最強以外ありえない   作:てんぞー

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どうやら困っているようだな死神兄妹!

 試合が終わったら何時ものGGしてから爆速で通路へと戻る。無論、灯を抱えて戻る事は忘れないしルナウルフも蘇生しておく。そのまま走って控室へと直行する。

 

 そこで灯を解放する。

 

 部屋を見て回るが変化はない。カードも置かれていない。状況のアップデートはなし、やっぱり俺を待ってるし、俺が来るまで動きはない。だけど決勝戦が始まれば……という所かな。仕方がない、迎えに行くか。

 

「ちょっと良いか?」

 

「はい、なんで―――」

 

 部屋の前にいた黒服を無力化し、銃を回収する。使い方に関しては駆間中学校の授業で習っている。駆間において銃を握る事は自衛するという意思の表れである。銃を持たないという事は“私は今から死にます”という意味である。ここアメリカだっけ?

 

 東京どころか都会で持ち歩くのはまあまあ犯罪に突っ込んだ行いなのだが、この際手段は選ばない。というか相手が罠を用意しているんだからこっちも手段は選ばない。ルールを守らない奴相手には俺もルールを守らない。

 

「ちょっくらアンナ拾ってくるついでに黒幕始末してくるけど……」

 

「お兄ちゃん戻ってくるまでに決勝始まっちゃうよ」

 

「それなんだよなあ」

 

 お互い、マーキングに使用された告死蝶の気配を追えるのだが、明らかに直ぐに戻って来られる様な距離にない。会場から引き剥がして何かするつもりなのだろうか? 何にせよ、アンナを助けに行くとなると決勝戦には間に合わないと考えた方が良い。

 

 見捨てようかなぁ、という考えはネタとしてならアリだが真面目な話をすると無しだ。

 

「……しゃーない、決勝戦は諦めるか」

 

「3回戦は出たのに?」

 

 痛い所を突くな、妹よ。まあ、だが、と言葉を付け加える。

 

「大丈夫だよ」

 

「うん?」

 

「アンナなら大丈夫。生きてるどころか指一本触れられてないだろうよ」

 

 確信をもって答える言葉に、灯は俺が犯人の目星がついているのだと理解し、頷いた。まあ、決勝が出来ない事はちょっと……いや、結構残念だけど。流石にアンナには代えられない。また今度何かで埋め合わせをして貰うとして、とりあえず黒幕は消すか。この世から。

 

 と、銃を隠していると扉が勢い良く開いた。

 

「どうやら困っているようだな死神兄妹!」

 

「そ、その声は!」

 

「あ、私は初見の人だ」

 

 控室の扉を勢いよく開けて登場するのはそう、我らが頼りになる王様である。昨日は教団の信徒を確保するのに奔走して貰って大変お世話になった王様である。結局あの後お礼も言えなかったしこうやって3日目もいるのは色々と助かるのだが。

 

「王様、どうしてここに?」

 

「初日と2日目に来てるなら当然3日目もいるだろう! まあ、試合を見てたら貴様に何か凄い情報書き込んであってビビったが。妹を変装させて出場させるとか我、ビックリ。正気か? でも通ってしまったんだなぁ」

 

「ビックリだよね。思ってた以上に通ったよね」

 

「私も凄い頑張った」

 

 偉いね。王様と2人で灯を撫でて労った。灯はこういう時素直に受け入れるので可愛いのだ。しかし王様という戦力が加わってくれたのは喜ばしい。

 

「これなら茜や翔も―――」

 

「その2人は見てきたが掌握されてたぞ」

 

「MC」

 

「掌握済み」

 

「神父」

 

「自由」

 

「神父は自由で良いんだ……というか3日目もいるんだアイツ……」

 

「さっきの試合もサイリウムとうちわ握ってたぞ」

 

 自由過ぎねぇかアイツ? 俺の中でアイツとモンスター博士、良い感じに理不尽さで拮抗し始めてるぞ。いや、まあ、ベクトルは違うんだけど。それはそれとして理不尽人類にジャンル分けできる生物になってしまっているよな。悪い事してないのに悪い人だから困る。

