最強以外ありえない   作:てんぞー

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キレながら喋るなよ。シワになるぞ

 ステージを去って控室に戻って漸く背筋を伸ばせる。サングラスである程度視線を遮ってるが、それでも視界範囲が気持ち悪い事に違いはない。控室には見れるものばかりだ。戻ってきてチビのもふもふに埋もれればそれだけで精神力が回復する音がする。

 

 まあ、最初の2戦が比較的に運が良い相手だったのは自覚している。そもそも抽選はしているが、手札を見せてでも勝とうという意思のある奴らだけが立候補する形式だったし。最後でケチが付いたが、概ね満足だ。

 

 このレベル相手だったら正直負けはないだろうが、まだまだ見ぬ猛者が隠れている可能性も十分ある。しかしアンナが言うにはオーガ兄弟が一般レベルらしいしなぁ。あんまり期待値上げておくと後で困る可能性あるし、ほどほどにしておくか。

 

 それはともかく。

 

「本戦っ! 本戦っ!」

 

「本戦は明日よ」

 

「……? ……! ……!?」

 

「いや、そんな顔をしても無駄だから。どんだけ参加者がいると思ってるのよ。アンタの試合を見て今から棄権したとしても、馬鹿みたいな数がいるのよ。同時に複数の試合を進行管理して、ステージ直して、勝敗管理して……それだけで今日は終わるわ」

 

「……」

 

「チビちゃんみたいな顔をしても駄目。どうにもならない」

 

 しょんぼり顔を浮かべてからチビのもふもふに埋もれる。しょうがないなぁ、と言わんばかりのふてぶてしい態度だがチビのそういう俺には体をオープンにしてくれる所、俺は大好きだよ。

 

 はあ、ともふもふに埋もれたまま溜息を吐いてから気分を入れ替える。中身が空っぽなので切り替えは早いのだ。よし、と声を零してサングラスを着け直す。

 

「フリーマッチも駄目だからね」

 

「ちょっと会場をうろうろしてくるだけだよ」

 

 歩き出そうとした瞬間首を掴まれて引きずり戻された。

 

「アンタ、今、滅茶苦茶目立って、馬鹿した、自覚、ある!?」

 

「キレながら喋るなよ。シワになるぞ」

 

「そろそろマジで殺すわよ」

 

 まあまあ、とアンナを窘めてからじゃ、と軽く手を振って歩き出す。

 

「ちょっと待っ―――尊? 尊!? どこ行ったの?」

 

「大丈夫、認知されなければいいだけだから。面倒なマスコミには掴まらないよ」

 

 アンナの認知の外側へと抜け出し、そのまま控室から出て行く。モンスターを連れていると面倒な事になるから影の中にウェルギリウスだけ仕込んで行く。自分の周囲にいる人間の認知の外側を歩くだけならそう難しい事でもない。

 

 そうやって認知の外を歩けば、透明人間だ。即ち存在しない男。自分に相応しい名だ。

 

「さーて、アンナがいたんじゃ会場の中をゆっくりと歩き回る事も出来ないだろうしな。久遠に聞かせる為の話のタネでも集めさせて貰おうか」

 

 それに都会のマスターというのも結構興味がある。他の連中はどんななのか、それを見て回りたい気持ちもある。アンナには悪いが、ここは興味を優先させて貰おう。折角東京に戻って来たのに、アンナに従って缶詰にされちゃあつまらない。

 

 人の認知に残らないように気を付けながら通路を抜けて一般エリアへ。

 

 流石大量の人が来てるだけあって物凄い混みようだ。こちらの姿を認知できないから平気でぶつかってこようとするし、ちょっと歩くのが面倒くさい。とはいえ、ステルスを解除するとマスコミに所在がバレる。

 

 ちょっと人が少なめの端の方へと移動し、人を避けながら歩く。

 

 皆、どことなく熱に浮かれてて楽しそうだ。

 

「柊ペア強かったね!」

 

「ヤバかったな」

 

「優勝どこだと思う?」

 

「今年の夏はあの魔女の本出すわ」

 

「フラメアちゃん可愛かったよなー! アレどうやって手に入れたんだろ」

 

「アンナちゃん相変わらずちっこくて可愛かったな」

 

 耳を傾けてるだけで色々と聞こえてくる。やっぱ話題になるのは先程の試合の事……ではなく、フラメアやアンナの事だった。試合の話よりもカッコいい、可愛い、みたいな話が聞こえてくる。

 

「もっとあのテクすげぇ! みたいな話が出てくると思ったんだけどな……?」

 

 駆間だと観戦者のコメントも大体スキルやコンボ、構築の話になる。あっちとこっちでの観客の温度差と話題の違いにちょっと面白さを感じる。彼らにとってモンスターバトルはあくまでエンタメなのだろう。

 

 じゃあ、マスター達はどうなんだ?

 

「あっちか」

 

 案内板を見つけ、マスター用大規模スペースへと向かう。どうやら会場の外にスペースがあるらしい。この規模のマスターとモンスターを全て会場内に収容するのは現実的じゃないし、そうなるのか。

 

 未知の文化に触れてるなぁ、と思いつつ人の流れに逆らう様に外へ。マスター向けのスペースへモンスターを避けて進み外に出た。そこには駆間でも見ないほどの規模でマスターとモンスターが集まってるのが見えた。

 

「ほほー、壮観だねぇ。こんなにも集まるもんなんだな」

 

 駆間での大会って結局カジュアルだから十数人規模だし、こんなに集まらないんだよね。これだけの人が集まるのを見るのは面白いかも。

 

 グループで分かれるマスターたちの合間を歩きながらその声に耳を傾ける。

 

「フラメアちゃんえっちだったよね」

 

