最強以外ありえない   作:てんぞー

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ぶっ殺すわよ

「イケメンじゃん」

 

「素材が良ければ変な事をしなければ大体どうとでもなります。結局、人間生まれ持った顔ですよ、顔。同じ服でも」

 

「自分の職業否定しちゃうの……?」

 

 スーツの種類は解らないがまあ、カッコ良く決まってるんじゃないか? あまりしないタイプの恰好だから流石に見慣れない……感想を求めて写真を撮って送ると爆速で久遠が食いついてきた。久遠の反応が良いって事は悪くないって事だ。アイツ、ダメな事はちゃんとダメって言ってくれるし。

 

「基本的に一見はフォーマルに見えるように仕上げました。アンナ様が文句を言いますからね。ですが鴉羽様の肌には傷痕とそれをケアした跡がありました。これは自分でモンスターに接して育成するマスターによく見られる特徴です。こういう人はアクティブですが同時に他人に物事を任せようとしない完璧主義な部分があります」

 

 ぱぱぱ、ともう片付けに入っている。

 

「普段の鴉羽様は結構アクティブな感じですね? 動きやすさ重視で服を選んでる感じが体に出てますね。だからそのスーツも上着を脱ぐ、ネクタイを取る、上のボタンを外す等を行ってもスタイルが崩れないようにしてます。だからここからは本気だぞ、というアピールで着崩しても全然大丈夫です。所で後ろ髪だけ長いのはプロファイル的に趣味じゃなさそうなのでぷんぷん女の趣味の臭いがするんですよね。可愛いですね」

 

 サムズアップすると仕事道具を片付けてエレベーターに乗り込んだ。

 

「それでは次の現場が待ってるので! イケメン美少女限定でレッツお仕事! あぁ! 美男美女を好きな風に彩れる仕事サイコ―――! あ、それでは明日もよろしくお願いします」

 

 そう告げるとエレベーターに乗って消えていった。本当に嵐のように現れては一瞬で消えて行くスタイリストだった。ただファッションに疎い俺でも普段の何割増しでシャープな印象を受けるようになってるので、やっぱプロの仕事は違うなぁ……と思う。

 

 プロの仕事が終わったらそのままルームサービスで飯を食う。レストランがあるのに態々ルームサービスで飯を食う―――これこそホテル最高の贅沢なのでは……? そんな馬鹿な事を終える頃にはアンナから連絡が入る。

 

 食べ終わった、必要なものを持ったらロビーに降りる。

 

 そこには昨日とはまた別のゴスロリ姿のアンナがいる。

 

「おはよう」

 

「……まあ、及第点ね。これなら第一印象も悪くないわね」

 

 アンナのオッケーを貰った所で王様がくれたサングラスを取り出して装着する。

 

「やっぱ前言撤回……いや、待って、なんで似合うの??」

 

「それがプロの仕事故」

 

 納得のいかなそうなアンナを連れて待機している車に移動する。モンスター達はアンナが手配した車で別に移動する。ここはイギリスの時と変わらない。相変わらず都市部ではモンスターは制限されている。

 

 或いはあの頃よりも厳しくなってるかもしれない。

 

「尊、先に言っておくけどアンタが取材とかに応じる必要はないわ。ブランドイメージはこっちで作るわ。アンタはいつも通りでいればいいわ。ごめん、嘘吐いた。少しは取り繕って」

 

「俺の事が解ってるじゃん。俺に行儀の良さとか期待するな。俺もできる気はしないから。スタイリストもなんか着崩す前提で服を整えてたし」

 

「アイツ……!」

 

 頭を痛そうに抱えると、深く息を吸い込んでから溜息を吐いた。車は命じられなくても既に会場へと向かって走り出している。まだまだ早い朝だというのに既に道路には人の姿と大量の警備員、連れ歩くモンスターの姿が見える。

 

 どうやら一般人の移動用に警備員を大量配置してるようだ。まあ、確かに一般人に移動用トレーラーの手配は無理か。

 

「解った解った。尊、なるべく喋らないで。というかカメラに映らないで。存在しないで。透明人間になって」

 

「死ねとおっしゃってる?」

 

「アンタに口を開かせたら絶対に問題発言しか残さないからよ!!!」

 

「そんな事は……」

 

 ゲームデータ。この先の展開。メタ発言。命の答え。煽り。真理。

 

「あー……うん、頑張って」

 

「アンタに!! 努力しろって!! 言ってるの!!!」

 

 無茶を言うな。こっちだって人間性を保つ為になるべくこういうキャラを通してるんだから、止めたらマジで何も残らないぞ。無論、そんなことは言えないのでサムズアップでお答えする。

 

 アンナはキレる。そしてどうにもならない事なので静かに頭を抱える。

 

「もう……最低限勝手にインタビューとかに応じなければそれでいいから……それだけ意識してて……」

 

「はいはい」

 

 アンナもこの歳で考えることが多くて大変だなぁ。言葉にはしないが、心の中で軽く同情してから窓の外に視線を向ける。会場に近づけば近づくほど人が増え、モンスターも増えてくる。

 

 見た覚えのあるモンスターが増えてくるとやはりワクワクしてくる。初の遠征だ、新しいコンボや構築を目にするのが楽しみだ。きっと、大多数は有象無象でしかないだろう。

 

 ただ、その中には間違いなくいるだろう。

 

 強者が。

 

 戦うのが楽しみだ。

 

