最強以外ありえない   作:てんぞー

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アンナチャンダヨー

『さあ、ついに始まります準決勝戦! ここを勝ち抜いたものがついに決勝戦へと進出する! もはや説明不要の両ペアにはステージに上がって貰いましょう!』

 

「本当にやるんだこれ」

 

「ルナウルフが聞き分けの良い子で助かったね」

 

「うん。ありがとうね、ルナちゃん」

 

「ぐるぅ……」

 

 何かあったら俺の言う事を聞くようにきっちりとアンナに躾けられていたらしい。最悪、自分が死んだら俺に所有権を譲渡する事まで伝えてあるらしい。ガンギマリにも程があるだろアイツ。そういう訳でアンナに変装した灯とステージに上がっている。

 

 ちなみに別に灯はロリって言う程じゃない。

 

 背丈は普通にアンナより上だし。胸だってアンナよりもある。ロリと言える年代は過ぎ去ってしまった。それでもアーティが芸人時代に培ったスキルで胸を潰して体の見せ方を叩き込んで、後は気配をアンナに寄せればあら不思議、集中してみなければアンナに見えるようになる。

 

 アーティも結構器用というか、戦闘外のスキルが凄く優秀だ。お陰で直ぐに灯の変装ができた。出来たのはいいけど……なんか……サイズ違うな? やっぱ無理あるんじゃないかなこれ?

 

 ステージに出る通路まで来るとアレ、とスタッフが声を零す。

 

「あの……アンナ様はどうしました?」

 

「アンナはお前の目の前にいるだろ?」

 

「いえ、その、アンナ様にしてはその……サイズ感が……」

 

 灯に視線が集中する。それを受けて灯が応える。

 

「アンナチャンダヨー」

 

「ほら、アンナだ」

 

「もしかしてそれで通るって思ってます……!?」

 

 はは、と笑いながら文句を言うスタッフの肩を掴む。

 

「ここで一番金を出してお前らの給料を握ってるのは?」

 

「アンナ様です」

 

「ここで一番忙しくて時間をギリギリ捻出して出てるのは?」

 

「アンナ様です」

 

「じゃあ彼女は?」

 

 全員の視線が灯に集中し、サラシで抑えられた胸に向かい、それから皆で顔を見合わせて頷く。

 

「アンナ様! 待望の成長期ですね!」

 

「これでロリ卒業ですよ!」

 

「よ! アンナ様リージョンフォルム!」

 

 皆、理解力が高くて助かるよ。ところでリージョンフォルムって何?

 

 スタッフが納得してくれたのでそのままステージに上がって行く。リージョンアンナに関しては遠目に見るにはサイズ差が解り辛いからまあ……行けるだろ! の精神で通すしかない。最悪認知をずらすことも考慮するが、人が多すぎる。

 

 大型ドーム施設の収容人数は数千ではない、数万単位だ。野球の1試合辺りの観客数は4万を超えるらしい。

 

 そして国民的、世界的なモンスターバトルブームとなっているこの世界で、このドームに、空席は見えない。

 

 つまり4万の目があると認知しないといけない。流石にこの人数は俺の脳味噌が一瞬で沸騰するだけの自信がある。だからこの手が使えるのは一回だけだ。

 

 この暴投が通じるのは今回だけで、流石に決勝にはアンナを連れてこなきゃならない。

 

 参った。めんどくさい。自分で帰ってこないかなぁ。流石に無理か……。

 

 何であれ、ステージに灯と一緒に上がる。連れてきたのはチビとルナウルフの魔狼コンビ。物理持ち相手には滅法強い組み合わせになる。このレベルの戦いになるとケアされるのが基本だが、それも抜け道はある。

 

 ステージの対面側にいるのは古代ローマ人のコスプレをしている二人組みだった。姿を見て、サングラスを取って目頭を揉んで溜め息を吐く。

 

「濃いなぁ……」

 

「ローマコスプレとアンナコスプレ対決だよお兄ちゃん」

 

 そう言えばこちらもコスプレでしたね。ステージ中央に進み出て握手を交わす。

 

「あ、普段は銭湯を経営してます」

 

「テルマエ……!」

 

 ローマ要素そこからかぁ。

 

 ……握手のままフリーズする。

 

「でもよぉ、銭湯って他にも人がいるし、恥ずかしくないか」

 

