『すいません、此方週刊マスターズなんですが』
「ウチに無事に辿り着けたら取材は受けるよ」
『ぶじにたどりつけたら』
「無事に辿り着けたら。道中で死ぬような雑魚にインタビュー権は与えられない。取れ高が欲しい? ならば来るが良い……その命を懸けてな!」
これが鴉羽ファームにおける取材に対するスタンスである。そう、こっちから取材オーケーを出した結果クルーが全滅してその命に責任なんて取りたくないのだ。だから鴉羽ファームでは生き残る事が出来た猛者にのみ取材する権利を与える事にしているのだ。
自己責任だ。
大会で目立ってから取材の申し込みが増えてしまった。面倒なので取材に対する対応はこれで統一してしまっている。客を選べるような経済状況なのか? まあ、最近は黒字だし。
それに鴉羽ファームは色んな意味で世間にお見せ出来ないモンスターや秘密を抱えている。下品なゴシップ誌の記者がやって来ても困るし、虫避けとしてはまあ、上手く機能している。この魔境を潜り抜けて来たメディアはどこか普通と違っているのでそれはそれで―――とか思っていると、丁度それっぽい大きなバンがやって来た。
ぶるぶる。がたがたがた。
だいぶ限界近いバンだった。牧場の入り口にまで到着した時点で車輪が外れそうになっているし、天井が一部剥がれている。それでも魔境を潜り抜けて来た貫禄を持ったバンは牧場の前に到着し……その命が尽きた。
バンの扉が開き……扉がそのまま落ちて倒れた。内側からカメラを抱えたカメラマンが、男性アイドルが、ディレクターが、ADが出現し、バンの方に向き直ると全員で敬礼した。
「全員、ここまで私達を運んでくれた社の車に敬礼ッッ!」
「ありがとう……ございました……!」
「道中5回ぐらい死ぬかと思いました」
「はあ……はあ……カメラは死守しました……」
「お兄ちゃん、あのDとアイドル私でも知ってる所の人なんだけど」
何時の間にか横にやって来てた灯がバンに向かって合掌しているテレビクルーを見てちょっとワクワクした表情を見せている。というかアイドルをこんな魔境に送り込んでくるとか事務所は一体どういう神経してるんだよ。殺す気かよ。俺だって偶に散歩中に死にかけるのに。
なんで俺が散歩中に死にかけなきゃいけないんだよ。ここに住んでるんだぞ?
「とりあえずなんか飲み物取ってきて」
「りょ」
灯が飲み物を取りに行っている間にぼろぼろのクルーに近づくともう既にカメラが回っていた。俺はそれに戦慄しながら質問する。
「もしかして来る時からカメラ回ってる?」
「当然ですよ」
「リアルライフ・マスターズはマスターとモンスターの本当の姿を追いかける狂気の番組……! 死ぬかもしれない程度でカメラを止める訳にはいかないんです!!」
「気に入ったぜ、その命を命とも思わない根性」
手を伸ばしDと握手する。
「鴉羽尊だ」
「ディレクターの大石です」
「Boyzの相澤リキです」
「よろしく」
今の時代、アイドルにこんなことやらせるんだ、すげぇ……。純粋に凄いと思いつつ灯が運んできた麦茶が配られる。やっぱり喉は渇いてたのか一瞬で飲み干される。
「水分補給が済んで一息ついたところで早速取材を始めたいんですがよろしいでしょうか?」
「あ、自分は全然いいけど両親に確認してくるのでもふもふしながら待ってて」
指をスナップすると近くをめーめー言いながら2足歩行、上半身不動のままダカダカ走ってた羊がムーンウォークでスライドインして、そのままスタッフ達の前に転がった。
もふってもええんやぞという顔をしてる。
「もうのっけから濃い」
ひつじ達が時間を稼いでるうちに灯にアイコンタクトで指示を出す。早くララを始末して隠さないと。アレをお茶の間に出したら動物保護団体からクレームが来る……!