「わかる。レシピなんだろ。再現してぇ」

 

 こっちでもフラメアの話してるぅ……。他のコメントないんか? と思いながら歩いているが、やはりフラメアの話題がでかい。既に名前も出回ってるし、新規女性キャラが登場した時の反応を舐めてたかもしれない。

 

 まあ、確かに美少女系統のキャラだけど。他人のモンスターにそう言うのはどうかと思う。

 

「もっと話す内容あるんじゃない? メタとかどうすんだよ?」

 

「何をだよ? あんなの戦い方を想定するだけ無駄だよ。勝てるわけがないんだから。記念出場なんだから1回戦だけでも抜ければそれで……あれ? 誰もいない?」

 

「お前、今誰と喋ってたんだ……?」

 

 はあ、と溜息を吐きながら別のグループに近寄る。此方は男女混合型のグループだ。

 

「どうする? あの鴉羽柊ペアは強敵だぞ? 隙なんてあるのか……?」

 

「でも、勝てなきゃ廃部よ? 私達に負けは許されないの!」

 

「あの鴉羽とかいうマスター、2戦連続でマスタースキルを使っても疲れてなかった。3戦目終えても汗すらかいてない。普段から凄い数の戦闘をこなしてるバトルエリートだ」

 

「それでも、居場所を守るためには負けるわけにはいかないんだ」

 

 なんか青春物語してた。流石にこれに聞き耳を立てるのは悪いな。違うグループに近づいてみる。

 

「次の夏はフラメア本で確定だな」

 

 オメェもかよ。

 

「おいおい、相手は?」

 

「いや、汚っさんでいいだろ」

 

「浅いな。俺は鴉羽女装フラメアアンナ背徳百合3Pで行く」

 

 二人の頭の中身が3時間ほど吹っ飛ぶショック映像を共有しておく。音もなく記憶が吹っ飛び倒れた二人を蹴り転がして端に捨ててからまた歩き出す。

 

 流石に人口が凄いから中々アタリに当たらないなぁ、と思っていると。

 

「死神。こんなところで何をしてる」

 

「あれ、王様、俺を認知出来るの?」

 

 うろうろしてると同じくうろうろしてたらしい王様に見つけられた。相変わらず良い顔してるなぉ、と思いつつ片手を上げて挨拶する。

 

「我は王故な」

 

「王様すげぇ……!」

 

 ドヤ顔の王様をヨイショしたら辺りを見渡し、それから王様を見る。

 

「王様は?」

 

「我も散策だ。ここは歩いてるだけで面白いものが見られる。たとえばほら、あそこを見ろ」

 

 先程廃部の話をしてた所だ。

 

「モンスターとの触れ合いを支援する部活は高校になるとそこそこある、というのも社会的に資源はダンジョン依存、メイン興行はバトル、社会に出てモンスターと関わらないところはない」

 

 が、と言葉が続く。

 

「凄い金が掛かる。その関係で廃部させたい、制度を打ち切って家庭で対処させたいというところは多くある。アレもそういうものだ。他には……あれはどうだ?」

 

 王様が別のところを示す。

 

「少し前にあそこで逮捕者が出た、警備のマスターがどうやら怪しい奴を見つけたらしくてな、調べてみたら案の定……という事だ」

 

「そりゃあ凄いな。テロは防ぎようがない、というのが常識だった筈だけど」

 

「確かに発生前に押さえる事は難しいだろうな。だがテロ対策も進化している。何時までも同じままではないという事だ」

 

 純粋に凄いと思った。

 

 だって車が急に突っ込んできてそれを回避する事が出来るか? 無理だろう。テロを行う時は基本的にテロ側が有利だ。疑うとなると全てを疑わないとならないし、キリがない。だから俺の記憶する限り、かつてテロを防ぐ方法はない。そういう言葉があったはずだ。

 

「で、どういう奴だったんだ?」

 

 王は少しだけ悩むような様子を見せると近づき、声を落とした。

 

「死神、誘因体質を知ってるな?」

 

「……!」

 

 脳裏に久遠の姿が浮かび上がる。一歩下がった王は腕を組んだままそれだ、と言葉を続ける。

 

「人気のない場所に移動するのが見えて追ってみれば……という話らしい。一般的には知られていない話だが、Aにもなればこういう話も耳に届くようになる。今日、警備についている者が有能な者で良かった。でなければ大会は終わり、当分自粛ムードと厳重警戒状態であっただろうな」

 

「……誘因体質」

 

 久遠と同じ体質。ダンジョンを引き寄せる体質。その正体がなんなのかは―――実は、知っている。

 

 というより館長に聞いた。聞いて、何とかできないのかも聞いた。これが解決すれば久遠もまた、外へと出られるようになるのだ、あの狭い世界から。出来たら連れ出して、一緒に色んなものを見たい。そういう気持ちがある。

 

 だが直ぐに解決できる問題ではない、と言っていた。

 

 そもそも頼んでいる物が複数ある。何時かは救世に繋がるから全然問題ないとは言っていたが、それに甘えて頼り切るというのも違うなあ……という気はする。

 

 それに誘因体質を使ったテロ未遂の話を聞いて真っ先に思い浮かべるのはあの女神の狂信者たちだ。誘因体質のテロなんて事をするのは連中ぐらいだろう。となると……これがあの女の言ってた信者たちの動きか?

 

 ……いや、これで終わる気はしない。

 

 たぶんこれはジャブだ。

 

「無事に大会が終わるといいなあ」

 

 口にしておきながら正直、無事に終わるとは思えていなかった。既にテロが未然に防がれているとはいえ、これはまだ始まりに過ぎない。そんな予感が自分の中にはあった。

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