「ぶっ殺すわよ……ぶっ殺すわよ!?」
「お、語彙力無くしてる。可愛い」
「ぶち殺すわよ!?」
盛大に煽ってから控室に連れ込まれた。今、表では抽選が行われている。誰が最初の対戦相手になるか、という抽選だ。希望者はそれなりに出たらしくそっから3組に絞ろうというのだからまあ、余分なタスクが発生している訳だ。
主に俺が原因で。
「言ったわよね!? 喋るなって!? 大人しくしておけって事よ? 日本語解る?」
「解る解る。解ってる。だけどシード権を与えられて予選をスルーして本戦スタートはあまりにも酷い」
「何が? 消耗もなく、スマートで常識的な動きよ。良い? バトルは情報戦なの。相手の構築を理解した時点で勝率はだいぶ偏るわ。アンタは、無意味に手の内を晒す事になったの! する必要もない戦いで! それだけ勝率が下がるの」
「面白くない」
「は?」
「それが面白くない」
何を言ってるんだコイツ、みたいな表情をアンナがしている。もしかして言葉の意味が通じてない感じ? いや、アンナは割とまともなタイプだからそもそも理解出来てないのかもしれない。ちょっと待って、と手を前に出して言葉を作る。どう説明すれば良いんだろうか。
「―――つまりは矜持の問題やねぇ」
控室を開けて翔と茜がやって来た。
「尊クンには強者としての矜持があるからシード権で勝ちを譲られるのが本質的に気に入らんのやろな……たぶん。強ければ強い程それに合わせた格や矜持が求められるワケや。尊クンはそれが備わってる。無法な振る舞いもそれだけの能力があるから許してるんや」
解るか、と翔は続ける。
「能力のない人間はまともな職に就けない。だから欲しいもんがあっても我慢して金を溜める必要がある。だけど能力のあるもんは金を稼げる。だから好きなもんをダースで購入できる。本質的にはそういうもんや、これは。尊クンは自分の強さを証明したいんやな」
「たぶんそう」
「頭が痛い……!」
「可愛そうに」
茜が心の底から同情するように呟いた。しかし俺は物凄い納得してた。翔の言葉は俺の説明できない部分を的確に表現していた。援護射撃助かるぜ、とサムズアップすると向こうからもサムズアップを返された。
「人としてはどうかと思うけど、エンターテイナーとしては最強やでコイツ。盛り上げ方を技術ではなく魂で理解しとる。やってる事は最低やけど、コレを乗り越えられるなら一気に名は売れるで」
「そんなの解ってるわよ! 相談すれば対応したわよ! 相談せずにその場のノリと勢いでやらかしてる事にキレてんのよ!!!」
「それはそう」
全員揃って頷いてるので俺の味方はいないらしい。悲しいなぁ。でもバトルができるのでオッケーです。もはやここまで話を広げてしまった以上、撤回することは不可能だ。
あとは戦うのみ。
「ま、お手並み拝見という所や」
「応援してるわ。家名を汚さないようにね、まだまだ使う看板なんだから」
そう言ってひらひらと手を振りながら茜と翔が去って行った。あの二人は利益で繋がるタイプか。まあ、解りやすくていいな。去ったのを見届けてからアンナへと視線を戻す。
「で、アンナは準備いい?」
「どの口で……まあ、いいわ。勉強代だと思っておくわ」
たっぷり数秒かけてメンタルのコントロールに成功するとアンナは俺に視線を向けて、で、と言葉を作る。
「勝てるの」
「俺が負けるとでも?」
「可能性は誰にでもあるわ。アンタだってここに来る前に1回負けてるでしょ」
「あぁ、まあ、それを持ち出されたら弱いんだけど」
花火師、俺の前に立ち塞がるか……! あの戦いは負けてしまったが、満足だ。相手がマスタースキルを使えないと仮定して戦ってしまった。つまり、俺の慢心が敗因だった。
「二度目はない。強がりとしてではなく、事実として。もうCで俺に勝てるのは居ないよ」
「……解ったわ。アンタを信じる。そもそもそれしか選択肢はないしね……で、プランは?」
「初戦はフラメアでやる」
「解ったわ。こっちはそのサポートに入ればいいのね。作戦は?」
