『いやあ、種がフラメアに植えられた時はもうこれ実質R17ぐらいでは? 放送禁止じゃない? と思いましたけど何とかなりましたね、解説の翔さん』
『全体攻撃持ちで助かったわな。ただこれ、絶対に切り抜き拡散するで』
解説に来てた翔も言ってるが、アレ絶対に切り抜かれるだろうなあ……って思える試合だった。まあ、結局は《ダブルマジック》からの《ブリザード》に《復唱》が入ってフルコンボだぜ! という感じに消し飛んだ。
あの《復唱》、発動率的に15%ぐらいだったんだけどフラメア、気合で発動させた疑惑ある。まあ、発動させたいシチュエーションだと言えばそれはそうだった。氷像になったモンスターを背後にステージを去るフラメアはまさしく女王の貫録を見せた。
さて。
楽だった2回戦が終了した。ここまで来るともう残された試合の数も少ない。3回勝てば決勝戦、つまり後1回勝てば最終戦に進む事が出来る。3日もかかったイベントだったが、いよいよ終わりが見えてきた。
ここまで規模がデカくて時間がかかるのも珍しいらしいし、次やる時はもうちょっと規模が小さい所でも良いかもしれない。それに今回はタッグだったから次はシングルが良いな。とはいえ、タッグもタッグで異なるマスターとの連携という点ではいい勉強になった。
自分以外のマスターがどう判断し、どう動くのか、一般視点の戦い方と思考が見られるのは悪くない体験だ。
次はシングルでイーリュを使ってやりたいと思う。今回は完全に出番がなかったしな。
ともあれ、これで残りは2戦だけ。それで優勝だ。終わればやっと駆間に帰れる。久遠には今回苦労したという土産話もあるし、なんだかんだ通常環境における上澄みと戦えていい経験になった。駆間出る前は止めておけと言われたが悪くはなかったよ。
いや、そこそこ後悔してるけど。
主にテロリスト関連だけど。
もしかしてこいつら駆間に来ないの、駆間だと生きてるだけで試練になるからじゃねえの?
嫌な疑惑だけど、テロリストなんかいてもいなくても同じぐらい荒れてるしなあそこ……。そう思うと駆間は安全地帯なのかもしれない。いや、命の危機は常にあるから何言ってんだって話になるけど。テロの方がマシなら安全地帯ではないのでは?
もしかして―――今の状況のが駆間よりマシなのでは……!?
この会場では火砕流が発生しない、通りすがりのケルベロスもいない。レイドが発生してない、隕石が落ちてこない、ガスマスク着用不要!
やっぱり会場でのトラブルの方が数倍マシじゃん。そう思うとちょっと気分が楽になって来た。いや、駆間の治安の悪さがヤバイだけなんだが。普通に考えてなんで治安が悪い事が普通になってるのか意味不明なんだけど、まあ、それはそれ。駆間はそういう所だと諦めよう。
だから魔都とか言われるんだけど。
「はあ、長かった大会もいよいよ終わりが近いわね……どっと疲れたわ……」
「お疲れさん。誰もこんな事になるなんて予測できなかったよ。お前は頑張ったって」
「アンタがもうちょっと言う事聞いてくれるなら楽だったんだけどね……!」
ステージを去って通路に入るとアンナが疲れた溜息を吐き出す。それを軽く笑いつつ控室へと向かおうとすると、アンナが別の方へと向かって歩こうとする。
「アンナ?」
「ちょっとお花を摘んでくるだけよ」
「一緒に行こか?」
「殺すわよ。……直ぐに戻るわ」
とぼとぼとトイレへと向かうアンナは疲れている様に見えた。まあ、心労という意味では今一番かかっている所だろう。悲しい話だが、それには耐えるしかない。入口までエスコートしていくべきかなぁ……とは思うが、流石に何か言われそうだし、ウェルギリウスをこっそり放っておくだけにしておく。
その間に一人で控室に戻ると、灯とモンスター達の無事な姿を確かめられた。
「お兄ちゃんお帰り。一人?」
「アンナはトイレ。とりあえず勝って来たぞ」
「うん。見てた。お兄ちゃんは強いから心配してないよ」
灯に近寄っていえーい、とハイタッチ。我ら仲良し兄妹、世間一般では兄妹は殺し合いをすると柊から学んだが、我ら兄妹は仲が良いから今でも一緒に添い寝するぐらいには普通なのだ。それはそれとして2回戦は物足りなかったなあ、という感想を灯とする。
「やっぱ最低限インタラかパフェキャンがないと相手がちょっと物足りないな」
「PvPで前提となるカードを持ってる人と持ってない人で構築に差が出てくるのは当然だと思うよ」
まあ、それはそうなんだけどね。逆田のマイケル君とかちゃんとパフェキャンインタラ揃えてて感動したし。正直1回戦でアイツとぶつからなかったら決勝戦の相手はマイケルだったと思うよ。それだけのパワーと洗練された構築だった。
ちょっと1回戦でぶつかるには勿体ない相手だった。正直キャラクターパワーで乗り切った所があるから、振り返ってみると後悔の残る1戦だったんだよなぁ。今度はこっちから逆田に遠征するのも良いかもしれない。
「うーん、試合がサクサク進むなあ。お兄ちゃんの出番も後30分もせずに来そう」
「まあ、残り試合数が少ないのもそうだけど、アグロ寄せの環境だから1試合当たりのスピードが早いからね」
AとかSとかいよいよ人外に片足突っ込んだマスター以外に認知できなくなる試合とかは専用の即席ダンジョンを形成して戦うのだが、実は内外での時間コントロール技術によって外からは試合をゆっくり、数分の1の速度で観戦できるようになっているらしい。
技術の進歩って凄いね。……本当に凄いな!?