 るんるん気分で窓の外を眺めてれば何時の間にか会場が見えてきた。会場前の敷地には大量の移送用トレーラーや、モンスターを連れたマスター達の姿が見えた。これ全部参加者かぁ。凄い数が集まってる。

 

「参加者は100人を超えるし、観客は余裕でその10倍を超えるわ。腐っただ、落ち目だの言われても柊の名にはこれだけの力があるわ。そしてまだまだ集まるわよ。このドームを客で埋めるからね」

 

「ほえー」

 

「BやAに上がればこんなもんじゃ無いわ。今のうちに慣れないと……いや、アンタ気にするってタイプでもないわね」

 

「まあな」

 

 会場の裏手へと向かおうとするとマスコミが待っていたと言わんばかりにカメラとマイクを向ける。だがそれを遮るように空からオーロラの様な幕が出現し、映像が通らないように遮る。どうやら警備として雇っているマスターがやっているらしい。

 

 よく見るとあっちこっちに強そうな姿が見える。

 

「こういう事も出来るのか……」

 

「アンタが駆間でどういう生活をしてるのかは解らないけど、ランクの高いマスターは色んな所で引っ張りだこよ。こういう仕事も協会の方から回してるし、点数稼ぎにもなる。知ってると思うけど、ある程度協会の仕事をするか功績点を稼いでおくと大会の選出とかで有利に運びやすいわよ」

 

「ふーん」

 

 あまり興味のない所だが、アーサーと東吾にそこはちゃんと認知しておけ、って言われてる。幻想図書館の件はしっかりと協会の上層部と共有されて俺の功績扱いされているし、しばらくは認定戦周りで困る事はないと思っている。

 

 基本非公開の情報なので誰もが知っているという訳ではないが、カスの事も各国のトップ層では広がりつつある話だ。

 

 同時にヒマラヤ山脈が激熱スポットであるのも広まりつつある。

 

 最近、休暇にはヒマラヤ山脈へと向かうSランクマスターが増えているらしい。なんでやろなぁ。報告がないって事は見つけてないんだろうけど。竜王もいい迷惑だと思ってるに違いない。だから一番乗りは俺に任せてくれ。

 

 会場の裏手に到着、車を降りて黒服に案内される。既にあっちこっちから凄い熱狂を感じている。今日、ここで栄光を掴もうとする多数の意志を感じる。その熱狂を感じ取ると、自然とテンションが上がって来る。段々と脳味噌が戦闘用のモードに入りつつある。

 

 まだ早い。自分にそう言い聞かせてブレーキをかけて、ゆっくりとアンナの後を追う。

 

「アンタと私はシード枠。出番はまだまだ先よ。控室を用意してあるし、そこにモンスターも通す予定よ。私達はそこで相談やら観戦やらをする予定だけど……大丈夫?」

 

 手をひらひらと振って応える。

 

 それからアンナに従って会場内を移動するが、通路を通るたびにスタッフが足を止めて、頭を下げながら挨拶をする。ちらほらと顔の見える人間がいるので、本当に才能と技術のある人間を揃えてやってんだなぁ……というのが伝わって来る。

 

「アンナって偉いよな」

 

「どうしたの急に」

 

「いや、俺だったらこういうの面倒過ぎて絶対にやらないのに、お前はちゃんと出来てるよな……って話」

 

「尊」

 

 足を止めてアンナが振り返る。

 

「アンタがあの牧場と土地を与えられて縛り付けられたように……私もお爺様に色々と課題を与えられたわ。そしてそれは恐らく私達だけじゃないわ。お爺様はたぶん全員に何らかの課題を押し付けたわ」

 

「そしてこうするのがお前に与えられた課題の一部、って事か?」

 

「まあ、その延長線上ね。お蔭で学生としてよりも社会人としての時間の方が長いわよ……まあ、学ぶ範囲は既に終えているから別に良いんだけど」

 

「ロリコン婚約者押し付けられて青春取り上げられてるのに偉いねぇ。じゃあ、俺は牧場で青春物語するからよ……」

 

「ぶっ殺すわよ」

 

 青筋を浮かべるアンナの様にひぃ、と声を漏らしたスタッフたちがすごい勢いで逃げて行く。そうやってアンナの事を揶揄いつつ控室に向かい、入り、他人の顔が漸く気にならなくなる。やはり人の多い所は鬼門だな。バトル中とか個性の塊だと気にせずに済むんだけど。

 

「モンスターは後10分もすれば来るわ」

 

「了解。それまで―――」

 

「探検はダメよ」

 

 アンナを見るが、アンナは両手でばってんを作る。ダメ? と首を傾げると中指を突き返される。どうやらダメらしい。

 

「マスコミとかもあっちこっちにいるから見つかったら面倒な事になるわよ。後で歩き回る時間があるから、今は大人しくしておいて。そうじゃなくても今かなり忙しいから」

 

「アンナ様」

 

「あぁ、ごめんなさい。今対応するわ」

 

 控室に入って来た黒服に近づき直ぐに仕事モードに入ってしまった。俺と歳は変わらないだろうに、本当に社会人としての生活がメインになってるんだなぁ、コイツ。

 

 身動きが取れないとなるとだいぶ暇になる。スマホを取り出して時間つぶしにSNSでも漁るか。この大会に関する評判とか優勝候補とか、何か情報が手に入るかもしれない。そう思いながらスマホを弄り出し、時間を潰す事にした。

 

 案外シード枠って暇なんだな……。

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