やっぱ金だな。
アンナのクラスメイトらしきお嬢様は生産用のレアモンスターで殴り込んでくるという暴挙を果たしたが、意外な強敵だった。
というのも金があれば《パーフェクトキャンセラー》とか《インタラプト》って揃うんだよね。Cからは色々と使えるスキルの範囲も広がるし、本体が弱くてもバリューの高いスキルを積めばそれだけで一定の成果は叩き出せるのだから。
しかもちゃんとマスカン把握して来てるし。《無詠唱》にインタラパフェキャン打つと《暴走詠唱》がフリーになってしまうので、《無詠唱》を通してから《暴走詠唱》でパフェキャンすればスキル1つで2つ止める事が出来る。これが把握できてると出来てないでだいぶ動きに違いが出て来る。
初手で《暴走詠唱》潰されたのはまあまあ焦る内容だったが、その後は耐久して《幻想図書館》と《積層詠唱》で毎ターンスタック増やして何とか勝てた。アレ、まともなモンスター使ってたら危なかったよなぁ。
やっぱ開幕バーストするタイプのアグロは駄目だ。1回のスキルで火力を補う分、外れた場合のリカバリーで地獄を見る。
雑魚や格下を殲滅する意味では開幕バーストするのが一番楽だし早いのだが、マスカンを把握している相手の場合、これで容易に詰む。だからAI戦では割と楽に通せる手なのだが、対人戦になった瞬間ゴミになる。
このレベルの大会なら通じると思って雑にフラメアで処理を優先してきたが、やっぱりパフェキャン握られると辛いなー。
開幕バースト型のアグロは1ターンによる超短期決戦型。リソースも1ターン目には全て吐き出す。つまり2ターン目からは何か行動をとる予定も、リソースも残らないのだ。1ターンで勝利するというのは派手に見えるものの、実際は後を絶つ背水の陣の様な構築だ。
ぶっちゃけ、対戦環境では誉められた行いじゃない。
なにせ、上のランクに行けば《パーフェクトキャンセラー》を握られる可能性は高くなってくるからだ。バースト想定で詠唱スキルは《暴走詠唱》しか積んでいなかったが、そろそろサブ用に《高速詠唱》を積んでセカンドプラン搭載型にシフトした方が良いかもしれない。
少なくともパフェキャンで1回打ち消されて動きが崩壊した以上、2度目があると想定した方が良い。ここからは安定性を考慮したスキルに構築を変化する。へへへ、バトルのプランを立てている間は凄く楽しいぜ。
オフライン状態のタブレットPCで連れてきているモンスター達のスキルプランを構築している。チビをソファ代わりに、横に灯が、そして周りから出番のあるモンスター達が覗き込んでいる。その姿をアンナが少し離れた位置から眺めてる。
「……アンタ、更生が進んでるのね」
「更生って言うの止めない?」
「久遠お義姉ちゃんがラブパワーでお兄ちゃんを凄く頑張って更生させてるよ」
「更生って言うの止めねぇか? 事実に近いけどさ」
「自覚あるんじゃない」
そりゃあ、まあ、あるさ。だからこそ久遠に感謝してるし、引き合わせたジジイには……まあ……ほんの少しだけ、感謝してる。それを上回る死んでくれ力が高いけど。
不良が雨の中の猫を拾ってもカスはカスだよ理論、ジジイ編。根本的な善性が保証されてるわけではないのだ。
「葬式で会った時のアンタは……なんというか、リモコンで動かしてる人形だったみたいだわ。こう動くのが正しい、こう動けば面白い反応になる。こう動く事でキャラクター性が生まれる。そういうルールの上で行動してるみたいな形ね」
「今は?」
「自由になった結果勝手に動き回るのだけはほんと勘弁してほしい」
「はっはっはっは」
「笑って誤魔化すな! ……まあ、それも個性って奴なんでしょうけど。人間味がないよりは随分とマシになったわね」
余計な言葉ばかりだが、アンナは級友との勝負で少し気分が良いらしい。表情には出さないが、さっきは楽しそうにしていた。仕事ばかりのアンナだが、どうやら学校ではちゃんと遊べる相手がいるらしい……良い事だ。
後は問題さえ解決してくれれば何も文句は出ないのだが……と思っていると、入口が開いてアーティが戻って来た。
「お待たせしましたご主人。紛れ込んだ教団の手の者を4人片付けてまいりましたにゃ。残す1人はどうやら選手として紛れているようで見える範囲では見つけられなかったですにゃ」
「お疲れ、アーティ。とても助かったよ」
「いえいえ、王様の方は引き続き目を光らせるとの事でした。それと伝言ですにゃ。“人形師は教団に属さない者の可能性が高い。それも人ではなくモンスターだ”、との事でしたにゃ」
「ちゃっかり情報読み取ってるな王様……」
アンナが此方をじぃ、っと見つめてる。説明を求める、という視線だ。教団の事、語るべきなのかなぁ、と悩む。まあ、語っても良い範囲で語ってしまうかと即決する。ここまで入り込んでいて知らないじゃちょっと可哀そうか。
一生関わらずにいるのが一番幸せなんだけどなぁ。
「思想テロリスト集団だよ。神は人が輝ける瞬間を求めている、という考えを持っている。だから物語を、ドラマ性を生み出す為に試練と称して色々と危ない事をしてる連中」
「どこの邪教よ」
「まんま邪教なんだよなあ」
主神が邪神って時点で邪教以外の何物もでもないんだよな。そもそもあの女神、自分でちょっとピンチ演出するのは良い癖に他人がピンチを演出すると“うーん……なんかそうじゃないんだよなぁ……”とか言ってくるタイプのめんどくさい作家性してるからな。
結局自分でやらないと永遠に納得しないから教団の存在そのものが違う、そうじゃないとか言ってるし。本気で迷惑だと思ってるし。でも自分から関わるのもなんか違うなあ……とか言って放置してるし。
これが第三者として物語の外側から眺めてるとなんだコイツ……って笑えるんだが。
当事者だと笑える要素ないんだよね! 全員死んでくれ! な!