 

 さて、そろそろ余計な事で脳のリソースを消費するのも止めよう。

 

「運営側を押さえられたか」

 

「それでも進行が止まってないという事はこの大会そのものは続行したいのだろう。大会そのものに意味があるのかもしれないな。本人を読まない限り意味は解らないが」

 

「そだね。結局のところアンナを追う必要があるから俺が行く事になりそうかな」

 

「我が追っても良いが」

 

「止めた方が良い。王様じゃ勝てないよ」

 

「ほう」

 

 王様がいるなら王様にアンナの奪還を任せるというのも一つの手なのだろう。寧ろがちがちに俺の対策をしている可能性が高いから王様が行く方がまだマシなのかもしれないとも普通は思うだろう。だけど俺の想定する相手が本当に“ソレ”なら、他人に任せた所で意味はない。

 

 一方的にハメ殺す為に俺が出向いた方が良い。それにこれはそういうイベントの様にも思える。

 

 相手の思惑に乗った方が解りやすい。

 

「それよりも王様には決勝戦が始まらないように遅らせて欲しいんだけど」

 

「無茶を言う」

 

 王様、滅茶苦茶困った顔をする。腕を組み、うーん、と唸って頭を捻る。

 

「時間稼ぎをしても構わないが、結局の所我が前に出て穏便に済むとは思えない。我以外に時間稼ぎを任せたほうがいいだろう」

 

「え、なんで来たの?」

 

「使えねぇ」

 

 王様の表情が露骨にしょぼん……とした物になった。なんだよ、真打ち登場みたいな感じで出てきやがって。何とかできるかと期待したじゃん。

 

「あの」

 

 にゃん、とアーティが控えめに手を上げた。

 

「案がありますにゃ」

 

 皆の視線がアーティに向けられる。それを受けて数秒、言葉を整理する時間を作ってからアーティは続ける。

 

「これはアンナ様が戻って来るまでの時間稼ぎであり、状況は問題ないと思わせるための茶番ですにゃ」

 

 だから。

 

「空いた時間はイベントにして間を稼げばいいにゃ」

 

「真っ当な意見が出ちまったな」

 

 でもアーティの言っていることは真っ当だ。時間稼ぎするなら確かにそれが真っ当で、一番波風が立たない。

 

「決勝前の余興という事にすれば差し込めるな」

 

「運営はどう黙らせるの?」

 

「どうせ陥落して人形にされてる。気絶させてこっちで進行すればいい」

 

 アーティの目を見る。今、彼女の目には何が映ってるのか、言葉にせずとも伝わってくる。あの日の後悔、それを晴らすためのチャンスが巡ってきたのだ。

 

「理解した?」

 

「はいですにゃ……にゃーはずっと、人々を笑顔にしたいという願いで自分を誤魔化してきたにゃ」

 

 アーティの最初の願いは確かに人々を笑顔にすることだ。だが彼女が白紙の物語に登録され、覆さなきゃ行けないのはそれじゃない。彼女の感情は、心は、死に際に囚われている。

 

「ずっと、願ってたのです。あのステージをやり直すことを」

 

 かつて、アーティは大きなステージに立った。人々を守る為、笑顔にする為に、彼女は己の芸を振るうことにした。だがそれは全て罠だった。彼女はより多くの絶望を突きつける為の生贄にされた。

 

「やれます」

 

 口調を崩す強い言葉。そこにアーティの覚悟を感じる。だから俺もそれに応え、白紙の物語を取り出す。片手を差し出せば光がページを生み出し、一冊の本へと変わる。

 

 そうして出現した本を灯に渡す。

 

「灯、頼む」

 

「うん、任せて」

 

 王様の方を見る。お互いに言葉は必要ない。アイコンタクトだけで伝えたい事は全て伝わる。短い事前で伝えたいことを全て伝えたらそのまま控え室を出る。

 

