最強以外ありえない   作:てんぞー

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やっぱり助けちゃだめかな!?

 その時、幻想図書館に設置されたテレビの前は賑わっていた。

 

「っしゃあ! 勝った! 流石鴉羽様! 見事! お見事な勝利!!」

 

「はしゃぎ過ぎよ」

 

「勝てて当然の試合よ。モンスターのパワーが違ければ理解も違う。負けてたのは運ぐらいよ」

 

 幻想図書館、従業員用休憩室には魔本の従僕たちが仕事の合間に休む姿があった。だがその日、テレビに映るものを見る為にサボってでも集まっていた。無論、それは彼らのアイドルにして救世主、鴉羽尊の都会デビューを見る為だった。

 

 テレビで放送されるクラスの大会規模である今回、その中心で戦っている鴉羽尊の存在は、試合は当然カメラに映っている。現地で観戦する事の出来ない魔本の従僕たちは休憩室のテレビの前に集まり、拳を片手に応援していた。

 

 第1試合が終了し、ジャックポット構築相手に勝利した姿に彼、彼女達は興奮を隠せずにいた。

 

「いやあ、しかし元気にやって居られるようで安心しました……」

 

「鴉羽様はあんまり此方に来ないですからね。割と頻繁にフィールドの方は使うのに」

 

「フィールドで見切れるのは競争激しいから中々出られないんだよねー」

 

「そうなのよね。中々出番がねー」

 

「鴉羽様、輝いていましたよ―――!」

 

 わいわいがやがや。狭い部屋に何人かの従僕が集まるとそれだけでもうだいぶ騒がしくなってくる。拳を握ってテレビの向こう側に映る少年を応援すると満足げにつまみを取り、口に入れ、即死する。そして蘇生魔法が飛んで行く。それは幻想図書館における日常風景でもあった。

 

 入口から休憩室を眺めるマリアゲルダは彼らを見てから休憩室を離れた。少し、浮かれるのも偶には良いだろう、と。

 

「しかしあんなにか弱かったメリーちゃんが何時の間にかあんな頼りになるなんて」

 

「合体を繰り返しましたからね。将来的にはアルティティシア様に至る予定でしたっけ? 鴉羽様じゃなかったら疑う所でしたね。まあ、鴉羽様は既に女神を撃退するとか言う大偉業を成し遂げてるのでもう何を言ってもうん! そうだね! って感じで受け入れてしまいそうなのですが」

 

「油断は禁物よ。鴉羽様は結局のところ、まだ子供なのですから。私達でしっかりとサポートしなくては……!」

 

「サポートを一度でも頼まれましたか……?」

 

 その言葉に従僕たちが一気に沈む。彼、彼女達は本質的には奉仕種族に近い生物だ。仕え、そして使われる事に喜びを見出す種なのだ。故に仕事している方が落ち着くし、頼られる方が嬉しい。しかし尊は滅多な事では図書館を利用しなかった。

 

 イギリスのマスターと鉢合わせする可能性が馬鹿高かったから。

 

 今も館内をマスターたちが徘徊している。図書室では世界各国から集まった学者達が必死に文字や情報を解析している。本来であれば秘匿されるようなレベルの情報が図書館内ではゴロゴロとあっちこっちに存在し、しかも誰でも閲覧できる状態になっていた。

 

 自分の家伝が普通にフリー情報になって公開されてる!!! となってキレたマスターは一人や二人ではない。それでもこれは必要な事だった。

 

 人類全体のレベルアップは必要だった。特に邪神どもがもしかして解放されているのかもしれないという事実は十分警戒に値する。何故なら邪神と呼ばれる種族は旧世界の終末期において、信仰もなく、信念もなく、面白そうだから。

 

 それだけで地上を荒らしまわった最悪な神々だからだ。

 

 試練に便乗して人々を弄ぶ邪神。彼らは純粋な悪だった。疑う余地もなく、純粋な邪悪。だからこそ生き残った者は、記憶のある者達は誰もが邪神という種を憎み、嫌っている。彼らは滅びる世界の間際、滅びるのなら滅びる前にこの玩具で遊ぶぜ! と言わんばかりに暴れ回ったからだ。

 

「鴉羽様が必要だと言われれば助ける。そうじゃなければ見守る。それが館長様の判断です」

 

「未来を変えてしまう可能性がありますからね」

 

