最強以外ありえない   作:てんぞー

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法には触れないよ

 家を離れてたのはたった3日間だけだったが、こうも濃いイベントとなるともう1か月近く帰っていない気持ちになる。漸く見えて来た鴉羽ファームは見事土地の一角が大炎上していた。ドライバーが仰天しながら何度も窓の外を確認しているから笑って前に進む様に言う。

 

「アレはダンジョンを使って土地をテラフォーミングしてるんだ。ほら、良く見て……中心にダンジョンが見えるだろ? あの周りにいるバイトマスター達でダンジョンを脅迫してるんだ。無理矢理ダンジョンに侵食させて地形を塗り替えさせてるんだ」

 

 いやあ、計画してた炎系のモンスター用の火山っぽい溶岩エリア、あの調子なら作れそうだな。うちの牧場も預かれるモンスターがこれで増えそうだ。結局のところ、モンスターが快適に過ごせる環境を作らなきゃ預かれるものも預かれない。

 

 その点、鴉羽ファームは天然由来の環境を用意している。自然に優しいですよ。ダンジョンには優しくないです。

 

「そ、そうですか……ダンジョンに強制労働させるのってありなんですね……」

 

 ドライバーの言葉に灯が頷く。

 

「人権がないからね。法には触れないよ」

 

 都会では大事件になるダンジョン出現も魂の故郷、駆間では玩具になる。無論、ここら辺の技術は館長とはノータッチだ。つまり館長のいない所、認知しない所で勝手にこれ、利用できるんじゃね? と思った狂人が編み出した生きる知恵なのだ。

 

 頭おかしいんか? 一体何をどうしたらダンジョンを脅迫するって発想が出てくるんだ?

 

 まあ、でも、鴉羽ファームでは比較的日常の姿だ。道路を走っているとキャンプ場、レイドゲート溜まり、彼岸ゾーン……あ、黒い狐がぐでーってしてる……だいぶ立派で賑やかになった牧場の姿が見られる。やがて見慣れる様になった我が家へと戻って来た。

 

「お疲れさまでした」

 

「お疲れ様」

 

「世話になったな」

 

「そう思うのでしたらアンナ様にもう少し手心を……!」

 

 ドライバーにてへぺろ、としてから逃げるように降りる。そういう所だよお兄ちゃん、的な視線を感じる。車から降りた解放感に腕を伸ばして新鮮な空気を肺の中に送り込む。やっぱ都会とここでは空気が全然違う。

 

「色々とあったけど結構楽しかったな」

 

「アレを色々で済ませるのは無理があると思う」

 

「そうかな? いや、そうかも……」

 

 まあ、最後は全部丸く収まったので良いんじゃないかな?

 

 振り返ってもモンスターを運んでいるトレーラーは到着していない。モンスターの移動は手続きが多くて面倒なのもあるから、到着はまだあとになりそうだ。先に家に戻って振り返りでもするかー、と想っていると扉が開いた。

 

 その向こう側から出てくるのは白髪の少女の姿。

 

「あ、お兄ちゃんの表情が露骨に変わった」

 

「シャラップ」

 

 笑顔で外に出て来た久遠はスマホを持ち上げ、そこに映っているものを掲げて来る。遠くて見づらいな……なんだアレ……ダイレクトメッセージ? やばっ、アンナからのメッセージじゃん。あ、久遠キレてる。アイツ今回の事を報告しやがったな! クソ!

 

「あ、お兄ちゃんの表情が露骨に変わった」

 

「シャラップ! 俺は適当なダンジョンに逃げる、探すなよ」

 

「逃げるな」

 

「はい」

 

 逃げる前に久遠に呼び止められる。そのままとぼとぼと久遠の前にまで進み、背筋を伸ばして立つ。アンナからの文句の詰まったメッセージを突きつけて来る。

 

「ミコト、これはなんだ?」

 

「……あー、そのー……」

 

「成程、言い淀むという事は自分でも悪い事をしたという自覚があるんだな貴様?」

 

 久遠の言葉と鋭い視線の前に俺は完全敗北を認めるしかなかった。完全敗北を認め、その場で正座する。にこり、と笑みを浮かべた久遠の表情が一瞬で怒りのものへと転じた。

 

「貴様は! 後から怒られると解っていてどうしてやった! 外に出て人様の前に立つのならそれ相応の態度というものがあるであろう!? 良いか! 貴様が代表しているのは貴様だけではなく鴉羽という名、即ちご両親の名でもある事を自覚しろ!」

 

「おっしゃる通りです……」

 

「うわ、お兄ちゃんが雑魚になってる」

 

 うむ、妹よ。お兄ちゃんの情けない姿が珍しいからといって写真を撮るのは止めなさい。普通にかなり畜生度の高い動きだからね。

 

「貴様は前々から身内とそれ以外に対する態度が違いすぎると思っていた。良い機会だ、貴様のそのどことなく身内以外の他者を軽んじる所を叩き直してやろう!」

 

 こうやってお説教してくる久遠が出てくるとあぁ、漸く駆間に戻って来たんだなあ……という安心感が身を包む。元々は都会住みだったのに、今では完全にこっちの方が馴染む様になってしまった。それを見越してジジイも俺をこっちに引っ越させたのだろうか?