 会場で起きることに関しては全部灯達に任せることにする。

 

 俺は俺で次の舞台に移動しなければならない。

 

「距離は……ここから30分ぐらいの距離か。遠いな」

 

 通路を歩いて外へと向かおうとすると此方に警備員が近寄ってくる。近くにいるモンスターが痛ましい表情を見せている。そのまま横をすり抜けると気絶し、倒れる。

 

 その姿をモンスターがキャッチする。

 

「くるるぁう」

 

「手が空いたら妹達を手伝ってくれ。直にステージで動きがある」

 

 こくり、と頷いたモンスター達が動き出す。その姿を見ることもなく会場の外へと出た。

 

「足がいるな」

 

 周りを見渡す。見事に人がいない。決勝が近くて皆会場の中へと移動してしまっているのだろう。流石に歩く距離じゃないよな、と何かないかと辺りを見渡し、見つけた。

 

「お、良いもんあるじゃん」

 

 駐車場に良いもんがあった。どこか命を感じさせる大型バイクにより掛かるように男が一人煙草を吸っていた。近づいてくる俺を見ると目を細め、それから驚いて背筋を伸ばす。

 

「あぁ? 誰だよ……って鴉羽さん!? うおお、本物!? あ、煙草吸ってるんでこっち来ないほうがいいっすよ」

 

「大丈夫、大丈夫。それより可愛い娘だね、これ」

 

「お、解ります?」

 

 一瞬で破顔する気配を見せてぽんぽんとシートを叩く。それを喜ぶようにバイクがわずかに震えた。

 

「ヘルライダーってモンスター知ってます? あのモンスターがドロップするパーツを集めて作成した愛機なんすよ。いやぁ、集めて作るのに8年ぐらいかかりましたよ。でもこれ、ギリギリモンスター法に引っかからないんすよ」

 

 その代わりに免許周りメチャ厳しいけど。そう言ってライダーは楽しそうに自分の愛機のことを語る。メチャクチャ入れ込んでるのが解るし、その姿から丁寧に扱われてるのも解る。

 

 良し、これにするか。

 

「悪い、これ、借りてもいいか?」

 

「いや、良くないっすけど。つーか、もうそろそろ試合っすよ?」

 

 腕時計を見て、試合が近いのをライダーが確認した。それに俺は溜め息で応えた。

 

「時間稼ぎして貰ってるからそこは大丈夫。それよりも行かなきゃ行けないところがあってね」

 

 出来れば交渉して穏便に行きたかったが、まあ、通るとは思ってなかった。仕方がない、意識をノックアウトして借りてゆくか。そう判断した時、ライダーがにやりと笑った。

 

「……へぇ、いい顔っすね」

 

「顔?」

 

「うす、覚悟決めてケンカに行く奴の顔っすね。こりゃ止められねーわ」

 

 楽しそうにそう言うとシートの下からヘルメットを取り出し、それを投げてきた。煙草を捨てて踏み、火を消す。受け取ったヘルメットを抱えながら見る。

 

「それで2ケツとか間違いなく免停もんだけど」

 

「それよりも大事なもんがあるんだろ? じゃあ乗りなよ」

 

 そう言ってライダーが愛機に跨ると、バイクがご機嫌な音を響かせ始める。それで本気なのを悟り、ヘルメットを被る。

 

「鴉羽さん、行き先は?」

 

「あっちの方真っ直ぐ。その都度指示を出す」

 

「繁華街方面か……了解っすわ。しっかり掴まってな!」

 

 後ろに座り腰に手を回すと、勢いよくバイクが走り出す。風を切る感触が全身を襲う中、静かに心を沈める。

 

 死を想起する。

 

 思い出す、死の原初を。生命の混沌を。ひらひら舞う蝶が風に流され軌跡を描く。

 

 そうやって死の臭いを空気に焼き付けながら、アンナを取り戻しにバイクが走る。

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