カスが消えて直ぐに風呂から上がるのもなんか負けた気がする。
だからカスが消えた所でせめて肉体的な疲れだけでも抜こう。そう思ってしばらく湯に根性で浸かり、それから上がって部屋に出る。まあ、やっぱりモンスター達は全滅してた。原型が解らない程に粉々に始末されてた。
湯冷めしないうちに体を拭いて着替えたら蘇生アイテムを使って片っ端から蘇生する。蘇生が終わるとフラメアが拳を使って床にたたきつける。やっぱり殺されたのが悔しかったのか。
「お風呂……先を越されました……!」
心配する必要ないなこれ。基本的に死に慣れているモンスターにとって敗北は悔しくても乗り越えられるものだ。死んで、蘇って、また強くなれば良い。その繰り返しだ。という訳で全員蘇生して、部屋の荒れた所を整えればもういい時間になる。
充電の終わったスマホを確認すればアンナが下のレストランで会おうとメッセージを入れてきている。モンスター込みだと多すぎるのでモンスターは部屋に置いてこい、との事。ルームサービスでちゃんと飯は運ばれてくると連絡を残す辺りがアンナらしいというか。
「じゃあ行ってくる」
「今度は唐突に外に出ないでくださいにゃ」
「頑張る」
「努力目標……?」
戦慄するアーティに手を振ってからエレベーターに乗り込む。でっかいホテルでたっかいホテルなのだから当然飯も期待できる。出来たらフルコース系は止めて欲しい。マナーとかガチでめんどいから。とりあえずこの萎えぽよ気分をぶち上げる為の美味しいご飯が欲しい。
一人寂しくレストランに向かえば既にアンナの姿があった。しかし身長伸びねぇなこいつ。お陰でゴスロリが似合う姿で固定されてるから楽なんだけど。
「ちっす」
「来たわね。こっちよ」
アンナのいるテーブルの対面側に腰掛け、置いてあったメニューを手に取る。流石お高いだけあって色々と書いてある。うん。
「何がいいか全然解らん」
「肉? 魚? 野菜?」
「肉」
「じゃあ適当に頼むわよ」
「助かる」
アンナがウェイターを呼んで慣れた様子で注文を取り始める。それを正面から眺めていると、アンナがこちらに気づいた。
「どうしたのよ、覇気のない顔をして。アンタ、明日は主役なんだからね? もっと気合を入れてよね」
「ちょっとテンションの下がる事があっただけだよ。明日には戻ってる。自慢じゃないけどこの手の精神的なもんに関しては自信があるよ」
「ならいいんだけど……明日は大丈夫なのよね?」
アンナの確認する言葉に頷いた。
「移動中にアンナの連れてきたモンスターのデータも見せてもらったしな。不安はなにもないよ」
アンナは明日の大会の為に前、連絡を入れてから此方と連携を取れるモンスターを集中して育ててきた。タッグ大会なのだから当然シナジーの取れるモンスターを出す組が強い。だから大会用にシナジーの取れるモンスターを育てた。
アンナみたいに金と人を持ってる所だからこそ取れる手だ。このためだけに育てるというのは俺にはちょっと難しい。主にコスト面での話だが。
「貰ったデータ見てる限り戦いになるのは数人ぐらいだし……寧ろ盛り上がらない方を心配した方がいいよ」
「それは別にいいのよ。寧ろじゃんじゃん格の違いを見せて。アンタら修羅の里出身の一般キリングマシーンは最短思考のショートゲーム傾向だけど、一般人はどちらかというと数分から十分ぐらいのロングゲーム思考よ」
「アグロ人気ないんか?」
「アグロで十数秒よ」
理解できないという顔をする。アグロでそんなに時間が……?
