決勝戦が終わり、お化粧直しタイムが入る。
外傷、チビに折られた骨、乱れた着衣などを整えてからステージに用意された表彰台にアンナと一緒に堂々と登る。
表彰台の上から眺める景色はまた違うように感じられた。駆間で小規模な大会に出た経験は結構あるが、こういう表彰台まで使って表彰される経験はない。普段とは違う雰囲気に、流石に高揚感を覚える。
そうして表彰台の上に立っていると、MCがやって来た。その横には茜と翔の姿もある。優勝トロフィーが2人の手によって運ばれてくる。
「3日間かかったこの大会もいよいよ終わってしまった! 優勝したのは鴉羽柊ペア! 主催者が優勝とかこれは出来レースか? いいや、それは違う! この2人が優勝するのにふさわしい実力を持っている事は他でもない、私達が良く知っている! いや、ほんと強かったですね」
「ま、才能って奴かな」
「うっわ、ムカつく」
「否定できないのが悔しい所よね」
「やらんでもええ勝負で勝って全員黙らせたんならそら本物やろな。おめでとさん」
トロフィーを受け取り、アンナと両側を握って掲げる。背丈が足りないので俺が思いっきり持ち上げれば掴んだアンナまで持ち上がる。ぶらん、と揺れるアンナがこっちを睨んでいる気がする。スタッフ通路の方を見るとイーサンがカメラでアンナの写真を撮ってる。もう復活したのアイツ。
というかバレたから隠さなくなったな……人として終わりかコイツ……?
「さあ、優勝した2人に改めて盛大な拍手うおおお―――」
「おっとごめんよ」
MCが締めに入ったから、終わる前に表彰台の上からトロフィーを使ってマイクを引っかけ、それを打ち上げたのを片手で掴んで奪う。
「あー、テステステス」
「尊? いい子だからマイクを手放しなさい? 尊? アンタがマイクを握るとロクな事にならないって知ってるわよね? 尊?」
「翔くんはちょっとアンナ抑えてて」
「ええで」
「ちょっと!?」
「なんや面白そうやん。こんなんやらせてやった方が絶対に盛り上がるやろ」
アンナが翔に抑え込まれたのでトロフィーを肩に担ぎつつマイクを口元に寄せる。
「よう! この3日間楽しかったか? 色んな相手が出来て俺は楽しかったぜ。自分が使わない構築、普段見ない構築、色々と触れる事が出来て楽しかったよ。今回の試合を見て自分もマスターになりたい、やりたいって思える奴もいたんじゃないか?」
バトルをするとやっぱマスターになって良かったと思える。色々と面倒な事もあったが、楽しい3日間だった。
「マスターである以上、最強を目指すのは当然の事だ。俺は最強を目指す。アンタ達はどうだ? 憧れないか? 目指したくならないか? 最強の称号を? ん?」
環境、居場所、生まれ、育ち。色々と目指せない理由はある。夢に見た事を夢として見られなくなる事も多い。そしていつか現実ばかり見るようになるのだ。今思うと、昔の頃の俺はだいぶ勿体ない生き方をしてたな。
「俺は当然上を目指す。マスターになった以上は当然だ。Sだけじゃない。更にその先、グランドマスターを目指す。そう、柊家の継承問題なんて俺にとっては通過点でしかない」
「ちょっと!!!」
「うわぁ、言うねえ」
視線を周りへと巡らせ、それから見下ろすように存在する放送席へと向ける。
「無論、俺は柊家の継承争いなんてもんには欠片も興味がない。俺が柊性を名乗る事は今後とも一生ないだろう。だけど、俺以外の奴が最強を名乗る事は腹に据えかねる―――良いか、必ず追いつき、追い抜いてやる」
放送席に、此方を楽しそうに見下ろす王様の姿が見えた。驚いたような、そうでもない様な、複雑な感情が入り混じった表情を浮かべている。ただ、それは総じて楽しそうという言葉で締めくくる事が出来る。
「待っていろ王様―――いや、柊清十郎。上に立つのは俺だ」
