偶に自分の本分は学生である事を忘れそうになる。
意外とマスターとの二重生活は大変で、朝早く起きて牧場の手伝いしてから登校するというのは結構なハードワークだったりする。まあ、そんな生活も今では慣れたと言える。
「おはよう鴉羽。大会中継見てたけど派手にやったな」
「おはよう。思ってたよりも戦える奴が多くて楽しかったよ」
5月になり、中学2年生にもなればクラスの姿もだいぶ変わってくる。小学校からの付き合いの子は背丈が伸びて少し顔つきが変わってきたなと思えて成長を感じられる。
「あんなデカイ箱で戦うなんて言えば良いのに。応援しに行ってたぞー?」
「だから言わなかったんだよ」
応援されにきても困るし。それに全部終わってからの話だが、あの場にあれ以上身内がいなくてよかったと思う。いたらいたで面倒なことになってただろう。少なくとも身内を邪神との戦いに巻き込みたいとは思わない。
「しかし外にもあんな猛者がいたんだな」
「そりゃあいるさ」
「エンカウント出来るかどうかはまた別の話だけどな」
「箱がデカくなりゃあそりゃあ出て来るさ。アレだけデカい箱でならそれなりのプレイヤーってのが出て来るよ。一般的な大会規模は大体30人前後だからな、1日で終わるし試合数もあの半分以下だ。出て来る猛者も少ないよ」
「強い相手と戦いたければやっぱデカい所に行く必要はあるんだよなぁ」
ただ、とクラスメイトの1人が言う。
「強い奴と戦うだけなら別に大会に拘る必要はないんだよ」
「それな」
クラスメイトが滅茶苦茶正しい事を口にした。
そう、強い相手と戦うだけなら別に大会に拘る必要はない。そりゃあ大会で強敵とぶつかる方が盛り上がるのは確かなのだが、正直必要なレートの事を考えると確実に勝てる方が嬉しい段階にあるんだよな、今は。だから別に大会で強敵とぶつかる必要はない。
強者との勝負がしたいのなら普通に強い相手のいる所へと遠征すれば良いし、今はSNSや掲示板を使ったマッチングも可能なのだから、それで連絡を取って試合をすれば良い。考えれば考える程大会での戦いに拘る必要はないんだよなあ。
ただレートを稼ぐという意味では積極的に大会に出る方が美味しいんだよな。
「でも学生に大会の数をこなすのはキツイ」
「それな」
「普通に月曜とか水曜にデカめの大会あったりして参加できないからな。そういう部分で学生って不便というか……」
「まあ、モンスターマスター自体学生でやる事は非推奨とされてるからな。土地がいる、金がいる、時間もいる。学生でマスターやってるのはまあまあ頭おかしい話だよ」
そう言ってから皆で窓の外、校庭の方を見る。そこには何十ものモンスター達が日向ぼっこだったりして待機している。そう、学校に連れて来た俺達や他の皆の護衛用モンスターだ。ここ、駆間市では日常的にモンスターによる襲撃がある。
銃器によって討伐出来るのはDからCぐらいが限度だと言われる世の中、モンスターを連れていない人間は自殺だと言われるに等しい。本当にピンチになった時はどこからともなく現れる市長マンが駆間パンチで相手をミンチにしてくれるが、市長マンは何時でも現れるとは限らない。
なるべく身を守る為にはモンスターが必要なのだ。
今、俺日本の話をしてるんだよな? 市長マンって何? なんで駆間パンチでモンスターをミンチに出来るの? 体に満ちる駆間エネルギーで駆間内では無敵って何? もう少し人間のフリして貰えますか?
