最強以外ありえない   作:てんぞー

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―――鴉羽尊に余計な事を喋らせない

 広がる空。

 

 広大な景色。

 

 船に乗る様々なモンスター。

 

 そしてゲロ吐く女。

 

「おえっ―――!」

 

「せっかくの景色が台無しだよ」

 

「申し訳ありません……!」

 

「謝られても……」

 

 吐いてる本人は謝らないし。というか吐きながら酒で給水してるし。酒が原因で吐いてるのになんで飲み続けられるんだこいつ……?

 

 3位がバケツに吐きながらクジラがアメリカへと向かって飛び立つ。俺たちは丸1日かかる空の旅をゲロを吐く音と共に始めた。1日というそれなりにかかる時間をどう楽しむのか……というのも旅の醍醐味なのだが。

 

 その始まりがこれである。

 

 なんか、もう、台無しだよ。情緒とか、ムードとか、そんな感じのアレ。全部酒カスのゲロで上書きされてしまった。どうしてこういう奴ばかり強いんだろうね……。

 

「本当にすまない。だが椿くんは重度のアルコール依存症で常に酒を摂取してないと……」

 

 仮面がそっと近づいて、吐いている女から酒瓶を取り上げる。すると急にその場で白目向いて泡を吹きながら痙攣し始めてしまった。

 

「こうなる」

 

「終わりだろこれ。バトルしてないで病院に叩き込もうよ」

 

「既に医者がさじを投げてるんです……」

 

 人間って、ここまで終わりって感じになれるんだなぁ、と妙に感心してしまった。こんな大人にだけはなりたくないよ。もっとかっこいい大人になりたいね。

 

「尊くん改めて感謝したい。チームに参加してくれてありがとう」

 

「いや、日本の勝利自体は興味ないんだ。でも勝つ理由が出来たから」

 

 チラッとミストと一緒に甲板からの景色を眺めている久遠を見る。初めての旅行、そしてミストの背中とは違う空の景色に夢中になっている姿があった。

 

 俺のモチベーションは全てあそこにあった。それを仮面も把握しているのだろう。うん、と頷いた。

 

「承知している。だからこそ感謝したい。君がいると勝率が大きく上がるからね」

 

「まあ、仕事は果たすよ」

 

 久遠の前で無様な姿だけは絶対に見せられないし。合法範囲で負けないための手段は取るぞ。合法的にSのモンスター弄れるんだ、俺の知識が漸く活用できるステージだ。

 

「それで尊くん、良いだろうか?」

 

「うん?」

 

 ゲロ製造機を横に、会話を続ける。

 

「君が根の国や図書館の発見者なのは聞いているのだが」

 

「うん」

 

「他にもその手のダンジョンはあるのかい?」

 

 近くで話を聞いてた東吾が聞いちゃうのかそれ、という顔をした。そういやぁ東吾はネタバレ否定派だっけ。東吾の前ではネタバレ自重してたんだよね。

 

「どうしたんだ東吾」

 

「いや、遂に聞き出そうとする奴が現れたんだな、と。こいつ、イギリスの時に政府の事情聴取に応じた時、10人以上発狂させたんだぞ」

 

「最終的に近場のランカーに事情聴取されたけど、情報そのものが高度次元情報だったから認知出来ないし無理すると発狂するで大変だったね」

 

「把握しなきゃいけない政府の役人が認知出来ないから永遠に話が噛み合わなくて酷かったな」

 

 酷い事件でしたね。この時点で敵になれるか否かの選別が行われるタイプのボスだと考えればまあ……という感じだが。

 

「知りたいなら遠慮なくネタバレするよ、俺は。隠す理由ないし。それで探す楽しみが潰れるかもしれないけど」

 

「根の国とか絶対に知らなきゃ見つからないだろあんなの。図書館にしたって事前知識ゼロで見つけるのは無理だろ」

 

 見つけたんですよ。プレイヤーは。事前情報ゼロの段階から。いや、データマイニングされた可能性は十分あるのですが……。

 

 で。

 

「高難易度ダンジョンが知りたいの? それとも通常ダンジョンが知りたいの?」

 

「あ、言うんだ」

 

 遠慮する理由がないので。この話をするとチームのサポーターの人たちも集まってきた。この人たち、その分野における一流の人達なんだよなぁ。

 

