最強以外ありえない   作:てんぞー

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力をもった小者

 設定がインフレしたラスボスを倒した後により強い裏ボスとか隠しボスを出すのって何かおかしくないか? じゃあ本編で活躍しろよお前! お前がいれば本編もうちょっと楽になってただろ!

 

 ……と、いうのはRPGあるあるだ。だから裏ボスの強さには往々にして理由や設定が付けられる。

 

 次元城は本編クリア後に訪れるダンジョンであり、そこに存在するのは腕試し用のボスばかりだ。ゲームクリア後に有り余ったリソースを使って詰将棋をする場所とも言える。そしてゲームの作者は明確に大半の邪神をこう定義した。

 

 ―――力をもった小者。

 

 神の名に偽りはない。連中は神格を持つ存在だ。だがその中身がそれに相応しいだけの器があるとは限らない。邪神とはつまり、悪い事をした神。人間性が足りず、何かが欠落し、歪んでしまった神格の事なのだ。だから力はあるけど、中身がスカスカのカスなのだ。

 

 本当に神と呼べるだけ格があるのは1柱、2柱ぐらいだ。それ以外は大半が愉悦のまま動き回り、世界を混沌に陥れている。教団が動くのに合わせて動き、好き勝手遊び回る。それゆえに自分たちが敵対視され、英雄などに目を付けられた事も一度の事じゃない。

 

 負けた事だって1度の事じゃない。その度に連中はこう言うのだ。

 

 何、マジになってんの、と。

 

 無敵なのだ、こいつら。保険をかけて、本気を出さなくて、遊びで頭突っ込んで、好き勝手ふざける。女神が自分たちに大した興味もなく、暴れた所で干渉されないのも知っているから終末期に暴れ回った。そして世界の崩壊を次元城でやり過ごして―――キレた館長に封印された。

 

 やはりMVP。流石館長。お前が人類の光だ。存在しない前作の主人公だろアンタ。

 

 こうして次元城には大量の邪神が封じられる事になった。本編クリア後、次元城に対してそろそろアイツら皆殺しにしようぜ! という館長からの誘いを受けて行けるようになるのがゲーム内での話だ。まあ、この話からどれだけ旧世界の住人がキレてるのかが良く解る。

 

 その中に出て来る小者の1柱が邪神パペッターだ。

 

 専用スキル《掌握》は回避不可、解除不可、抵抗不可で同名の状態異常を付与する専用系統のスキルだ。発動したら最後、モンスターのコントロールは相手へと移る。しかも習得しているスキルを使用するし、ステータスはそのまま。AIも賢い。回数スキルは消費したら消費される。地獄の様な専用スキルを使ってくる。

 

 《掌握》を使用すると戦闘画面に糸が出現する。攻撃可能なこの糸を断ち切る事で《掌握》は解除できる為、率先してギミック解除に走らないとパーティーからガンガン欠員が出る。当然、数回行動を持っているし、強力な全体攻撃も備えている。

 

 レベル150は決して弱くない。その主義主張、思想はカスの小者だが強さは本物だ。

 

 それを生身で相手をする?

 

 まあ……無理だ。

 

 普通なら。

 

「さあ、どうします?」

 

 ざっ、と乱れのない動きで人形にされた人たちが動いた。その手にはナイフ、包丁、銃などの武器が見える。この一帯にいる人間全てが支配されている様にさえ感じる。いや、実際に支配しているのだろう。どこまでシンクロOTKを対策されているかは不明だが、全てを同時に相手するのは無理だ。

 

「鴉羽さん、どうするんすかこれ」

 

 すぐ後ろにまでライダーがやってくると此方に背を向けて拳を構える。滅茶苦茶やる気満々でファイティングポーズに入る姿、とても誉れ高い。だが流石にゲストに手を煩わせる程俺も鬼畜じゃないし、無計画でもない。

 

 もう、リーサルの準備に入っているし。

 

「今、貴方の手元にいるモンスターは一体。その陰に飼っている死神のみ」

 

 人形イーサンの指摘に合わせて影の中からウェルギリウスが出現した……が、攻撃はしない。いや、出来ない。目の前にいるイーサンだけではない、周辺にいる全ての人間は敵であり、人質だ。彼らは操られているだけで、本質的には俺に対する人質だ。

 

「さあ、手札を開いて見せてください。その脆弱な身でどこまでやれますか? それとも―――」

 

 にやり、と能面に笑みが浮かんだ。

 

「黄泉でこっそり育てているペットでも連れてきますか? 良いですよ、貴方がこっそりと育てた新しいお友達、私も興味がありますから」

 