「言葉では追いつかないからシンクロ通して意思疎通取るよ。そのほうが早く反応できる」
「アマチュアのやることじゃないわよねそれ」
だけど駆間ではみんな対応してくるよこれ。事前に数十パターンぐらい用意してそれを習熟して、思考せずに反射で対応パターンを適応することで0秒で反応対応するというテクニック。
これが出来ないと最高速度で戦闘構築する事が出来ないのだ。まあ、駆間の環境は詰め詰めの詰め環境なので外とは違うだろうが、それでも大会に出てくるのだから、最高速度で反応するほうが良いだろう。
だから発声ではなく思考で指示を出し、反応させる。
声に出すだけで数秒ロスになるからね。
出さずに指揮できる方が当然強い。だから言葉を使わない方が強い。この手段は東吾達で既に使えると解ってるので問題もない。あるとすれば相手が同じレベルの相手だった場合だが、それはそれで大歓迎だ。
控室の扉が開く。黒服が現れる。
「アンナ様、尊様、準備が整いました。舞台へどうぞ」
「はあー……解ったわ。勝てばいいのよ、勝てば」
「解って来たじゃん」
「アンタが余計なことをしなければ何も問題はなかったの!」
「あったよ、問題」
「何よそれ」
踏み出し、近づいてきたフラメアの手を取って、両手を広げる。
「楽しくない」
「楽しくって……!」
「アンナ」
背を向けて控室を出る。
「ゲームは、運以外の全てを排除して、公平に殴り合うから面白いんだ。お前は完璧主義者だって解ってる。見れば解る。だけど遊びが足りない」
「アンタが遊び過ぎなのよ」
かもしれない。だが遊びのない人生に意味はない。
なにせ、人の命や人生にそもそもの意味などないからだ。そこにどれだけの価値を見出すのかは個人次第だ。だから遊びのない人生はただの生の浪費だ。
前までの俺がそうであったように。
通路に出て再び中央へ、今度はモンスターを伴って戻る。俺が連れてゆくのはフラメア。アンナが連れてきたのは魔導書の形をしたモンスターであり、フラメアの様な魔法をメインにしたモンスターとの相性が良いサポーターだ。
二人で中央ステージに戻れば、そこには対戦相手の姿が既にあった。
『さあ、対するは柊アンナ&鴉羽尊ペア! もはや柊アンナさんに関しては説明不要だろう、だが此方、鴉羽尊は驚愕の経歴を持つマスターだ! マスターになってまだ僅か1年と少し! だがフリーマッチを含めた対戦数は1000を超え、勝率は90%以上を常にキープ! 駆間においてCランク最強、最優、最善の名を手にする駆間の刺客だ!』
会場がざわめく。視線をアンナに向ければ頭を横に振られる。調べられたみたいだ。まあ、知られて不味いのは滅亡神の事ぐらいだ。他のことは特に知られても痛くはない。
ステージに立ち、反対側を見る。そこにいるのは男女のコンビだ。
「西条拓海と西園姫華ね。直近で大会優勝経験のある二人ね」
「西西コンビか」
「思っても言わなかったことをコイツ」
反対側に立つ西コンビは既にモンスターを出している。マスターズルールにおいてモンスターの変更は控室を出た時点で禁じられる為、今2人が連れているモンスターこそが戦闘に出す為のモンスターだ。
その2体とは―――ドラゴンだ。
うちの牧場にもいる個体、それが2体並んでいる。
「ドラグロか、合理的だな」
「ドラグロ?」
「ドラゴンアグロの略だよ」
硬い! 早い! 強い! 種族値のパワー! それこそドラゴンという種族の特徴であり、強みだ。育て辛いというデメリットがあるが、それを乗り越える事が出来ればドラゴンというモンスターは大いに力になってくれる。
まずは種族値が高いため、物理でも魔法でもどちらでも戦える。ブレス系統が習得できる為に燃費の良い全体攻撃も使える。種族連携でドラゴンでチームを組めば戦闘開始時にバフを取得する事も出来る為、ただでさえ高いステータスを更に増強する事が出来る。