鴉羽ファームは漸く黒字になったんだ、評判を落とすわけにはいかない……!
こくりと頷いた灯が死体隠蔽用にスコップを手にララを埋めに行く。その間に父さんに許可を貰う。そうしている間にいつの間にかシェイナとフラメアが側にいる。まあ、ええか。
そう思ってクルーのところへと向かうと2人の姿が消えた。良く見るとチビに押し潰されてる。俺の見えないところで攻防戦繰り広げてないかお前ら?
「おまたせ、許可が出たからカメラ自由に回していいよ。案内するけどどこか見たいところある?」
「ありがとうございます! 相澤くん! リポーターは君だ! 君に任せた!」
「じゃあ、鴉羽ファームさんのオススメスポットが見て回りたいです。いいですか?」
「勿論良いよ。ただ、あんまり俺から離れないでね。命の保証は出来ないから」
そう言いながら道路の方を指差すと駐車してあるバンの下が赤熱化し、溶岩になるとゆっくりとバンを飲み込み始める。通りすがりの郵便配達員がバイクでジャンプしつつそれを飛び越え、止まることなく新聞を投げてくる。
配達に手を振って別れを告げながらバンがご臨終する姿を眺める。
「ね?」
「帰る手段がなくなっちゃった」
「今日は道路に5世代クラスのモンスターが湧いてるみたいだしちょっと危険かな。取り敢えず案内するよ。あ、帰りは空路がオススメです」
「鴉羽ファーム到着直後から洗礼が止まらない……!」
「ひ、人の住む場所じゃない」
慣れればそうでもないよ。
取り敢えずファームの中でも人気のスポットへと連れて行こう。家の方を見れば小さい土の山と灯のサムズアップが見えたのでララの死体を埋めることに成功したらしい。良し!
クルーを引き連れ歩き出す。
普段見ない人達にモンスター達も結構興味津々らしく、先程からフラメアとウェルギリウスが視界の外で激しくやり合っている。
「退きなさい死神。今こそお茶の間にアピールするチャンスなんですよ……!」
『みこくお以外通さない』
またなんかやってる……。シェイナは……チビに下敷きにされて窒息してる。死んだかー。
「わあ、なんか綺麗な所に来ましたよ!」
「あぁ、お花とダンジョンゲートがカラフルな所だな……カラフル!?」
撮影クルーを連れてきたのはタイル床と花壇のある一角で、異様にダンジョンゲートが密集している鴉羽ダンジョンエリアである。
「ご覧の通りうちの庭にはダンジョンが生えるんだ」
「ご覧の通りじゃありませんが……」
「放置してると勝手に溢れ出て来るから定期的に処理しなきゃいけないんだよね。ミスト! いいかな!」
呼ぶとミストドラゴンがやってくる。こくり、と頷くと頭だけをダンジョンに突っ込み、順番にブレスを吐いて全てを滅ぼす。それを撮影クルーがわぁ、と泣きそうになりながら眺めてる。
「こんな風に処理しなきゃこの牧場では生きられないんだ」
「人の住む地じゃない」
「毎日やってれば慣れるよ。ここは少し油断すると新しいゲートが出来てるから要注意だよ。次行こうか」
次はレイドゲート広場へとやってくる。ここはレイド廃人達の憩いの場でもある。人間性を捨てたレイド狂い達が作戦本部を構築しつつ新たな脅威をどうはめ殺すか相談してる。
常に殺意と笑顔が渦巻く環境なのでにこやかに見えてグロワードしか飛んでこない光景に撮影クルーたちもすっかり怯えてしまった。
「レ」
「レ」
「レ」
「あの、さっきからあの人たちレ、としか喋らないんですけど」
「普通の言葉を使うとコミュニケーションに時間がかかるし、シンクロによる会話は脳への負担が強い。だから圧縮言語を開発してレの一言で全ての会話が通じるようになったんだ」
