最強以外ありえない   作:てんぞー

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にごっ!

 目の前で少年が精神崩壊する。これ、バトルできるのか? と一瞬だけ思ったが、モンスターがフィールドに揃った瞬間、表情から感情が消え失せてマスターの顔になる。その姿にぺろり、と唇を舐める。

 

「反射にまでマスターとしての動きを叩き込んでいる……強敵だな……!」

 

「この一連の流れで出て来るコメントこれ?」

 

 ずっとこの瞬間を楽しみにしてたんだ、そりゃあ戦えるなら嬉しいさ。だから遠慮はいらない。この大会を勝利で締めくくるとしよう。待たされた時間、観客たちは今か今かと戦いを求めている。それに応じる様にスーツの上着を投げ捨てて、首元のネクタイを緩める。

 

「じゃ、始めようか……対戦よろしくお願いします」

 

「対戦よろしくお願いします」

 

 ショタが涙を流しながら無表情で対戦よろしくお願いします、って言ってるのだいぶアレだな……。

 

 相手の構築は割れている。此方がポカをしたり運に泣かれなければ勝てるラインの相手だ。コンディションはとても最高と言える状態ではないが、それでもバトルにそれを理由に負ける事は許されない。強者とは、如何なる状況でも勝ててこそ強者なのだから。

 

 チビは《ロケットスタート》を決めた! 素早さが1段階上昇した!

 ルナウルフは《満月の夜》に吠えた!

 《狼の時間》がやって来た!

 静かな夜に狩人達が舞い降りる! クリティカル率が上昇した!

 

 満月が浮かび上がり、会場内が夜に染まる。影を残してルナウルフが満月へと向かって吠えて、種族バフが発生する。これでとりあえずセットアップは完了する。問題は相手のセットアップの方だ。恐らくはムシキング構築だが―――。

 

 デスホーネットは《蟲群》を呼んだ!

 ブラッドスパイダーは《蟲群》を呼んだ!

 

「やっぱムシキングか……」

 

「いっ」

 

 アンナの表情が引き攣る。それも当然だ、1メートル級のサイズを持つ蜂のモンスターデスホーネットと同じサイズの赤い体表のブラッドスパイダーはもうビジュアルからしてだいぶ気持ち悪い。それがスキルを発動させた瞬間、小さな蜂と蜘蛛を呼び寄せたのだから、そうもなる。

 

 ゲーム内でもエフェクトが中々のキモさがあったが、リアルになると更に気持ち悪くなる。だがムシキング構築はガチに分類される強さがある。

 

 チビの《残像爪》!

 《防御指令》! デスホーネットは眷属を盾に攻撃を免れた!

 ルナウルフが合間を縫って追撃を仕掛けた!

 デスホーネットにダメージ!

 ルナウルフの《ダブルファング》!

 ブラッドスパイダーの《ルアーリング》! 対象を差し替えた!

 《防御指令》! ブラッドスパイダーは眷属を盾に攻撃を免れた!

 連続攻撃が襲いかかる! ブラッドスパイダーにダメージ!

 デスホーネットの《繁殖》! 眷属が増殖する!

 ブラッドスパイダーの《繁殖》! 眷属が増殖する!

 

 ムシキング構築、それは眷属トークンと呼ばれる特殊トークンを量産する事で攻撃や防御に活用し、戦闘を優位に進める昆虫モンスター用の構築だ。詠唱と性質的には似ているが、詠唱と違う部分が存在する。

 

 それは眷属トークンが蓄積すると各種ステータスが固定値として加算されるという事だ。しかもこれは独自枠なので《ディスペル》等の対象にも取られない。詠唱はコスト消費で強力なスキルを発動出来るので消費する事が推奨される。

 

 だが眷属トークンは消費せずに置けばそれだけでステータスが伸びる。

 

 あらゆる有象無象、眷属の屍の上に立つ姿はまさしく昆虫の王者に相応しい―――ムシキング構築と呼ばれる所以だ。だからこいつらはトークンが溜まり切る前に倒しきる必要がある。そして眷属を消費させるには、猛攻が一番だ。

 

 デスホーネットは《蟲群》を呼んだ!

 ブラッドスパイダーは《蟲群》を呼んだ!

 チビの《残像爪》!

 《防御指令》! デスホーネットは眷属を盾に攻撃を免れた!

 ルナウルフが合間を縫って追撃を仕掛けた!

 デスホーネットにダメージ!

 ルナウルフの《ダブルファング》!

《防御指令》! デスホーネットは眷属を盾に攻撃を免れた!

 連続攻撃が襲いかかる! デスホーネットにダメージ!

 デスホーネットの《繁殖》! 眷属が増殖する!

 ブラッドスパイダーの《繁殖》! 眷属が増殖する!

 

 段々とステージを蜂と蜘蛛の大群が覆い始める。デスホーネットの方は散らせているが、このターンブラッドスパイダーはノータッチだった。それによりいよいよ眷属が3スタックに到達する。そしてこれだけ溜まると、手番外攻撃が入る。

 

 眷属たちがチビ達に襲い掛かる!

 眷属たちがチビ達の血を吸い上げる!

 ブラッドスパイダーは体力を回復した!

 

 吸血効果。

 

 眷属攻撃は必中の魔法AoE扱いだ。3スタック目からAoE化し、フィールド上の敵モンスターへのダメージが発生するようになる。そのダメージにはモンスター次第で追加効果が発動する。ブラッドスパイダーは吸血能力だ。

 

 こっちは良い。まだ対処できる。

 

 デスホーネットは追加で毒を撒いて来るからダメだ。コイツは優先して処理しなければならない。処理を誤るとDoTとAoEの2重ダメージで地獄を見る。これは《アヴォイドマジック》でも回避できない、仕様を利用した戦闘方法だ。

 

「―――とはいえ、優先すべきはデスホだな」

 

 デスホーネットは《蟲群》を呼んだ!

