最強以外ありえない   作:てんぞー

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悪の柊一族よ、正義の力を受けるが良い

「決着ぅー! 鴉羽柊ペアの勝利! 圧倒的な戦闘力で勝利を収めました! 強い! 強いぞこのペアは! 優勝候補の一角を一瞬で崩しました!」

 

「いやぁ、鮮やかな勝利でしたね。短時間ながら両者のタクティクスが光って見えました。瞬きしている間に終わってしまったと嘆く人もいるでしょうから、次の試合の準備が終わるまで映像と共に今の試合を振り返りましょうか」

 

 歓声に溢れる客席、放送席ではMCと解説役の協会重役がマイクを前にしていた。ドーム内の巨大なモニターには先程の試合がスローで流れる。

 

「まずは西コンビによるセットアップですね」

 

「ドラゴン構築における当然とも言える《レギオン》による相互バフですね。元々飛び抜けて能力の高い種族ですが、並べることで更に強化されるというサポーター要らずの強さを見せます。今回はそれが仇になりましてなぁ」

 

 バフを発揮し強化されたドラゴンが素早く動く。何千回も繰り返してきた思考を必要としない動作、それは最短でモンスターを動かす事を可能にした。

 

「仇になった、とは?」

 

「ドラゴンは強いです。下手なサポーターを入れるよりも並べて運用する方が強い……並び立つモンスターが少ないのですな。だからドラゴンを使うものはドラゴンという種に縛られる。その結果、対応力を失う」

 

 映像はフラメアと尊を映す。その表情に感情はなく、異様な速度で眼球が動き、全てを把握する様に捉えていた。

 

「鴉羽氏の開幕マスタースキルはそれを把握しての動きでしょう。対応できるサポーターがいない、言ってしまえばアグロに甘えた動きをしてる。妨害や阻害系統を積めませんからな、先手取ってワンパン火力を通せば勝てると構築を見た時点で察せたでしょう」

 

「そこまで、ですか?」

 

「マスタースキルを防御ではなく攻めに使いましたな。あぁ、ここです。リソースの切り方を理解してますなぁ。マスタースキルを防御として使うと追加のリソースで押し切られるだけ、だから攻め手に使うのがベスト。初手で先制を付与することで相手の対応範囲を超えた……」

 

 《幻想図書館》の展開。一瞬で上書きされるフィールド。

 

「柊氏がここで《サクリファイス》を使って自殺し、開幕《無詠唱》で引っ張ってきた詠唱を譲渡したのは妙手だと思いますな」

 

「事前に決めてた作戦のように思えますが、ここでモンスターを自殺させながら戦う事を戦術として組み込む度胸には驚愕しかありません! 普通は有りえないことですよ」

 

「命をリソースと割り切った戦い方ですな。一般的には忌避感のあるやり方ですが、上に行けば行くほど体力はリソースとして割り切る必要が出てきます。柊氏にはそれがちゃんと出来てます。これは伸びますぞー」

 

「将来が楽しみですね!」

 

 《ディストーション》からの《復唱》。連続で発動する単体上位魔法、挟み込まれるマスタースキル、そして追撃の合体魔法。このランクでは見ることの難しいかなりハイレベルな攻防だった。

 

「西園氏は耐えれば火力で押し切れると判断してここで切ったんでしょうな」

 

「間違いでしたね?」

 

「一概には間違いだとは言えませんな。これが別のモンスターなら恐らくは耐えて、合体魔法をマスタースキルで耐えられてたでしょう。その場合はカウンターでリーサルでしたな。ですがこのモンスター……新種ですな? 恐らく魔力カウンターが詠唱に連動して二段階上昇してますな」

 

「なるほど、それで耐えられなかったのですね」

 

「無ければまあ、耐える範囲だったでしょうが、コンボを見てる限りそれ込みで確殺ラインを確信してるところはありますな。攻撃の派手さに隠れてますが、鴉羽柊ペアの恐ろしさはその派手さよりもリーサルラインを探り、見極める眼力でしょうかなぁ……」

 

「解説、ありがとうございます! 所でSNSにマイクロビキニ姿の画像が放流されてるので早めに対処した方がいいですよ」

 

「今なんて?」

 

