最強以外ありえない   作:てんぞー

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ラブリーちゃんだよー

 柊家主催タッグ大会は予選で1日目が終わった。

 

 本戦は2日目。当然、3試合を終わらせた俺は1日やる事がなく、観光を終えたらホテルへと帰還。前世ではあれほど熱中して遊んでいたゲームやスマホの類も今生になってからは全く触らなくなった。今はそれよりも熱中できるものがあるからかもしれない。

 

 軽い筋トレを終えたら汗を流したりするだけでも時間は過ぎ去って、気づけば寝る時間がやってきて翌日になる。

 

 朝。

 

 朝食を食べにレストランに向かったらアンナの横に灯の姿があった。

 

「……??? ……!? ラブリーちゃん!?」

 

「ラブリーちゃんだよー」

 

 てててて、と駆け寄って来る灯に向かって兄の愛を込めて腕を大きく広げると、そのまま妹のラリアットが首に突き刺さった。流石シスター、牧場住みなだけあって小さいボディにしっかりとパワーが詰め込められている。お兄ちゃんは元気に育っていて嬉しいよ。

 

 体がちょっと浮いた。

 

「ごほっ」

 

「お兄ちゃん……アンナさんから聞いたよ? 滅茶苦茶迷惑かけたって。駄目だよ? お義姉ちゃんに言いつけちゃうからね?」

 

 床に叩き落とされて見下ろされてからめっ、されて起こされる。流石に妹を連れて来られると俺も弱い。起き上がってから静かに拍手を送る。

 

「負けたよアンナ。お前の勝ちだよ。今日は大人しくしてやるさ……」

 

「なんで上から目線なのよコイツ。灯ちゃんを連れてくるために特急料金かかったんだからね」

 

 半ギレのまま中指突き立てて来る辺り、本気でキレてるんだろうなあ……ってのが解る。しゃーない、もう少し自由に動き回りたかったが、灯が来てしまった以上なるべく灯の傍にいないとならない。今もまだこの周辺は微妙に危険だし、灯をなるべく危険な目には遭わせたくはない。

 

 ぱっぱと埃を払ってアンナが確保してる席へと向かう。朝食は……まあ、あんまりこだわりがないので適当に頼んでおく。飯が来るのを待っている間にアンナが話を切り出す。

 

「はあ、これで今日はアンタの心配をせずに済みそうだわ……今日は本戦よ? 本当に余計な事をしないでね?」

 

「大丈夫、安心して。お兄ちゃん常人のフリをするのは得意だから」

 

「してない事が問題なんだけど???」

 

「お兄ちゃんが近年は元気で私は嬉しいな」

 

「私は嬉しくないけど???」

 

「灯は可愛いなあ」

 

「話を聞けよ馬鹿兄妹」

 

 まあまあ、とアンナを宥める。そもそも今日はそんなフリーダムに動くつもりはなかったし。本戦があるのもそうだが、流石に仕掛けて来そうなタイミングでうろうろする程自殺志願者でもない。どうせ女神の信奉者の事なんだ。

 

 盛り上がるタイミングとか、そういう所を狙って暴れるに違いない。なにせ、そういう実績がある連中なのだから。アーティのイベントに関しても一番人が集まって注目する瞬間を狙って騒ぎを起こしたし。連中はそういうやり方を好む。

 

 目立てば目立つほど良い……みたいな考えをしてる。カスがよ。

 

「まあ、今日は大人しくアンナといるよ。どうだ、嬉しいだろ? こんなイケメンと一緒なんだから」

 

「はっ」

 

「今鼻で笑った? 結構自信あるんだけどこのビジュアル?」

 

「はっ」

 

「二度笑ったなコイツ」

 

 ちょっと落ち込む。どうどうと灯に背中を叩かれて慰められる。いや、でも、ほら、久遠は俺の顔が良いと言ってくれるし。やっぱり俺、自分の顔には自信を持っておこうと思う。

 