 ブラッドスパイダーは《蟲群》を呼んだ!

 チビの《残像爪》!

 《防御指令》! デスホーネットは眷属を盾に攻撃を免れた!

 ルナウルフが合間を縫って追撃を仕掛けた!

 デスホーネットにダメージ!

 ルナウルフの《ダブルファング》!

《防御指令》! デスホーネットは眷属を盾に攻撃を免れた!

 連続攻撃が襲いかかる! デスホーネットにダメージ!

 デスホーネットは死亡した!

 ブラッドスパイダーの《捕食》!

 

 倒れたデスホーネットにブラッドスパイダーが飛びつく。死亡したモンスターを捕食し、その分パワーアップする。捕食されたモンスターはその戦闘中は蘇生能力を受けつけなくなるデメリットはあるが、《捕食》によってブラッドスパイダーの全ステータスが1段階上昇した。

 

 4ターン目セットアップ。

 

 ブラッドスパイダーは《蟲群》を呼んだ!

 

 眷属スタック5。

 

 ここからが本番だ。

 

「まずは計算を狂わす」

 

 《デモリッション》命令! チビに魔を砕く力が与えられた!

 チビの《ダブルファング》!

 

「……っ」

 

 《残像爪》ではなく《ダブルファング》。攻撃回数を増やしてきた事に相手が一瞬だけ判断に困った様に思えた。その判断は解る。

 

 眷属を消費するか、否か。

 

 バフを守るか、否か。

 

 来い、来い来い来い来い―――来い。

 

 夥しい程の蜘蛛が満ちるステージの上、ブラッドスパイダーへと向かうチビを―――ブラッドスパイダーはそのまま受け入れた。

 

 ブラッドスパイダーの強化効果が解除された!

 Critical! ブラッドスパイダーにダメージ!

 ルナウルフが神速を持って切り込む!

 追撃! ブラッドスパイダーにダメージ!

 ルナウルフの《ダブルファング》!

 ブラッドスパイダーにダメージ!

 ブラッドスパイダーにダメージ!

 ブラッドスパイダーの《吸血》! ルナウルフから体力を吸い取った!

 眷属たちがチビ達に襲い掛かる!

 眷属たちがチビ達の血を吸い上げる!

 ブラッドスパイダーは体力を回復した!

 

「スタック5……チビとルナの攻撃力……ダブファの倍率……ドレインして残り4割って所か。詰める」

 

 スタック維持を優先した結果、クリティカルダメージを通してしまっている。今ので完全に此方に天秤が傾いた。

 

 パぺ太ァ! お前をハメ殺すって善行をしたお蔭かな? クリティカルの女神さまに愛されたよ! パぺ太ァ! 死んでくれてありがとう! もう成仏していいぞ。

 

「使うタイミングは……ここだけですか《ワープスター》」

 

 当然のように差し込まれるマスタースキル。あまりの便利さから利用者が多すぎる《ワープスター》が差し込まれ、そこから《蟲群》が発動―――しない。

 

「それは通さないわ!」

 

 《インタラプト》! 《蟲群》はキャンセルされた!

 ブラッドスパイダーの《吸血》! ルナウルフから体力を吸い取った!

 チビの《ダブルファング》!

 《防御指令》! 攻撃を無効化した!

 《防御指令》! 攻撃を無効化した!

 ルナウルフは流れに乗って追撃した! もしかして今回生き残れるのでは?

 デススパイダーにダメージ!

 ルナウルフの《ダブルファング》!

 Critical! デススパイダーに致命的なダメージ!

 デススパイダーは食いしばって耐えた!

 Critical! デススパイダーは死亡した!

 

 無駄クリ! アンナとルナウルフの気合が見えた。

 

 保険用に積んでいた食いしばりに吸血とAoEで回復しつつ……という感じだったか。最後はインタラが原因で眷属が足りずにそのまま落ちた。指示を出す前にちゃんとインタラを差し込めて偉い!

 

 ブラッドスパイダーが死亡した事で眷属たちが散り始める。その1匹を徐に虫取り中年が掴むと、ソースをかけて齧り始めた。なんで? 調味料なんでそんなに持ち歩いてるの? どこに? どうして食べる? なんで? 試合終わったのにどうして?

 

 にごっ!

 

 レイプ目ショタが倒れ込み、中年が濁った笑みを浮かべる。

 

「やあ、お強い……いい試合でしたね」

 

 そう言うとチビとルナを見る。

 

「うーん、肉は良いかな……」

 

 恐怖に怯えるチビとルナが俺とアンナに飛び掛かって来る。押しつぶされるアンナと、骨が折れる音がしながらチビを受け止める。はは、流石に辛いぞ。

 

 虫食い中年はレイプ目ショタを持ち上げるとおめでとう、と言葉を残して去って行く。その姿が消えるまで見届けてから長い息を吐き出す。

 

 観客は待っている。

 

 その言葉を。

 

 だから期待に応えるように拳を掲げる。

 

「俺達の勝ちだ」

 

 おおおおおお―――!

 

 溢れる歓声に耳が痛い。抱きついたチビをわしゃわしゃと撫でてから下ろす。流石に色々とありすぎて疲れた。

 

「ぷ……はあ! 死ぬかと思った! はあはあ、この後は……表彰式……よ!」

 

 アンナがルナウルフの下から必死に這い出てくる。こんな状況でもしっかりと仕事を把握してるのは流石だなぁ、としか言いようがない。

 

 当初は外の大会なんて期待できないとも言われたが……結果を見ればいい経験になった。

 

 ブイサインを掲げて勝利をアピールする。

 

 これで、無駄に長かったこの3日間も終わりだ。

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