ワンチャン、邪神が現れても駆間内なら市長が勝つ可能性あるんじゃねぇか……!? とか俺は思っている。それぐらい市長は理不尽だった。世の理が狂うよ。
「お、予鈴だ」
「席に戻るべ戻るべ」
予鈴の音がして、程なくして教室に先生が入って来る。出席簿を取り出すとホームルームが始まる。今日も全員生きて揃っている事を確認すると手の届く所に銃を置きつつ、1限目の授業が始まる。正直、授業って知ってる内容ばかりだからあんま面白くないんだよなぁ。
「1限目は歴史だ。今日は学会を騒がせた織田信長モンスター説を追及していくぞ。最近になって実は信長が魔人型モンスターの仮説が出てきて今日はそれを見て行くぞ。最近の調査で浮き彫りになって来た異様なカリスマが実は洗脳由来なのでは? という所から確認するぞ」
話が変わった。もしかして授業面白いかもしれねぇ。
午前の授業が終わって背筋を伸ばす。人生2度目の学生としての生活も、気づけばだいぶ馴染む様になっていた。退屈だった授業の内容も、新しい世界においてはどことなく混沌としていて飽きる事がない。東京という環境が俺には悪かったのかもしれない。
こっちでの授業は……楽しい。
「ミコト、昼を食べるぞ」
「おう」
昼になったら机をくっつけて、大きめのテーブルを作ったら久遠が持って来た弁当箱を広げる。何時の間にか他のクラスメイト達も机をくっつけてきて昼を食べるグループが出来上がっていた。久遠が持って来た弁当を前にする俺を見てひゅーひゅー、と揶揄われる。
「相変わらず鴉羽は夜月さん所の愛妻弁当か」
「目を離すと偏食するからなコイツは。私以外の誰が面倒を見られると言うのだ」
自信満々にそう言いきるものだから、我がクラスで俺と久遠の仲を茶化す奴は出て来ない。というかもうその段階を通り越している。ここまで堂々とされるともう茶化す茶化さないを通り越してそのまま受け入れる流れになってしまっている。
お蔭で居心地は良い。久遠は不思議と周りの人間に自分を認めさせるのが上手い。俺はそこら辺の能力がすごく低く、細い人脈しか築けない。俺がクラスメイトと仲良く出来ているのは久遠の人徳による部分が大きい。
この娘は俺を、絶対に1人にさせない。
ミニハンバーグ、サラダ、ごはん……うん、普通の弁当だ。マスターは職業的に消費カロリーがデカいので弁当のサイズがちょいでかめなのだが、それを取っても中身は結構普通だ。俺が箸を手に取って食べ始める姿を久遠が見ている。
一口目を口に運んで、食べる様子を見てから久遠も自分の弁当を食べ始める。
クラスメイト達もここで生活する以上、ランクに差はあるものの全員モンスターマスターだ。カロリーの消費がえぐい為、全員弁当はデカめになっている。お蔭で昼ごはんの時間は皆、結構量を食べる。
そして今日、話題の中心にあるのは―――。
「で、夏の交流戦。どうなると思う?」
「いやあ、今年もアメリカの勝ちでしょ。2期GMだけど今年入ってからかなりイケイケだし」
「日本代表には勝って欲しいけどなぁ。今年のアメリカかなり強いじゃん」
「ねー。新環境の波に乗れたって感じはするよね」
弁当を食いながらスマホには2期グランドマスター、ブライアン・ジョーンズが金髪をオールバックに流しながら白い歯をきらりと輝かせる姿を見せている。その後ろには今年に入ってから獲得する5本目のトロフィーが飾られている。
前にSNSで新しい環境は自分とフィットする、という投稿があったがアレはマジだったらしい。
今年に入ってから負けなしが続いていて、今世界で一番強いモンスターマスターとして名を馳せている。夏は交流戦と認定戦で盛り上がるシーズンだ。バトルの季節だとも言える。国としての力を示す時でもあるから盛り上がるのは当然だ。
最強議論は何歳になってもやっていい。
楽しいからね。
「物理と魔法の混合軸とか絶対に頭が回らないよ。良く踏み切ったよね」
「そうか? 寧ろアグロで勝負決めるならこれぐらいやらないと駄目だろ」
今のGMブライアンの構築は物理と魔法の混成軸だ。ここにOCも絡めていて、図書館解禁セットをフル活用している。正直良く出来たもんだと感心している。パーティーの構築が上手く出来ているし、研究もされている。
新しく解禁されたスキルをちゃんとコンボとして組み立てて活用している……考え方が元あったゲームプレイヤーとしての考えに近い。しっかりと解禁されたデータを吟味しているのが解る。
「まあ、上のランクの人間は専用の研究チームや検証チームを抱えているらしいし、アメリカはここら辺マンパワーで解決するって事で有名だしな。12月以降凄い金を投じて研究したんだと思うよ」
まあ……俺は最初から答えを知ってるんだが……。
それでも物理と魔法の混成とは結構思い切った事をしたなあ、とは思う。リソース的にかなりカツカツだろうに。でも物理と魔法両方活用すると物理カットのみ、魔法カットのみとかでは対応出来なくなるから刺さりが良いんだよな……。
「というか環境そのものがサブプラン搭載型へとシフトしつつあるな」
「あ、それそれ。何か前は1つの構築で1種類のリーサルプランって感じじゃなかった?」