「じゃあ根の国や図書館みたいなダンジョンの話を聞かせてくれるかい?」

 

「高難易度系だな? オッケー」

 

 がらがらごらー、とサポーターの人達がホワイトボードとマーカーを持ってきた。手際いいなあんたら。そう思いながらホワイトボードにデフォルメ根の国と図書館を描く。

 

「まず100レベダンジョンは大まかに2種類に分類できる。高難易度と通常難易度の2種類にね。共通して両方とも新しいモンスターが出現したり、ロック解禁ができるようになってる。発見して潜るだけで最低限の成果が出るよ」

 

「夢のある話だな」

 

「で、違いは?」

 

「ボスと報酬」

 

 キュッキュッとかーちゃんと口のデフォルメ絵を描く。

 

「通常ダンジョンだとボスは良くて120レベぐらい、図書館や根の国の様な高難易度ダンジョンは150から170レベルまでの大型ボスが用意されてる。無論、強さに合わせた報酬も用意されてる」

 

 かーちゃんの討伐報酬はかーちゃんの合体解禁。図書館は叡智の書とかだけどこっちは回収済みだね。

 

「おえっ、おえっ……おえっ―――!」

 

 サブリミナルゲロ。あ、握ってる瓶が更新されてる……。

 

「根の国を始めとする裏ダンと呼ばれる高難易度ダンジョンはそれ相応、あー……環境破壊クラスの報酬が用意されてるんだ。実際、根の国と図書館で環境変わったでしょ?」

 

 授業みたいに綺麗にホワイトボード前に集まって座り込む体の大きな生徒たちが手を上げた。

 

「はい、そこの仮面不審者」

 

「つまり君の言う裏ダンは他にもあって、それらも環境を変える力があるんだね?」

 

「そだよ」

 

 空飛ぶ庭園の絵をささっと描く。

 

「神域ロストエデン、元々は神々の住まう地であり、世界が滅びた際には零落した神々の地となった。荘厳な建築も今は楽園の残骸……滅びた園にはかつての栄光と理想の記録が残ってる。ここには建築に関するアップグレードが用意されてる」

 

「イギリスの時にこの話した気がするなあ……確かダンジョンが成層圏をうろうろしてて定まった場所にないって奴だったか」

 

 そうそう、それ。まず間違いなくめんどくさい奴。国とか国境とか色々ね……。行ける日が来るのだろうかこれ?

 

「ロストエデンで手に入る建築技術を適用する事で災害の中でも崩れない家屋が作成出来るようになる他、モンスターのトレーニングを超効率化する事が出来る。Sランクのモンスターって大体1体トレーニング完了まで1年以上かかるでしょ? これが4か月ぐらいまで圧縮できる」

 

「馬鹿効率」

 

 うん、DLCの攻略特典だし……。

 

 オンライン対戦がメインコンテンツなんだから、何時までも育成パートで手間取ってたら困るというのもある。どちらにせよ、ロストエデンの攻略報酬は建築関連のアップデートだ。メタを回すゲームに置いて育成時間短縮というのは大きな意味がある。特にリアル環境では次の試合にメタを間に合わせるかどうかという話が絡むので本当に重要なんじゃないかこれ?

 

「まあ、今も成層圏うろうろ徘徊してるから探したいのなら地球の成層圏をどうにかしてうろうろしてね。俺はやれる気がしない」

 

「俺もやれる気がしない」

 

「ちょっと無理かな……」

 

「GMにでもならなきゃ無理だと思いますよ」

 

 全員でまあ、確かに……みたいな声が上がる。グランドマスターはこの世界で最も自由な人間だ。あらゆる権利を許されており、誰もそれに逆らう事が出来ない―――だってこの世で一番強い人間だから。他国の空をお散歩してても地元の不良はレジェンド不良に挨拶する如く、お勤めご苦労様です!!! と言われてスルーされるだろう。

 

「他にはどういうのがあるんですか?」

 

 サポーターの人から声が上がる。

 

「うーん、じゃあ次は海底に沈んだ箱舟都市ノアはどう?」

 

「滅茶苦茶ロマンある名前が出て来たな」

 

