最強以外ありえない   作:てんぞー

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「生きて帰れると思うなよ」

 小者だがパペッターは決して愚かではない。

 

 危地を理解する頭脳と保険を掛ける能力がある。だからこそ終末期に散々暴れ回った所で英雄たちによる完全な討伐が叶わなかった。そう、レベル150という数字は決してコケ脅しではない。マガツキュウビが敗北したようにパペッターは強い。

 

 だが。

 

 問題があるとすれば。

 

 ―――俺が、イカレ過ぎていただけだ。

 

「パペッタぁ……お前の葬式は派手になりそうだなぁ」

 

 パペッターはその瞬間、持てる全ての能力を使って攻撃の矛先を此方へと変えた。自分が落とされる前に、せめて道連れにしようという魂胆なのだろう。だがその瞬間、《無限鳥居の怪》が発動し、行動がループする。

 

 此方へとターゲットを切り替えられない。パペッターの行動は不発する。

 

『そんな、まさか……!』

 

 本体を露わにしたパペッターを見上げながら死の宣告を行う。

 

「詰みです」

 

 黄泉の川が荒れ狂う。水流が大蛇の形を作り、八つの大蛇へと変貌する。絡み合い、重なり合い、混ざり合いながら八つ首の水竜へと変貌し、パペッターに匹敵する巨大な姿へと現界する。

 

『おぉ―――邪神! 滅するべし! この世に汝ら邪悪が住まう所はない! 滅びるが良い!』

 

 ヤマタノオロチ レベル150が現れた!

 キュウビA~Z が現れた!

 龍鱗の剣士A~Z が現れた!

 マガツキュウビ レベル120は蘇生された!

 深淵の大母は眠りから目覚めつつある!

 アメノウズメA~Zが現れた!

 スサノオ レベル120が現れた!

 ツクヨミ レベル120が現れた!

 アマテラス レベル120が現れた!

 

『―――!』

 

 パペッターの《掌握》!

 キュウビAの《ルアーリング》! 対象を差し替えた!

 キュウビBは《絶望の足跡》をキュウビAに聞かせた!

 キュウビCは《忘却の音色》をキュウビAに奏でた!

 キュウビAは忘却と絶望にかかった!

 キュウビDは《スケープゴート》を構えた!

 

『き、貴様ら』

 

「あぁ、当然攻略方法は共有済みだから」

 

 中指を突き立てながら告げる。

 

「何も出来ないまま死ね」

 

 パペッターは4回行動を獲得した!

 パペッターの《ストリングプレイ》!

 龍鱗の剣士Aは前に立って攻撃を引き受けた!

 パペッターの《ストリングプレイ》!

 龍鱗の剣士Bは前に立って攻撃を引き受けた!

 パペッターの《ストリングプレイ》!

 龍鱗の剣士Cは前に立って攻撃を引き受けた!

 パペッターの《ストリングプレイ》!

 龍鱗の剣士Dは前に立って攻撃を引き受けた!

 ヤマタノオロチはキレている!

 ヤマタノオロチは8回行動を獲得した!

 マガツキュウビは《剛力招来》を発動した!

 ヤマタノオロチのこのターンのダメージが2倍になる!

 ヤマタノオロチは《演技・八岐水裁》を放った!

 水害の化身が八つの水害となり襲い掛かる!

 

「わぁ」

 

「うわぁ……」

 

 もはや視界範囲が全て黄泉のモンスターで埋め尽くされている。ネームドモンスターだけではなく、弱すぎてモンスターとしても認知されない程の霊ですら参戦している。1発、あの邪神を殴れるならそれでも良いという奴が多すぎる。完全なメタを展開された上で封殺されている。

 

 《掌握》は全てキュウビAに押し付ける。ランダム攻撃は龍鱗の剣士が引き受ける。死んでも常に黄泉から新鮮な亡者とモンスターが補充される。それだけじゃなくて、深淵に眠る皆のかーちゃんまで目覚めつつある。逃げようとしても異界化した東京はかーちゃんの領域だ。

 

 逃げられない。

 

 逃げ道も負け筋も潰した。完全なる詰み。もはやパペッターはサンドバッグになるしかない。元々は4キャラ操作で対処する筈のボスだったのだから、これだけの人数を用意すればまあ、殺せるだろう。

 

 文明特効の邪神を討伐出来そうで、漸く一息が吐ける。バイクに寄りかかりながら深く息を吐き出す。

 

「大丈夫っすか? というかこの状況が大丈夫じゃないんすけど」

 

「というか洗脳された人たちはどうするのよ……死んでない……?」

 

 アンナの疑問に大丈夫、と答える。

 

