最強以外ありえない   作:てんぞー

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GO! GO! GO!

アンナ襲来1週間後

 

「ダーンジョンダーンジョンダンダンダーンジョン」

 

「ダンジョン!」

 

 今日も朝からダンジョンダンジョン。朝ごはんの前にダンジョンダンジョン。人生はダンジョンダンジョン。人間性を削ってでもダンジョンダンジョン。厳選の道は長く苦しくダンジョンは実にダンジョンをしている。

 

 妹を連れて家を出ると家の前にやっぱりダンジョンゲートがある。空間の亀裂みたいに広がっているものこそがダンジョンゲート、この世界に対して流入する異世界の概念溜まりの様なものだ。概念レベルで地球と融合しているから誰もがそれを常識だと思っている。

 

 これ、後付けで出現してるのにね。

 

 でも概念として紐づいているから誰もがこれは昔から存在していると思っている。歴史や過去を調べてもそんな前から存在していると思われる。多少の誤差や違和感はあっても皆それを見過ごす。だってそれが常識というものだから。人は常識というものを疑えないでダンジョン。

 

「お兄ちゃん隊長! ダンジョンを発見しました!」

 

「良くやった灯隊員! さて本日のダンジョンはグッドダンジョンかな? バッドダンジョンかな?」

 

「隊長! この1か月と1週間ずっとバッドダンジョンでした!」

 

「うん……そうだね……」

 

 細々としたアイテム回収は出来てるし、“歌姫”用の第1世代は確保できた。だが“楽園”も“未来”も“神龍”もなんも確保できてない。“死神”に至ってはそもそも根の国ダイブしてこないと死神族の種族ロックが解放されないから基本素材を集める事さえできない。

 

 まあ、“楽園”も種族ロックあるし。“超越”は大英図書館にある隠しダンジョンに行かないと駄目だし。今の所集められるのは“未来”“歌姫”と“神龍”の基本パーツだけか。

 

 辛いよぉ。辛いけどだんだんこれが気持ち良くなってくる。

 

 それが厳選。厳選ハイになっているだけとも言える。

 

「隊長! ダンジョンゲートから何かが出て来そうです!」

 

「おやおやおやおや、今日のダンジョンくんは元気ですねぇ」

 

 ばさぁ、と音を響かせながらダンジョンから飛び出してきたのは車ぐらいの大きさはあるであろう鳥獣モンスターであった。鳥獣モンスターは此方を見かけるとぺろり、と嘴を舐めて鍵爪でがっちりと俺を掴み、そのまま空へと向かって飛び上がる。

 

「あ、朝ごはん食べる前にお兄ちゃんが朝ごはんになっちゃった」

 

「心配しなくても良いんだ灯、命に何時か終わりは訪れる……生命は流転し、流れたものも何時か輪廻を巡って帰って来るんだ……お兄ちゃんは先に次の旅路へと向かうだけだから」

 

「バイバイお兄ちゃん、遠い未来でまた会おうね」

 

 どうやら邪魔されないように高度を上げて食べるらしい。痛くないといいなあ、と思っていると遠くからミストドラゴンが必死の形相で飛んでくるのが見えた。

 

「結婚前に私を未亡人にさせるなあ―――!!」

 

 久遠、魂の叫びと共に救出。

 

 

アンナ襲来1か月後

 

 

「ダーンジョンダーンジョンダンダンダーンジョン」

 

「ダンジョン!」

 

「ダンジョン!」

 

 今日も朝からダンジョンダンジョン。朝活だから朝ごはん食べる前にダンジョン探索。この1か月は成果なしで正気が削れそうだぜダンジョン。素材が揃ってた“歌姫”血統がEランクにまでこの1か月で上がったけどD用の素材がないからストッパーかかってるぜ。

 

 あの……もうちょっと慈悲を……。

 

 チビに至ってはこの2か月の間に進捗なしで合体まだー? って催促してくるし。俺だってそろそろチビの合体をさせたい。させたいのは事実として妥協できないので困っている。それとなく協会でお見合い合体が出来ないか相手を探してみたがやっぱり希望のモンスターはいなかった。

 

