最強以外ありえない   作:てんぞー

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もしもし、自殺志願者?

「クソが、でねえええええええええ―――!!」

 

 キレて両手を床に叩きつける。

 

 Dランク昇格から1か月が経過した。

 

 チビの合体用のモンスターは未だに手に入れられなかった。

 

「毎日毎日ダンジョン潜ってるのに! 毎日少なくとも10個踏破してるのに! 学校サボってダンジョンをはしごした日もあった! ちゃんとお祈りしてからダンジョンに潜ってるのに!! 未だにでねぇ!! もう秋だよ!!!」

 

 厳選道は沼だ。たった1体の理想個体を追求する為に数百回周回する必要が出て来るというだけでもだいぶ沼だ。多大な労力を支払う事で手に入れる事の出来る強さは運が絡んでいるが、金銭にまるで関係なく手に入れられる強さだ。

 

 だがその労力の重さが現実とゲームではまるで違う。

 

 ゲーム内では効率化されたダンジョン周回は1周3分から10分で終わる。これはもちろんゲームクリア後、探索に特化したモンスター用意済み、それでいてボスをワンパン出来るという事前提での話だ。ここまで下準備した上でランダムダンジョンに突入、爆速でサーチしつつ踏破なんて事が出来る。

 

 この高効率レベリングは途中でダレる事も含めれば1時間で20周から15周ぐらい周回出来るだろう。ペースを落とさない前提での話なら100周まで5時間程度あれば良い。それだけやれば流石に理想個体は出なくてもニアミス程度なら出て来るだろう。

 

 じゃあこのリアル環境では? まず対象は我が家の庭先に出て来るランダムダンジョン(普段ミストドラゴン処理)。ランダムダンジョンは中の強さや出現するモンスター、環境も固定されていないビックリ箱の様なダンジョンで、場合によっては高位のモンスターすら出て来る。

 

 それでも大体の場合ではCランクまでのモンスターしか出て来ない。

 

 ミストドラゴン様で無双してジ・エンドだ。戦力的な問題はこれで解決する。問題は探索の方で、探索用のモンスターがまだできていない。というか素材が揃っていない。現状作りたいモンスターの素材が何一つ揃えられていない。そのせいでダンジョンの中にダッシュで走ってダッシュで探索したら爆速で脱出してミスト無双するゲームになっている。

 

 これでかかる時間は30分。9割ぐらいミストドラゴンの手柄である。

 

 俺はそこら辺のモンスターに辻シンクロしてマインドハッキングから情報を抜き出して欲しいモンスターがいるのか、ダンジョン構造はどんななのか、落ちてるアイテムを確認する係である。だがここまでやってゲーム時代と比べると圧倒的に効率が悪い。

 

 これで限界まで頑張って1日10周が限界だ。

 

 とてもじゃないけどゲーム時代の効率とは比べられない。

 

 1週間頑張っても70周。これじゃあゲーム時代の5時間にも劣る。

 

「俺は、無力だ……クズだ……カス運だ……生きてる価値がない……死のう……」

 

「お兄ちゃんよしよし」

 

 絶望感に床に転がっていると妹が膝枕をしてよしよししてくれる。流石マイスイートベイビー、慈愛の心で満ちている。心の中に満たされていた絶望感がベガスへと旅立ったのを感じ取りながら再びダンジョン周回の亡者へと帰還する事を決意する。

 

「挫けないな。妥協はできないのか?」

 

 そんな兄妹の様子をソファの上から眺めているのが久遠だった。それに俺は答える。

 

「無理。これでもだいぶ妥協してる。これ以上妥協するとなると目的のモンスターに辿り着かなくなる可能性が高くなってくる。代替できる奴と代替できないモンスターがいるけど、今の所探してるのはそういう所」

 

 これはほぼどのモンスターにも言える事だが。

 

「始祖は変えられない」

 

「始祖は変えられない?」

 

 そうそう、と起き上がりながら答える。

 

「どんなモンスターも絶対に始まりの1体が存在する。始祖ってのは以降の世代の方向性を決めるもんでもあるからね。ここが雑だとここから先ずっと雑な流れが残ってノイズになるんだよ」

 

 だからどれだけ厳選してもなるべく綺麗な形で整えたい。それがこれ以降の土台となるからだ。なまじ、ウルフパップとかいうモンスターを土台にして血統図を構築し始めたのが悪い。この最初の1歩だけは妥協できる範囲が凄く狭いのだ。

 

「さて、そろそろ新しいダンジョンが庭に生えて来てる頃だろ……」

 

「お兄ちゃん頑張ってね。合体するする詐欺のし過ぎでなんかもうチビと別れる覚悟ずるずると引き延ばされてるから」

 

「うす」

 

 じゃあ頑張るか、と思って立ち上がるとピンポーン、とインターホンが鳴った。駆間市からそこそこ遠いだけあって我が家の訪問者というのは大体身内か、凄く気合の入った業者か、庭のダンジョンに釣られてやってきた野良の修羅ぐらいだ。

