を並べて表現できる場所だった。

 

「最寄りのコンビニまで車で30分かぁ」

 

 辛い。現代人にはあまりにも辛い距離だ。これまで歩いて1分の距離だったのに、比べられない程文明とはかけ離れた場所へとやってきてしまった。これからの生活に軽い絶望感を覚えながら眺めていると、車から飛び出して“チビ”と広さだけは有り余っている大地を駆けまわる妹の姿が見えた。

 

 あれほど家を出る時はぐずっていたのに、実際にやってくるとなるとテンション高くしてはしゃぎ回るんだからお手上げだ。あのテンションがずっと続けば良いのだが、そんな事にはならないだろう。溜息を吐いて妹から視線を外し、家の方へと向かう。

 

 家の前では父と母がこれまで家の管理をしていた夫妻と話している。これからはここに住むのか、という事を考えると頭が痛くなってくる。もっとモブの様な人生を送るものだと思っていたのに、変化は突然やって来た。

 

「と、どうやら息子が来たみたいです。紹介しますね」

 

 家の前まで来るとぐいっと父に引っ張られ、肩を掴まれる。されるがまま引き寄せられると夫妻の前に立たされた。

 

「息子の尊です」

 

「ども、鴉羽尊(からすばみこと)です、宜しくお願いします」

 

「君が剛三さんの言っていた……こんにちは、尊くん。僕はこれまで剛三さん、君のお爺ちゃんに頼まれてこの家と土地の管理をしてきた夜月修三というんだ。宜しくね」

 

「妻の美代よ、宜しくね、尊くん」

 

「あ、はい、ども」

 

 握られた手が少し強めなことに驚くも、やっぱり糞ジジイの名前が出て来る。こうやってあの人格破綻者の名前が何度も出てくるとあの遺言が本気なんだな、というのが伝わってくる。握られた手を大きく振ると夜月夫妻との握手から解放される。

 

「事前に剛三さんから聞かされているとは思いますが、この土地と家は今日から尊くんのものになります。そしてそれにより尊くんには土地を管理する義務が発生します。無論、投げっぱなしにするわけではなく僕達も出来るだけの手伝いはします」

 

 何度聞いても頭のおかしくなる話だ。

 

『お前には土地を用意してやった。

 

 そこでならダンジョンで捕まえたモンスターを好きなだけ育てる事が出来るだろう。偶にその土地自体にダンジョンが生えて来る事もあるけどまあ……それをどうにかするのが土地の管理人の仕事って奴だ。

 

 ちなみに土地を手放す事は出来ないようにしておいた。お前の名義で、お前が管理者になるように手続きした。チキチキ家主決定レースに参加するにしろ、しないにしろ、お前は絶対にその土地を管理しなければならない。

 

 その為にはモンスターを集め、鍛え、育てる必要があるだろうなぁ。

 

 他の候補者たちはそれを見てどう思うんだろうなぁ。

 

 ま、季節外れのサンタクロースからのプレゼントだとでも思っておけ』

 

「く、糞ジジイ」

 

 逃がす気はないという糞ジジイからの宣告だった。死んでなかったら俺が棺桶の中に叩き込んでやりたい所だ。計画していた平和な人生が音を立てて崩れ去って行く。もうこの時点で逃げ場なんてものはないのだ。

 

「そうねぇ、父さんは尊の事を偉く気に入っていたからね。期待しているのかもしれないわ」

 

「まだ小学年の子供に向ける期待じゃないよそれ。というか父さん、これ本当に引っ越さなきゃ駄目なの? 今から都会に帰らない? この土地の事とか大乱闘家主大戦の事とか忘れて。コンビニ遠いし。学校とかどう通えば良いんだよ」

 

 俺の言葉に父も母も曖昧に笑って誤魔化してくる。解ってる、あのジジイには誰も逆らえない。やると言ったらやる。そうなると言えばそうなる。それだけの力があった。だからこれはもう決まっている事なのだ。抵抗するだけ無駄。

 

 出来る事と言えば立ち向かう事だけ。

 

 覚悟して受け入れて最善を尽くす事だけ。

 

 たとえそれがあの糞ジジイの思惑通りであったとしても。

 

「安心して尊くん。確かにこの土地は広くて大変に思えるけど……その管理の大部分は引き続き僕達の方でやるから。君が資格を取って、将来的にこの広い土地を管理できる程のモンスターマスターになったら改めて君が管理すれば良いんだ。そしてそれは今年や来年の事じゃなくて、もっと先の未来の話だ」

 

「そうそう、焦る必要なんてない。お義父さんに押し付けられた土地だけど良い方向に考えてみよう。空気は美味しいし、景色も良い。後は―――」

 

 父が辺りを見渡し、何か褒めようとする要素を探して、家を見た。

 

「家がデカい」

 

「掃除が大変そうね」

 

 母の呟きに父が項垂れる。

 

『尊。

 

 俺は息子や娘たちには何も期待してない。一番マシな次男もまあ……良い所Sに上がってそれまでだろう。だから俺は孫たちに期待する事にした。その中でもお前だ。お前が一番ぶっ飛んでイカレてる。まともな奴程直ぐに天井を叩く。そういう意味ではお前が一番期待できる。

 

 だからこのゲームを始める事にした。

 

 お前には期待している。一番何も持たない奴が後ろから一気に追い上げて蹴散らして行く姿が一番見てて面白いからな。是非とも馬鹿息子たちの孫を泣かせてやって欲しい』

 

「えーと、確か修三さんには娘さんが」

 

「えぇ、居ます。今日は朝から見回りに―――あ、来たみたいですね」

 

 力強く羽ばたく翼の音がする。

 

『さて、長々と書いたがこれで最後だ』

 

 空を影が覆う。薄い霧が漂う。

 

『最後にもう一つだけプレゼントを用意した。嬉ションしながら受け取れよ。

 

 世界で一番カッコ良くて優しいお爺ちゃんより』

 

 ふわり、その巨体に見合わない優しい風を辺りに巻き起こしながら降りて来るのは鱗に包まれたモンスターの姿。白く、煌めくような鱗はそれだけでその存在が並から外れた上位である事を示している。雄々しい翼、太く伸びる尻尾―――その非現実的な姿を人はドラゴンと呼ぶ。

 

 この世界でなければ幻覚でも見ているのかと疑うであろう存在も、この世界であれば珍しくても実在する生物だ。

 

「貴様が」

 

 その声はドラゴンの頭上から放たれた。視線を持ち上げればドラゴンの頭の上に少女が乗っているのが見えた。薄い霧を纏うドラゴン同様綺麗な白髪をした少女、ドラゴンの上に乗って来たというインパクトさえなければ魅入られていたかもしれない。

 

 堂々と、胸を張り、見下ろすように、その子は言った。

 

「貴様がゴーゾーが言っていた私の許嫁か!」

 

 平凡な人生を送るんだと思っていた。たとえ自分の人生が2度目で、これがどこか見た事のある物語を軸にした世界であっても、自分は所詮モブで、主役からは程遠い世界の住人だと思っていた。

 

 だがその夢想も幻想も、カスみたいな老害の思い付きで全部砕け散った。

 

「ミコト、貴様が本当に私に相応しいかどうか……見定めてやる」

 

 自信満々に言い放つ12にも満たない少女の発言に俺はただ頭を抱えるしかなかった。

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