最強以外ありえない   作:てんぞー

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生まれがカスな人はずっとカスです!

 それからアンナがしばらくストレスと戦っている間に俺は美味い飯を食ってストレスを解消して行く。あのカス女が現れた事もあり正直精神に負荷がかかってたので美味い飯を食うのは丁度良い解消手段だった。

 

 ちらっとここから厨房の方に視線を向ければ奥が見えないものの、スイングドアが開くときに見えた向こう側にはせわしなく働くシェフが何人か見えて、全員ちゃんと顔が見えた。才能のある人間を揃えて商売してるんだなぁ、こういう所は。しみじみとそう思いながら飯を食う。

 

 美味し。

 

「そういやアンナ」

 

「何よ」

 

「明日の警備状況は大丈夫か?」

 

 無論、アリア=マリスの言っていたテロの事である。というかこの内容を口にする事は出来ない。

 

「警備状況? まあ、妨害とイギリスでの事件を想定して今、この手の大会やイベントってすごい取り締まりが厳しくて私もAランクマスターを数人警備として雇う事になったわ。手痛い出費だったけど安全には替えられないわ」

 

「成程なあ」

 

「しかし、アンタが警備状況を心配するなんて……明日、なんかあるの?」

 

 ジト目で睨んでくるアンナにおや、警戒されちゃったかな? とちょっとした失敗を悔やみ、直ぐに応える。

 

「俺は駆間出身だぞ。何時だってガスマスクを持ち歩いて自衛してるんだぞ」

 

「そうね。危機意識に関しては一番警戒している人種だったよね、アンタ達」

 

 納得された。まあ、納得だよね。雨の代わりに炎が降ってこないか警戒しつつ隕石の場合もあるから常に遮蔽物を意識しながら移動しなきゃいけない環境、狂ってる以外の言葉見つからないと思うもん。でも住み慣れたら楽しいよ。人間、大抵のことは慣れるもん。

 

「はあ、忘れよ……私が大きくなったら何とかなるでしょ」

 

「ソダネ」

 

 アンナの嘆きの声を聴き流しながら美味い飯を食って、終わったらアンナと別れて部屋に戻る。モンスター達の様子を伺うとちゃんと飯を食ったらしい。チビの口の周りに食べかすがついてるので拭いて綺麗にしてあげる。

 

 ソファに座ろうとするとチビがソファでええんか? このモフモフじゃなくて本当にええんか? みたいな顔をするのでソファじゃなくてチビのお腹を背にして座る事にする―――うん、遠征してきた感じが全くしないなこれ。

 

「アンナさんに件の事は相談されたんですかにゃ?」

 

「いや、してない。というかするだけ無駄だろう」

 

 そもそも警備状況はイギリスの事件以来どこもレベルを上げてきている。大型のイベントを開催するには警備員としてそれなりのランクのマスターが必要になる。そのせいで最近のBやAランクマスターは出動が多くて忙しいのだとか。

 

 しかもこれ、協会を通した正式な依頼だから功績点扱いになるらしいね。ちょっと羨ましい。Cにはそういうのないから。

 

「物理的な暗殺とか混乱だったらAランクのマスターで十分に見つけられるし対処できる。Aランクは明確な上澄みの領域だし、俺なんかよりもはるかに強いよ。心配するだけ無駄」

 

「ですがマスター、相手が久遠さんの様な誘因体質持ちだったらどうするのですか?」

 

 フラメアが近づいてきて隣に座ろうとしてチビに拒否された。地味に傷ついた表情しているのが面白い。君たちもしかして仲が悪い?