 

「ミコト」

 

「あ、聞いてます。ちゃんと聞いてます」

 

「違う、そうじゃない」

 

「うん?」

 

 正座したまま見上げると、柔らかく微笑んだ彼女の顔があった。

 

「大変だっただろう? お帰りミコト」

 

「……ただいま」

 

 やっと、帰って来れたという気がする。

 

 

 

 説教が終わった頃にはモンスター達も帰って来たので、リビングで東京土産をどどーんと解放する。東京土産というのも前まで住んでた所だからだいぶ変な感じはするのだが。それでも遠征は遠征なのだから、とりあえず買ってみた。

 

「お菓子とか」

 

「まあ、外れはないわよね」

 

「基本的に消費できるものが喜ばれるよね。取引先に持って行くにしても。形になって残る物はお土産にするにはちょっと重いというか……あまり興味のないグッズを貰っても置き場に困るんだよね……」

 

 リビングでお土産開封の儀。昔営業とかもしてた父からするとやっぱりこの手の贈り物には拘りがあるらしい。確かに提灯とか貰っても困るしな……場所取るし。それに比べてお菓子の類は消費出来てその間も幸せになれる。

 

 やっぱ食べられるものがナンバーワンか。

 

「あ、久遠、これは修三さん達に」

 

「うむ、私から渡しておこう」

 

 土産物の入った袋を久遠に渡す。なお当の本人はなんとか確保した老舗監修の作るタイプのあんみつを渡してある為、機嫌を直してくれている。帰宅する前に確保しておいて良かったと心の底から思っている。

 

 家族で土産物を広げてパクつきながらテレビがニュースを流す。今年の交流戦はアメリカを舞台に各国から代表チームを呼び込む大規模なものになりそうだと言っている。確か現状のアメリカは2期グランドマスターを抱えている筈だ。

 

 ここで前哨戦を済ませて、3期目確保への弾みにしたいって所だろう。米帝もやるなぁ、というコメントが流れる。

 

「しかし尊、ニュースになっていたぞ試合が。偉く目立ったみたいじゃないか」

 

「まだまだこんなもんじゃないよ。これから勝ち続ければもっと目立つし、そうすればウチの牧場だってもっとお客さんが来るんだから」

 

 目指せ、日本一のモンスターファーム! どんなモンスターも安心して預けられる万能ファームを目指せ! ……というのは流石にちょっとやり過ぎかぁ。饅頭うまー、と土産物を自分で食べてると次のニュースが流れる。

 

「東京は厳戒態勢中か」

 

「ロックダウンされる前に帰って来られて良かったわね」

 

「ソウダネ」

 

 東京の一部の黄泉化はまだ解けてないらしい。特に邪神パペッターが死んだ辺りのエリアは未だに根の国に浸蝕されたままらしい。元々周囲の人間の頭の中に死のイメージを構築し、そのネットワークを駆使して引っ張り出したから目覚めれば普通に解けて消える筈なのだが。

 

 こうもまだ消えてないのを見ると維持してる奴がいるなあ。

 

『探索中のマスター達からは嫌だ、消えないでくれ! そのままで良い、四国まで行くのが面倒だ! ショートカットキタコレ! 等という正気を疑う声もあり、出勤や生活の邪魔になるからと早く対処してほしいと政府に掛け合う姿が―――』

 

「お兄ちゃん、これ維持してるのもしかして……」

 

「ワンチャンあるかもな……」

 

 もしかして駆けつけたマスターたちが悪さしてるのかもしれない。その場合はもう責任が取れないので、そっちで好きにしてください……となる。でも確かにワンダーランドが増える方が楽しいよね。

 

 ボクぅ……はちゃんと後始末考えてやりました……。

 

「しかしこれでしばらく予定もないしゆっくりできるよ」

 

「あら、てっきり新しい大会を見つけて行ってくるのかと思ったんだけど」

 

「いや……遠征はもうしばらくはいいです……」

 

 俺がその言葉を吐いてソファにぐったりと倒れ込むと、灯もうんうんと頷いて此方に倒れ込んでくる。ちょっと遠出する度に何か大きなイベントが発生するならしばらく遠出するのは良いかなぁ……って気分にはなる。

 

 図書館の時もさあ!

 

 今回もさあ!

 

 俺が遠征するとロクなことにならねぇの!!

 

「年内にB認定は無理そうだし、来年……6月辺りがB認定の目標かなぁ」

 

 そりゃあ、まあ、昇格するなら早めの方が良くね? って話は確かなのだがCからBへと上がる壁は厚い。強さではなく、人の数という意味で。人が多いとそれだけレートに厚みが出てくる。何回か勝った程度じゃ層の上の方に上がってくるのは難しい。

 

 つまりこれまで以上に勝利数とかのスコアが求められるという話だ。小規模な大会を10個制覇する程度では全然足りない。それだけ多くの人間がC帯で挫折しているという事でもある。

 

 それでも勝率9割をキープできるなら来年の6月頃にはBになれるかなあ、というざっとした計算はある。ここら辺のレーティングに関する話はもはや元となったゲームとは大きく乖離している。ゲーム人口がリアルベースになった影響がデカすぎる。

 

 それにアーティの合体もしなくてはならないし、削除してしまったウェルギリウスのスキルの再習得もしなくちゃならない。パペッター対策で仕方がなかったとはいえ、また全部最初から習得させるのは結構骨が折れる。

 

 許さねぇぞパペッター!!!

 

 もう死んでるぞパペッター!!

 

 一生ネタにして擦ってやるからなパペッター!

 

 パペッターが死んだのは別に良いのだがアイツが死んだ所でまだ暴かずにはいられないインスペクター、悪性情報しか映さないパラレルミラー、壊れた歯車のチクタクマン、狂った物語のゴーストライターとかいうカスオールスターが残ってるんだよなぁ。

 

 今回はアレが馬鹿だったから何とか殺せるラインまで引きずりだせたけど、1度やった以上2度目はないだろう。

 

 ……まあ、何にせよ、しばらくは平和な日常だ。

 

 牧場の改築、モンスターの育成、そして学業とやる事はたくさんある。世界を救う事ばかりじゃなくて、そっちもしなくちゃ。

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