最強以外ありえない   作:てんぞー

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悪いね

 スマホを弄ってしばらく時間を潰してるとモンスター達が控室にやって来た。

 

 そこからはモンスター達と遊んだりして時間を潰していると忙しそうにしていたアンナがやって来た。

 

「開会式よ」

 

「俺の席があるのか?」

 

「当然、アンタも柊一族の人間よ。顔を出しなさい。だけど喋るな。喋らないでよ? 絶対喋らないでよ!?」

 

「そこまで念を押すほどぉ……? それほどかも」

 

「納得してくれて良かったわ。これが不要になったわね」

 

 そう言ってアンナはスタンガンを黒服に渡した。もし俺が余計な事を喋るようならこれを使うつもりだったのか……甘いな、スタンガンなら克服済みだ。牧場のモンスターの中には電流流すタイプもいるからな。

 

「それじゃ、行くわよ尊。アンタのデビューよ」

 

「ういうい……じゃ、行ってくるな」

 

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

「格好つけて来るにゃ!」

 

「わんっ!」

 

 モンスター達に背中を押される形で控室を出る。

 

 それからスタッフたちの横を抜けるように通路を歩き、人の気配が凄まじい方へと向かって歩いている。段々と熱気が強まって行く。今まで狭い世界で勝負してきたんだな、というのを不意に考える。駆間のモンスター協会にあるスペースは相当大きなものだが、それでもまだ全体で見れば小さなスペースだ。

 

 そして今、メジャーの舞台に立った。

 

 声が世界を支配している。視線。これまで晒された事がない程の視線。見渡す限りのクレヨン。見る景色全てが塗り潰されている。あまりに人が多すぎて、見えない顔が多すぎて、全部塗り潰したように見える。脳が受け入れる事を拒否して痛みを覚える。

 

「……王様にサングラス貰っていて良かったな」

 

 サングラスを装着して、中央の視線を遮る。視界は悪くなるが、痛みは消える。目で見る情報が減ればそれだけマシになる。覚悟してた痛みだが、こうも人混みの中で痛むとなると行動も考えないといけない―――いや、目隠しで歩く事に慣れればいいのか。なんだ、簡単じゃん。

 

 と、開会式を行うステージ横の関係者席までやって来る。

 

「アンタはそこ。大人しくしててね。お願いね」

 

「心配性だねぇ」

 

「アンタ常識あるようで解ってて無視する所あるからね……じゃ」

 

 手を振って、見知らぬ人たちの間に放り込んで去って行く。お手上げポーズを取って席に座る。左側には知らない人、右側にも知らない人。サングラスをズラして見る。サングラスをかけ直す。

 

 視線が集中してる。駆間ではかなり名が知れたが、それでもそれは狭い界隈での勇名だ。メジャーの世界ではまだまだマイナーなプレイヤーなのだろう、こいつは誰なんだろうという視線が観客だけではなく周囲からも向けられる。

 

 その中で、横から声をかけられる。

 

「や、葬式以来やね尊クン」

 

 声の主に視線を向ける。見覚えのない人物だ。首を傾げて服装を見て、それから目を瞑って思い出そうとする。

 

「おいおい、そこまでしても思い出せへんのか? ウチやウチ」

 

「すみません、ウチウチ詐欺は御勘弁を」

 

「詐偽ちゃうわ! 従兄の翔や。翔とかいてか・け・る、やからな? 思い出した?」

 

「初対面ですよね?」

 

「葬式以来や言うたやろ!! はあ、はあ、中々のボケ力やな……!」

 

「ごめん、アンナとDJの事しか覚えてないんだよね、葬式に関しては」

 

「まあ……DJはしゃーないか……」

 

 そう言って翔はけらけらと笑った。どうやら柊一族の人間だったらしい。柊主催なんだからそりゃあ他にもいるだろという話なのだが。雅人以外に見る新しい一族の人にちょっとだけ奇妙な気分になっていると、反対側から呆れる声がした。

 

「あのね、恥ずかしいからはしゃがないでくれる? 同じ一族の人間だって思われたくないから」

 

「なんや茜ちゃんツンツンしちゃって。折角爺さんの秘蔵っ子が現れたんや、仲良うするのが人情ってもんやないの?」

 