 

「尊ちゃん? ちょっと見て来てくれる?」

 

「はーい」

 

 出鼻を挫かれたなあ、と思いながらインターホンを確認すると予想外の人物の姿がそこにいた。純粋に驚きながら扉の方へと向かう。

 

「母さん、お客さん」

 

「あら? 来客予定なんてなかった筈なんだけど」

 

 扉へと向かい掛けていた鍵を開け、そのまま扉も開ける。扉を開いた向こう側には久しぶりに見る姿が黒服を携えて立っていた。

 

「よ」

 

「久しぶりね、尊。お爺様の葬式以来ね」

 

 金髪ツインテールにゴスロリという凄い恰好をした少女が家の中に入って来る。柊アンナ、柊家の一員であり、同時に継承権を持っているマスターの1人でもある―――つまりは、俺の従妹である。

 

「では我々は外でお待ちしております」

 

「適当に寛いで待ってて」

 

「寛げるかなぁ」

 

 家の外を見ると乗って来たであろう大怪鳥がミストドラゴンにじぃ、と見つめられて体を小さくしていた。現役Aランクマスターの所有モンスターからの威圧にちょっと困っているほか、そこら辺にダンジョンゲートがまた生えている。我が家は魔境だなぁ、ジジイ死んでくれ……と思いながら十字を切ってから黒服たちを締め出す。

 

「あ、アンナお姉ちゃん!」

 

「灯元気だったかしら? あ、おば様ノンアポで失礼しました。此方、土産のセイレーン饅頭です」

 

「まあ、あのセイレーンが出て来る温泉って事で有名な所の? 悪いわねぇ……今お茶を入れて来るわ」

 

 久遠がアンナの姿をみて腕を組みながら唸っている。

 

「うーむ、ゴーゾーの血を引いてるにしてはまともすぎるな。実は血が繋がっていないのではないか?」

 

「なにこの失礼な女は。DNA鑑定は受けてるわよ」

 

 一応受けたんだ……と久遠と呟きが一致した。睨むようなアンナの視線に久遠が胸を張って答える。

 

「私か? 私はミコトの妻だ」

 

「結婚した覚えはまだありませんねぇ……真面目な話をするとジジイが用意した婚約者だよ。こっちに来た時に初めて知らされたんだけど」

 

「お爺様は本当にもう……」

 

 溜息を吐きながら頭を抱えるアンナこそ柊家の中でも珍しく善良で、腐っていない、奇跡の様な娘だ。柊家の孫世代は親世代と比べると比較的にまともなのが多いが、その中でもアンナは特にまともなタイプだ。

 

 まとも過ぎて後継者争いを一番真面目にやっている奴だ。

 

 ―――つまり、この継承レースにおけるライバルだ。

 

「それにしても尊! やってくれたわね!?」

 

「何を?」

 

「何を? じゃないわよ! 一気にFからDまでランクを上げちゃって! 私だって最速でDまで上がって話題を取るつもりだったのに、アンタが2連続で、それも1世代のみで突破するもんだから完全に話題がアンタに取られちゃったじゃない!」

 

 悔しそうなアンナの顔にはは、と笑い声を飛ばして指差す。

 

「雑魚」

 

「こ、こいつ……!」

 

 拳を放ってくるアンナの動きを完全に見切って横スライドで回避する。

 

「うわっ、気持ち悪っ! 何その動き!?」

 

「はは、普段からチビのトレーニングは俺が担当してるんだぞ? 自然と俺の素早さステータスも上がるんだ」

 

「へぇ、アンタ新種のモンスターだったのね。ちなみにどんなトレーニングしてるの?」

 

「追いかけっこ」

 

 逃げる俺をチビが追いかけて《アクセルクロー》を叩き込む訓練。前までは住宅街の中にある公園とかでやっていたからある程度セーブしなきゃいけなかったが、ここは広大な自然で溢れた大地だ。周りへの被害なんて気にせずにチビも全力の《アクセルクロー》を叩き込めるおかげで良いトレーニングになってる。

 

「もしもし、自殺志願者?」

 

「違うが?」

 

「でもお兄ちゃん、転んだりしない限り絶対に当たらないよ」

 

「嘘ぉ」

 

「本当だぞ。尊はまるでどこに攻撃が来るのかを常に理解しているかのように回避している。そのせいで中々チビが攻撃を当てられずにやきもきしているな」

 

「はっはっはっは」

 

「やっぱりアンタ人間じゃないでしょ」

 

 転生してやって来た人間はジャンル的に人間よりもモンスター寄りかもなぁ。

 

 窓の外を見るとふざけてるのか零距離まで近づいて怪鳥くんをミストドラゴンが威圧してた。怪鳥くんは泣きそうになってるし黒服も泣きそうになって間に入ってる。付き合いがあるから解るが、あれは完全にからかってる。

