「崇めよ!! これがDランクライセンスじゃ!!」
ででーん、と自分の口で言いながら新しくなったライセンスを久遠と七海の前に掲げる。完全に想定通りの流れで勝つ事が出来たから滅茶苦茶気分が良い。
ゲーム時代だと主人公がマスタースキルを習得するのはBランク辺りからだし、それには他の住人達とのコミュやら関係性の発展が必要だった。仲良くなる人によって習得できる内容が違ったりするから色んな人と関係性を構築しなくてはいけなかった。
……その結果13股とか重婚するのが基本だったなあ。
そして必要なパーツを全て手に入れたら捨てられるほのぼの要素。
始まるランクマ。
永遠に引きこもるバトル。
さよなら牧場。さよなら13人の嫁さん。こんにちわ無限の対戦相手。俺達はバトルを通して呼吸するから要素回収終わったらもう必要ないんだよね。
ともあれ。ジジイの暗殺教室によって1歩間違えれば死ぬところだった代わりに覚えたマスタースキルのおかげで、さっくりとDランクまで上がって来れる事が出来た。寄って来た久遠とハイタッチし、七海にはビンタを叩き込む。
「なんでぇ!?」
「認定戦前にしてたドヤ顔と上から目線を俺は忘れないからな」
「生意気を言って誠に申し訳ありませんでした……で、でも!」
でも、と一瞬で下げた頭を戻しながら七海がこっちをばっちり捉えて指差してくる。
「でもみぃちゃんはEランクのモンスターだよ!? そっちのチビちゃんにだって勝ち目はある筈……!」
どうやら10連勝した程度で調子に乗っているらしい。疑似コンロとでも呼ぶべき動きを覚えて増長しているのだろう。そうかそうか、君はそういう子なんだね。1回上下関係を解らせないといけないらしい。増長している七海に近くのステージを指差す。
「じゃ、戦ろっかぁ」
3分後、床に七海が沈んでた。
「5分も持たなかったな」
「雑魚が」
「そういやチビちゃんは攻撃使わないから攻撃デバフ差し込んでも意味ないんだね……私は無力だ……」
「ななちゃん、最初から見えてたでしょこのオチは」
試験官をふっ飛ばしたように
「わ、私、完全にメタられてる……!」
「結果としてメタってるだけであって別にメタ意識はないんだけどね。でもこの手の代替ステータスによる判定を行うタイプの攻撃は普通のデバフとかに対しては滅法強く出られるから、メタ外す意味では割と優秀なんだよね」
FランクやEランクでメタ意識をするか? という問題は勿論あるのだが、この世界におけるFやEは人口がかなり多く、盛んになっているランクでもある。手軽にバトルするという意味ではこのランクが丁度良いのかもしれない。あえてDに上がらないという人もいるらしいし。
「とはいえ、チビで戦うのはこれが限度かな。タイマンだったら魔型相手に《耐えろ》込みで有利、物理型相手は回避で有利対面取れる。防御バフ持ちの重戦車タイプ相手だと比較的に苦手かなあ。魔法タンクとか死ぬほど相手したくない」
「魔法は避けられないから鬼門になるか」
回避パッシブを取ればまた別の話になって来るのだが、EからC帯辺りの魔型重戦車はほんと強い。硬い、痛い、倒れないで相手するのが面倒になって来る。こいつらの相手をするには明確にメタ意識を持たないと面倒な事になる。
「まあ、物理方面だけでも担当してくれるならそれで十分だけどね。スペルチャージ抜きの魔法は正直同じランク帯での殴り合いでの話ならそこまで怖くはないし……それにD帯からは1対1じゃなくて2対2の試合になって来るからどうとでもなる」