「おっとぉ、こっそり育ててたつもりだったんだけど……まさかバレてるとはなあ。目玉のお友達にでも教えて貰った?」

 

「はははは、口以上に目で語りますからねぇ、彼は」

 

 互いに視線を逸らさずに笑い合う。それを見てライダーとアンナが黙っている。この感じ、他の邪神も釈放されてるっぽいな。はあ、殺さなくちゃならない奴がまた増えた。いや、それは良いのだが手の内が割れているのはちょっと痛いな。いや、行けるな。ここでは殺しきれる。

 

 殺しきるつもりでやる。

 

 テレビを見る。会場ではアーティが頑張っている。その姿に申し訳なさを感じる。

 

 お前の物語を本当は特等席で見たかった。その輝きを俺も見届けたかった。こんな、利用される形でセットアップされるとは思わなかったし、その事実に怒りを隠しきれない。だから申し訳ないと心の中で謝り、テレビの中で、銃を構え、狙われるアーティが映し出されるのを見た。

 

 息を吐いて、心を鎮め、沈める。死の原風景に精神を落とす。

 

「鴉羽さん! もう、距離が……!」

 

 ヴンヴンヴンとバイクが音を威嚇するようにエンジンを吹かす。だが人形となった人にそんな脅しは通じない。襲い掛からせているのに怪我をさせれば遠慮なくあーあ、だなんて言ってくるだろう。そういう奴だ。

 

 だから。

 

 たんたん、と足元を靴で蹴った。

 

「後悔するぞ」

 

「はは、出来るならしてみたいですね」

 

 舐めやがって。

 

 合図が通るのと同時に通りの奥から闇が漂って来た。微かに香る死の臭いが濃くなって行き、空気を満たす。増える死の重みにライダーとアンナの体が震え始める。

 

「な、なんだ、急に体が」

 

「2人共、温かいことを考えて。幸せな記憶。帰る場所。家を。強く、自分の居るべき場所を思い浮かべて。その重みが命を繋ぎ止めるから」

 

 《根の国》を展開したときのように黄泉の植物が辺りを浸食し始める。薄い闇のヴェールが空間を満たし、何かが黄泉の果てから這い上がって来た。

 

 その登場に人形イーサンが目を輝かせた。

 

「これが噂の黄泉の怪物ですか……!」

 

 びっしりとアスファルトを花が埋め尽くす。鳥居がビルや建造物を貫くように生える。世界のテクスチャが黄泉のものによって上書きされる。《根の国》が存在に引っ張られるように出現する。

 

 濃い闇の中、形の見えないものが黄泉を引き連れて現れた。

 

 《BOSS》! ????があらわれた!

 《UNKNOWN》! ????は原典に存在しない!

 《根の国》が現実を浸食する……。

 《死の影》が顕現する……!

 

「■■■■■―――!」

 

 言葉として認知できない言葉が響く。それが轟いた瞬間、視界範囲内の全ての糸が途切れ、イーサンも倒れた。濃すぎる死の気配に糸が耐えられなかった。

 

 ギミックが、擬似的な死を与えられてクリアされたのだ。

 

『成程、死の怪物ですか』

 

 空から声が落ちてくる。

 

「法律で野良のモンスターを育成することは危険な行為として禁止されている」

 

「じゃあやらなきゃいいんじゃないすか……?」

 

「だけど図書館以来、個人で保有出来る戦力に限界を感じてた俺は話が1番通じる根の国で野良のモンスターを戦力として活用できないか育成を始めた」

 

「あ、やったんすね」

 

 やらかしたなこいつ……という視線がアンナから飛んでくる。

 

「アンブロシアを食わせて、トレーニングを施して、スキルカードを使って、侵入してきたSランカーに積極的にぶつけてみたらなんか知らんうちに独自変異を起こしちゃってね」

 

 テヘペロっ。

 

「ボスモンスターになっちゃった」

 

「戦犯……!」

 

 正体不明の影は姿形が吠えるだけで雑魚が倒れる。それまで囲んでた大量の姿が無力化され、無力化されたイーサンとアンナを助け出す。猿轡をアンナから外し、手を繋いでた手枷を取り外すとビンタが飛んできた。

 

「色々と言いたい事はあるけど助けてくれてありがとう。続きは生きてたらやりましょう」

 

「心広っ」

 

「そこの人、このクソボケを連れてきてくれて感謝します。後日何らかの形でお礼させて頂きます。柊家との付き合い方は簡単よ――適度に期待しないことよ」

 

 イーサンとアンナを解放したところで空にびっしりと巨大な目が現れる。2柱目の邪神だ。

 

「邪神インスペクター、覗き見してたのはコイツだな」

 

「さ、寒い……」

 

 イーサンを肩で担いでたライダーが片膝をつく。新たに出現した150レベルの怪物に肉体と精神が潰されかける。それに対抗するように正体不明の影が吠える。

 

 言語にならない咆哮が圧を相殺し、呼吸する間を作る。無形の死が道路を砕きながら跳躍する。

 

 一瞬で空中に浮かぶ手に到達する。

 

 パペッターの《掌握》! ????に糸を括り付ける!