「だからこそよ」

 

「んもぉ、相変わらず茜ちゃんはツンケンしちゃってー。あ、此方は君の従姉に当たる茜ちゃんやね。柊翔と柊茜。どっちも名前短いし覚えやすいやろ? 顔ではなく個性で覚えてね?」

 

「頑張ってみる。知ってるだろうけど鴉羽尊、この大会で一番強いからよろしく」

 

 握手のために手を出すと翔だけが握り返した。茜の方は警戒心満々という様子だ。まあ、別にアンナと仲が良いからここにいるという訳では無さそうだ。

 

 んー。

 

 考えるのは止めるか。めんどいし。そういうのを考えるのはアンナに全部任せよう。取り敢えず足を組んで座って大物感を演出しておこう。そうすればこのメンツの中でも負けない存在感を放てるだろう。たぶん。

 

「お、開会式始まるみたいやね。アンナちゃんも今回はだいぶ気合を入れてたし、上手くいくといいねぇ」

 

 なんかあからさまにコイツ上手く行かないって言ってないか? それともただ単に胡散臭いキャラをしてるだけ? ふん、とか言ってアンナの方を睨んでる茜を見ると全部が怪しく見える。

 

 壇上のアンナはマイクを手に開会式を始める。こういう開会のスピーチコンテストってなぜこんなにも退屈なのだろうか? 聞いててもどうせ頭に残らないのだろうしスルーしつつ欠伸をこぼす。

 

「なんや、おねむなんか?」

 

「良く喋るね」

 

「お喋りとは良く言われるね。なあなあ、ウチ、尊クンの事をもっと知りたい思うてんねん。どうせウチらの出番なんてないんだし、仲良うお話しようや」

 

「えー、じゃあ生と死の答えについて話そうか」

 

「ごめん、ちょっとついて行けない話題やね」

 

「えー、妹だと凄い盛り上がるのに」

 

「なんて?」

 

 妹とは悟りあるあるとか、転生あるあるで凄い良く盛り上がれる話題なのに。命の本質とか語ってると数時間余裕で吹っ飛ぶのに……。そうか、一般人には伝わらない話なのかこれ。

 

 寂しいなあ、と思いながらスマホを取り出して、壇上でマイクを握るアンナと、横にいる知らんおっさんぽいのをパシャり。うむ、良く撮れてる。

 

「尊クン、自分、今メチャクチャ注目されてるの解ってる……?」

 

「AI、この写真でマイクロビキニが似合う方をマイクロビキニにして」

 

「尊クン!?」

 

「!?」

 

 周りからえっ、何やってんのこいつみたいな視線が飛んでくる。それに構わずAIが画像の編集に入り、アンナ―――の横のおっさんがマイクロビキニになった。

 

「んふっ」

 

 横で見てた翔がむせた。茜は信じられないものを見る目でこっちを見てる。

 

「アンタがマイクロビキニを着せたのはモンスター協会の重役なんだけど」

 

「AI、どうして少女よりもおっさんにマイクロビキニを着せたんだい?」

 

「話を聞きなさいよ……!」

 

 ピピ、と音が鳴ってスマホから返答が帰ってきた。

 

『女性の意志に反して勝手な映像画像編集を行うことは倫理に欠けた行為です』

 

「すげぇ、俺より倫理観に溢れてる」

 

 翔が崩れ落ちた。周りから畏怖と恐怖の視線を向けられ、必然的にこれをコントロールしてるアンナすげぇ! という感情に変わる。アンナ、お前の評判上げたから後で俺のこと褒めてもいいよ。

 

「それでは今大会のルールを説明します!」

 

「この規模のタッグ戦は珍しいですが、予選などに関してはオーソドックスに進めますから安心してください」

 

「ほーん」

 

 マスターズルール、予選は5戦して3勝したら本戦行き、と。シードの我らは主催者パワーで予選はパス、とのこと。

 

「楽出来そうでええなぁ」

 

「あんちゃんも参加してんの?」

 

「せやで。まあ、戦うのは本戦になるやろな」

 

 となると逆側の茜もそうなのか。ふーん、と声を零すもあんま楽しくないな、と思う。折角の初参戦、最初の大会、デビューなのにいきなりシード枠で予選パスとか面白くないよな?