 馬鹿話をしている間に朝食が運ばれてくる。緊張みたいなものはない。そもそもそういう物とはかけ離れた精神性の人間が3人集まっている。口やアクションは少し慌ただしいものでも、心の内は凪いでいる。

 

 少し騒がしくするのは一種、日常を演出する為のルーティーンの様なものだ。運ばれてきたものを食べ終わったら部屋に戻って、スタイリストが来るので今日の仕事をしてもらう。

 

 それが終われば再び会場へ。

 

「おー、デカい」

 

 車の窓から外を眺める灯は久方ぶりの都会と、初めて見る大型ドームに目を輝かせてる。ほぼ文句を言わず、自己主張も大人しい灯は理想的な子供の姿をしてるだろう。

 

 それは俺同様に、彼女が生と死を超越した視座を持つことに由来する。が、結局はまだ子供だ。こういう風に景色に目を輝かせることぐらいは普通にする。

 

 窓の外には会場へと向かう長蛇の列が見える。今日戰う為に調整されたモンスターの姿も見える。既に戦意を漲らせている姿も見られるが……空気の中に異物を感じる。

 

「お兄ちゃん」

 

「解ってる」

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもない。仲良し兄妹は言葉にしなくても伝わるというだけの話だ」

 

「ねー」

 

「アンタら本当に仲が良いわよね……世の中の兄妹なんて喧嘩してばかりなのに」

 

 精神的にだいぶ落ち着いてるから癇癪起こしたりしないし、互いを尊重して好きという感性だけを投げられるんだから仲が良いのは普通じゃない?

 

 ともあれ、俺も灯も同じもんを察知したらしい。じぃ、と窓の外を眺めながら会場に車が入ってゆく。相変わらずマスコミが鬱陶しいが、光のスクリーンがカメラと此方を遮断してくれる。

 

 警備のマスター、有能。

 

 到着したところで車を降りる。灯とアンナに手を貸して降ろしてから、近くで働く警備のマスターに近づく。

 

「おや、鴉羽さん、何かご用ですか?」

 

「……アンタ、これ、感じる?」

 

「……」

 

 問う言葉に警備マスターは少し驚く様な表情を浮かべてから微笑む。

 

「成程、これが解るんだね」

 

 そう言って顔を上げた警備マスターは辺りを見渡し、それから異常がないことを確認してから話を戻す。

 

「このリーサルプランが完成しつつある戦闘中の空気……具体的には何も見えないし干渉されていない。だけど詰みが近い事を直感が囁いてる感じ……解るかな?」

 

「バフデバフ重ねた裏で手札の準備が整いつつある感じだよね」

 

 頷かれた。

 

「誰が、何か、観測出来るわけじゃないし実際は何も見えてこないけど裏で何かが動いてるという事だけを六感が捉えてる感じ。間違いなくなにか仕掛けられてる。けど心配しなくていい。これをどうにかするのは私達の仕事だからね」

 

 そう言ってサムズアップを浮かべて来た。

 

「良いファイトを。そしてAにまで上がってくるのを楽しみにしてるよ。君がどんな構築をその時に使うのか……今からとても楽しみだ」

 

 俺もダブルサムズアップでその言葉に応える。

 

 やっぱ心配するほどじゃないのかもしれない。このマスターは東吾やアーサー程ではないものの、修羅場を潜り抜けた歴戦のマスターなのだ。俺よりも格が上なのだから、心配するだけ無駄か。

 

 という訳で今日はヤバいかもという共通認識を得たところで控室へと向かう。

 

 しばらくすればモンスター達もやってきて賑やかになる。

 

「チビー」

 

「うぉん!」

 

 チビも灯も仲良しなので見た瞬間抱きついてもふもふし始める。チビも慣れているので大人しく受け入れてるしモフられる。チビとの付き合いの長さに関しては灯も負けてないからな。

 

「今日は5戦ってところね。全勝すれば決勝リーグよ」

 

