最強以外ありえない   作:てんぞー

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反面教師

 一度予定が決まってしまえば時間は早く過ぎ去ってしまうもので、許可を取ったと思ったらもう出国日になっていた。

 

 日本代表チームの一員として日本を出る為、アメリカへと向かう日は他のメンバーと一緒という事になる。日本代表チームは修三さんと東吾と仮面だけではなく、もう1人日本3位の人と、そして他のサポーター達と一緒という事になる。

 

 このサポーターの部分に俺や久遠が入り、そして久遠ママ、美代さんも来る事になっている。

 

 そうだ。

 

 修三さんはA代表のトライアルで他の候補者を全員皆殺しにした。圧倒的な力量、最もSに近く、A最強と言われる実力で蹂躙してチケットを獲得した。もはや誰も文句が言えない程の強さで終わらせたのだ。

 

 そんな修三さんが家族を連れて行くという発言に抗える者は居らず、アメリカへの遠征になりながら家族旅行に発展していた。良かったね! 本当に良かったね! 我が事のように嬉しいよ!

 

 そういう訳で俺達は空港に集まっていた。代表メンバーもサポーターと帯同者も1人を除いて全員揃っていた。よく見ると空港のゲート付近には大量のマスコミが揃っており、出国する日本代表チームを少しでもカメラに収める為に集まっていた。

 

「―――私達は彼方のゲートで入る。メディアに応える必要があるからね。君達はあっちを通って中に入るんだ」

 

「選手専用のゲートみたいなもので、出国する時はあっちを通ってメディアにアピールするのも仕事の一部なんだ。付き合う必要はないから素直に別のゲートを通った方が良いよ」

 

「久しぶりにこういうのに対応するけど懐かしさすら感じるなあ」

 

「修三さんはもう10年近くメディアに顔を出してませんからね、トライアル蹂躙の件含めて世間では結構賑わっていますよ」

 

「もうそんなになるかぁ」

 

 東吾も仮面も修三さんには結構リスペクトな気持ちが強いのか、敬うように話しているのが特徴的だった。大人組が到着していない3位の事に内心キレ気味になっている間、俺と久遠は代表グループから少し離れた所で空港の売店を見て回っていた。

 

「ミコト! 見ろ、妙なものばかり売っているぞ!」

 

「ここは土産物屋だね。空港の中に入ったら免税店があるからそっちで買う方が良いんだけど、外でも色々と売ってるな」

 

「駆間の土産物屋だとガスマスクとか造血丸とか売ってたが、こっちだとお菓子とかグッズなんだな。実用性のないものばかりで大丈夫か……?」

 

 寧ろ実用性のあるものばかり売ってる駆間の土産物屋がおかしいんすよ。土産にガスマスクってなんだよ。そんなの駆間以外で使うわけないだろ。

 

「ミコト見ろ! 提灯が売っているぞ!」

 

「なんか妙に提灯推してるよね。外国人が結構買うらしい」

 

 実用性皆無なんだけどねぇ。土産物ってそういうもんだよね。初めての空港に思ってた以上にはしゃぐ久遠に付いて回っていると、思ってた以上に3位の人が来なくて管理の人たちがちょっと焦っているのが目に見えて来た。何かトラブルでもあったのか? と思ったが、東吾たちは寧ろ予想通りって顔をしてる。

 

 3位、思ってた以上に普段から問題のある人らしいな。

 

 そろそろ先にチェックインしちゃうか。そう思って久遠を誘ってカウンターに向かおうとすると誰かが入口の方から走って来た。

 

「すみません!! 何とか連れて来ました!!」

 

「やっと来たか」

 

「まあ、普段通りだな……」

 

「うーん、この……」

 

 代表チームがどこか呆れた空気を醸し出す中、空港の入り口につけた車から飛び出してくる姿があった。

 

 それはスーツ姿の男だった。背中に背丈のデカい女を背負っており、女の片手にはオー〇ド・パーのボトルが握られている。だらだらと酒を零しながら背負われる女はよだれをたらしながら背負われたまま空港の中へと連れ込まれる、ショッキングな映像をマスコミに晒していた。

 

 答え合わせなんて必要ないだろこれ。終わりだろ、尊厳。

 

「ミコト……アレはなんだ?」

 

「日本で3番目に強い女。歪沢椿(わいざわつばき)。酒カス酒クズで有名らしいよ」

 