 それとなく闇サイトを覗いてみたがなかった。

 

 それとなーくネットで調べて見つけた闇ブローカーにも会ってみたがそんなもんある訳ないだろ! と怒られて追い出されてしまった。残念。やはり厳選、厳選は全てを救う。厳選だけが俺の心を癒してくれる。

 

 もう既に朝からスタンバイしているミストドラゴンと久遠もいるし、今日は学校もない。朝から晩までダンジョンができるでダンジョン。

 

「ミコト、朝から活性化しているダンジョンゲートがあるぞ、幸先がいいな!」

 

「これが一般都市だったら間違いなく封鎖からの緊急出動レベルの出来事なのに駆間市だとハッピーダンジョンタイム扱いされるの中々にバグだよな」

 

 活性化しているダンジョンゲートは強いモンスターが出没する。つまり良いアイテムや素材が手に入りやすいのだ。こうなってくると是非ともダンジョンの中を探索しなくてはならない。準備運動をして今から突入するか、という所でゲートの向こう側からのっそりと3メートルを超える巨体が現れた。

 

 青肌に雄々しい角、4枚の翼を生やした異形の肉体―――グレーターデーモンと呼ばれるBランクのモンスターだった。

 

「おはようございます」

 

「む、これはどうもご丁寧におはようございます」

 

 3人揃って朝の挨拶をするとグレーターデーモンも紳士的に頭を下げて挨拶をしてくる。なんてマナーの出来ている上級モンスターなんだ。東京だったら報道ヘリが飛び回ってる所だろう。

 

「新しいご近所さんですか?」

 

「えぇ、たった今ここにゲートが繋がった所でして。これからはここを拠点に世界を支配し、混沌の世を我が王の為に作ろうと思っています」

 

「わあ、頑張り屋さんですね」

 

「我ら悪魔族にとって混沌と無法の中でこそ最も生命が輝くと信じているのです。法の中にある命は常に常識や規則に縛られて生命としての本質を見失っています。我々は全てを混沌に落とす事で生命を原初の衝動のままに生きられるように解放するのです」

 

「わああ、凄い主張!」

 

 のそのそとダンジョンゲートからグレーターデーモンや下位の悪魔族モンスターが出て来る。迷わずミストブレスで下位個体を消し飛ばすが、上級は防御してるのか耐えた。久遠がこれは少し手間かもなあ、とかいう顔をし始めた。

 

「もしもし、ポリスメン?」

 

『今行きます……!』

 

 連絡を入れた5分後、警察よりも先に高レベルダンジョンの気配を察した野生の修羅が出現し、後から来た警察と連携を取りながらゲートに攻め込んで全てを滅ぼしていった。

 

 アイツら呼んでもないのに現れたな。

 

 

アンナ襲来2か月後

 

「ダンジョン?」

 

「ダンジョン!」

 

「ダンダダンダンジョン?」

 

「ダダンジョン! ダン!」

 

「良し、現実逃避止めるか。ついに庭先にレイドゲートまで開くようになってしまった。ジジイ、ちょっとインフレ早すぎないかこれ?」

 

「この規模と大きさ的にAランク相当の難度だな……」

 

 もはや季節は冬。雪も降って辺り一面は白い。なのに我が家の庭先にはついには真っ赤で危険そうなダンジョンゲートが出現していた。これはレイドゲートと呼ばれるレイドコンテンツ用のゲートであり、複数のプレイヤーたちと攻略するレイドボスの出現するゲートなのだ。

 

 突入すると探索抜きでレイドボスとの戦闘になり、討伐に成功すると大量のアイテムが貰えるという色んなゲームでお馴染みのコンテンツだ。育成対戦系ゲームでレイドがなかったもんってある? ってぐらいに馴染みの深いコンテンツだ。

 

 まあ、プレイヤーって育てたキャラを自慢したり、それで初心者キャリーするのが大好きだし。そういう交流の為のレイドコンテンツがあるのは間違いじゃないよね!