まあ、確かに5秒間に合計8キャラクターの20を超える連鎖行動とか挟み込まれても普通の人間には認知出来ないもんな。ここら辺の技術があって興行が成立してる……という感じなんだろう。まあ、その裏には間違いなく館長の涙ぐましい努力があるのだろうが。
良く考えたらあの人、地球文明の進化と成長をコントロールしてない?
クリア後はどうするんだろ。世界別々になったら資源問題とか技術とか―――まあ、深く考えなくていっか! 俺の仕事じゃないし! 各国のお偉いさんは頑張ってもろて……。
「3回戦の相手は……闘技魔士か」
「お兄ちゃんの口からまともな名前の構築が出て来てる」
「全ての構築の名前が酷い訳じゃないから……」
世界マップ解禁後に手に入るモンスターを使ったナショナル編成とか、月下歳剣とか、カッコいい名前の構築もあるんだぞ。ただ皆変な名前を付けるのが好きなだけで。というか3回戦は耐久力のある重戦士型アタッカーを並べるタイプか。チビで良いな。
場合によっては必中技か《イーグルアイ》積んでくるだろうから、マスタースキルは《耐えろ》で良いかなあ。
脳内で戦術プランを構築しつつアンナの帰還を待つが……しかし、アンナは帰ってこない。これワンチャンあるな。そう思った直後にウェルギリウスの死を感じ取った。同時に灯もそれを感じ取ったのだろう、お互いに顔を合わせて首を傾げる。
「ウェル死んじゃったね」
「死んじゃったねぇ」
数秒そのまま無言で過ごし、ゆっくりしている場合じゃねぇと声に出して控室を飛び出す。最寄りのトイレへと直行し、飛び込もうとした所で灯に後ろ髪を掴まれた。
「お兄ちゃん、ダメ」
「……うす」
灯がトイレに入って行くのを見送りながら引っ張られた後ろ髪の根元を摩る。これ、抜けてない? 大丈夫? 大丈夫そう? 付いてきたフラメアとアーティに確認して貰う。抜けてないから大丈夫そう。でも滅茶苦茶痛かった。髪の毛伸ばしてるとこういう時嫌だよね……。
「いないけどメッセージはあったよー」
「なんだって?」
トイレから灯が出てきた。その手の中には1枚のカードが握られている。裏返して確認すればイーサンのサインが書かれてあった。成程、ロリコンな上に女子トイレにまで突撃させたか。監視カメラに記録残ってない? 社会人生終わらないこれ? 大丈夫?
その前にアンナの人生が終わりそうか。
ついでに俺の試合もジ・エンドしそうだ。
手札1枚で3キルかあ、中々効率的な動きを取るじゃねぇか……!
「いえ、マスター? 落ち着いている場合じゃありませんよ? これどうするんですか?」
「どうしよっかぁ……」
「鴉羽さん? アンナ様を探しているのですうっ……」
喋っている間に意識をノックアウトした。この状況を覚えられるわけにはいかないからな。腕を組んで、カードを見て、うーん、と唸る。その間に蘇生されたウェルギリウスがふよふよと浮かびながら近づいて来る。
『告死蝶をつけておきました』
「やるじゃん、って言いたいけど実際の所は死の概念を付けて来たよって言ってる事に等しいから暗殺宣言だよね」
「でもこれで追う事は出来るよ」
「そうだね、そしてそれを織り込み済みって所かな」
多分俺を会場から引き離すのが目的かな、これ。気配はどんどん会場から離れているし、俺を引き離している間に会場で何かをするのが目的か? いや、それでもアンナを見捨てる事なんて出来ないし……困ったなぁ、桃姫をやるならアンナよりも久遠の方が良かった。
こう……アンナを桃姫展開にされても今一テンション上がらないよね。
「お兄ちゃん今カスみたいな事考えてるでしょ。駄目だよ」
「ごめんなさい」
「お二方、茶番を楽しんでいる所悪いのですがにゃ、もうそろそろ試合ですにゃ」
スマホで確認すれば2回戦最後の試合が進行中だった。これが終わればリングの修復を行って軽いMCを挟んだら第3回戦の開始だ。その時、アンナがいなければ不戦敗になってしまう。別にここで負けてもキャリアが台無しになるとかそういう事じゃないんだが……単純にこういう感じで負けるのはムカつく。
「お兄ちゃん、どうするの? 試合出ないと負けちゃうよ」
「ですがアンナさんも追わないと」
「時間がありませんにゃ」
うーん、と腕を組んで悩む事数秒。決めた。
「とりあえずアンナは待たせておいて先に3回戦だけやっておくか」
戦っている間になんか良いアイデア降りて来るだろ。とりあえず。
灯を見る。
「灯」
「うん?」
「……アンナのゴスロリってお前、着られる?」
「うん……うん?」
俺の言葉に灯は人生の中で数少ない困惑顔を見せた。
ああ、今からお前が柊アンナだ!