心の中で中指を突き立てているとアンナが困った様子で頭を掻く。
「で、その教団の信徒が紛れ込んでいる、って事なのよね? セキュリティはAランクマスターも揃えていて万全なはずなんだけど」
そう、そこだ。アンナは警備体制をかなり気を使っている。そもそもイギリスで幻想図書館の件があったから世界全体で大会等の警備は基準が見直されていて厳しく管理されている。アンナはそこら辺絶対に手を抜かないタイプだ。
それでも相手はこの警備を突破してきた。いや、超えてきた。
Aランクマスターを突破出来る者なんて限られている。
つまりSランクに匹敵するマスターか、或いは最終世代に到達したモンスター……。いや、間違いなく後者だろう。人間であそこまで他人の肉体を操る事は不可能に近い。俺にだってそんな事は出来ない。モンスターだってだいぶ限られる。
正直、頭の中で原作からピックした幾つかの候補はある。
だがヒントが少なすぎて絞り切れない―――そういう所を含めてのゲームなのだろうが。
「恐らく予選、1日目は普通に楽しむ為の猶予期間。2日目の本戦はゲーム開始、教団を全滅させられなかったら何らかのペナルティになる……そして3日目がゲーム本番、って所か」
「人の仕事をなんだと思ってるのよ」
アンナが片手で頭を抱える。
「援軍を呼ぶ……ってのは止した方が良いのよね?」
「そうだな。イーサンが死ぬ前提なら俺も援軍を呼ぶよ」
館長とか。マリアゲルダとか。東吾とか野生の最終世代モンスターと戦えるよって話をしたら喜んで飛び込んでくるんじゃない? でもこれを呼び出したら恐らくあの滅亡神の名を口にするかなんかで自爆するだろう。
Aランクのマスターは弱くない。寧ろ強い。人として、精神が、肉体が、強い。そんな人が神の名を唱えただけで全身ズタボロになった。じゃあ一般ロリコン御曹司のイーサンがその名を口にしたらどうなるんだ?
まあ……人の形はしなくなるだろう。ロリコンの肉塊になって終わりだ。
「まあ、世の中からロリコンが1人消えると考えれば良いかもしれないけど」
「良くないわよ!! いや、ロリコンなのは良くないけど。死んでほしいとは思ってないって事よ。それに問題はそこじゃないわ。アンタが言うように本当に相手を洗脳して好き勝手できるとしたら―――」
アンナは俯き、そして級友との茶番で少しだけ晴れた心を沈めた。
「……会場の人間、全てが人質の様なものだわ。対処法なんてないわ……そんなの、責任が取れるわけないじゃない……」
「まあ、そうだな」
弱音に近い言葉がアンナの口から零れた。気丈に振る舞っているが、徐々に状況が自分の手を離れて回っている事を自覚している。そして自分はそれに対処する能力がなく、遊ばれているどころか認知すらされていない。
そう、アンナは障害ですらない。
敵だと思われていない。
こんこん、とノック音が響いた。
「第4試合です」
「今行くわ」
アンナが弱さを見せるのはほんの一瞬だけ。それが終わると柊アンナという才能ある少女の仮面を被り直した。もしかして仮面を被る事に慣れ過ぎていて、それが取り外せるものだと忘れてしまったのかもしれない。
だけど……それが外せるものなら……俺の仮面を本物にするという努力に意味は、価値はあるのだろうか? これは本当に本物になってくれるのだろうか?
結局のところ、信じて被り続ける以外の選択肢はないのだが。
試合の時間だ。
再調整を行ったフラメアを連れて控室を出る。サブプランありのルートとなると相方は変わる為、アンナも連れて行くモンスターが変わる。
「ま、この試合で最後の信徒が出現してくれれば楽なんだけどな」
「馬鹿ね、そう簡単に現れる訳がないでしょ。少なくともこれまで潜伏してたのでしょ? だったらそう簡単に正体を見せる筈がないじゃない。何にせよ、面倒な相手だわ、一体どうすれば―――」
悩みながらステージへと上がり、戦闘の用意をし、反対側を見る。
なんか身長2メートルぐらいのカソック姿の大男が居た。神父様もマスターやったり大会出るんだなぁ、と素直に思った。
だってこんな所で潜伏中の狂信者とぶつかる訳ないだろ。
「流石救世主……! 本当なら5回戦辺りでぶつかりたかったのですが、4回戦目で当たる事になるとは……! 流石の豪運、これには思わず女神さまもにっこり! おっと、不敬でしたね。女神さまの事を想ったら片肺が潰れてしまいました。はははは」
ご本人でした。