最強以外ありえない   作:てんぞー

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なんか普通じゃないっぽいです

「じゃ、簡単な業務から手伝って貰おうかな」

 

「よろしくお願いします」

 

 動きやすい服に着替えたアイドル君が頭を下げて来る。見た目は完全に優男なのだが意外と肉体派らしく、動けるらしい。まあ、ここまで生きてやって来られてるのだからそれなりには使えるだろう。とりあえず、とずびし、と指差す。

 

「ファームでの仕事は当然肉体労働がメインだ。ただ預かっているモンスターのケアとかは俺じゃなきゃ解らないものが多いから、そこは任せられないから餌やりとかを任せようと思う。……アレルギーとか大丈夫?」

 

「あ、大丈夫です。なんか……なんか普通っぽいの来た! 普通っぽいの来ましたよ!!」

 

 アイドル君、振り返ってディレクターに半泣きになりながら報告するとディレクターからサムズアップが飛んでくる。じゃあ、と呟いて業務用の冷蔵庫から取り出して来たバケツいっぱいの生肉を渡す。

 

「これをあそこの湖に持って行って。今ならお腹を空かせてる子がいるから。あ、狙われたらバケツ投げて逃げてね」

 

「なんか普通じゃないっぽいです」

 

 行って来い、とアイドル君を見送る。捨てられた子犬みたいな表情を浮かべてアイドル君がバケツを抱えて湖へと向かって行く。少しずつ遠ざかって行く姿を皆で見守る。

 

 あ、湖に到着した。湖から水竜が出現した。アイドル君ごとバケツの中身を食おうとしているのでウェルギリウスにパフェキャン飛ばさせて動きをスタンさせる。その間にバケツを置いたアイドルくんが猛ダッシュで逃げて来る。戻って来る頃にはもう既に半泣きだった。

 

「餌やりだけで死にかけたんですけど……!?」

 

「ブラザー、まだ手足も指も全部揃ってる。なら何も問題がなかった、って事だ」

 

 ぱんぱん、と背中を叩いて帰還を祝う。

 

 とりあえず最初の簡単な仕事は終わらせた。ここからはどんどん鴉羽ファームの仕事を手伝わせるとしよう。

 

 湖を使っているモンスターは結構多いので、必要になる餌も多い。人間の力だけだと時間がかかるのでモンスター達にも仕事を手伝わせる。モンスターへの指示の出し方を教える。俺は基本シンクロ使って指示の出し方を誤魔化しているが、モンスターにはそれぞれの好みのコミュニケーション手段がある。

 

 バトルでは訓練を通して素早く指示を出せるようにしているが、こういうファームで他のモンスターと接する場合はこの手のモンスターに合わせたコミュニケーション方法を取る方がストレスにならずに済む為、好ましい。

 

 という訳でアイドルくんにはこのコミュニケーション方法を伝授する。お手伝い用のモンスターを数匹付けて、それとの意思疎通方法を教える。後はある程度自由にさせておけば映像はそこそこ取れるだろう。

 

 アイドルくんで遊びたい気持ちも確かにあるが、それはそれとして日々の業務は普通にある。遊んでばかりはいられないのでこっちはこっちでサクサク仕事を進める。

 

 そう! ファーム経営は忙しいのである!

 

 経営が軌道に乗れば乗るほど忙しくなるのである!

 

 まずは餌を与えないといけないモンスターに定期的に餌を与えなきゃならない。その他にはモンスターの丸洗いも業務の一環だし、中にはトレーニングを依頼されてるところもある。

 

 運動のためにダンジョンに連れていく必要もあるので、ここはアイドルくんを連れて行こう。

 

 それが終われば個別にケアを必要とするモンスターの相手をする。生産系モンスターはコンディションが下がればそれだけ質と生産効率が下がるからマメなケアが必要だし、収入にダイレクトで響くから毎日ちゃんと回収しなきゃならない。

 

 無論、厩舎の掃除も大事な仕事だ。モンスターが汚した厩舎を掃除して、藁を入れ替えたりする必要もある。

 

 厩舎に戻らず気に入った環境で過ごす子もいるので、そういう子を追跡する必要もある。森や湖ならまだいいが、最近できた溶岩や黄泉に引きこもってる子もいる。

 

 そういう子が無事なのを確認するためにはこっちから出向く必要がある。その合間にうちの子の相手もしなくちゃいけない。

 

 除夜の鐘突きになっておるイーリュ(鐘突き全国デビュー)はともかく、チビの回避力を鍛えるための瞬発トレーニングは見てないといけないし、新入りのシェイナの技巧トレーニングは細かい指導が必要だ。

 