「怖いよぉ」
「大丈夫だよ、何も怖くないよ。ほら、見てごらん」
まだ無事なレイドゲートの前に野生のAランカー達が集まっている。図書館解禁以降この手のレイドゲートは難易度が新環境に合わせて強化されているので、昔よりもレイド廃人たちの動きは洗練化されている。レイド用のモンスターを揃えると。
「レ」
「レ」
「レ」
「レレ」
「レ? レ」
「レ」
それで会話を終わらせてレイドゲートに突っ込んでいった。中からヒャッハー! とかレー! とか意味不明な叫び声と共に爆音が溢れだしてくる。狂気に染まった表情でどんどん突撃しては雑魚の殲滅とボスとの戦いに入っている。相変わらず頭おかしい奴らだぜ。
「ね、益獣」
「レイド廃人って人間扱いにならないんですねぇ、勉強になります」
日本国内探してもここまでレイドの為に人間性捨ててる集団と、それと共存するのに成功してるコミュニティはここだけの自信があるよ。だって普通ここまでレイドゲート溜まったりしないもん。明らかにこの土地だけ異様な出現率キープしてるもん。
お蔭で年々噂を聞きつけたレイド狂いが聖地巡礼みたいな感覚で漂着してくるし。
ジジイ! この土地ほんと何!? 何なのこの土地!? ねえ! ジジイ! 答えろよ! どうせ生きてるんだろ!?
求めてもジジイからの返答はない。仕方がないのでレイドタイムに入ってしまったレイド村を離れ、牧場の案内を続ける。
「あそこが家畜ゾーン。主に素材採取用のモンスターを育ててるエリアだね」
「こういうので良いんだよ、こういうので」
背中にハーブを生やした亀や、牛っぽいモンスターが放牧されている。最適なレシピによる合体で高い品質の素材を生成するモンスター達だ、我が家の収入にも貢献している非常に偉いモンスター達なのだ。ちなみにウチは畜産はやっていない。モンスターの面倒を見るだけで限界だから。
「じゃあ、折角だし乳しぼり体験でもしていきますか?」
「良いんですか!? 普通の牧場みたいなことをして!?」
「ウチは普通のファームですが……?」
冗談言うなという撮影クルーの表情が一斉に向けられる。そんなぁ、俺だって黒字経営を頑張っているのに……仕方がない、ここは乳しぼり体験で平和牧場ポイントを稼がなくては。放牧中の牛へと向かって口笛をぴゅー、と吹く。
スクっと二足歩行になった牛がバケツを持ってきてアイドルの横に転がった。
「んもぅ……」
「ごめん、今の動きなに? ……なに?」
アイドル君が牛からバケツを貰い、それからこっちを見た。
「乳しぼりの為にバケツを持ってきてくれたミルキーカウだよ。乳しぼりにとても協力的だからやりやすい筈だよ……あっ、そうだ、絞るのが強すぎると勢いよくミルクが出過ぎて、ウォーターカッターみたいにバケツ貫通したり暴れて足が吹っ飛んだりするときもあるから、気を付けて。俺も先週これで足に穴開けたから」
「はいはいはいはいはい」
アイドルがバックステップで一瞬で距離を作った。30メートルぐらい距離を作ると柵の裏に隠れた。
「乳しぼりしない?」
「す……する……っ……!」
絞り出すような声はアイドルとして、プロの芸人として逃げてはならないという苦渋の色が強く浮かんでいた。芸能界も大変だなぁ、と思いながら怯えながら戻って来るアイドルを眺めていると、ディレクターがやって来た。
「所で鴉羽さん、1日だけ牧場で働く事って可能ですか? 彼が働いたら良い絵になると思うんだけど……!」
「遺書を持参するなら……まあ……」
ディレクターが懐からスタッフ全員分の遺書を取り出した。
取引成立。
今から1日の間、お前らは鴉羽牧場のスタッフや。