これで殴ればそれだけで勝てる。それぞれのステータスで負ける相手はいるが、種族としてはCランクにおける最強のモンスターだと言えるだろう。それがドラゴン。それを雑に並べて殴る。これだけで大体の相手には勝てる。
ドラゴンの育成の大変さは解る。それを2体揃えて並べるというのも中々ハードルの高い行いだろう、この世界では。
「んー……育て方からして物理型かな。サブウェポンにブレス搭載して、素早さと力をメインに伸ばしてる感じかな、これは」
「見て解るの?」
「おいおい、牧場住みだぞ。毎日モンスター達を育てて面倒見てるんだから、肉の付き方とかで大体どういう風に育ててるのかは解るよ」
ここら辺もモンスター協会の基本コースで学んだ所でもあるのだが、牧場でモンスターの世話をしている間に理解に至った事でもある。ゲームでは対戦相手の育成による調整は見られないが、現実だと肉体を観察すればある程度の方向性は見えて来る。
基礎、大事だよなぁ。
モンスターを置いてステージ中央に立ち、対戦相手の前に出る。
「対戦、よろしくお願いします」
「あ、はい、対戦よろしくお願いします……って普通に言うんですね……」
「そりゃあマナーだからな。戦うのだからこそ身綺麗に、相手をリスペクトし、全力で叩き潰す。それが戦いの作法だ」
「成程、納得しました。此方もよろしくお願いします」
「えぇ、よろしくお願いしますね」
軽く言葉を交わして別れ、ステージの端に移動する。フラメアの横を抜けながら指示を出す。
「遠慮するな」
「しません。マスターの強さを、その名を轟かせてみせます。見ていてください、貴方の一歩目を作りますから」
「任せた」
気合十分という様子のフラメアの横を抜けて安全な位置に立つ。相手も同じようにステージの反対側へ、決勝戦で使う様な豪華なステージを舞台に、二つのチームが相対する。片手をポケットに、首元のネクタイを緩めてボタンを外す。アンナが横からジト目で見つめて来るが無視する。
スタイリストは着崩しても問題ないと言ってた。じゃあええやろ。
『さあ! 両チーム初期配置に着いた! ドラゴンを揃えた西条西園ペアに対して柊鴉羽ペアは魔法使いとそのサポーターらしき組み合わせだ! ドラゴンの牙に果たしてその柔らかそうな肌で耐える事が出来るのか!? その魔道は鱗を貫く事が出来るのか!?』
アナウンスが飛んだ時。
警備についていた一般Aランクマスターは死ぬほど嫌な予感がした。装着していた無線をタップし、会場の警備を行っている他のマスターたちへと素早く連絡を入れた。
「此方水無瀬、この試合ちょっと嫌な予感がする。バリア張った方が良い」
『マジ? 了解』
『ダメカ100%やるぞ』
『うす』
『了解』
彼らの反応は早かった。Aランクは上澄みの世界。強敵と対峙し、命を懸ける回数だって両手の指で数える事が出来ないぐらいになって来る。この領域になると自然と強者の見分けがつくようになる。才能のある人間とそうではない人間の区別がつくようになる。
そして鴉羽尊という少年は此方側の住人だと彼らは気づいていた。
『さあ、試合開始まであとわずか……両者ともに緊張の様子はない……カウント開始30秒前……さあ、ビッグマウスに相応しいだけの実力があるのかそれを見せて貰おう! 20秒前!』
カウントが始まる。もうすぐ試合が始まる。会場の警備だけではなく、戦闘によって発生する流れ弾の類が観客席へと飛ばないようにするのも彼らの仕事だ。だからタンク用のモンスターで広域防御と、あらゆるダメージを軽減する為のバリアとダメージカットを用意しつつ備えていた。
『5秒前―――』
カウントが。
『4! 3!』
ゼロへと近づき。
『2! 1!』
鴉羽尊の瞳から人間らしい色が消え去った。その瞬間、ヤバイと反応し、判断した。
「全力防御!!」
『バフ入れた!』
0。
その言葉と共に会場が試合の開始に声を響かせた瞬間、鴉羽尊の連れたモンスターを中心に光が放たれた。地を這い、空間を塗り替える光はフィールド展開型のスキルだ。それによって会場内、ドームの全てが上書きされ、有利なフィールドへと塗り替わる。
