雑魚2人に連絡を入れたら早速家に戻る。
運良くリビングに父と母が2人とも揃っているのを見つける。昼飯を作る合間にリビングでテレビを見ていたらしい。胸の中に満ちる使命感のまま、俺はリビングまで向かい、父と母の前に立った。
「父さん、母さん」
「あら、どうしたの尊?」
「戦場帰りの兵士みたいな顔をしてどうした」
深呼吸をし、それから背筋を伸ばし―――跳躍した。
空中で回転し、体に捻りを加えながら後方へと向かって飛ぶ。そのまま空中で手と足を格納するように折り曲げ、頭を下げ、重力に従って落下しつつその衝撃を折りたたんだ両手足で殺し、音もなく着地する。
「ジャンピング後方宙返り土下座……!」
灯から戦慄レベルの驚きの声を聴くのはもしかして人生初かもしれん。そんな事を考えながら父と母へと向かって渾身の土下座を決めた。
「アメリカに行かせてくださいお願いします」
「初手土下座かぁ」
俺が両親に対して出せる唯一無二の最終奥義だった。というかこれ以外に戦闘手段がない。そう、お気づきだろうか! 基本的に子供は親に勝てないのである! 親がノーと言えば子供は抗う術を持たないのだ! 故に土下座! だからこその土下座!
恥など捨て去るのだ! 勝利の為に! 渾身の土下座を……!
「マスター……見事な覚悟です……!」
「目的の為にプライドさえも捨て去るマスター、カッコいいですよ」
「お兄ちゃん、最高にかっこ悪い姿決めてる所褒められる気分どんな感じ?」
あの妹年々畜生になって行くな。誰の影響だ? たぶん俺。俺以外にこんな発言学ぶ相手いないんだよね。つまり俺が妹に悪影響を与えている……?
「尊、とりあえず土下座なんてしてないで、ちゃんと話をしなさい」
「うす」
土下座を止めるように促されたので、頭を上げてからそそくさと前に進み、床に正座したまま両親を見上げる。父も母も、ちゃんと真面目に俺と向き合ってくれている。ちょっと空気を和ませるつもりで土下座したつもりだったが、必要はなかったかもしれない。
「アメリカに行きたいってさっきの話だよね?」
その言葉に頷く。
「今年の夏はアメリカで国際交流戦が行われるんだ。それに日本代表チームのサポーターとして帯同したいんだ」
自分の意思を口にする。それに母が応える。
「尊」
「はい」
「貴方は自分の意見が中々出て来ない子よ。何か行動する時は自分からしたいからするのじゃなくて、状況や環境に対応する為に行動する事が多いわ。貴方は基本的に受け身なの。与えられた役割等に対して流されがちなの」
それは言い換えれば、主体性がなく、中身がないと言える。
「お母さんはね、貴方のそういう所がとても心配なの。能力があって、自分の主張がない。それってつまり便利に使える人って事なの。あの方達はきっと良い人なんでしょうね。でも力があるから、頼りになるから、そういう理由で貴方の力を借りる事を許可すれば……何時か、ロクな事にならないわ」
「無論、それが君自身の意思から生まれた行動なら止める様な事はしないよ。やりたい事が見つかったんだ、って親として喜ばしい事だ。だけど尊、さっきの君は流されるままに協力しようとしていたね? それは良くない」
父の言葉に頷く。確かに最初、東吾たちに誘われた時はまあ、協力しても良いか。その程度のスタンスだった。
でも。
「図書館の館長がね、久遠の体質を一時的に封じる為の道具を作ってくれたんだ」
「まあ」
「ほう、それは」
父と母の驚く様な声。2人もちゃんと久遠の事情を把握している。
「それをさっき渡して来たら……現地観戦なんかできたら楽しそうだって言ってさ。あ、勿論交流戦に誘われた話はしてないよ? でもさ、久遠がさ、そういう事言ったら連れて行くしかないじゃんもう」
久遠は特別な事をしている訳じゃない。ずっと横に、誰でもない他人であった彼女がそこにいてくれた。それだけだ。でもそれだけで救われる人がいるのだ。少なくともそうやって寄り添ってくれただけで俺は救われた。死ぬべきだと思う気持ちはない。前を向いて生きようと思えるようになった。
「だから久遠の気持ちに応えたい。彼女に海外旅行をプレゼントしたい。それに修三さんもこの件は手を貸してくれるんだ。一緒にアメリカに行く気満々だからあの人」
「あ、修三さんが行くなら全然安心できるわ」
「そうだね、彼が一緒なら何も心配する事はないかな。行っていいよ」
東吾ォ! 雑魚が! お前の信用どうなってんだよ! いや、ほんとお前は何も悪くないんだけどね。単純に普段から近所付き合いがあって、ここに来た時からずっと牧場運営の助けをしてくれている人じゃまるで信用が違うというだけであって。やっぱ東吾と仮面の信用が雑魚すぎた。
特に仮面はダメだよ。やっぱ顔隠してる不審者はダメだな。
「修三さんの名前出た瞬間オッケー出るのちょっと納得いかねぇ……!」
「そう言っても修三さんは信用できるしなぁ」
「そうね、久遠ちゃんが一緒なら逃さず見ていてくれるだろうし、安心して預ける事が出来るわ」
言ってる事は全て正しいのでまあ、何も反論できない。とはいえ、これでアメリカ行きの許可は貰えた。拳を掲げてガッツポーズを取りながら立ちあがる。ちゃんと親に頭を下げて感謝することを忘れない。
そこで思い至る。
「あ、1ヶ月ぐらい家を空ける事になるけど、大丈夫?」
この前の大会とは違って、結構な期間留守にすることになる不安がある。なにせ、この牧場にいるモンスターや怪奇現象は無法としか言えない部分がある。俺抜きでこんな期間やっていけるのか? という不安がある。
「そこはおまかせを!」
階段から魔本の従僕が現れた。どうしてそこから?