「どうやら次の試合の準備が整ったようですね……おや? 鴉羽柊ペアはモンスターを変えたみたいですね」

 

「え、待って、流出? マジ? 待って」

 

「鴉羽柊ペアに対するは(くろがね)兄弟! そのアツい鋼の魂を主催者に叩きつける事が出来るのか!?」

 

「待って。待ってえ」

 

 

 

 なんか放送席が地獄になってる。が、バトルには関係がないので気にしない事にする。アンナも両手で耳を塞いで何も聞こえないようにしている。一通り現実逃避を止めてからアンナは両耳を解放し、こっちを見上げた。

 

「で、モンスターを交代させて良いの? どんどん情報抜かれてるけど」

 

「強い奴程素早くメタ張って調整してくるから入れ替えないと次の試合で負けるってのはざらにあるよ。1構築だけで押し通すと絶対に相性不利の構築を持ち込まれて負ける。こういう場合は複数の構築をランダムに見せておく方が相手の読みを誘発させられるから良いよ」

 

「意外と考えてるのね。てっきり面白いからそうしてるのかと思った」

 

「それもある。けど勝ちに行くときはガチだよ、俺は―――な、チビ」

 

「わんっ」

 

 デカいし厳つい顔をしてる癖に声は可愛い。中身が一生チワワのままのチビがステージに上がった。アンナが連れてきたのはチビとは別系統の魔狼型モンスターで、チビと種族シナジーが取れるようにしている。

 

 能力やコンボで構築するのも良いのだが、このゲーム……というより世界は、種族でもシナジーを取れるようになっているので、統一構築でもある程度のパワーが発揮できるようになっている。好みのモンスターを揃えた! でも十分にメインストーリーぐらいは攻略できるようにする為の配慮だ。

 

 まあ、最終的にはキメラ構築でスキルシナジー重視になるのだが。

 

 対戦相手の鉄兄弟は実の兄弟での参戦らしい。フィールドに立っているのは無機生命―――つまりロボットのトリケラトプスとプテラノドンだ。恐竜を模した機械のモンスター達、或いはメタルボッツと呼ばれるシリーズのモンスター達だ。

 

 モンスターを見た瞬間何をしたいのか一瞬で察してしまえるので、ステージに2人が上がった瞬間からテンションは上がっている。

 

「尊、作戦は事前の相談通りで良いのね?」

 

「大まかにはね。細かい所は直ぐに教える」

 

「了解……はあ……」

 

 1回だけ溜息を吐くとそれ以来何も言わなくなる。諦めたというのが正しいのかもしれない。アンナが静かになった所でステージ中央に立ち、まず最初に挨拶する。

 

「対戦、よろしくお願いします」

 

「兄者共々よろしくお願いします……我ら、メタルヒーローの魂を見せつけてやりましょう」

 

「期待してる」

 

 サムズアップを送り、元の位置に戻る。すれ違うチビがもうちょっと一緒に居たいという顔をしているが、これから試合なので我慢して貰う。

 

 安全な場所にまで下がり、指示を出せるように待機する。カウントダウンが始まり、試合が開始するまでの僅かな時間……この時間が何時も自分をワクワクさせてくれる。希薄だった感情を一番最初に刺激したのもバトルだった。

 

 つまる所、この鴉羽尊というキャラクターの芯にあるのは勝負、戦いだ。それだけが最初からあった本物なのだ。

 

 深呼吸―――カウントダウンに耳を傾ける。余計な数字は耳に入れない。ゼロ、それだけを待つ。それ以外を忘我し、無我のまま待つ。作戦と動きを頭の中に叩き込み、全ての準備を終えて、その時が来る。

 

『ゼロ! 試合―――開始ッッ!』

 

 正面を見た。

 

 チビは《ロケットスタート》を決めた! 素早さが1段階上昇した!

 ルナウルフは《満月の夜》に吠えた!

 《狼の時間》がやって来た!

 静かな夜に狩人達が舞い降りる! クリティカル率が上昇した!