 

 うーむ、と腕を組んで唸り、あ、そうだと声を零す。

 

「予選をやればいいんだ」

 

「アンナちゃんが段々とお労しく感じてきたなぁ」

 

「欠片も制御出来てないじゃない……!」

 

 よっと、座ってた椅子から立ち上がり、ルール説明を終えて案内に入ろうとするアンナの後ろに回り込んで、襟首を掴んで持ち上げた。

 

「これようやぁ!? なにこ……尊!! 下ろしなさい!! 今! 仕事中わあ―――!?」

 

 そのまま後ろへと向かってアンナを投げる―――丁度翔がいる辺りに。勿論、アンナが握っていたマイクを奪うのを忘れずに。そうやって中央に立てば、なんだなんだと言わんばかりに視線が集まる。うーん、キツイ。キツイけど楽しい。

 

「尊! 早くマイクを……! 翔っっ!」

 

「まあまあ、アンナちゃん。もうちょっと様子を見てみよーや。尊クン、滅茶苦茶面白いと思うんだよね」

 

 カメラが、視線が全て集まるのを待つのに数秒、それからマイクに声を吹き込む。

 

「やあ、皆。大会、楽しみにしてるかい? アンナのパートナーを務める鴉羽尊だ。あぁ、柊の血を引いているとか、名前が柊じゃないとか、色々と気になる事があるんじゃないか? まあ、でも今一番気になってるのはアレなんじゃないか?」

 

「ワシ……!?」

 

 マイクロビキニ重役が驚いた表情を浮かべてるので片手でちょいちょい、と避けるように指示を出す。マイクロビキニ重役が後ろに下がり、スクリーンが見える。そこには対戦方式や予選のルールが出ている。

 

「正直さぁ、大会の主催者だからってシード権貰えるのは舐めてるって思ってない? 俺達は苦労して3勝する必要があるのに、運の要素すら無しに上に上がれるのってズルくね? というか本当に勝つだけの強さあるのか? もしかして……俺の方が強いんじゃね? そう思ってる人ー!」

 

 アピールするように片手を持ち上げる。それに応じるように声がドーム内に響く。同意の声、こんな大会用意したから当然だろうという声、ズルいって声。様々な声が聞こえてくるが、煽ってやれば直ぐにそうだそうだ、と同意する声が増える。

 

「そうだろう、そうだろう。だってズルいよなぁ! 本当に強いのか解らないのに! 雑魚かもしれないのに本戦の枠を1個、自動的にもってっちゃうのは許せねぇよなぁ!?」

 

「誰かあのボケカスを止めて―――!」

 

 必死にアンナが後ろから叫んでるが、翔が爆笑しながらアンナを抑えてる。茜は頭が痛そうに額に手を当て、マイクロビキニ重役はサムズアップを浮かべてる。

 

「知りてぇよなぁ!? 本当に強いのかどうか!?」

 

おぉ!!!

 

「戦う所が見たいよなぁ!?」

 

おぉ!!!

 

「そういう訳で今から3戦、募集する。ルールは予選で使うマスターズルールと同様。今、ここ、この場所でやる。3戦中1回でも負けたらその時点で俺達は敗退……そうだなぁ、俺達が元々持ってたシード権をそのままやるよ」

 

 アンナが力なく倒れ込む。完璧な計画。作ろうとしたブランドイメージ。その全てが完全に崩壊していた。数か月の努力が無に帰った瞬間でもあった。悪いね。

 

 でも駆間出身のマスターとして、シード権とかいう戯けたもんで戦う機会を失う事だけは認められなかった。だってほら、戦う為に来ているのに効率的に進めるのなんてつまらないに決まっている。ここには最強である事を証明する為にいるんだ。

 

 だったら有象無象程度、薙ぎ払って頂点に立たなくちゃ。

 

「さあ、名乗り上げろ! 我こそはというチャレンジャーよ! 俺を! アンナを! 負かして! シード権を手にしてみろ!」

 

おおおおおおおおおお―――!!!

 

 今日一番の歓声。喝采を浴びながら拳を突き上げる。

 

 そういう訳でやるぞ、バトル!

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