「有名になって良い内容ではないだろう」

 

「おっしゃる通りです」

 

 代表チームに酒クズが合流する。スーツ姿……恐らくマネージャーか世話係に背負われたままオール〇・パーの18年ものかアレ? を飲んでいる。というか合流したのに飲むのを止めてない。しかも背負われたままチェックインの為に歩き出した。

 

 メディアも慣れた様子で酒カスっぷりを撮ってる。日本代表の姿か? これが? 嘘でしょ。

 

「……チェックインするか」

 

「うむ」

 

 なるべく代表チームから離れてチェックインする。美代さんがいるのでパスポートとかチケットとかの面倒な事は全部任せて、俺と久遠は少しずつ空港の中へと進んで行く時間を楽しんだ。スーツケースをコンベアに乗せて運ぶ所とか久遠が目を輝かせながら荷物を見送る。

 

 それから報道に囲まれている代表チームを避けて、先にゲートの向こう側へと進む。

 

 ここまで来るともう記者の類もいなくなり、のびのびと歩く事が出来る。

 

 当然、イギリスの時同様に専用のターミナルがあるので、空港内を移動する為の車両に乗ってそっちのターミナルへと移動する。並ぶ飛行機、サロン、カフェ、店舗、武器も持たずに平和そうにしている人々の姿……見るもの全てが未知であり、久遠を引き付ける景色だった。

 

 駆間では見せない瞳を煌めかせる姿は指輪を贈って良かったと思えるものだった。

 

 これが見られただけでも館長に恥を忍んで頼んだ意味があった。

 

 ウェルギリウスもそう思いますと影の中で頷いている。

 

 通常、飛行機に乗る時はボーディング時間があるのだが、今回に限ってはモンスターを使って移動する為、待つ必要はない。マスコミに足を取られている代表チームを置いて、先に専用ターミナルへと向かう。イギリスの時以来だが、相変わらず見慣れない光景だ。

 

 だがそれを抜ければターミナルに接続する、巨大なクジラと吊り下げられた船体が見えて来る。

 

 現代社会の筈なのに、まるでファンタジーの世界に踏み込んだかのような光景に久遠が窓際まで走り、その姿に魅了される。

 

「見ろミコト! あんなデカいモンスター中々見ないぞ! ずっと浮いているのか? 休むことなくアメリカまで飛んでくれるのか? ミコト、貴様は乗った事があるんだろう!?」

 

「あらあら、もう、すっかりはしゃいじゃって」

 

 久遠に手を取られターミナルを連れまわされる姿を美代さんに撮影されている。すっかりファミリーフィルムの一部扱いされてるなぁ、俺。ちゃんと俺の事を婿として見てるんだなぁ、この人……そんな気持ちになんか恥ずかしさを覚える。

 

「マスコミ対応があってまだ彼方は時間がかかりそうなので、先に搭乗しちゃいましょう。こっちです」

 

 全体進行を担当するスタッフが手を振って搭乗口へと向かうのを促すと、久遠が直ぐに手を握ったまま其方へと向かう。必然、引っ張られるように俺も搭乗口へと向かう。ターミナルから接続する通路からはトワイライトホエールの姿を見上げる事が出来て、久しぶりに言葉を交わす事が出来る。

 

 軽くシンクロして挨拶すると、可愛らしい鳴き声が空港に響く。

 

「なんて言っているんだ?」

 

「また会えたね、だってさ。前乗った事を覚えていてくれたみたいだ」

 

「ほほう、賢い奴なんだな」

 

 テンション高く乗り込んで行く久遠の後を追いかけるように船に乗り込む。イギリスに行くときにも乗り込んだこの船だが、やっぱり馬鹿でかいし、広い。空を飛ぶ豪華客船という表現はまさしく相応しいものだと言えるだろう。

 

 しかし船もそうだが、モールを組み込んだ移動手段なんてアイデア、良くもまあ思いついたものだ。

 

 実際、この船を利用するレベルのマスターはどこも金が余ってしょうがないってレベルの人たちばかりだ。移動中に不快感や不便さを感じないのが一番なのかもしれない。

 

「ミコト、探検を……いや、先に自分の客室を調べるか」

 

「あ、久遠待っ……あ、行っちゃった」

 