「それに成長にならないからね」

 

 ―――という会話がなされている裏で、マリアゲルダは館長の作業部屋に辿り着いていた。

 

 部屋の奥、大量の資料に埋もれるように館長は作業を続けていた。数台のパソコンに囲まれ、何かを入力すると計算し、それを魔術的な式に変更すると新しく何かを書き直す―――旧世界の魔術的技術の完全デジタル化はあらゆる国家の悲願だった。

 

 それをこの男は一人で完成させ、活用していた。

 

 そもそもこの男は地球と旧世界の融合も、モンスターシステムも、ダンジョンシステムも、その基礎から全てを構築した偉人であり、世界を滅びの瀬戸際でストップをかけた偉業の達成者。その本人からすれば地球が必死に構築しようとしているシステムなんて大前提の基本部分でしかない。

 

 そしてそんな男が一人、図書館の奥で作業をしている。

 

「館長様」

 

「あぁ、マリアゲルダかい? ラジオで尊くんの活躍を聞いてたよ。どうやら楽しくやっているみたいだね。今は外に出られないからねぇ……現地観戦したかったけどやる事もあるし」

 

 そう言って新しい本を取り出し、確認し、パソコンに何かを入力すると新しく資料をひっくり返し始める。その光景をマリアゲルダは良く知っていた―――この男が何らかの作業を始めると何時もこんな風に片っ端から資料をひっくり返し、そのうちその下に埋もれる。

 

「宜しいのですか館長様」

 

「ん? 連中かい? まあ、尊くんにちょっかいをかけるだろうね。こんなイベント、連中だったら絶対にミスらないだろうし」

 

 無論、教団の話をしている。館長もマリアゲルダも、教団が始動している事を認知していた。そもそもこの二人は対女神における最前線であり最終防衛ラインである。

 

 認知しないわけがなかった。

 

 現代社会はダンジョンから産出される資源に依存している。

 

 かつてはレアアースを巡って利権の衝突等があったが、世界が融合した結果世界一個分の資源が地球に生えてきた。それらは様々な企業がダンジョンの権利を国から買い取ることで所有することになるが、そもそもの話。

 

 その全て、ダンジョンの開け閉めの権限を保有するのはシステムを構築した館長に他ならない。

 

 この男は言ってしまえば全世界のインフラに食い込んでいる。

 

 世界が資源を必要とし、それに依存する限り館長の目は衰えない。ダンジョンのある場所が館長の目の届く範囲なのだから。

 

 だからこそ教団の発足、稼働、そしてスタンスの違いが見えていた。

 

「今の彼らは確かにドブカスぶりは変わらないけど、前程緊急で対処しなければいけない程ではないよ。本質的に敵なのは変わらないけど、尊くんの成長を期待し、優先してる」

 

「主神を失った絶望と混沌から生まれた教団が偽りの神の死を願いますか」

 

「認められないのさ。絶望の根源が存在し続けることが。人である以上、当然のことだ。そして人である以上はそこまで恐ろしくもない」

 

「本当に恐ろしいのは奴ですか」

 

「そうだね」

 

 館長の作業の手が止まる。パソコンに入力していた魔法式を確認し、プログラムとして走らせる。エラーが出力され、うーんと唸る。難しいなぁ、と呟くと再び資料を引っ張り出す。

 

「やはり専門家に話を聞いたほうが早いかなぁ……」

 

「良いのですか?」

 

 再び同じ質問がマリアゲルダから問われる。それに館長は視線を向けることなく答える。

 

「放置してかい? まあ……確かにあまり良くないね。尊くんは確実に罠に向かって絡め取られてるし」

 

 だけど、と続く。

 

「助けを求められない限りは動くつもりはないよ。尊くんがどう判断して動くのか見たいしね」

 

 数多くの英雄を見てきた者として、館長は尊もまた傑物になるだろうと確信していた。まだ若いが、救世の資格はある。しかしまだまだ未熟だ。糧と成長がいる。

 

 そして、それは無菌室で丁寧に育てて得られるものではない。

 

 強い稲を育てるには踏みしめる必要がある。何もかも館長達がエスコートしたのでは成長にはならない。

 

「解決手段として私達を頼ったときは全力で助けるさ。そうじゃなければ他にもやることはあるからそっちに集中するかな。彼もきっと、自分だけの手札を試したがってるだろうし」

 