 

「それこそ相談するだけ無駄だ。誘因体質そのものが秘匿性の高い案件だし、これがテロに利用できるって話が広まったら魔女狩りが始まる。それにこれに関して前々から館長が用意してたものもある」

 

「そうなんですか?」

 

「うん」

 

 館長とは既に1周目で起きうるイベントに関して相談済みだ。だって庭に入口あるし。その上で館長のスタンスは“助けを求められない限りは手を出さない”が基本になっている。館長自身は世界を救う為、奴を倒す為に出来る手助けは可能な限りしたい。

 

 だが館長の持つ力は大きく、頼る事が出来れば様々なイベントを楽にこなせてしまうだろう。だけどそれは同時に館長が成長や学習の機会を奪うという事でもある。

 

 成長とは穏やかな時間よりも苦難の中でこそ起こりうるものだ。挑戦、そして試練の中で人は大きく成長する事が出来る。

 

 これはあまり認めたくはない事実だが、図書館であの女が出現しなかったら俺も、アーサーも東吾も大きく成長する事はなかっただろう。あの図書館の一件はモンスター達ではなく、俺達をマスターとしても成長させる大きな要因となった。

 

 そして館長の持つ力は大半の問題を解決する事が出来る。だから館長は自分から干渉する様な事は極力控えつつ、図書館を公開する事で全体のレベルアップを計画している。

 

 収蔵されている知識、そして出現するモンスターによる戦闘でレベル110という上限に達したマスターたちを更なる上の領域へと連れて行く事が今、館長がイギリスでやっている事だ。全体のレベルを上げる事は最後の戦いを見据えると必要な事だ。

 

 そう考えるとやっぱ他のDLCダンジョンもやっておくべきなのか? まあ、館長がドラゴンズバレーとは渡りをつけるとか言って既に数か月経過してるんだけど。

 

 1枚の栞を取り出す。不思議な光を淡く放つ栞で、持っているとどことなく心を満たす温かみを感じられる。

 

「図書館へと直通でワープできるアイテムだ。何時でもどこでも図書館へと来られるように……って館長が作った図書館への裏口みたいなもんだ。これを渡すからピンチになったら問答無用で逃げてくれって言ってた」

 

「サービスが手厚いですよね、館長」

 

「サービスというかこの人だけは絶対に死なせてはならないけど干渉したら未来が変わってしまうかもしれないから血涙を流しながら堪えてる方だと思うのですがにゃ……」

 

 まあ、我慢の人だから我慢してくれるよ。たぶん。

 

 ―――館長に一番作って欲しかったのはどうにかして久遠の誘因体質を封じる為のアイテムだったのだが。

 

 此方は技術的な問題で難航している。将来的にダンジョンテロが起きる事を考えると、開発する事そのものは無駄にならないし、完成すれば久遠を駆間の外に連れて行く事も出来る。彼女がもっと遠い地を一緒に見る事が出来るようになる日が来れば……という気持ちが一番強いけど。

 

「だから今回の件、俺も気を付けてて見つけたらこう……」

 

 しゅっと栞スラッシュする。

 

「図書館へと飛ばして隔離する」

 

「次元追放」

 

 無力化手段として結構えぐいと思ってる。だがこれで相手が何であろうと、対人間であれば簡単に無力化出来るだろう。そうじゃなくても対人で言えば俺はほぼ無敵だ。相手の思考に干渉して意識をノックアウトすればそれだけで済む話だし。

 

「それにこのタイミングではまだ誘因体質によるテロは起きないと思ってるんだよね」

 

「それはなぜですか?」

 

「時間が足りない」

 

 まだ滅亡神が目覚めてから数か月しか経過してない。教団が動き出すにしても時間が足りない。原作ゲームだと数年かけて教団は動き出してた人員を確保してたのだから、秘匿されている誘因体質持ちの人間をそう簡単に集められるとは思っていない。

 

 だから女神の狂信者は恐らく銃か爆弾の類で武装していると思われる。

 

「なんだ、銃や爆弾程度なら怖くないですね」

 

「にゃあ、感覚狂ってる気もしますが見慣れてるものですからにゃ」

 

 そう! ショットガンやライフル! バズーカぐらいなら駆間では日常的に見るアイテムだ! 突然校舎が吹き飛んでもなんだ、襲撃か……ぐらいで済むのが駆間という土地! 市長は既に20年連続で任期を継続している!