「ごめんなさい、あの子張り切っちゃってて」

 

「いえ……初めての旅行なら仕方がないですよ。久遠を追いかけてきますね」

 

「えぇ、あの子をよろしくね」

 

 走り去った普段よりもテンションの高い婚約者の姿を追いかけて船を走る。気配を追えば直ぐに久遠の姿を見つけられる。久遠の手にするチケットには移動中自分が使う客室の数字が書いてある……それであっさりと自分の部屋を見つけ出した様だ。

 

「おぉ……広い……!」

 

「トワちゃんを利用できるのは富裕層、それも大型モンスターの輸送を必要とするマスターだからAとかSランカーだけだしね。必然的にそれに合わせてこれも作られてるんだよ」

 

 Sランカーにもなれば国賓レベルの待遇を受けるという話は耳にする。実際、国家級の戦力と考えると調子を崩したり病気になったり、些細な事でコンディションを崩されるのは困る話だ。そういう意味では極限まで快適さを求めるこの船にも意味はあるのか。

 

「ミコト」

 

 部屋の中に入り、辺りを見渡してから久遠が振り返る。

 

「楽しい夏になりそうだな」

 

「ああ」

 

 本当に、アメリカに行けるようになって良かった。久遠の笑顔を見ていると心の底からそう思える。そして同時にクソボケ女神と邪神は絶対に手を出してこないでくれ、と心の中で祈りを捧げないとならない。

 

 ただ、まあ、パペッターが動き出しているのならチクタクマンやインスペクターも既に動き出しているだろうし、ゴーストライターやパラレルミラーも元気にどこかで不幸をまき散らしているのだろう。早く全員死んでほしい。

 

 文明特効のカス王が死んだからまあまあ猶予が出来たが、それでも1体1体が国や世界をぐちゃぐちゃにする能力を持った化け物共だ。見つけ次第殺すのに限る。そういう意味では早めにエンカウントしておきたい気持ちはある。

 

 とはいえ、今エンカウントして殺せるのはパラレルミラーぐらいかなぁ。ゴーストライターはタネを理解している相手の前には絶対に出現しないからなぁ。チクタクマンは最終構築でもないと殺しきれる気がしないし、インスペクターもそれぐらいの火力が必要になる。

 

 まあ……ダントツで厄介なのは邪神ネガコスモだけど。邪神の王であり、邪神のトップであり、次元城の奥で己か世界が終わる日を何もせずに待ち続ける最強のDLCボス。

 

 竜王ラグナロクが物理的な強さとしての最強のDLCボスだとすれば、邪神ネガコスモはギミック系ボスとしての最強最悪を冠するDLCボスだ。原作のゲームにおける最強の2大ボスがこいつらであり、こいつらの討伐こそがゲームにおける最後のコンテンツになる。

 

 ……まあ、現状倒せるかどうか怪しいレベルの相手なのだ、戦う事を考える事すら無駄なのだが。

 

 ネガコスモはどうせ、次元城から出て来る事がないし、倒す事は考えなくて良いだろう。

 

「ベッドが大きい! 冷蔵庫の中に何かいっぱい入っているぞ! テレビもパソコンも置いてある! あ、リーグ・オブ・チャンピオンズが入ってるぞ」

 

「人間性を喪失するゲームだからそれには触らない方が良いよ」

 

 なんてものインストールしてるんだよ備え付けのパソコン。

 

 邪神の事なんかよりも今は久遠と過ごす時間の方が大事だ。一緒に客室を探索していると、段々と甲板の方が騒がしくなってくる。どうやら代表チームが到着したらしい。様子を見に行く為にも客室を出て甲板へと向かう。

 

 そこには数人のカメラマンを連れた代表チームの姿があった。

 

 東吾、仮面、修三さん、そして未だにスーツの男に背負われた酒クズ。手に握られている酒は何時の間にかワインに変わっている……あのラベル……バ〇ーロ? 滅茶苦茶良いワイン飲んでるじゃん……。というかもしかして背負われたままゲート通過してしかも2本目に突入した?

 

「大人になっても酒だけは飲みたくないという気持ちが湧いて来る反面教師だな」

 

「そうだね」

 

 俺も大人になったらお酒は控えようかな……。

 

 そんな風に日本3位の酒クズの存在に戦慄しつつ、俺達のアメリカへの旅が始まった。

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