「黄泉の国に鴉羽様が放流したアレですか」

 

「アレだねぇ……いい機会だよ。自分が用意した手札がどこまで通じるのか、それを確かめる為の。女神もきっとそれを知りたくて、見たくて準備するだけの時間を与えたんだろうね」

 

 ふぅ、と息を吐いて館長が作業の手を止める。複雑に編まれた術式は最先端の技術者でさえ理解できない難解な構造をしている。

 

「夏までにはなんとか完成させてあげたい所かな」

 

 そう言って館長はマリアゲルダを見た。

 

「夏には二人で街を出て遠出して……なんて出来るようになったら、素敵だと思わないかな?」

 

 誘因体質。

 

 館長が広げた資料にはそう書かれていた。未だに何故発生するのか、その正体がなんなのか、地球人類には不明の体質も、この男の前では既知の情報でしかない。

 

「いやぁ、しかし尊くんも可愛いよね。優先して体質を治すか、一時的にでも抑える方法ないかって。良いよね、ああいうの。結局入院が原因でロンドン観光は出来なかったみたいだし」

 

 そこまで話したところで館長は笑顔で動きを止め、勢いよくマリアゲルダに振り返った。

 

「やっぱり助けちゃだめかな!? 今からでも遅くないから戦力を揃えてさ! だって、だってまだ子供なんだよ!? 試練とか成長とか後でいいから守ってあげるべきじゃないかな!?」

 

 グッと拳を握りながら館長が立ち上がる。

 

「殺るか。やっぱアイツら生きてちゃ駄目だよ……今こそドラゴンズバレーに連絡を入れて……!」

 

「……」

 

 マリアゲルダの神速の手刀が叩き込まれて館長が一瞬でダウンした。ダウンしてから数秒、突っ伏したまましくしくと館長が泣き出す。

 

「駄目だよ。強いから、使命だから、運命だから……そういう理由で子供を戦えるように押し上げようとするのは……今更言えた口じゃないけど……それでも彼が強いから、という理由で戦う機会を与えるのは違うよ……」

 

 はあ、と溜息が零れる。

 

 鴉羽尊はまだ子供だ。自分を大人だと思っている子供だ。館長の目にはそう映った。だから尊は決して文句を言わないし、自分から進んで修羅道に踏み込む。そこには迷いも躊躇もない。女神を殺す必要があるなら絶対に殺すという殺意を宿して。

 

 彼は特別だから。才能があるから。記憶があるから。死を感じられるから。

 

 そういう理由で押し上げて救世主にするのは違う。間違っている。それを館長は知っているし、口にしている。でも止める事は出来ない。これが世界を救う唯一の道だから。

 

「彼はね、完成された設計図なんだ。でも最初から完成されている設計図で、まるですでにあるものをコピー&ペーストで引っ張ってきたような歪さがあるんだ。まるで本来マスターピースを作り上げる筈の工程……そこにある学びを全て置いてきたような」

 

 起き上がった館長は背筋を伸ばし、首を回すと再び資料を睨み始める。

 

「彼はそれを自覚している。そして周りにいる得難い友人たちもそれを指摘している。だから彼は拾い逃したものを拾おうとしている。努力も諦めもしない良い子なんだ……本当なら彼みたいな子は好きな子と一緒に週末はデートに出かけて……勉強を頑張って、将来何になりたいのかを語ってるぐらいがちょうど良いんだ」

 

 溜息はもう零れない。割り切る必要があるから割り切る。それを続けてきたから今まで生き延びて来た。だがそれも、もう最後だ。

 

「こっちは、プレゼントを用意して待っておくから頑張るんだよ尊くん。君を……心の底から応援してる」

 

 じじ、じ、とラジオの音が鳴る。最新の機器を使っている男にしては少し古びた、ラジオだった。音質もそこまで良くない。だが雰囲気に良くあっている品だった。

 

『―――さあ、いよいよ2回戦が開始されます。トップバッターは勿論、鴉羽柊ペア! 対するは無限に食いしばる戦士達をハメ殺し勝利を掴んだ―――』

 

 ラジオから流れて来る戦いの音をBGM代わりに、館長は再び作業へと戻る。それをしばしマリアゲルダは眺めると小さく、中々他人には見せないその表情に笑みを浮かべ、頭を下げてから部屋を出た。

 

 幻想図書館は騒がしくも、一人の少年を応援していた。

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