「逆に考えるんだ、見せてもいいと」

 

 俺にはちょっとその概念は早すぎた。

 

 首を傾げながら指揮位置にまで戻る。兄妹で入る分には何も思わんが、流石に知らん人のいる場所で裸になるのはなぁ……。でも繁盛してるということは利用者がいるということでしょ? 不思議な感覚だ……。

 

 さて、何時までも銭湯のことを考えている場合じゃない。さっさと脳を戦闘用に切り替えると一瞬で雑念が消え去る。互いにモンスターを前に出す。

 

 此方はチビとルナウルフ。

 

 相手はコボルドウォーリアーとリザードマンスレイヤー。比較的にモブっぽいモンスターだが侮るなかれ。どちらも耐久力のある戦士型モンスターであり、連続攻撃に優れてる。

 

 環境に乗りつつも環境に強いタイプのモンスターだ。耐えながら連続殴りができるモンスターは強いってよく言われる。

 

 何よりもこのコボルド、犬種がチワワ。凄いつぶらな瞳してるしフォルムも全体的に可愛い。これを今から殺すのか? という感じはある。

 

 でも可愛いもんを殺すのはララで慣れてるしな……。

 

 じゃあ、やりますか。

 

『さあ、勝った方が決勝に駒を進めるこの大一番! 勝ち残るのはどっちだ!? 試合―――』

 

 場を盛り上げるMCの言葉を聞き流しながらふと、思い出す。そういやあ灯と一緒にバトルするのはこれが初めてじゃないっけ、と。タッグなんて形式は一緒にダンジョンにでも潜らないとしないが、基本的に灯はモンスターに指示を出したりしない。

 

 だからこれがデビュー戦かもしれない。

 

 そこまで考えた所で試合が始まる。

 

『―――開始!!』

 

 コボルドウォーリアは《闘技都市》の記憶を呼び起こした!

 チビは《ロケットスタート》を決めた! 素早さが1段階上昇した!

 ルナウルフは《満月の夜》に吠えた!

 《狼の時間》がやって来た!

 静かな夜に狩人達が舞い降りる! クリティカル率が上昇した!

 リザードマンスレイヤーは闘技の記憶に酔いしれた……。

 コボルドウォーリアは闘技の記憶に酔いしれた……。

 

 ―――闘技都市ニーズロ。

 

 それはかつて異世界に存在した都市の名前だ。そもそもがモンスターの存在する世界、モンスターと戦う事を職業にする世界、異能を持って戦う事が普通とされている世界だ、闘技場なんてものは当然存在した。

 

 闘技都市ニーズロには奴隷闘士が存在した。彼らは生きる為に、糧の為に闘技で戦いを行っていた。だが同時に、それは彼らの誇りでもあった。会場が、一瞬でコロシアムへと塗り替わって行く。熱狂する観客の中にかつて存在した住民たちの姿が入り混じる。

 

 血を求める熱狂が、闘士たちの本能を呼び覚ます。

 《闘技者》の攻撃力が上昇した!

 チビの《挑発》! ヘイトが集中する!

 ルナウルフは群れと共に狩猟する姿勢に入った!

 《ウォークライ》! 闘技者たちは体力を削って攻撃力を上げた!

 流れる血にボルテージが上昇する!

 《闘技都市》に熱狂が広がる!

 《闘技者》の防御力が上昇した!

 

 流石に直ぐには殴ってこない。バフを重ねてから殴りに来るつもりか。

 

 《闘技都市》は消費されたHPに合わせて《闘技者》にバフを配布するフィールド型スキルだ。しかもこれは累積するごとに強力な効果を発揮して行く。恐らく相手の目的はこれを通してワンパン火力と全体必中化を用意する事だろう。

 

 問題は連中の体力がそこまで持つかどうかだ。

 

 《残像爪》! 影を置き去りにしたチビが襲い掛かる!

 ルナウルフは群れの動きに追撃した!

 ルナウルフの《ダブルファング》! 闘技者たちに食らいつく!

 コボルドウォーリアは身を守っている!

 リザードマンスレイヤーは身を守っている!

 闘技場の大地に血が流れる!

 《闘技都市》に熱狂が広がる!

 《闘技者》達の防御力が上昇した! 命中率が上昇した!

 《集気法》で闘技者たちの傷が癒える!