 ????は《UNKNOWN》だ! 対象に取られない!

 《千年の呪怨》が響いた!

 

 黄泉の怪物が接近するよりも早く糸が放たれ、それが全てすり抜ける。到達した影の姿は膨張すると、その全身から可視化された濃密な呪いを放つ。即死付き闇属性攻撃が邪神を薙ぎ払う。

 

 パペッターは闇を吸収した!

 インスペクターは闇を吸収した!

 無効化に対し恨みが募る……。

 ????は怨恨を2獲得した!

 《呪天大洞》に怨恨が蓄積された。

 《闇属性貫通》を獲得した!

 《免疫殺し》を獲得した!

 インスペクターの視線が????へと集中する!

 ????が纏っていた未知のヴェールが剥がれた!

 

 呪殺が天空を覆う。呪いが邪神を貫き、それを吸収するのに合わせて蓄積された恨みが力へと変わる。それに対抗するようにインスペクターが視線を向けて、死の影が晴らされる。

 

 闇が消えて露わになるのは黒い、巨大な狐の姿だった。尾は九本、全身が黒く、漆黒、夜よりも深い原初の混沌の色へと染まり上がっていた。

 

 その瞳だけが金色に輝き、黄泉の空気をその口から吐き出す。

 

「彼岸に沈めろ、マガツキュウビ」

 

 《九刻殺刑》! 9つの死因が刻み込まれる!

 《BOSS》に即死は通じない!

 怨恨が蓄積された!

 強化上限が解除された!

 物理耐性を獲得した!

 魔法耐性を獲得した!

 死の気配が強まった!

 《全能者の采配》が振るわれる!

 マガツキュウビの全ステータスが2段階上がった!

 《掌握》! ヴェールの向こう側に糸が伸びる!

 《ルアーリング》! 死神が対象を己に差し替えた!

 インスペクターは未知のモンスターを観測した!

 未知に満足したインスペクターが退場する……。

 《全能者の采配》が再び振るわれる!

 

 9つの死を退け、それを無効化した恨みがマガツキュウビを強化する。打ち消し、無効化、それによって自身の行動が失敗するたびに怨恨が蓄積し、強化される。

 

 マガツキュウビのレベルは120相当。ボスモンスター化によってレベルの壁を超えることに成功したとはいえ、それで勝てる程甘い相手ではない。

 

 仕事を果たしたと言わんばかりに空に咲いた大量の目が閉じて消えてゆく。惜しい。もう少し残ってくれれば纏めて殺せたかもしれないのに。

 

 《掌握》! 糸が伸びる!

 《スケープゴート》! 死神に糸が押し付けられる!

 《掌握》! 無数の糸が襲いかかる!

 《デコイ》! 死神にヘイトが押し付けられた!

 ウェルギリウスは既に支配されている!

 ウェルギリウスはスキルを覚えていない!

 

『む?』

 

「お前のデータは既に割れてるし、攻略法も出てるんだよ」

 

 ライダーとアンナに肩を貸して、バイクへと2人を寄りかからせながら空に答える。

 

 パペッターの《掌握》は抵抗も解除も出来ないが、生贄用のモンスターを用意し、ヘイトとターゲット差し替えを駆使することでそれを1人に押し付けて対処する事ができる。

 

 故にウェルギリウスは戦闘開始時にスキルを全部削除した。覚え直すの大変なんだぞ。

 

 空に飛び上がったマガツキュウビがパペッターの吊り手に噛みつき、呪いを流し込む。それを振り払うように手が振るわれ、マガツキュウビの姿が吹き飛び、ビルに衝突する。

 

 破砕音を響かせながらガラスが雨のように降り注ぐ。動き出したバイクに即座にライダーが腰かけ、3人丸ごと腕で抱え上げて滑り込む様にカフェの中へと入り込む。直後、雨の様にガラスが降り注ぎ、その跡にマガツキュウビが着弾しクレーターが生まれる。

 

『ぐ……段々と学祭の手伝いよりキツくなって来ましたね』

 