即ち《幻想図書館》へと。その瞬間何が飛ぶのかを理解し、そんなものをCランクに持ち込むなクソボケと叫びたいのを堪えて職務に集中しつつ、これから行われるであろう惨劇に目を向けた。
《無詠唱》。言葉なく最強の詠唱スキルである《暴走詠唱》を引っ張り出した金髪の錬金術師の少女……それを魔導書姿のモンスターが全く同じ動きを取る。イギリスのダンジョン、幻想図書館の踏破報酬でしか得られない筈のスキル、現在アーサーと東吾だけが所有している筈のスキルがどうして、と問うだけの時間はない。
加速して攻撃に入るドラゴン達は一瞬で少女へと向かって飛翔する。アグロの定番の動き。連続攻撃で要となる対象を一気に倒し、戦闘を終わらせる。
それに鴉羽尊が介入する。
熱狂と爆音響く会場のなか、時が止まるように全てが停滞し、その中で1人だけ、自由に動くように片手で首を掻っ切るようにジェスチャーした。
「《ワープスター》」
速度を、動きの順序を、物理法則を超えて動かすマスタースキルが号令として放たれた。Sランクが試合で運用する様な味方全体への先制付与。本来、反応出来ない筈の魔女と魔導書とドラゴン達の速度関係は、この一瞬で完全に覆った。
魔導書がそうして燃え尽きた。
それを見ていた警備のマスターは《サクリファイス》だな、と無線の中で呟いた。
『《ファイナルギフト》での詠唱譲渡か! あっ、図書館クソコンボ……』
ウェルカム死。来館した新たなマスターにとりあえずという感じで通される図書館製雑魚モンスターの死のコンボ。サクリファイスエスケープを使った変則コンボまで用意されているので図書館の雑魚の殺意は高い。その事実をマスターたちは思い出しつつ、次の魔法も予測出来た。
捻じ曲がる空間。
砕け散る世界。
歪みに飲まれるドラゴン。
無属性上級クソ魔法《ディストーション》。環境に唐突に現れたディスペル効果付き魔法は上位帯のランプ構築の詰みを破壊し、アグロの1回限定バフを粉砕するというカスっぷりを発揮していた。発動に詠唱コストが10必要となるものの、そのコストは《暴走詠唱》で賄える。
ドラゴンが一瞬でミンチ肉になり、ドラゴンミンチが生まれる。これで行動は終了する? そんなわけがない。
『マスタースキルを使えるマスターが2体目のケアを忘れる筈がない』
無線に声がする間にはまるで空間に魔法がやまびこするように干渉し、発動された魔法が再発動する。上級カス魔法が再び発動し、残された1体に向かって魔法が入る。
「耐えて!!」
上級魔法が叩き込まれ、血反吐を吐きながらドラゴンは生き残る。吹き飛び、それでも生存し、連携で獲得したバフを剥がされてもまだ動き―――魔法が融合する。
空間の歪みが混じり合い、砕け散った境界面から混沌が泥のように溢れ出す。瞬間的にマスターを保護する必要があると判断した者が待機している所からバリアを飛ばし、ステージの上で指揮するマスターたちも保護する。
それと同時にステージを、溢れだした混沌が飲み込み、破裂した。
会場全体に響くように発動した混沌の衝撃は破滅的な衝撃を響かせながらあらゆる物体を破壊する。受けきれたのはそれがまだ第4世代のモンスターが放ったからに過ぎない。混沌の泥が全てを洗い流した後に残されたのは無残に破壊されたステージ、その両脇に立つマスター、そしてその中央に無傷で立つ魔女。
10秒もかからない戦闘、その全てを認知出来るマスターは果たしてどれだけいただろうか? 完全に破壊されたフィールドに立つ少年は人差し指を掲げた。
「―――まず1勝」
あまりの衝撃に会場が沈黙に包まれ、それから爆発する様な歓声の中、勝者として戴冠する。その光景を眺めながら無線に声が入る。
『ダンジョン外で大規模破壊レベルの魔法を使うなクソボケ……!』
それはそう。働くマスターたちが誰もがそれに同意しつつ感じ取った。
―――アレは、マスターとして格が違う。
羊と狼が入り混じった群れの中に。
1匹だけ。
異形の化け物が混じってる。