放送席の王様……いや、清十郎は近くにいる誰かに何かを告げると、手を振って放送席を去って行く。宣戦布告はちゃんと届いているみたいだ。ならここにもう用はない。マイクをMCへと投げ渡す。
「マイクサンキュ」
「お、おう……良いんですか、こんなの?」
「何も良くないが?」
「―――」
MCが絶句する。その表情、良いね。空いた手でサムズアップを浮かべてから表彰台を降りて通路の方へと歩き出す。中々の重さのトロフィーだが、牧場でモンスター相手に鍛えられたこの肉体には軽く感じるものだ。
これから、遠征が増えればこの手のトロフィーもどんどんと増えるだろう。飾る場所を考えないとな。
「ちょっと! 尊! このクソボケ!! 止まりなさいよ!!」
「やーだよ、っと」
後ろから追いついてきたアンナの飛び蹴りを回避する。
そのまま流れ込む様にスタッフ通路へと入ると、アンナがスーツを掴んで無理矢理引き留めて来た。
「アンタ、清十郎とは知り合いだったの? 何時の間に!?」
敵対派閥のトップ。柊家継承筆頭候補。柊家の孫世代で最も力のある男。それこそが柊清十郎。写真でも映像でも見た事のない男だが、まあ、会えばその空気で解る。あぁ、同じ血が流れてるんだな……って。お互い空気が馴染むわけだよ。
「アンタ、私のいない所でまた勝手に……!」
「アンナ」
「私がどれだけ―――」
「アンナ」
トロフィーを担いだまま、静かにアンナに告げる。
「もう猿芝居は良いだろ」
「……」
その言葉にアンナが黙り込んだ。一瞬前までの激情は消え失せた。
「今回の大会、実は最初からちょくちょく違和感があったんだよな。別に勢力や同盟としてのお披露目するなら態々こんなデカい事する必要がないし……シングルでやってても何も問題はなかった筈だろ? なのに態々タッグという形式に持ち込んできたし」
だから俺はこの大会が文字通りのモノになるとは思わなかったし、その上で全勝すればよいと判断していた。くだらない思惑や計算は全部正面から踏み越えて行けばよいのだ。結果として邪教も邪神も虫食い中年も踏みつぶせたし。
最後のはほんとどこから湧いてきたのかは解らんけど。もう二度と現れないでほしい。あ、ジャックポット君はもう一度ぐらいなら相手したいかも。特殊勝利はちょっと見てみたい。
「形式がタッグなのは俺の協調性を見る為」
タッグという形式で俺がどれだけアンナに対して協調性を見せられるか。互いを尊重し合う事が出来るか。一緒に1つの作戦を通す事が出来るか。ワンマンショーにならないかどうかを計る為のタッグ大会という形式。
「箱をデカくしたのは俺が人前に出てどれだけお行儀よく出来るのかを見る為」
これから遠征したりランクを上げれば嫌でも露出は増える。大会で人の目につくだけではなく、メディアへの露出も増えるから、俺がそういうのに相応しい態度を取る事が出来るかどうかを見る為に大会規模を大きくした。
「茜と翔を招いたのは柊家の他の親族に対する俺のスタンスを見る為に」
スポンサーとして顔を貸した茜と翔は今大会、参加はしないが金は出してくれた。親族である2人、初対面の俺がどういう風に接するのかを調べたかったのだろう。そもそも俺は他の柊一族の事を全く知らないし、興味もない。だから実際に会わせて反応が見たかったのだろう。
「―――そしてアンナがいない所でしか王様とエンカウント出来なかったのは、自分がいない所でカリスマの化身とでも言うべき敵対派閥のトップと会わせて、俺がそれに靡かないか、俺がそれに従わないか……それを試す為だろう?」
アンナが返答する事無く溜息を吐き、片手で頭を抱えた。
「アンタね」
「あぁ」
「それだけ脳味噌が回るなら、普段からそうしなさいよ……って何? もしかして思考読まれた?」
「いや? 別にシンクロなんかしなくても人の考えぐらい読めるだろ」
「……」