 店の前でぼやくマガツキュウビに抱えられたまま見上げて聞く。

 

「耐えられるか?」

 

『邪神に対して恨みがあるのは我らも共通しております。やってみましょう……ですが長くは持ちませぬ』

 

「心配するな、直に詰む」

 

『そこは信頼しておりますっ!』

 

 四肢に力を込めるとマガツキュウビが跳躍する。ビル壁に着地すると、ソニックブームを起こしながら駆け抜け、ガラスを巻き上げて投げつけるようにパペッターへと向かって行く。再び《UNKNOWN》が発動し、マガツキュウビの姿が混沌に包まれて認知不可能になる。対象指定が不可能になると同時に《掌握》の対象とならなくなる。

 

 攻撃の余波でウェルギリウスを操っていた糸が切れる。

 

 パペッターに残骸を混ぜ込んだ呪いが着弾し―――糸が鞭のようにしなり、不規則な動きで抉りかかる。ランダム対象攻撃《ストリングプレイ》だ。ランダム対象攻撃は誘導の対象にならず、《ルアーリング》や《スケープゴート》、《デコイ》を貫通するほか、対象を取れない状況も無視できる。

 

 攻撃範囲にいるのはマガツキュウビのみ。

 

 凄まじい速度で適応した邪神の攻撃がマガツキュウビを襲う。

 

 それを正面から受け止めながら、実体化する9つの死がダメージ化可能な破壊として邪神を襲う。墜落死、水死、焼死、感電死、圧死―――空から無理矢理引き落とされた邪神が辺りを破壊しながら死に沈む。だがそれも一瞬の出来事。

 

 お互いに複数回行動を持つ怪物。

 

 攻撃を受け、対応しながら高速でビルの間を飛び回り、破壊しながら空へと戦場を移しては道路に叩き落とされる。その合間に《全能者の采配》を差し込んでバフの強化と維持を行う。合間合間に飛んでくる《ディスペル》がマガツキュウビのバフを剥がしてきている。

 

「た、助かったわ。まるで反応できなかった……」

 

「俺も死ぬかと思ったっすよ。それよりもこんだけ暴れてるのに何で警察も、軍も動かないんすか! もうそろそろ助けに来ても良い頃じゃない!?」

 

「掌握されてるって事だろ。事実上の文明メタの一種だからな、アレ」

 

 大統領、総理、王、独裁者。トップに立つ人間を《掌握》するだけで文明を滅ぼせる。アレはそういう邪神なのだ。そうやって支配し、混沌を巻き起こし、滅びて行く姿に愉悦を覚えるクズがあの邪神、パペッターだ。

 

 腐っても邪神なのだ。

 

 生物として最強格なのは間違いがない。この性格で、この舐めっぷりで。

 

 それでも、本編クリア後コンテンツのボスの一角なのだ。

 

「もしパペッターが本気を出して来たらもう負けてるよ。まだ負けてないのはあのカスがこっちを舐めて遊んでるから。そうすれば万が一負けても本気じゃなかった、って言い訳に逃げられるから」

 

「根性がカスすぎる……!」

 

「アレだけの力を持っているのにそんな考えするんすか!?」

 

 するんです。世の中もっとすごい奴いるし。竜王とか。海王とか。野生の英雄とかフラっと出現して邪神を唐突にアンブッシュしてそのまま本体諸共殺して去って行ったみたいな話あるらしいし。いやあ、彼方の世界はほんと修羅の世界ですね……え、皆モンスターになってこっちにいるって? 何時か会えるかもね……。

 

「勝てるの?」

 

「勝つ。仕込みは終わった。後はスキルを叩き込めば一気に終わらせに行ける……筈だ」

 

 カフェの外へと出て、激化する戦闘を眺めながら援護を入れる。《掌握》を回避できるようになった今、ウェルギリウスを再びデコイに参戦させる必要はない。下手に妨害入れて妨害耐性を獲得されたらそれこそ詰みになる。

 

 深呼吸をして肺の中の空気を入れ替える。

 

 濃密な死の空気が都市に蔓延している。黄泉に咲く花が辺り一面を満たしている。もう十分事前準備は終わらせてある。後は―――マガツキュウビに視界を同調する。

 

「ここで仕留めるだけだ」

 

 けらけらけらけら、げらげらげらげら。

 

 嘲笑し冷笑する邪神の視線が虚空から向けられてくる。四方八方から伸びる糸が命を削りに来る。少しずつ、少しずつマガツキュウビが削られて行く。その中で見据えた勝機を得る為に。

 

 ―――最後の一手を取った。

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