「根の国と同化してるから、解除されるまでは死も持ち越されてるよ。今のうちに蘇生なり回復なりしておけば元に戻った時に普通に蘇るよ……まあ、冥界帰りなんて事を経験したんだ、魂のランクが1段階ぐらい上がるオマケ付きだと思うけど」

 

 それに。

 

「一々全部面倒を見なきゃいけない程、この国は弱くないよ」

 

 な、東吾。俺、知ってるんだぜ。別に主人公じゃなくても強い奴はいるし、お前みたいな強いマスターは結構いるんだってこと。

 

「ほら来た」

 

 空を巨大な影が覆う。全長200メートルサイズの巨大なモンスターが飛翔してくる。恐らくはパペッターが隔離された衝撃で糸が切れたのだろう。上層部が正気を取り戻せば国家級戦力が動き出す。それだけじゃなくて、これまで動けなかった自衛隊なんかも動き出す。

 

 Sランクマスターが参戦した!

 「レイドと聞いて」

 Sランクマスターが参戦した!

 「ふーん、ここが根の国チャンの新しいマップですか?」

 Sランクマスターが参戦した!

 「根の国を探索してたと思ったら面白い事になってるじゃーん」

 Aランクマスターが参戦した!

 「合法的に根の国を探索できると聞いて」

 Sランクマスターが参戦した!

 「あの人形っぽいのが悪いのか? 良し、死のうか!」

 駆間民が道路交通法を投げ捨てて参戦した!

 「何だっていい! 根の国を探索するチャンスだ!」

 逆田民が道路交通法を投げ捨てて参戦した!

 「おいおい、除け者にしないでくれよ」

 怒りに目覚めた一般市民が参戦した!

 「生きて帰れると思うなよ」

 

 日本各地からスクランブルを聞いてどんどんマスター達が参戦している。最高ランクのモンスターならものの数分で現場に到着するだろう。そして今、この特大の異変に日本中の強者が集っている。ここまで来ると俺達の仕事はもう何もない。

 

 見れば救助も始まっているし、アメノウズメをはじめとした回復系の根の国のモンスターも蘇生と回復に回っている。被害者たちもこの調子なら問題なく復帰できるだろう。さ、会場に帰ろうぜ、とバイクに3ケツしつつイーサンを抱えようとする……まあ、無理があった。

 

 横から龍鱗の剣士が現れて運ぶよって言ってくれた。サンキュー。

 

 黄泉のヴェールが俺達を覆い隠し、他のマスター達からの認知を防ぐ。かーちゃんが気を遣ってくれたらしい。ありがとうかーちゃん……なんか今度、ガチ目のお供え物用意しておくね。心の中で手を合わせつつバイクのエンジンに火が入る。

 

『ま、待て』

 

 全方位から爆撃を受けるパペッターが呼び止める。

 

『待て、行くのか!? 私を置いて!? 最後まで戦わないのか!?』

 

 パペッターの指揮する英雄人形が必死に攻撃を防ぎ、回復を行っている。取り出した全ての人形が戦闘に参戦しているが、圧倒的な数の暴力と完全なるメタの前にパペッターは徐々に、徐々に削られて行く。しばらくすれば死ぬだろう。もう、二度とその姿が地上を荒らしまわることはない。

 

「なんでお前が死ぬ所を見なきゃいけないんだ。年中暇なお前と違ってこっちは忙しいんだ」

 

『なっ!?』

 

 中指を突きつける。

 

「じゃあな、パペッター。対策すれば簡単に倒せる雑魚邪神。お前なんかより次の決勝戦の方が強敵だわ」

 

『待て、行くな、私を―――』

 

「バイク出して出して。負け犬の遠吠えに付き合う必要はないから」

 

「了解っす」

 

「容赦ないわねぇ」

 

 バイクが走り出し、パペッターの断末魔が攻撃の中に飲み込まれて行く。気分良くパペッターに背を向けてバイクが行く。横を並走する龍鱗の剣士も滅茶苦茶気分が良さそうにしている。

 

 正面、鳥居が出現する。

 

 それを潜り抜けると一気に区間を通り抜け、会場に近づく。

 

 数度同じことをすれば会場の駐車場近くにまで戻って来る。境界のギリギリまでイーサンを運んでくれた龍鱗の剣士がイーサンを預けて来る。サムズアップを浮かべてじゃあレイドに参加してくるな、と去って行く。

 

 俺とアンナもバイクから降りて、会場の入り口へと向かって走る。

 

「この人は俺が医務室に連れて行くんで!」

 

「悪い! 頼む!」

 

「後日お礼をするわ! ありがとう!」

 

