出番が来たら。
ばっと行って。
だっとやって。
どがっと終わらせる。
別に慢心している訳じゃないが、本気を出して対応できる相手に当たるとは思えないから初手からマスタースキルを使って火力マシマシにしてふっ飛ばさせて貰った。少し悪い事をした気もするが、相手もメタ意識無しのアグロ構築だったから許してほしい。
メタ意識なしアグロならアグロ返しアグロでアグロを決めれば最強アグロなのだ。やはりアグロ環境なのでは?
爆殺に成功して控室に戻ったら即座にアンナにイーサンに連絡を取らせる。アンナは此方を少し見ると、素直にスマホを取り出した。
「……何も言わずにやってくれるんだな」
「アンタ達兄妹が私に見えてないものが見えてる事に関しては今更の話だしね」
そう言ってアンナはスマホでイーサンに連絡を入れるが、連絡がつかない。スマホに映るイーサンのナンバーを見て、首を傾げた。
「おかしいわね……いつもなら1コール終わる前に出るのに」
「頭のおかしい速度で反応してないそれ?」
「愛だよお兄ちゃん、愛」
お兄ちゃん、それ愛じゃなくてロリコンパワーだと思うなぁ。
ともあれ、イーサンには連絡がつかない。スマホを切ってるのか、それとも電波の届かない場所にいるのか、或いはスマホそのものが破壊されてるのか。どちらにせよ、大企業の御曹司らしからぬ反応ではないだろうか? ワンコール以内の反応も十分御曹司らしからぬけど。
「仕方がないわね……人をやって探す?」
「……いや、止めた方が良い。俺が探しに出て来る」
「ちょっと??」
アンナがまた? って顔をしているが、今回はマジの話だ。ロリコンが漂白されたのが教団の仕業だとして、あの教団が相手だとしたら面倒な事は間違いないし、その上で俺じゃなきゃ対処できない相手というのも十分あり得る。俺も馬鹿じゃない。
前回図書館であんなことがあったのだから、ちゃんと切り札は用意してある。一人で強敵と相対する事になったとしても、何とかなる筈だ。問題はこれ、軽く違法行為に突っ込みまくってるから出来る事なら一生解禁せずにおきたいだけだ。
「今回はお遊びとか観光とかじゃなくてマジの話。ちょっと探って来るからアンナは控室から出ないで。灯」
「任せて」
胸をどん、と叩く。灯の場合洗脳とかされる心配しなくて良いから助かる。あの透き通った精神性を突破するのは苦界の生物には到底不可能だろうし。絶対にセーフな1人としてカウント出来る。
「……精神性か」
洗脳か、憑依か、或いは心変わりか。何にせよ調べないことにはどうしようもない。自分の目で確かめるのが一番だ。最悪、図書館に逃げ込むという手段もある。
「アーティ、周りの視線とか空気に一番敏感なのはお前だろう。手伝って貰うぞ」
「勿論ですにゃ……あの畜生共の相手とならば遠慮は必要ありませんからにゃ」
アーティさん既にキレてらっしゃる? ま、キレるか。誰だってキレるわ。
「そういう訳で少し出てくる。なるべく外に出るなよ、絶対にな」
「アンタじゃないんだからそうもうろうろしないわよ。私はアンタと違って忙しいの。ほら、やる事があるならとっとと行きなさい」
しっしっと払うように手を振ってからでも、と付け加える。
「なにか、事情があるならちゃんと説明してくれたら力になれるわよ?」
その言葉に力を借りようかと思ったが、喋ろうとすると滅亡の神や、あの教団、誘引因子の話をすることになる。認知の出来ない人間が関わっても不幸になるだけだ。
「いや、問題ない。こっちで対処するよ」
アーティを連れて控室を出る。何かが起こる前に見つけて対処すればそれで解決する事でもある。控室を出て辺りを見渡す。スタッフが相変わらず忙しそうにしている。特に変わったものは感じない。
「ふむ、ここは異常はなさそうですにゃ」
「みたいだな。余り時間もないし、サクッと見て回ろう」
控室付近を軽く見て回ってから通路を出て観客もいる一般エリアに出る。昨日も沢山の人が試合の合間や休憩に出ては歩き回っていた場所だ。今も多くの人がいる影響か、此方に視線は来ない。
「……空気が、妙ですにゃ?」
「だよな」
ここに来ると空気が変わるのを感じる。具体的な変化は口に出せないが、何か……何か、言葉に出来ない違和感を感じる。その原因を探ろうと進む。
「夏はどうするんですっけ?」
昨日も聞こえた声だ。確かフラメア本を出すとか言ってた奴だ。肖像権どうなってんだよ。
「勿論。夏は聖典を出しますぞ」
「ほお、信仰に篤いのは良いことです」
「世界の滅びる姿を記録するのは、今を生きる命冥利に尽きますからな」
声のする方に振り返る。
「やはり純愛!! 純愛ですよ!!」
「でも国内性癖マップによると一番人気なのはNTRですよ! 今や我々の性癖はボロボロ! NTRASMRで脳みそもボロボロ! 実在しない彼女を取られることに喜びを覚える変態民族! 自分のものでもないモンスターを奪われる喜びを描くべきでは!? 純愛が描けるなら才能ありますよ!! どうせえっちな方が人気出ますからね!」
「野郎ぶっ殺してやる!!!」