 

 現実にはあんまり欲しくなかった。

 

「参ったな、Bランクのダンジョンまでだったら私とミストだけで何とかなるのだが、流石にこの規模となると父を呼んでこないと無理だな」

 

 ミストドラゴンの表情を見るとお目目がばってんしててちょっと可愛い。ミストドラゴンはそもそも6世代の中でも最上位に位置するモンスターだからB環境相手でも相当上位か数を揃えてこない限りは無双できるスペックがある。

 

 そのミストドラゴンがタイマンでダメというのはもう、フルパ前提の難易度なのだ。

 

「仕方がない、柵の向こう側で大人しくレイドに参加したそうにしてる野生の修羅を解放するか……」

 

「あ、お兄ちゃんにも見えてたんだアレ。私にしか見えないお化けかと思ってた」

 

 ダンジョンゲートやレイドゲートが開いている我が屋の庭は私有地なので、中に入ってはいけないのをちゃんと理解しているマナーの良い修羅たちは捨てられた子犬の様な表情で柵の傍でスタンバイしている。

 

 この2か月ぐらいで我が家はダンジョンが生えて来る魔境だとしっかりと認識してしまった彼、彼女らはどうやら日常的な駆間市ダンジョン粉砕ツアーの警戒ルートに我が家を組み込んでいるようだった。

 

「レイドしたい?」

 

 頭が凄い勢いでぶんぶんされた。

 

「そんなにレイドしたい?」

 

 物凄い勢いで頭が勢いでぶんぶんされた。

 

「ちゃんとレイド用準備出来てる?」

 

「此方のモンスターは開幕自動支援発動セットでこっちはデバフ専用構築でこっちはレイド用耐性ノック要員、ここでバフデバフ入れて最大ダメージが入れられる状態になったらタンク組でまずはダメージ計測して相手の火力を削ぎながら耐性チェックで一番耐性の低い攻撃を運用して火力を叩き込み続ける予定です。無論これが通らない場合に備えてバックアップ要員としてバーン係を用意していて最低でも4種類のバーンダメージを叩き込める予定です。ボスレイド相手だとバーンが十全に刺さらない場合に備えてパーミ系のスキルも揃えて来てるのでシェイクオフやリフレッシュ対策も十分です。ちなみにあっちにいる彼女は大会出禁のコントロールロックの使い手なので最悪の場合は―――」

 

「GO! GO! GO!」

 

「ヒャア!!!」

 

「我慢できねぇ!!」

 

「落とせ!! 合体素材落として行け!!!」

 

 ゴーサインを出すと柵を飛び越えて厳選されたモンスターを連れて野生の修羅たちがレイドゲートの中へと飛び込んで行く。数人飛び込んだ直後からゲートの内側から激しい光と衝撃が伝わってくるので数で囲んでボスをボコり始めたのだろう。

 

 スマホで掲示板を確認すると臨時レイド情報共有板で爆速でボスの耐性がぶち抜かれていた。

 

「あ、鴉羽尊さん。レイド参加させてくれてありがとう。ボスドロップの一部は参加報酬として渡すから受け取ってね。これはホストに対する参加者としてのマナーだから」

 

「俺……自己紹介してない……」

 

 野良くんはサムズアップを向けると良い笑顔でレイドへと合流していった。レイド報酬楽しみだなぁ、と思う反面この手の野良の修羅が多い土地でなんで管理を久遠たち夜月家だけに任せていたんだろうか、という疑問を覚える。

 

 明らかに効率だけを考えるなら夜月家以外にも任せればよい……というより一般公開すれば一瞬でイナゴの如く現れるマスターたちがリンチし始めてくれる筈だ。だけどジジイはその手段を択ばなかった。

 

 その意図はなんなんだろうか?