 業務の合間にここらへんをこなしつつ、アイドルくんを連れ回しているとあっという間に日が暮れ始める。

 

「……」

 

「あ、相澤くんが物言わぬ姿に……!」

 

 取り敢えず一通り業務をこなすと真っ白に力尽きたアイドルくんが地面に転がる。それをチビドラ達が面白がって突いて遊んでる。

 

 地面に転がったまま、アイドルくんがこちらを見上げてくる。

 

「忙しすぎません?」

 

「最低限の人数で回してるからねぇ」

 

 はい、スポドリ、と倒れてるアイドルくんに渡す。倒れたまま飲むアイドルくんに話を続ける。

 

「この土地の管理はジジイに任されたことで拒否権なんてものはなかったんだが、管理する為の金は自腹だったんだ。お陰でずっと赤字続きだったし、管理方法もよう解らんで大変だったよ」

 

 今では一家でやってるし、黒字になってるからいいけど。少し前まで貯蓄崩しながらやってた事を考えるとかなり恐ろしい状況だった。

 

「今日採取に参加してもらったもんは後で加工したりして父さんがウチの貴重な収入源として売り込むからな、とても大事なんだぞ」

 

「大変なんですね……」

 

 そりゃあな。黒字だけどギリギリのラインでやってる事実には変わらないしな。

 

 さ、ここまでやったら晩飯の時間だ。牧場で育てた野菜やモンスター素材を使った牧場飯がお腹いっぱい食べられる。畜産はやってないが、ダンジョンから肉系の素材はいくらでも調達できるから、実は食費はそこまでかからない。

 

 アイドルくんも美味い美味い言いながらお腹いっぱい食べて幸せそうだね。

 

「もっと食ってもいいぞ」

 

「ホントですか!? うま……うま……」

 

 たっぷり食べる姿を慈愛の精神で見守り、食べ終わって日が落ちたのを確認したらガンラックからライフルを人数分持ってきて配る。

 

「これより夜間巡回を開始する!!」

 

「あ、この流れ見たことある」

 

 特別製のランタンを取り出して腰からぶら下げる。懐中電灯もいくつか用意して配る。カメラマンもあまり離れると命がないよと忠告しておく。

 

 クルーを連れて家の外に出るとウェルギリウス、シェイナ、チビが待機済みで待っている。フラメアは家に残って貰う。ミストはこの時間帯、夜月家に戻ってるので頼れないのだ。

 

「モンスターの中には夜行性のやつもいて、暗くなってからはしゃいだりするからそういう子の確認だね。あと単純に夜になるとこの世じゃないものが現れ始めるからその監視と処理だね」

 

「当然のように怪奇現象に突っ込むのやめませんか? ここ牧場ですよね」

 

「待ってくれ!!」

 

 ツッコミを入れてくるアイドルくんに声を被せるようにアイドルくんの声が闇の中からした。全員で闇の方へと視線を向ければ少しボロボロになったアイドルくんがこっちに向かって走ってきているのが見える。

 

「僕が本物だ! ソイツから直ぐに離れるんだ!!」

 

「え?」

 

 スタッフの困惑の声が響く夜の闇の中、近づいてくるアイドルくん2号にライフルを向けて発砲する。頭に命中して後ろに2号くんが吹き飛び……踏ん張った。

 

 だがそれに追撃するようにシェイナが後ろから頭を掴んで地面に叩きつけながらハルバードを振り下ろし、チビが喰らいついて引き千切る。

 

「良し、やっぱり変なのが湧いたな。彼岸の方から流れてきたかな、今のは。あぁ、まあ、という訳であんなのが夜間は湧くので、見回りながら処理していきます」

 

「わぁ……ぁ……あぁ……」

 

「相澤くんが泣いちゃった」

 

「ノータイムで自分と同じ姿した怪物をミンチにされてるんだからそりゃあ泣くよ」

 

「じゃあ、行くよー」

 

 夜の闇に向かって歩き出すと直ぐに撮影クルーが着いてくる。この闇の中で絶対に俺から離れたくないという鋼の意思を感じる。

 

 家から少し歩くと早速厩舎ではなく草地の上で転がって眠るチビドラ達と、隠したはずのララの死体が発見される。ララに蘇生アイテムを使って復活させ、それをアイドルくんに渡す。

 

「ララは良い盾性能してるよ」

 

「死の予約っすか。今順番待ちっすよ」

 

「困ったらとりあえず盾にしていいよ……良し、この子達を厩舎まで運ぶよー」

 

「は、はい……あの、なんか視界の端に白いくねくねするものが見えるんですけど」

 

 振り返って射殺する。

 

「気の所為だったみたいです」

 