 

「というかアンタ、1か月前に話題になってからまるで動きがないじゃない、どうしたのよ」

 

「おっと、アンナが俺のファンだったとは思わなかった。もしかしてサインとか欲しい?」

 

「まともな受け答えの出来ない脳味噌って存在する価値あるのかしら? そうじゃなくてライバルの動向は基本的に調べておくものでしょ。ただでさえアンタが最大候補なんだから……気にしてない奴はいないわよ」

 

「おや、評価が高い」

 

 そりゃあそうよ、とアンナが言う。母がテーブルにお茶を並べ、セイレーン饅頭がお茶菓子として並んだ。ずずず、と飲んでむしゃむしゃと口にする。声が良くなりそうな味がする。今ならソプラノが出せそうな気がする。

 

「死ぬまでお爺様がまともに覚えられた名前はおば様と、アンタの名前だけよ。他の家族は大して興味を持たなかったみたい。お爺様が名前を覚える人間は基本的に才能のある人間だけよ。そしてアンタは名前を覚えるだけじゃなくてこの継承レースに参加を強制した……」

 

「それだけで警戒に値するか」

 

「ま、アンタは欠片も興味なさそうだけどね」

 

「俺を良く解ってる」

 

 久遠は近づかないまま、興味深そうに俺とアンナの会話を聞いている。俺がこういう風に誰かに対応しているのが珍しいのだろうか? それとも会話に入って来られないのだろうか? 何にせよ久遠は妹と一緒に会話に混ざらない事を選んで眺めている。

 

 ……なんか新鮮だな、何時も傍にいるし。

 

「で、要件は」

 

 俺の言葉にアンナは軽く告げた。

 

「同盟」

 

「同盟?」

 

「そ、同盟を結びに来たの。他の連中が来る前に……だってアンタ遺産には興味ないんでしょ?」

 

「ないよ」

 

 そもそもSランクに自力で上がる事が出来れば普通に数千万から数億の大金を稼ぐ事が出来るようになるだろう。ジジイだってそうやって今の莫大な財産を稼いだのだ。

 

 このレースの面白い所は本当にSランクになるだけの実力があれば、そもそも遺産なんて価値がなくなるという所なのだ。

 

 必死になってSランクになる奴程、なれると信じていない。

 

 だからどんな手段も取るようになる。

 

「だからアンタと潰し合いたくないから同盟を結びに来たの。私にとっての最悪は家中の誰かが継承する事じゃないの。欠片も興味を持たないアンタが後継者になる事なの」

 

 そこでアンナが言葉を区切る。

 

「だってアンタ、最悪遺産全部寄付して“ジジイ! ざまぁみろ!”ぐらいやるでしょ」

 

「ナイスアイディア。遺産全部使って自由の女神像サイズのジジイの像を作ってマリアナ海溝に捨てるプランからそっちに乗り替えよう」

 

「やっぱり頭おかしいわアンタ……」

 

 ジジイに対しては常に中指を突き立てて行くスタイルで生きて行く事を心に誓っている。俺なんかが遺産継承できるのがそもそもの間違い……いや、違うか。

 

「俺が継承できるようにして他の候補者脅してるのか、これ」

 

「最後の最後までほんと性悪なお爺様よ」

 

 漏れる溜息は母のを含めて3つ。この中に誰一人としてあの老人に対する良いイメージも思い出も存在しない、そんな集まり。

 

「だから同盟を結びたいの。私が出る予定の大会はアンタが出ない、アンタの出る大会には私は出ない。まずはこの辺からスタートしましょ」

 

 その程度だったらまあ、問題はないだろう。あまり重い関係を構築して後々それが原因で拗れるのも面倒だ。それにアンナなら遺産を継承しても悪いようにはしないだろう。俺が先にSになったら継承権放棄して全部アンナに押し付けるのも悪くないかもしれない。

 

 まあ、どうせリタイアは許されないんだろうし。やれるところまでは真面目にやるか。

 

「じゃ、同盟成立ね」

 

「おう」

 

 握手を交わす。とりあえずの同盟だが実質何もないのと一緒だ。裏切るのは簡単……一番良い味が出るのはどのタイミングかなぁ……!

 

 

 ―――なんて事があってから数日後。

 

 

『そうそう、設備何もなくて寂しそうにしてたから色々と手配したわ。これでもう命がけのトレーニングは止めなさい』

 

 そんなメールと共に大工のチームがやってきて1週間という凄いスピードでトレーニング用の施設やモンスター用の厩舎をだだっ広く何もなかった牧場の敷地に建設して消えて行った。当分は頭が上がらないし絶対に裏切れない。

 

 もしかしてそれ込みでも置き土産と考えると……やはり、柊家の後継者に一番相応しいのはアンナなのかもしれない。

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