 

 コロシアムの熱砂を闘技者が背中合わせに盾を構えて身を守る。その周囲を旋回するように2頭の魔狼がぐるぐると獲物を追い詰めるように睨み―――姿が消える。

 

 加速した魔狼の姿が襲い掛かり血が飛び散る。熱砂に沁み込む血は何時の間にかコロシアムの大地を赤い砂へと染め上げていた。だがそうやって積み重ねられた歴史と命の中でこそ、闘技者たちは輝き続ける。

 

 観客が、昔の観客とダブ着くように吠える。

 

 命を、娯楽を、血を、悦楽を、勝利を。

 

 応える様に魔狼が加速する。防御を固める戦士達の視界の端から加速して襲い掛かり、連携してその肌を裂く。だが闘士たちは静かにチャンスを見極める様に防御を固める。

 

 まだ……まだ―――まだ。

 

 逆転、その瞬間を狙ってひたすら身を固める。血が流れる度に都市に響く熱狂が増えて行く。増えて、増えて、増えて―――爆発する。空気が赤く染まった瞬間、防御を止めた闘士達が一気に動き出す。削りに削られた体力、それを今、全て吐き出しきって必殺の一撃を叩き込むのに使う。

 

 コボルドとリザードマン、限界まで高まった力を解き放つ為に武器を握り、魔狼に立ち向かう。

 

「―――が、立ち上がりが遅かったな」

 

 《闘技都市》の空気が赤く震える!

 《闘技者》達のクリティカル率が上がった!

 《闘技者》達は必中効果を得た!

 チビの《残像爪》!

 

 影すら残さない加速を見せたチビが一瞬で防御を止めたコボルドに迫る。その姿を爪で引き裂く―――これだけでは倒せない。だがここでルナウルフの追撃が発動する。灯が俺の思考を読み取り、そして腕を振るう。

 

「《クリティカルコンバット》」

 

 ターン中、クリティカル率を+100%するマスタースキルが灯からルナウルフに与えられる。チビによる削りが入った所にルナウルフによる神速の追撃が入り、そのHPが消し飛ぶ。更にルナウルフのターンが入って2回攻撃。

 

 噛みつかれたコボルドは血を流しながら首を噛みちぎられて死亡する。

 

 追加行動。

 

 ルナウルフの姿は掻き消える様に加速し、追加攻撃がリザードマンに入る。《破魔の牙》が漸く発動し、リザードマンにかかったバフが消える。それは即ち、必中効果も消えるという事だ。

 

「ここだ、《エンフォース》!」

 

 全てのバフが消えた瞬間にリザードマンに与ダメ上昇バフがマスタースキルで付与される。

 

 《エンフォース》! リザードマンのダメージが上がった!

 《死点突き》! クリティカル率が上がった!

 《ブラッドウェポン》! 命削りの一撃を繰り出す!

 リザードマンスレイヤーは《カウンター》を放った!

 

 最速のカウンターがルナウルフに叩き込まれた。リソースを吐き出しながら放った一撃はルナウルフの体力を消し飛ばすように即死させ、ステージの外へとその姿をはじき出した。このタイミングでマスタースキルを切った理由は明白だ。

 

 コボルドの死で有利なバフを引く事に賭けたからだ。

 

 ルナウルフとコボルド、2体のモンスターが死亡し、その命と死が《闘技都市》に捧げられた。その恩恵を受けられるのは《闘技者》のみ。

 

 《闘技都市》が血を吸い上げる……!

 高まるボルテージに《闘技者》が酔いしれる!

 リザードマンスレイヤーは攻撃力が上昇した!

 リザードマンスレイヤーのクリティカル率が上がった!

 リザードマンスレイヤーは攻撃力が上昇した!

 リザードマンスレイヤーは素早さが上昇した!

 

「あっ、必中引けなかった」

 

「これはリーサルかなー」

 

「わおん」

 

 速度を参照する《残像爪》が再び振るわれる。相手は一瞬で防御して《集気法》で堪えつつバフを稼ごうとするが、その前に《残像爪》のクリティカルが通って死亡する。率上げてる筈なのに終盤になって漸く通った。

 

 やっぱ運ゲーはダメだよ。

 

 それを再確認しながら勝利に拳を掲げる。

 

 こっちのパートナーのが優秀だしアンナ放置で良くね?

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