「大半の事はチャカアグロで解決することは覚えておいていいよ」

 

 それだけに頼ると詰む場合があるからサブプランを用意しておくのが大事だけど。

 

 しかし根の国と繋がってから変なものが出現するようになった。まあ、大凡の予想は付いてるというか、モンスターになりきれてない、モンスター未満の概念がミームや噂と混ざって半実体化してるのが原因なんだろうけど。

 

 根の国は想念がかなり強い場所だ。その裏口から変な干渉が発生してるんだろう。

 

 閉じれば解決する問題だが、別段俺たちはこの程度では死なないしな……。

 

「裏口の点検もしておくか。こっちだぞ」

 

「あ、待ってください! 先に行かないで!!!」

 

 彼岸ゾーンに向かおうとするとクルー達が急いで追いかけてくる。そんな訳で怯える彼らを連れて彼岸ゾーンへと向かえば、案の定お花と蝶々が夜中だというのにキラキラ淡い光を放っている。

 

 見た目は綺麗だよね、見た目は。

 

「あの、あの鳥居が見えてから急に涼しくなって来たんですけど」

 

「大丈夫、潜らなきゃ死なないよ。あの向こうに何があるのか撮りたいというのなら止めないけど、遺書は置いて行ってね」

 

 撮影クルーが全員頭を横にぶんぶん振った。どうやら危機に対する嗅覚は鋭いらしい。

 

 彼岸エリアの中央、根の国への直通の鳥居を確認すればちょっとだけ引力を感じる。引き込まれるような感覚が向こう側からの呼びかけ……あまり強く意識すると持っていかれるので適度に意識を切り離して考える。

 

 ちょっと空気が濃く感じる……まあ、これぐらいなら悪影響は特にないか。そんな事を考えていると鳥居から腕が出て来た。

 

 丸太の様にぶっ太い腕が出て来た瞬間、カメラマンが女みたいな声を上げながら下半身にナイアガラの滝を出現させた。なお下半身はナイアガラでも上半身はカメラを抱えたまま一切画をブレさせない、肉体と切り離されたプロ根性を見せつけて来た。

 

 そしてアイドルくんも、凄い勢いで銃を構えた。

 

「チャカアグロォォオオオオ―――!!」

 

 迷う事無く発砲した。素早過ぎる反応は命の危機を前に見せる人類の底力だった。感動的な成長に涙を禁じ得ない。こんなにも早く……成長……いや……恐怖のあまり半ば暴走してるだけだわこれ。

 

 パァンパァンパァン、と銃弾が鳥居の中に叩き込まれ、向こう側からうおわっ、と野太い男の声がする。

 

「あ、おい! 待て! 俺人間! 人間じゃっての! 撃つな! 死ぬからマジで撃つな!!」

 

「えっ、あっ……えっ?」

 

 鳥居の向こう側から禿げ頭の男が出て来た。危ねぇ危ねぇと言いながら握っているナイフで弾丸を叩き落としていた。良く鍛えられた肉体、そしてその後を追うように現れる武者姿のモンスターは、根の国で激戦を繰り広げてきたマスターの証だ。

 

「お、坊主、丁度良い所にいたな。そろそろ使えるんじゃないかと思ってんだ。頼むよー」

 

 そう言って禿げ頭は腰からぶら下げている虫かごを手渡してくる。空っぽに見えるそれを持ち上げて、軽く息を吹きかければ透明化していた告死蝶の姿が浮かび上がってくる。ふむ、と呟いてから虫かごを開ける。

 

「おいで」

 

 開け放たれた虫かごから何羽もの蝶が飛び、凝縮されると一羽の告死蝶となって指の上に止まる。それを虫かごの中に戻し、禿げ頭に返す。

 

「これなら死神の合体素材に使えるよ」

 

「はあー! 終わった終わった! 告死蝶マラソン終わりっ! じゃあ次はヤマタノオロチ召喚用の酒マラソンか。やる事が終わらねぇんじゃが」

 

「オロチマラソン終わったら深淵のかーちゃんとも遊んであげてね」

 

「そっちは情報がなさ過ぎてよぉ……」

 

「き、桐谷8位……?」

 

「ん? 俺の事呼んだ?」

 

 禿げ頭が名を呼ばれ、顔を上げた。

 

 そう、根の国直通のゲートから出て来る人間なんて現役で根の国を探索している人間だけである。つまり、この裏口から出て来れるのは現役のSランカーのみ。8位、つまりは国内ランキング8位という意味だ。

 

「で……これ、何?」

 

 テレビカメラとアイドルを指差して、桐谷は禿げ頭を掻いた。

 

 まあ、まあまあ意味不明な状況だよね……。

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