 

 まずは基本の開始スキル。素早さを上げつつシナジースキルでクリバフを獲得し、フィールドスキルで攻撃をサポートする。《満月の夜》は狼系モンスターの与ダメ上昇スキルで基本的に使っていて腐らないフィールドスキルだ。クリバフでクリ率を上げておけばダメージの底上げも狙える。

 

 基本的なスタートだ。妨害もなくて悪くはない。

 

 だがここからが本番だ。

 

「行くぞ、弟者!」

 

「うむ、兄者!」

 

 ステージの反対側で鉄兄弟がハイタッチを決めて、此方と同じように登場時発動スキルを発動させる。ステージに立ったトリケラトプスとプテラノドンが飛びあがった。

 

「今こそ! 鋼の魂を呼応させる!!」

 

「正義が! 悪を許さぬ鋼の心が! 悪を倒せと叫んでいる!」

 

「許さねぇぞ柊一族!!」

 

「風評被害って言えないのが悲しいわね……」

 

 アンナがなんか悲しい事言ってる間にも時が止まったように世界は停止し、その中でトリケラトプスとプテラノドンだけが動く。

 

 飛び上がったトリケラトプスの頭が外れ、肉体が四つのパーツに分解される。プテラノドンは翼が外れ、肉体は折りたたまれ頭は外れ、胴体がコアパーツになり、尻尾は抜けるように外れる。トリケラトプスの分解されたパーツが腕と足へと変化し、空中でドッキングする。

 

 ぎぃん、がっしょん。例の合体エフェクトが煌めく。

 

 尻尾が剣へと変形する。トリケラの頭が盾に変形する。胴体から新しい頭が出現し、プテラの頭がバイザーの様に装着される。背中に改めて変形して大きくなった翼が装着され、盾と剣が握られる。全身から電流をほとばしり、ポーズを取り、ステージの上に轟音と共に着地する。

 

「正義のメタルヒーロー!!」

 

「テツリュウオー! ここに見参ッッ!!」

 

「悪の柊一族よ、正義の力を受けるが良い―――というロールプレイだ! これはあくまでもロールプレイの一環であり、本気で悪だと言っている訳ではない! 訴えられたくないからこれだけは言っておこう! これは趣味のロールプレイです! よろしくお願いしますッッッ!!」

 

「アリなのそれ……!?」

 

 アンナの叫び声に深く頷く。

 

 アリなんです。

 

 合体軸、機械系モンスターだけではなく融合、憑依系もありますよこのゲーム。特定のモンスターの組み合わせのみで出来る必殺技みたいなものなのだが、ガチな性能してる奴とそうじゃない奴で結構面白い構築だ。

 

 で、目の前にいるのは比較的にガチなタイプ。

 

 油断してると普通に負ける。というかフラメアだったら間違いなく負けてたなこれ。耐久力とスキルの方向性的に瀕死からの即時介入の即死火力カウンターで死ぬな。チビに切り替えていて良かった。

 

 テツリュウオー見参! ステータスが強化された!

 テツリュウオーが剣を抜いた! スキルが更新された!

 テツリュウオーを覇気が満たした! 全ステータス1段階上昇!

 テツリュウオーは強いぞ! 凄いぞ! 不屈の意志を獲得した!

 チビの《挑発》にテツリュウオーは乗ってしまった!

 ルナウルフは群れと共に狩猟する姿勢に入った!

 

 魅入ってスキル処理を忘れる事は偶にある。気を付けよう。相手の開始時行動が完了し、介入可能になった瞬間に《挑発》を差し込んでヘイトを取る。ルナウルフは追撃型のキャラクターだ、チビが動いたら動くスタイルになる為、能動的には動かずに姿勢だけを整えて待機する。

 

「行け! テツリュウオー!」

 

「正義の力を見せるんだ!」

 

 テツリュウオーの《プラズマスラッシャー》!

 チビは回避した!

 チビの《カットバック》が回避に連動した!

 ルナウルフはチビの動きに《追撃》した!

 

 ステージを両断する程の斬撃、視界全てを白く染め上げる程の光量とプラズマの発露、しかし物理攻撃であるがゆえにチビには届かない。横にステップを取るように攻撃を回避したチビはそのまますれ違うように爪を振るい、斬撃をテツリュウオーに刻み込む。

 

 大体5%という感じか。ルナウルフの追撃が入りトータルで1割ぐらい削れる。

 

 硬っ! Cランクのアタッカーがして良い耐久力じゃねぇ!!