 

「まあ、何にせよレイドが盛り上がっているうちにダンジョン探索しなきゃ……」

 

 無名の修羅(モブ)共が盛り上がっている中、他のダンジョンはノータッチで放置されている。自分にとって今一番重要なのはチビの合体素材を見つける事だ。今のパーティー、攻撃の軸はチビが担っているのだ。

 

 チビを強化しない限りDランクのランクマにも、週末大会にも出場が出来ない。

 

 Cランク認定戦からは一定数の実績が必要になって来る。ランクマでポイントを獲得し、一定数以上にレートに上がる事が必要なのだ。その為には積極的にランクマや大会に出場して稼ぐ必要が出て来る。

 

 その上でCランク認定戦は同じように一定数以上のレートを稼いだ他のマスターとの大会形式になっている。Cランクに上がれるのは1位に輝いた1人のみ。Eランクまではチュートリアルの様なものだが、Dからは明確に他人との戦いになって来る。

 

 挑戦権を得る為にもチビを戦力として使えるレベルにまで上げないと困る。そうしないと何も始まらない。だが現状のペースだともう数か月かかりそうな気もする。3か月粘って成果なし、は流石にキツイ。

 

「ミコト……何を探してるんだ?」

 

「ん? チビと同じウルフパップだよ。中々レアなモンスターだとは知ってたけど中々出て来ないんだよね」

 

 市場価格もちょっと手の届かないお値段だし。そもそも市場に流れてるモンスターは個体値がアレだったりするので論外なのだが。

 

「その上で《変異因子》を備えてる奴なんだ」

 

「《変異因子》?」

 

「あぁ、スキルなんだけど合体時に影響するタイプのスキルで、特定のスキルを合体時に別のスキルへと変化させてくれるんだな、これが」

 

 例えばチビの持っている《素早さ+5》パッシブを合体時に2個保有していると《素早さ+8》へとランクアップする。総合値は減るが、スキルが統合される影響でスキル枠が空くのでその分新しいスキルが入れられるようになる。

 

 だが《変異因子》を保有している場合、《素早さ+5》x2は《回避+10%》に変化する。このスキルは素早さには影響がないため、チビにやっている素早さ爆盛で《アクセルクロー》の威力を底上げするという事が出来なくなる代わりに、回避率への直接の加算というスキルなので素早さデバフの影響を受けずに回避率を保持し続ける事が出来る。

 

 火力を出すなら素早さを盛った方が良いが、最終世代を見据えると火力は素早さではなく力で賄う予定になっている。そもそも6世代で力に特化させた聖獣血統を合流させる予定なのでダメージ関連はそっちで調整する。

 

 チビは最強の回避スキルを習得する為の土台なのだ。回避力に特化した血統を構築、その血筋で回避スキルを鍛え上げるのだ。その為には血統の中に高い回避力を記憶させる必要があるのだ。そしてその鍵となるのが《変異因子》だ。

 

 この《変異因子》はちょくちょく高威力、高レアリティのスキルを作成するのに必要になって来るため、目的じゃないモンスターだったとしても覚えている個体を見つけたら確保が推奨される。

 

 一応、スキルカードとして出て来るのもあるが、基本的にこれが確保できるのは高難易度ダンジョンやレイド報酬だ。俺が手に入れるのはちょっと現実的なラインではない……あぁ、いや、裏ダンの幻想図書館では確か確定配置アイテムとして存在していた筈だ。

 

 “超越”作成のキーアイテム確保のついでに回収しなくては。

 

「《変異因子》を持ったウルフパップ、か……」

 

「そうそう。1世代最速のモンスターだから血統の始祖としてウルフパップxウルフパップで合体させたいんだよね」

 

 ジジイがどうやって今のチビを確保したのかが凄く気になる。やっぱ金だろうか? それとも人海戦術で解決した? どちらにしろ、俺にはダンジョンを巡って出て来る事を祈る事しかできない。

 

「……」

 

「久遠?」

 

 悩むそぶりを見せる久遠に、少し驚かされる。少なくとも此方に来てから彼女がそんな風に悩む姿を俺は見た事がなかった。常に自信満々、傲岸不遜で押しつけがましいのが彼女に対するイメージだったからだ。

 

「大丈夫か?」

 

「いや……何でもない」

 

 頭を横に振って久遠が言葉を続ける。

 

「近いうちに……出たらいいな」

 

「ああ! 早く出て来ないと年が明けちまう!! ほんと!! 早く!! 出て!!」

 

 レイドゲートの向こう側から勝鬨が聞こえてくる。どうやらレイドボスの抹殺に成功したらしい。

 

 プレイヤーとほぼ同じことやってるこの連中本当に何者だよ。

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