「図書館で新しいスキルが解禁された影響で、スキル枠の圧縮が発生してるんだよ」
ゲーム本編でもあった事だが、上位互換となるスキルというのは単純に性能が上がるだけじゃないのだ。複数のスキル効果を備えている場合もある。この場合、スキルを1つに圧縮すれば別のスキルを入れる余裕が出来る。
これによって新しい枠にサブプランとなるスキルを入れる事が出来るようになる。
「俺の意見だけど……圧縮されたスキル枠に追加のリソースを搭載してシングルプランを無理矢理通してもそこまでダメージにならない場合が多いんだよね。素の耐性でプランにストップかけられたらリソース投入しても無駄というか」
火属性吸収持ちのモンスターにエグゼリアで殴りかかっても意味はない。吸収されて攻撃が成立しないからだ。攻撃の軸をエグゼリア1人に集中しているとリソースを増やした所で勝てないので選出が揃った時点で詰みになってしまう。
「でもサブプランを空いた枠に搭載すればこれがだめでも次のプラン、という戦い方が出来るからワンチャンが通るようになるんだよね。つまり選出段階での詰みが無くせるって訳。GMブライアンはこの考え方をしてるって訳」
物理無効は珍しくない。
魔法無効も珍しくない。
スキルで片面無効や無敵を張る事は難しくないが、両方を同時に処理する無敵は使用回数が制限されていて非常にキツイ。だから両面の攻撃手段が用意出来るならリーサルプランが一気に通しやすくなるだろう。
今までの環境だと2つを用意した上で殴るのは難しく、相手に合わせて片面だけで戦う必要があった。だから詠唱関連のテコ入れ、そしてOC実装による物理火力の上限撤廃によって火力が出しやすくなり、アグロ軸の火力が大幅に強化された。
《無詠唱》《暴走詠唱》コンボはそもそもSで活用する事が前提のアグロ向け魔法コンボだ。こんなんCで使ってればそりゃあ無双するに決まってる。それを本場のSで物理OC軸と混ぜて使ってるんだ、止めるのは相当難しいだろう。
試合映像も出回ってるけどマジで強いと思う。図書館環境に入ってからのグッドスタッフと言える構築だ。使ってるモンスターがちょい古いかもなあ、という程度の欠点しか俺には見えない。
世界最強と呼ばれるのにはそれ相応の理由がある。
何時か俺も戦ってみたいもんだ。しかしこの調子だとマジで3期目に入ってジジイと並ぶかもしれない。それはそれでちょっと見てみたい気もする……が、流石に今年は日本チームに勝って貰いたい気持ちもある。
「難しいかなぁ……日本って別に世界ランク上位って訳じゃないしなぁ」
「悔しいけどね」
「何、貴様が上げれば良い。それだけの話だろう、ミコト」
自信満々に言い切る久遠の姿に、一緒に食べていたクラスメイト達が顔を見合わせ、それから一切に俺達を見ながらご馳走様と手を合わせて来る。
「デザートはいらねぇな!」
「ああ! この甘さだけで充分だぜ!」
「いやあ、食後のデザートありがとうね」
「好き勝手言うなお前ら」
まあ、俺もそこまで期待されると流石にちょっと気合入るんだが。とはいえ、俺が世界戦に参戦出来るのはまだまだ先の話だ。
来年中にはBに上がるとして、Aに上がれるのは……流石に高校に入ってからだろう。それにAからはレートはほぼ大会でしか稼げなくなるだろうし、高校の間にSに上がれるかどうかはちょっと怪しいだろう。上手く……本当にうまくいけば高校3年ぐらいでSか?
何らかの特例か何かでランクアップ目指せないかなぁ。流石に難しいか。Sランクは流石に高校卒業して大学中かな。
まだまだ遠い未来の様に思えるが、考えてみれば少し前までは小学6年生だったのだ。案外、中学卒業して高校に上がるのも、大学へと行くのも結構近い未来の話かもしれない。
「とりあえず来年中にはBに……ん?」
「どうした鴉羽。新しい女からメール?」
「残念ながら久遠以外との縁がなくて……って東吾からのメッセージだ」
「叶2位とのコネ良いなあ」
そう言えばアイツ今日本2位なんだっけ。何時の間にか順位上げてたなぁ、と思いながらスマホに来たメッセージを見ていると会わせたい人がいるから今度会えないか、という誘いだった。そのメッセージを久遠が横から覗き込んでいる。
「浮気か?」
「部分的にそう」
「だが許そう……貴様の面倒を見られるのも、相手が出来るのも結局私だけだ。貴様は最後、必ず私の所に帰って来る。そうだろう?」
スマホを置いて、久遠を無言で指差す。その姿を見て皆虚空にスプーンを突き刺して虚無を食い始める。
「奥さん、デザートの追加注文入りましたよ」
「甘い、甘すぎる! 口の中が砂糖だらけよ」
「末永くお幸せに」
わいわいきゃーきゃーしながら時が過ぎ去って行く。最近は忙しかったからこうやって何でもない学校での時間を過ごしていると、先日の騒ぎが嘘に思えて来る。
ふと、窓の外の景色を眺めれば、校庭で駆間中の番長が他所の中学から攻め込んできた番長と決闘の最中だった。古き良き不良漫画みたいな事をしてるなあ、と思ったらランドシャークが校庭の大地の中から飛び出し2人を一飲みしてから校庭の中へと潜っていった。
校庭が静かになったなあ。そう思いながら昼が過ぎ去って行く。