 

「む、兄者よ、回避されたぞ」

 

「弟者よ、こういう時は回避できない攻撃を選べば良いのだ。悪の柊一族よ! 受けるが良い! 正義のプラズマミサイルを!!」

 

「プラズマミサイルに正義も悪もあるのかしら。というかBGM変わってない?」

 

「合体ロボ系統は出現すると近くの電子機器乗っ取って専用BGM流し出すよ」

 

「そうなんだ……」

 

 ちょっと古風だけどカッコいいタイプのロボットBGMが鳴り響く、俺達が小さな漫才をしている間にも戦況は進み、テツリュウオーの全身のハッチが開く。ミサイルがそこから射出され、ステージを逃げ場なく焼き払おうとする。確か必中じゃなくて魔法攻撃扱いだったな、これ。

 

 まあ、魔法攻撃で来るのは解ってた。

 

 チビの《アヴォイドマジック》! 魔法回避状態を獲得した!

 ルナウルフは群れで狩りをする!

 テツリュウオーの《ミサイルレイン》!

 

「うぉぅっ!」

 

 降り注ぐ小型ミサイルの雨の合間をチビがすり抜けるようにテツリュウオーへと肉薄し、すれ違いざまに斬撃を入れる。《カットバック》は回避成功時に小ダメージを相手に与えるオートスキルだ。《カウンター》や回避ビルドと相性の良いスキルだが、いかんせん、この時期で小ダメージはちょっと弱い。しかも力依存だし。

 

 カスダメとはいえ、ダメージだ。チビがカウンターダメージを発生させ、HPを半分以上焼き払われたルナウルフが追撃する事で合計20%までダメージが蓄積する。ダメージレースは負けているが、焦る必要はない。攻撃に出るのはバフを終えてからだ。

 

 チビは《爪とぎ》を行い攻撃とクリティカル率を上昇させた!

 テツリュウオーの《ミサイルレイン》!

 チビは回避した! 《カットバック》が連動した!

 ルナウルフは倒れた!

 

「きゃぅーん―――」

 

 ミサイルの雨に飲み込まれて耐えきれなかったルナウルフが焼け焦げて死亡した。死体がばらばらになってあっちこっちはじけ飛ぶ刺激的な映像を前に、正義の力を示した鉄兄弟が気分を良くするも、その視線はまだ無傷のチビを的確に捉えている。

 

 視線的にまだ探り探りか? 回避力がどれだけかを把握できてないみたいだな。回避特化は物凄いマイナーなビルドだ、直ぐには回避に特化しているとは判断し辛いだろう。

 

 故にもう1段階。

 

 チビは《爪とぎ》を行った!

 テツリュウオーの《スナイプシュート》!

 チビは回避し、《カットバック》が連動した!

 

 クリティカル。今のは大体20%ぐらい削れたか。《スナイプシュート》は必中属性ではないが高命中を誇るスキルだ。《ミサイルレイン》は範囲用、《プラズマスラッシャー》が単体用、《スナイプシュート》が対回避用という所か。

 

 趣味構築をガチ環境で戦わせるためにある程度環境を見た上で対策を入れてるタイプだな。物理と魔法を使い分けているとなると間違いなくハメ殺し対策の必殺コンボを持っている筈だ。この手の趣味構築は必中+根性殺しをワンパン火力に仕込んでおきたい。

 

 俺がフラメアでやる単体合体魔法コンボみたいなものだ。

 

 相手を確殺する為のコンボを絶対に用意している筈だ。

 

「兄者」

 

「弟者よ、もう一度だ……!」

 

 チビの《アヴォイドマジック》!

 テツリュウオーの《スナイプシュート》!

 チビは回避し、《カットバック》が連動した!

 

 掠りもしない。ランクを大きく飛び越える程の回避力を有したチビは根本的にメタを用意しない限り高命中攻撃を活用した所で攻撃が当たる事はないだろう。だからこそチビを見たら《粘着糸》を構えるのが駆間で流行っている。最低限《粘着糸》さえ入れば高命中攻撃が通るようになるからだ。

 

 だがここにその準備はない。

 

 つまり。

 

「弟者よ、テツリュウオーの必殺攻撃を解放するぞ!」

 

「兄者! 了解だ!」

 

 てーっててーてーてーてー。

 

 BGMがクライマックス仕様になった。

 

 剣を掲げたテツリュウオーに雷が落ち、金色に輝き始める。トリケラシールドとプテラノソードが合体し、巨大なダイナソーアクスへと変化する。もしかして俺思考汚染されてねぇかこれ?