「決勝頑張ってください! 応援してます!」

 

 振り返らずに手を振って、走りながら会場へと向かう。もうかなり待たせている、今更作戦会議するだけの時間もない。

 

「チビ! ルナ! おいで!」

 

 会場内に戻りながら呼べば通路から魔狼達が走って来る。飛び掛かってこようとするのを回避しつつ、スキルカードを取り出す。

 

「決勝の相手は林田正樹と道明寺すすむという昆虫使いのコンビよ。私、今、衝撃やら何やらで頭の中ぱぁなんだけど大丈夫!? あぁ、お化粧直ししたい……! もう、服も何もかもぼろぼろよ!」

 

「ムシキングだろ? チビルナコンビなら比較的に安定する筈。流石に何時も通りのパフォーマンスが出せるかちょっと怪しいけど……それでももう休んでる時間なんてないからな」

 

「ああ、もう! 本当に! なんでこんな事になったの!」

 

「流石に今度、時間取って説明するよ。それよりも決勝戦だ。ハメの通じる邪神なんかよりもこっちのが強敵だぞ」

 

「強さの基準がおかしいでしょ……!」

 

 ハメが通じる時点で雑魚なんだよ。あれは被害がデカいけど、ハメが通じる時点で作業ゲーレベルのボスだ。それと比べるとマスタースキル、戦術、構築が完全に読めない対人戦の方が100倍難しいし、楽しい。

 

 比べるのも失礼だ。

 

 なによりも、相手はこの大会で勝ち残った最後の挑戦者なのだ。

 

 盛大に迎えなくてはならない。

 

『さあ、やってまいりました決勝戦! 長い休憩を挟んでいよいよ鴉羽柊ペアがステージに戻ってまいりました! ちょっとしたトラブルもあったようですが……こうして決勝は開かれる以上、些細な事は忘れましょう!』

 

 ステージに戻ってくると対戦相手は既にステージの上にいた。関係者通路の方にはアーティーやフラメアたちの姿もあり、やってやりましたと言わんばかりの表情で応援している。放送席に視線を向ければ灯と王様、そしてMCの姿が見られる。

 

 どうやら邪神リンチが始まって全て丸く収まった様だ。

 

 後は―――。

 

「勝つだけだ」

 

「やーっと来たな! 中々来ないから不戦勝になるかと思った……って大丈夫か兄ちゃんたち? なんか凄いぼろぼろだし、血も出てるぞ……?」

 

 そう言ってくるのは短パンの少年だった。肩から虫取り籠をぶら下げた少年で、何か言おうとした言葉を止めて心配そうに此方を見て来る。頬を指差してくるので触れてみれば、頬が何時の間にか切れて血が出ていたらしい。

 

 まあ……ハードアクション経験した直後なんでそうもなるか。

 

 親指で拭ってから血を舐める。そういや赤い血が流れてたんだっけな。

 

「気にするな。人生生きてれば色々とトラブルもあるもんさ」

 

「く、クッソぉ! なんか裏で1シナリオ経験したみたいな顔をしやがって……なあ、おっちゃん!」

 

「……」

 

 おっちゃんと呼ばれた隣の男は淀んだ瞳をした中年だった。しかも短パンにランニングシャツという虫取り小僧ファッション。そりゃあ目も死にますよね。にこり、どころかにごり! と言いたくなる笑みを浮かべると、虫取り少年の虫かごに手を突っ込んだ。

 

「あ、おっちゃん、何をするんだよ俺のグレートレッドファイアービートルに」

 

 虫取り中年は無言で少年の相棒らしきカブトムシを取り出すと、それにしょうゆをかけ始めた。

 

「おっちゃん? 何してんの? おっちゃん? おっちゃん!? 相棒おおおおおおおお―――!!!」

 

 無言でしょうゆ漬けにしたカブトムシに噛みつき、食べ始めた。あまりの光景に邪神なんて比較にならない程の恐怖を感じてアンナと抱き合う。

 

「じゃあ、バトルしましょうか」

 

 口の端からカブトムシの足を突き出したまま、笑顔でにごり! 

 

「俺の相棒がああああ―――!! 待って! ダブルサンダービートルは止めてくれ! おっちゃん! そのマヨネーズは何だよ!? マヨネーズは止めてくれよ!!! マヨネーズゥ―――!!」

 

 恐怖に震えている間に蜂型のモンスターと蜘蛛型のモンスターがフィールドに立った。此方も対応するようにチビとルナウルフが前に出ていたが、ちょっとだけ腰が引けている。

 

 ここに、3日かかった大会の決勝戦が始まる!

 

 始まれ!!

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