「長考するって話は聞いてるけど、そんなに?」
「バトルに対する考えがそもそも違うのよ。スポーツチャンバラと真剣のチャンバラでは考えと技術が違ってくるでしょ? それと一緒よ。尊、アンタにはその違いを理解してもらわないとならないわ」
「違い、かぁ」
「そ。見るだけでは理解できないことを実際に経験しなければ実感にはならないわ。アンタにはその実感が必要なの」
ありがたい話だが、なんか、こう、アンナは俺のプロデューサーになったような、自認してるような感じがする。
「アンタは上に立つ人間よ。見てれば解る。アンタは確実に上澄みの中の上澄み、そういう所に立つって。だから自覚しなきゃならないのよ。アンタを下から見上げる奴が沢山出てくるって。どういう風に見られるべきか、というのを」
アンナの言うことは実にご尤もという感じなのだが、実感はないし、想像もし辛い。俺みたいな破綻者に憧れる人間が本当に現れるのか? 考えられない。
「まあ、今はいいわ。道筋は私が……尊、なるべくお行儀良くしてね」
「善処する」
唐突に話を切り上げたアンナは外向けのにこやかな表情を作る。久々に見るアンナの外向けの顔に思わず漏れそうになるうわぁ、という言葉を飲み込んで、料理を待っているフリをする。
「アンナ」
「イーサン、来てたのね!」
「勿論ですよ、アンナが大会を開くと聞いて居ても立っても居られませんよ」
そう言って近づいてきたのは金髪の青年だ。顔が見えなきゃ整ってるのかどうかは解らないから、それ以上に表現する言葉が見つからない。まあ、良い服は着てる感じか。
イーサンは近づくと跪き、アンナの手にキスをした。わーお、情熱的。アンナもそれをにこやかに受け入れてるし、どちらも慣れてる感じがする。
「応援に来てくれるとは思わなかったわ」
「勿論、愛しの婚約者が大きな大会を開くというのですから来ない理由がありませんよ」
ふーん。
と、イーサンが漸くこちらに気づく。
「それでアンナ、彼が……?」
「えぇ、従兄の尊よ。尊、彼は私の婚約者のイーサンよ。ブライトゲートという会社知ってる? 彼はそこの御曹司なの。ダンジョンの資源採掘とか担当しててかなり大きな所なんだけど」
「初めまして尊くん、イーサン・ウェスティンです。よろしくお願いします」
流暢な日本語で話しかけてくるイーサンが握手のために手を差し出してくる。
それを見て、緩く腕を上げ、指をイーサンに向けた。
「マネキンが、喋ってる」
俺の言葉にイーサンが首を傾げ、アンナだけがそれがどれだけ重い罵倒なのかを理解し、直ぐに謝罪した。
「ごめんなさい、イーサン。彼、お爺さまと一緒で身内以外の顔が見えないの」
「あぁ、いや、少し驚いただけだから大丈夫ですよ」
驚いた様子であははと声を零す様子に手をひらひらと振る。この男に対する興味というものを一切持っていない。早く飯来ないかなぁ、という気持ちで眺めていると、ウェイターが前菜を運んできたのが見える。早速久遠に送ってやるか。
スマホを取り出して写真を撮り出すとアンナの額に青筋が浮かぶのが見える。
「これから食事みたいだし邪魔しちゃったかな?」
「身内が本当にごめんなさいね……」
「いやいや、それじゃ明日は応援してるよ」
「えぇ、ごめんなさいね。また」
営業スマイルでイーサンを見送り、視界から消えた所でテーブルの下で蹴りを入れられる。痛いなぁ、と思いながら写真を久遠に送る……お、爆速で返答が飛んできた。久遠は見送りできなかった事をちょっと悔やんでるな。フォローしておくか……。
「アンタは! その気遣いを! 久遠ちゃん以外へ! 向けなさい!!」
「めんどい」
「めんどいじゃないのッッ! さっきのは何なの!? 一応婚約者だって説明したわよね私!?」
いや、まあ、そうだけど。これを言うべきかどうかというのを腕を組んで、首を傾げながら悩む。アンナは視線で言いたい事は言え、と告げて来る。だけど本当にこれは伝えても良いのか? 良いんだよな? まあ、アンナが求めて来てるのに答えないのも良くないか。
「いや、だって今の奴ロリコンだし」
「は?」
「いや、だからロリコン」
アンナを指差す。
「ユー、幼児体形」
近くで控えている黒服に手を出してアンナが銃を催促する。黒服は止めましょうよ、と必死の表情でアンナを宥めている。黒服くんって結構アンナの周りで何でもやるよね、大変じゃないのかなぁ、あのポジション。他人事のように眺めているとアンナが半ギレで此方を睨む。
「で?」
「いや、だからアイツロリコンなんだってば」
「なんでそう飛躍するのよ!!」
なんでって。
「頭の中でアンナを調教とか凌辱とかそういう事を思い浮かべながらさっきの会話してたからだけど……」
「……」
「……」
アンナと黒服が固まる。ちらっとどういう人なのかなぁ、と思いながら思考を一瞬だけシンクロして繋いだらなんか頭の中ロリコンさんで困っちゃったね。もう、こう、同人誌的な展開が進んでて怖いね。鴉羽くんは両親から高度な教育を受けているので恋愛は常にプラトニックに進める事を意識してます。純愛最高。
純愛最高!
「そう言う訳でちょっと言葉にはしづらいイメージを脳内で構築してたからロリコンさんだなぁ、って。白馬に乗った王子様というよりは白馬に乗って来たロリコンだったね」
「少し、黙っててくれる……?」
「うす」
アンナが静かに溜息を吐きながら両手で顔を覆い、俯く。ウェイターが少し離れた位置で次の品を持って来る時間を調整しますね、という顔をしている、黒服は普通にこの場から逃げたそうにしている。俺はもうちょっとアンナのこの姿見ていたい。
記念撮影しておこ。
「別にね、私も好き好んで低身長という訳じゃないのよ。同年代の他の子を見ると皆身長が伸びたりするのよ? でも私はなんか中々伸びなくて―――」
ウェイターに手を振って次の品を持ってきて貰う。いやあ、お腹が空いてたんだよね。結構楽しみにしてたし、前菜が美味しかったのでメインとかも楽しめそうだ。お、灯からもメッセージが来てる。あっちも晩御飯だって。
「という事は私と会っている間は何時も脳内そんなだった、って事……!?」
「アンナ様、お気を確かに……! 男は誰もが年中発情期という訳ではありません……!」
「応援ついでに発情期突入する婚約者がさっきいたけど!?」
「うす」
黒服は黙る事にした。喋った所で助けになる事はなさそうだから。婚約者は変態ロリコンな上に今回、大会にはテロリストが紛れ込んでるのかぁ。
アンナさん可哀そう……。