 

「行くぞ悪よ……受けるが良い、我らが必殺コンボを!!」

 

「ほおおああああ―――《当てろ》!!!」

 

 最もシンプルで、最も対処し辛い介入手段。

 

 マスタースキル。主の命令に従いテツリュウオーに必中効果が付与された。だがそれではワンパン火力に届かない。つまり、ここから残していたスキル枠によるバフが入る。

 

 番組の終わりが近い! テツリュウオーの《ファイナルアタック》!

 クライマックスに命が輝く! テツリュウオーの《ショウタイム》!

 テツリュウオーは皆の応援に応えるぞ! 《ギガントフォーム》!

 

 攻撃後に死亡、クリティカル率上昇、1戦闘1度のみダメージ倍化。見えてないのは《ストライクプラス》による追撃か? 行動後に死亡してもそれで相手を倒せた場合、そのまま勝利判定になるから1対1の状況を作った上で《ファイナルアタック》を駆使した自爆戦術はアリだ。

 

 というか詰めの一手として大変優秀な手段だ。

 

 必中、超ダメージ、クリティカルによる防御無視。確実に相手単体を屠る為のCランク決戦コンボだ。かなり戦術詰めて来てるだけに予選じゃなくて本戦で会いたかったなぁ、という感想が出て来る。

 

「覚悟は良いか!?」

 

 必殺の宣告に、此方もヴィランの様に応える。無言で半身を前に、片手でカモン、と指をクイっとする。此方の対応にふ、と笑みを浮かべた。

 

「行け!! テツリュウオー! ファイナルギガントソードだ!」

 

「ちなみに中身はただの《プラズマスラッシャー》である。欲しかったなー! 専用スキル! もっとランク上げないと駄目かー!」

 

 金色に輝くテツリュウオーの《プラズマスラッシャー》が迫る。チビが回避の為にステップを取ろうとし、時空を歪めるように最速、最短のルートでテツリュウオーが迫って来る。食らえばチビと言えども即死必至だろうし、これを回避する事は不可能だ。必中が付与された状態だと絶対回避でも回避しきれずにダメージを受ける。

 

 これでデッドエンド―――な訳がない。

 

 そう、速度は此方が上だ。相手の攻撃の前に此方が1行動挟み込むだけの時間はある。普通は反応しきれないかもしれないが、モンスターとシンクロし、思考を共有し、意識を加速させた世界では言葉ではなく、意志で相手の行動を促す事が出来る。

 

 だから勝つための一手を命じる。

 

「《デモリッション》」

 

 言葉が届くのはチビが行動した後。それが音の追いつくタイミング。《デモリッション》、それは滅亡神でも活用した―――キャンセルされたが―――マスタースキル。

 

 モンスター1体の攻撃にディスペル効果を付与するというもの。

 

「少し必中を付与するタイミングが早かったな。それでも対応出来たけど」

 

 言葉が終わる頃には戦闘の結果も出た。ディスペル効果を持ったチビの放つ攻撃が《プラズマスラッシャー》よりも早く到達し、バフ効果として付与されていた必中効果を破壊する。その後に《プラズマスラッシャー》が着弾し、チビが回避し、カウンターが発動し、斬撃をすれ違いざまに刻み、ターン処理が終了する。

 

 テツリュウオーは空振りから復帰しようと振り返り、からだが悲鳴をあげる。

 

 必殺火力の為に積み込んだ《ファイナルアタック》の自殺部分はバフではなく解除不可能デバフだ。《デモリッション》でこれは剥がれない。テツリュウオーはオイルの涙を流しながら武器を掲げるように立つと、スポットライトを浴びながら静かに機能停止した。

 

『け、けけけ、決着ゥ―――! 心熱き鋼の勇者、ここに沈黙するッ! 勝者! 鴉羽柊ペア―――!』

 

 歓声の雨の中、拳を掲げて指を2本立たせる。

 

「そして2勝!」

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