「まさか数日がかりで戦うなんてなあ」

 

 思いもしなかった。一日で皆殺しにして気分良く帰るつもりだったのに。この大会が特別規模がでかいという話をすればそうなのだが。流石柊ブランドというところか。

 

 ……なんだかなぁ。

 

 横のアンナをちらりと見て、なんとなくだが察する。

 

 まあ、答え合わせは別にいいだろう。全部終わった時にでも確認すれば。それよりも今は対戦の方に意識を向けたい。流石に一日もすればメタ意識し始めるだろう。そうなれば昨日よりも楽しいバトルになるはずだ。

 

 楽しみだなぁ、殺し合いてぇなぁ、全力尽くした上で負けたらそれはそれで最高だよな……なあ……花火師……。

 

 脳内でこの後の激戦を思い描いていると、コンコンとノック音が響いた。アンナが許可を出すと黒服と共に一人の青年が入ってきた。

 

 ロリコンだ。

 

 つまりイーサンだ。

 

 見かけた瞬間思わずうぉっ、と声が零れてしまった。アンナも顔を見た瞬間表情が引きつった笑みになってしまった。一度知ってしまうと人間、もう二度と元には戻れないんだな……というのを感じさせる。

 

 サングラスできっちり目を隠して視界から外す。何も見えない、感じない、知らない。良し。

 

「やあ、アンナ。応援に来てしまいました」

 

「あら、ありがとうイーサン。とはいえ、主役は私じゃなくて尊だから私は特に緊張はね」

 

 アイツ!! こっちにヘイト向けやがった!! タンクの仕事をしろよアンナ!!! ヘイト漏れてますよ!!

 

「昨日の試合、拝見しました。アンナが柊家最強のマスターになると言っていた意味を理解しました。それだけの才能を感じました」

 

「そりゃどーも」

 

 手をひらひらと振って興味なさげに振る舞う。

 

「いえ、本当に。尊くん、貴方は間違いなく数多くの人の上に立つ者になる。まるで運命に導かれた救世主のように……その時が来るのが楽しみです」

 

 きゅ、と灯が俺を掴んでくる。少し怯えてる? いや、気持ち悪がってるかこれは? まあ、確かに気持ち悪いもんな……。サングラスを下げてイーサンを見ようとする頃にはすでに背を向けて入り口へと向かっていた。

 

「それでは……」

 

 そう言って去ってゆく姿を見届けてからアンナが言う。

 

「何あいつ。ロリコンからホモに宗旨替え?」

 

「止めてくれない? マジで」

 

「お兄ちゃん」

 

 きゅっと灯が手を握る。

 

「あの人お兄ちゃんと同じだった」

 

「訴訟も辞さないぞ」

 

 そうじゃなくて、とチビの毛並みに隠れるようにしながら灯が言葉を続ける。

 

「あの人、中身がなかった。空っぽ。欲望も何も感じなかった。人形がお喋りしてたみたいに。お兄ちゃんよりもずっと気持ち悪い感じで」

 

 灯の言葉に眉をひそめる。

 

「馬鹿言うな、少し前に見たら脳内でアンナにえっちなことしてるバリバリのロリコンだぞ。人間がそんな簡単に変わるか」

 

 灯の目を見れば嘘をついていない事が解る。つまり俺がサングラスで視界を閉ざしている間に何らかの変化が行われたという事だ。

 

「良く解らないけど何かおかしいのなら確かめれば―――」

 

「アンナ様、尊様、1回戦の準備が整いました」

 

「……タイミングが悪いわね」

 

 流石に今から追いかけるのはちょっと無理がある。出来るのはサクッと試合を終わらせてから探す事ぐらいか。しかし灯のリアクションは地味に気になる事でもある……追及しなければならない事なのかもしれない。

 

 見えない所で何かが動いている。それが解るが、手が届かない。そんなもどかしさがある。

 

 それを解消する為にもまずは1戦、蹂躙しに行く。

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