見ている間に掴み合うとそのまま殴り合いの乱闘に発展した。一瞬だけ感じた異様な気配はもうない。警備の人間が止めに来るのを視線から外し、アーティに意見を求める。
「どう思う?」
「確実に何か仕掛けられてますにゃ。感じてますかにゃ? 視線を向けられてることを」
「……」
人混みの中からじぃ、と静かに視線を向けられてるのを感じる。どこから、というのは解らないが、ただ視線が向けられてるのは感じる。
「気味が悪いな」
「ふむ……」
アーティは少し考えるような仕草を見せると、会場の外を示した。
「少し出てみましょうにゃ」
「オッケー」
アーティに従って外に向かう。視線は相変わらず感じる。それは外に出るまで続き、外に出た所でもまだ感じている。それでも移動するとアーティは納得したように頷く。
「視線を軽く探りましたにゃ。私達が歩くのに合わせて視線の主が変わりましたにゃ」
「つまり複数人で追われてるのか?」
「違いますにゃ。視線を向ける体を替えてる感じですにゃ」
「憑依タイプか、数に制限のある洗脳タイプか……」
どういう能力か把握するだけでもだいぶ状況は変わってくる。それでも相手が最悪なタイプの能力持ちなのが理解できてテンションがガタ落ちなのだが。
「切り替えるということは能力に制限がある証ですにゃ……と、言いたい所ですが、そう思わせることが目的の場合もありますにゃ」
それも十分あり得る話だ。今のところ、相手の思惑が不明なのであまり派手に動けないのが問題だ。相手が洗脳や憑依タイプなら援軍を呼んだらそのまま陥落する可能性もある。
安易に外から仲間を呼ぶことも出来なくなったな。
困ったな。モンスターに干渉出来るタイプか否かで凄い話が変わるけど、見えてない手札は警戒するしかない。となると出来ることは限られてくる。
「死神、また会ったな」
「王様」
一瞬だけ警戒する、が、妙なものは感じない。アーティも特段反応しない辺りはセーフなのだろう。その反応を見て王様は成程、と呟いた。
「この状況に覚えがあるか」
「覚えがある……というよりは予測がある。答えは解らない」
「ほぉ、貴様の側にいると飽きないな」
けらけらと楽しそうに王様が笑う。
「それで、今はどんな状況なんだ? 今朝はずっと空気が淀んでいて魔性の類でも紛れ込んでるのかと思ったが」
「まあ、間違ってはないけど」
どう続けるかと悩む前にアーティが庇える様に位置取りした。王様と俺を守れるように身を挟み込んだ先、今朝見た警備のマスターが居た。
「鴉羽さん、そろそろ試合の時間ですよ。控室に戻らないと遅れちゃいますよ」
「え、もうそんな時間? やばっ」
スマホを取り出して時間を確認すれば確かに時間が迫ってる。そんな俺を見てにっこりと笑う。
「駄目ですよ、時間にルーズじゃ。試合に遅れたら悲しみますよ」
「あー、ごめんなさい。じゃあ―――」
「試合が遅れたらアリア=マリス様が悲しみますからね」
「ふんっっ!!」
警備のマスターがそう言葉を放った瞬間、俺と、アーティと、王様の三人で同時に意識を刈り取るための攻撃を放った。拳と掌底が同時に三方向から叩き込まれ、一瞬でその意識を強制的にシャットダウンさせる。
一瞬で意識を落としたマスターは意識を無くす直前に微笑むような表情を見せて崩れ落ちる。それをアーティが支え、一番背丈のある王様が自分の体で姿を隠し、壁に寄りかからせる。
「王様、反応してくれてありがとう。大丈夫?」
「多少の頭痛はするが大丈夫だ。今、こいつはなんと言った? 何らかの名を口にしたのか? それだけでこうもなるのか?」
王様にもちゃんと神の名が聞こえてたらしい。やはりそれだけで済むなら相当人としての位階が高いタイプの人だ。やはりSランクマスターだったりするのか?
いや、今はそれよりも此方だ。
壁によりかからせるマスターの顔、目と鼻と耳から血が流れてる。恐らくは見えないところもその名の圧力に耐えきれずあちこち体がボロボロになってしまっている。直ぐに治療が必要だろう。
「口にしてはならない名だよ。物理的にね」
そう言って王様はマスターの惨状を見て、自分の頭を押さえてなるほど、と呟く。
「確かに口にしたくはない名前だな」
「試合に遅れたらがっかりさせますよ? 貴方の活躍を楽しみなんですがっ―――」
話している間に新しくやってきたのをノックアウトする。早く試合に出ろ、と警告されてる。溜息を吐いて、マスターと王様を見る。
「ごめん、王様。俺行かなきゃ」
俺の言葉に王様が頷く。
「何かは良く解らんが、まともじゃないことが起きているのは把握した。この二人の事は我に任せて行くが良い。……しかし、本当に飽きさせないな貴様」
王様に申し訳ないと思っているとアーティが視線を送る。
「ご主人、私は試合に出られないので此方に残り、探索を続けようかと思いますにゃ」
アーティの提案に頷き、駆け足で試合へと向かうために来た道を戻ってゆく。
そうやって走っている間、ずっと感じていた。
視線を。
玩具を見るような子供の目を。
どうやって遊ぼうかな、と思案するような感情を。
ずっと、感じていた。