FとEではタイマンだったが、Dランクからは話がまた変わって来る。試合形式が2対2のチーム戦になる。その為物理回避に特化したチビに魔法方面のカバーが出来るモンスターを付けるか、それとももう1体アタッカーを追加して素早く盤面を制圧するか……戦略面が広がって来る。
ここら辺からバトルが一気に楽しくなってくるというのが個人的な感想だ。
最初は憂鬱だったが、こうやって改めてDランクのライセンスを見ると流石に気分が高揚してくるな。このぴかぴかのライセンス、今度学校で自慢しよう。
密かにそう決めてライセンスを大事にポケットの中に突っ込んでいると、久遠が俺を見つめていた。それに視線を返せばふ、と小さく笑みを漏らした。
「楽しそうだな、ミコト」
「まあ、な」
「そうか」
それはもう否定しない。こうやって踏み出した以上、止まる事も出来ない。止まるつもりもなくなってしまった。実際にこうやって体験するバトルは凄く楽しかった。しかもこれはまだ触りでしかない。この世界は、業界は、もっと強者で溢れている。
「もっと強い奴と戦いたい。今日戦ってそう思えたよ」
戦術がハマった瞬間が最高に楽しかった。自分が想定した通りに相手が動いた時の感動は言葉にもならない。チビが俺の指示を完璧に遂行した時は抱き上げて褒めてやりたかった。ゲーム画面で見てたものが今、リアルになって目の前にある。それだけでもう感情はぐちゃぐちゃだ。
「はあ、考える事は多いけど楽しいよ」
「うんうん、解るよ。バトルって楽しいよね。勝った時は特に!」
「ななちゃんは負け続きだった時は楽しくないってずっと言ってたけどね」
ケットシーと七海が取っ組み合いを始める。この二人の実力だったらDランクにも上がれるような気もするのだが……多分今の関係を崩したくなくてDランクに上がらないのかもしれない。
ランクを上げない事は1つの選択肢でもある。だが今日、こうやって目立った以上俺にそんな逃げはない。恐らく他の親戚筋たちも俺がDランクに上がった事を察知して探りを入れるなり、牽制するなりなんかするだろう。
「まあ、それは後回しだ。今はこの勝利を祝ってコーラでも飲むか」
「ん、そうだな」
「あ、待って待って! ここ数日ランクマで稼いだからお姉さんが奢ってあげるよ」
大きな胸を張って取っ組み合いをしていた仲良し主従が追い付いてくる。そのまま一旦バトルエリアを出て、近くの自販機がある休憩エリアまで移動する。
ここにもそれなりに人の姿がある。バトルに疲れて休憩している姿や、感想戦に入っている姿がちらほらと見える。先ほどの俺の認定戦を見ていたのか、此方を見てはひそひそと話している姿も見れている。
こうやって注目されるのは少し、新鮮だ。前世の平凡さを考えればこんな経験はないし。
自販機から“アルティメットコーラ”なる聞き覚えが欠片もないコーラを七海が買ってくると、それを3人で乾杯してから口を付ける……名前にしては割と普通のコーラだった。
休めそうなベンチに久遠を挟む様に座り、話は再びモンスターバトルに戻る。
「尊くんはDランクに上がった、という事はチビちゃんを合体させるんだよね?」
「そうだな、特別何かなければそうなるかな。妹が案外ぐずるかと思ったんだけど別にそういう事もなかったしな」
―――チビを合体させるの? うん、解った。え? 嫌がらないのかって? だって姿は変わっても本質はチビのままだよ……?