 

 他に立候補する人がいないから!! 頑張れ市長! 戦え市長! 駆間の平和は市長が守るのだ!

 

 ちなみに瓦礫に押しつぶされそうになったりすると唐突に市長が現れて瓦礫を殴り飛ばして去って行くのは駆間における常識である。ヒーロー系の超人か何かで? 三が日の巫女さんと合わせて駆間最強生物と噂されている。

 

「だから心配するだけ無駄。そもそも俺は別に主人公でもなんでもないんだ。皆、自分の人生の主人公なんだから問題があれば自分で勝手に解決するさ」

 

 特にアンナはそこら辺の隙が無いようにやってるのだから、俺が心配するだけ無駄だろう。

 

「だから、俺達に出来る事は勝つ事だけ―――人間、思っている以上に弱くはないし、自己解決するもんばかりさ。一々出しゃばらなくてもどうにかなると思う」

 

 だからそこまで心配する事でもない。そう告げて解散する。

 

 と言っても同じ部屋にいるから離れるという訳でもないが。寝る前にスキルの確認とアンナから貰ったデータの再確認をし、それからイメージの中でコンボを軽く練習しておく。それで精神統一でもしていればもう寝る時間になる。

 

 鴉羽尊は世間でも評判のグッドボーイなのでちゃんと9時ごろに寝る。

 

 マスター生活は体が資本なのでちゃんとした時間に眠らないとかなり響くのだ。

 

 就寝。

 

 起床。

 

 寝起き。

 

 翌日になった。

 

 起きて直ぐフラメアとアーティが集まると自然と伸びた後ろ髪を梳いてくれる。朝食は何を食べようかなぁ、と想いながら歯を磨いて朝のシャワーを済ませるとアンナの手配した人がやって来る。滅茶苦茶凄い笑顔でニコニコしてるので仕事が楽しいんだろうなぁ。

 

「アンナ様よりスタイリングを任されました」

 

「よきにはからえ」

 

 金持ちって大変だなぁ、と呟きながら凄い勢いと手際の良さで髪とか肌の手入れをされてしまい、服まで用意されてしまう。

 

「アンナ様からのオーダーはフォーマルで紳士らしく、柊の名に負けぬように……というイメージを作れとおっしゃっていましたが、鴉羽様を見た瞬間解りました。この人にその手のイメージを持たせることは不可能ですって」

 

「良く解ってる人にゃあ」

 

 そこ、煩いぞ猫。でも何も否定できない。

 

「ですのでアンナ様のオーダーはドブに捨てましょう! 私の一存でイギリス式ではなくイタリア式のスーツを確保しておきました。勿論、オーダーメイドで体にちゃんとフィットする筈です。鴉羽様はフォーマルではなくカジュアルスタイルで行きましょう! その方が絶対に似合います! だってフォーマルで攻めてもイメ損行動に走るでしょうから!」

 

「君、本当に初対面?」

 

「はい、初対面です! 人は服を見れば人生が解ります! 服には生活、思考、思想、経歴が出てきます。鴉羽様は見て一瞬で解るエキセントリックでユニークな人種です、アンナ様の求めるタイプを満たす事は不可能です! 無理をするのは止めましょう! 真人間のフリは止めて内なる自分を解放するのです!」

 

「そこまでストレートに言われると流石にちょっとへこむんだけど」

 

 良く解ってるじゃんみたいな感じに頷いてるウェルギリウスが一番ムカつく。お前、人の半身を担当してるくせにやけに常識的だよな。もうちょっとこっち側に寄らねぇか?

 

「やりましょう、ちょいワル系! 生まれがカスな人はずっとカスです! どうせ何をしても剛三・ザ・セカンドとか言われるんですから、超える勢いで行きましょう鴉羽様!」

 

「そろそろ窓からお前を投げ捨てても良い?」

 

 どうして才能のある人間ってこうなんだろうなぁ。

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