 皆興味津々だなぁ。まあ、この手のフレーバーテキストって一度調べ始めると延々と眺めてたり脳内で組み合わせて遊んだり、こういう事だったのかなぁ……って考えながら遊べて楽しいんだよね。気持ちは凄い解るよ。聞いてるだけでこの手のダンジョンの設定って楽しいから。

 

 ゲームだったら。

 

「かつて洋上には海王が支配する箱舟都市が存在した。まだ世界が海しか存在しなかった頃、神は陸地を生み出す前にうっかり陸上生命を生み出してしまい、それらが死なないように巨大な箱舟を生み出した。それが箱舟都市ノアだ。巨大な都市サイズの船って事だね」

 

「すげぇ! 聞いてると頭が痛くなってくる!」

 

「ちょくちょく言葉にノイズが混じってる! コレ人類が聞いても良い奴?」

 

 ちゃんと聞こえてる時点ですげぇな……。アンナだったら聞こえないレベルの話だぞこれ。

 

「だが終末の訪れに伴いノアは海底へと沈んでしまった……そしてそれがそのままダンジョンとなって地球に今は存在している。都市の機能はほぼ死んでいるけど、それを守護する海王と、海王の後継者が箱舟の一番奥で眠ってる。不用意に近づくと沈むよ」

 

「何が?」

 

 え?

 

「アジアかヨーロッパかアメリカか。好きなの選んで」

 

「被害が大陸規模」

 

 海王様はねぇ、卵の海王Jrを守護してずっとノアの周りにいるの。でもJrを孵化させられるのはマスターだけで、海王にはその力がない。だけど海王はそれを知らず、王子の目覚めを待ってもう機能していない都市を永遠に守り続けているのだ。

 

「たぶん半分ぐらい狂気に蝕まれてるかな。それでも自分からはなるべく何もせず、眠る事で被害を出さないようにしてる。でも近づくと起きちゃう。まあ、不用意に海底に近づかなきゃセーフよ、セーフ。1戦目は手加減してくれるし。負けたら大陸1個で許してくれるよ」

 

「地球の終わりだろそれは」

 

 ゲーム的な話すると敗北はゲームオーバーでセーブからやり直す事になるんで、敗北のペナルティで地球が滅ぶのは演出としてはまあまあアリなんですよ。

 

 リアルじゃなきゃね。

 

 ゲームの演出だから面白いんですよ。

 

 リアルでやられるとドン引きなだけなんですよ。

 

「ちなみにノアの一番奥で眠ってる海王Jrは天候をコントロールする力を持ってるから、自由自在に天候をコントロールしてレアモンスターの厳選に貢献してくれるよ。後オマケでノアに合体システムの強化パッチがあって合体事故のオンオフとかモンスターの種族を変更させずに再合体出来るようになる」

 

「オマケ!!! そのオマケちょっと待て!!!」

 

「オマケで流して良いライン超えてるぞ!!」

 

 東吾とマスター仮面が冷や汗を流しながら俺を見ている。

 

「やっぱコイツ黙らせた方が良いな」

 

「口を開かせたら戦争の火種ばっかり飛んでくるな……」

 

 でもネタバレを望んだのは君達じゃん? 俺は期待に応えてるだけだよ。そう言うと誰も反論できず、おえー! というBGMだけが甲板に流れる。なんで吐き出してる傍から再補充してるんだよあの女。頭おかしいのかよ。おかしいからやってるんだわ。

 

「何? まだ暗黒樹海に住まう部族たちとモンスター素材でスキルカードを交換できる話とか、ドラゴンズバレーの竜王がレベル180あるとか俺の会話デッキはまだまだ残ってるんだが?」

 

「誰か猿轡持ってこい」

 

「余計な事を喋らせるな」

 

「うわ、こら、何をする! 俺が滅びようともネタバレしたくてうずうずしてる館長が俺の代わりにんんん! んむう! んん!」

 

 口を塞がれ、そのまま久遠の所まで運ばれ、そのまま久遠預かりとなって無事、俺が封じられる。その間に集まった代表チームはホワイトボードに新しくルールを追加した。

 

 ―――鴉羽尊に余計な事を喋らせない。

 

「全員、いいな?」

 

「はいっ!」

 

 元気の良い返事が甲板に響きましたとさ。

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