我が妹ながら、中々鋭いというか恐ろしい事を口にする。もしかして俺の後に生まれた事がなんか影響しているのだろうか? まあ、何にせよ最大の障害である妹は意外にも特に気にしていないというスタンスだったのが驚きだ。
もう少し早めに話してれば良かったかもしれない。
「チビ……さんの合体先は決めているんですか?」
ケットシーがチビを伺いながらそんな事を気にする。俺はそれは勿論、と頷いて答える。
「まだ確保前なんだけどな。合体相手も合体先も既に頭の中で決まってる―――というかSランクに至るまでの合体レシピと血統図は既に構築済みなんだよね」
「え、すご……そんな事考えてたの?」
「寧ろこれ、基本じゃないか?」
最終的に構築は第7世代で完成される。つまりそれまで経由するモンスターは全て繋ぎでしかないのだ。
ストーリーで適当なモンスターを連れてSランクに至ったら改めてランクマ用のモンスターを作成するのがゲームにおける基本だったが、ぶっちゃけこの世界でそういう事は出来ない。一緒にSランクまで至った仲間こそが最終構築になるのが普通だ。
なにせ、育成には凄い時間がかかる。
例えばレベリング。1から10まで上げるのに1週間はかかる。
ミストドラゴンの様なAランクに属するモンスターは最終レベルが90になる、こういうモンスターがレベリングを手伝えばこそ1週間で終わるという話で、そうじゃなければ普通にレベル上げに月単位で時間がかかる。
その上でモンスターへのトレーニング指導、モンスター自体の確保の手間、そして既存モンスターの維持と世話……その全てを考えると1度Sランクへと至ってから最終構築を用意するというのは非常に難しい話になって来る。
じゃあどうするのか、という話をすると最終構築を作る前提で今のパーティーを作り上げて行くという話になる。
「どこに着地するのかを考えた上でモンスターを合体させる。そのプランは既に出来上がってる」
「良く考えているものだな。偶にお前のその知識がどこから来るものか気になる」
「ジジイが秘伝書を残してくれた」
「成程なぁ」
回りからへぇ、ほぉ、なんて声が聞こえてくる。しっかりと聞き耳立ててるな。
「モンスターの血統図は所謂遺伝子だ。理想の第7世代へと辿り着くにはモンスター個人の厳選よりも、そこに至るまでの血統図の分布が大事なんだ。同じフェンリルを合体させたとしても、血統図が氷、闇、狼系統のモンスターで統一されている奴とそうじゃない奴とでは最終的な強さが結構変わって来る」
つまりこの血統図でレシピを描くのだ。無論、更なる上ブレモンスターを作りたいのなら個体個体の厳選が必要になって来る。理想値、スキル変異、種族変異、異常進化ステータス……細かい事故やランダム要素を絡めると無限に時間が溶けて行く。
セーブ&ロードでこれらの要素をコントロールできたゲームとは違い、リアル化された今できるのは理想のレシピを辿る事だけだろう。
「尊くんは最後に出来上がるモンスターを見て合体してるんだ、成程なぁ。じゃあどんなモンスターになるのか聞いても良い?」
「うーん」
俺が求めている最終構築はかつて俺がランクマで使っていたモンスター達だ。ほとんどが後期DLC出身であり、世界の設定が開示されたり、その根幹に纏わるモンスターやキャラクターが解放された状態で実装されたモンスター達だ。
……その影響で美少女モンスター系が割と多い。
まあ、看板に使うキャラはビジュアルが良い方が売り上げに響くしね……。
むさいおっさんより画面で美少女のケツを眺めたい? それはそう。
「じゃあ二つ名だけ教えようか」
「お、待ってました! それが聞けるだけでも妄想し甲斐があるよ」
目を閉じればどのキャラも思い出せる。
爆速ナーフ事件、結論構築によって多発するミラーマッチ、運営怒りの調整祭、R18同人誌公式絵師公開事件……どうしてだろう、本当に嫌な事件ばっかり思い出す……。
「“未来”、“超越”、“楽園”、”神龍”、”歌姫”、“死神”かな」
その内容も物理アタッカー、魔法アタッカー、タンク、両刀アタッカー、サポーター、サポーターだった筈だ。選出できるのは4体までだから組み合わせ次第でミッドレンジからランプ辺りに調整できるように編成してた。
やっぱリアルでパーティーを揃える事が出来るなら、1番思い入れのある構築を作りたい。現実で彼女達にであえるなら……それは他にはない喜びだろう。
Dランクになった今、モンスターの強化は急務だ。目標としているモンスターはどれもクリア後前提の作成難易度になる。大抵はどうにかなるとは思うけど、一部ヤバすぎる奴がある。
「どうするかなぁ……」
「どうした」
久遠の疑問にコーラを飲みながら答える。
「ヒマラヤ山脈の攻略」
あそこの人類未踏地にあるらしいんだよね、合体の隠し味を調達できる裏ダン。
どう攻略するのか。
それはきっと未来の賢い尊くんが考えてくれるに違いない。
この難問を先送りにして俺は現実逃避する事にした……今はこの勝利にコーラで酔っておく。