本気で言ってるのかこいつ? みたいな視線を向けられている。アンナが思っているよりも人間は隠せない生き物だし、見ていて解る生き物だ。だからこれで答え合わせは完了だ。これは柊アンナプレゼンツ、鴉羽尊人間試験だ。
果たして鴉羽尊は柊の名を背負うだけの人間性を持ち得るのかどうか、という。
「で、結果は?」
「落第に決まってんでしょ……!」
周りで話を聞いていたスタッフや通路の入り口に立っているMCや茜達、後イーサンも腕を組みながらうんうんと頷いてそれはそうと納得している。俺も納得の結果なんだけどそれはそれとして皆にこうも納得されるとちょっとムカつくな……。
「協調性は皆無! 試合中はずっとアンタの反応と指揮に付いて行くのが限界! 振り落とされそうになったら助けもせず自分で指示を出そうとするし! アンタ1秒間の間にどれだけ戦闘用の思考を動かしてるのよ!?」
そういうもんだし。
「人前だというのに全く態度を改めないし! マイクを奪うし! さっきも奪うし! 余計な事しか言わないし!! 無駄な勝負させられてひやひやしたわよ!」
楽しかったです。
「顔を合わせた所で欠片も興味を持たないし、社会性の欠片もない! 普通親族と顔を合わせたらもっと色々と話すことがあるんじゃない!? アンタ初日に顔を合わせたら以降探す気もなくずっと放置だったでしょ!? 会うならいつでも会えるようにしてたのよ!?」
翔が角の方からサムズアップを浮かべている。
「しかも爆速で清十郎と仲良くなってるじゃない!! 私より明らかに仲良くなってるじゃない!? おかしくない!? 私の方が面倒見てるのよ!? なんで私よりも仲深めてるの!? それでいて絶対に倒すとか宣言してるし! 意味解らないわ!」
ライバルは強い方が燃えるんです。
「はあ……落第よ、落第。人間性カスよアンタは。カスの中のカスよほんと……もうアンタに人間性というものを期待してはいけないというのは解っていた筈なのに……少しでも夢を見た私がバカだったわ……」
両手で頭を抱えるアンナは数秒間俯き、だけど、と声を零した。
「アンタが人間性カスのカス人間ではあるけど……どうしようもない邪悪は許せない義侠心のある人間だって事は解ったわ。私が知らない事をたくさん知ってて、何かと争っているという事も」
邪神パペッター。女神崇拝の邪教。今回はどっちも出て来てくれた。
総評するとまあまあ丁度良いチュートリアルだったな、という評価に落ち着く。成果としてパペッターが死んでくれたのが一番嬉しい。今回、図書館に救援を頼めなかったのは、もしも《掌握》を受けたモンスターが図書館に入り込んだ場合、ワンチャン館長死亡ルートもあり得るからだ。
館長が死亡した場合、どれだけ戦力を揃えた所で現状のシステムが全部崩壊するのだ。
それはこの世界の終わりを意味する。
ね、ワンチャン館長暗殺出来るパペッター死んで良かったでしょ?
「でも良いわ。それぐらいの飛びぬけた才能があるなら、その人間性の薄さにも納得だわ。お爺様もそうだったし。アンタの更生に関しては……そうね、久遠に期待する事にするわ。アンタぐらいの怪物でもなければ、清十郎には勝てないし」
「同盟継続?」
「継続よ」
アンナに手を差し出し、握手をする。色々とあったが、今回は全部丸く収まったとみるべきだろう。後は両親や久遠にお土産を買って帰らないとな、なんてもう帰りの事を考え始めているとねえ、とアンナが聞いて来る。
「一旦解散する前に良いかしら?」
「なんだよ」
アンナが、見上げながら俺に問いかけて来る。
「―――何時から、私の顔が見えなくなった?」
サングラスを外して、アンナの顔を見据える。
そこには黒いクレヨンでぐちゃぐちゃに塗りつぶされたものしか見えなかった。茜も、翔も、イーサンも、周りにいるスタッフも、MCも、全員クレヨンで塗りつぶされたぐちゃぐちゃのらくがきみたいになっている。
それに笑顔で応えた。
「あ、解っちゃった?」