「尊様がいない間は我らにおまかせを!」
キッチンから何故か2人目が現れた。いや、なんでそこに?
「我ら野生のみこくお派、素敵な夏の思い出の為に協力は惜しみません!」
3人目が天井から落ちてきた。いつの間に???
まあ、プロフェッショナルのメイドが牧場の世話をしてくれるなら俺としても安心だけど君たちどうやってウチに入り込んだ? というかいつから隠れてた? 野生のみこくお派って何? ウェルギリウスがうんうん頷いてるけど何? なんなの?
「裏切り者! 立場的には私の応援をすべきところではないでしょうか!?」
フラメアがなんか言い始めた。
「サブヒロインよりもメインヒロインですよ」
「CG回収頑張ってください。回収したらメイン攻略進めるので」
「シナリオの薄いタイプのヒロインはちょっと……」
「表に出ろ」
フラメアが従僕3人と外に出てリンチされ始めた。下っ端感満載だから忘れがちだけど、魔本の従僕はレベル100のモンスターである。フラメアはまだ50しかないのである。
こんなのが3人も揃ってて勝てるわけがないのだ。一方的なリンチで死にかけてるフラメアを無視して自室へと戻る。アメリカに行くことが決定したので早速電話する。
「もしもし信用雑魚? 両親から許可貰ったからアメリカに行けるよ。修三さんどんな感じ? もう候補者半分血祭りにあげた? さっすがー」
マジで全タテするなこれ。
修三さんのモンスターはあまり長期間駆間から離れられない都合上、少しだけ環境に対して遅れていた。
なので普段から付き合いのある俺がそこを補佐した。修三さんのモンスターは全てアンブロシア使用済み、トレーニングも理想値を求めて施してある。
その上で図書館で手に入れた最新のスキルカードを叡智の書を通して使用しているので、スキル構成も最新環境の最強状態にアップデート済みだ。
勿論、仲の良いご近所さんなので良く話すし、環境や構築の話もする。その関係で今の環境における最適解の話もしてるし、把握済みだ。
つまり、夜月修三という男は現在Aランクで最もDLC環境によるブーストの影響を受けている、経験豊富なベテランマスターになるのだ。
俺でもちょっと勝てるか解らないレベルの強さしてる。
たぶん、今世界で1番強いAランカーなんじゃないかな?
「何か準備いる? 普通の旅行と一緒? イギリスの時と同じ感じか。え、図書館経由でモンスター連れ込んでいいの? アメリカ政府から許可出てんの? マジで? 太っ腹ー」
アメリカ政府の対応が大物すぎてちょっと怖い。なんなら図書館経由でアメリカに来てもいいよとか言ってるらしい。その場合宿含めて交流戦開始まで面倒見るとか言ってる。
『言っておくが取り込む気満々だからな、先方は』
「俺は日本を捨てるつもりはないぞ」
『お前はそうだろうな。だが2つのダンジョンを発見し、世界の環境を塗り替えたゲームチェンジャーだ。是が非でも確保したい奴は多いだろうな。今回はなるべく大人しくしてくれ』
「祈っててくれ、アレが出てこないことを」
『お前を誘う前にお参りお祓いして寄付してきたよ』
まあまあガチ目のお祈り入ってるな……。
マジでアイツの機嫌次第で平和になるか否か決まるし、出てきたら早めに帰ってくれることをお祈りする以外に勝ち目が無いのだいぶやってんな! となる。
ちなみにラスボスのデータは既に共有してある。俺一人で抱える意味なんてないし。東吾を始めとするSランカー達に共有され、解析され、議論された結果が出た。
無理これ勝てない。
常時必中絶対回避無敵無限リレイズ付いた化け物の攻略法なーんだ!
ありません!
終わり。
もう宇宙から銀色の巨人がやってくるのをお祈りする話ですよこれは。そういうジャンル。メタが存在してよかったよ。本当に良かった。絶対に完成させるからな、未来ちゃん……。
『ま、出発するまでに時間はある。それまで楽しく準備してるんだな』
「あいよ」
通話を終えてスマホを投げ捨て、ベッドに倒れ込む。
「アメリカかぁ……楽しみだな」
久遠と一緒に旅行が出来る。
そう考えるとそわそわしてくる。バトルの見学も楽しみだが、それ以上に彼女を外の世界に連れて行ける事に胸が踊る。あぁ、本当に。
「お前に、壊されてしまった……」
夏が、楽しみだ。