最強以外ありえない   作:てんぞー

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行かなきゃ

「全く酷い話だよな。ネタバレして良いのか聞いたら今度は黙れってよ。俺は言われたとおりに話しただけなのに……」

 

 ぷんぷん、と怒っていると久遠がそっと言う。

 

「優しい目をしていたぞ。たぶん貴様に余計な事を言わせて面倒ごとにかかわらせたくないのだろう。良い人たちじゃないか」

 

「久遠、人の良い所を見つけるの凄い上手だよね。アレの良い所なんか見つけられる?」

 

 ゲロ製造機を指差す。久遠はそれを数秒見てから頷いた。

 

「自己処理出来てる」

 

「偉いな……酒を飲まなかったらもっと偉いと思う」

 

「それはそう」

 

 という訳で、緊急ミーティングは終了した。ホワイトボードは証拠隠滅の為に原子分解され、集まった人たちは皆自由時間を満喫する為に船内に散らばった。それに合わせて俺も甲板で久遠の横に並ぶように欄干に背を預けて景色を楽しんでいる。

 

 ミストと比べれば速度は落ちるが、それでも十分な速さが出ている。イギリス行きの時とは違って、平和な旅路になりそうなのもポイントが高い。

 

「見ろ、ミコト……見渡す限りの海だ……駆間にあったダンジョン産のものではなく、本物の海だぞ」

 

「あぁ、そうだな。でもこれから何度だって見る事の出来る景色だ。君はもう、その運命に縛られる必要はない。行きたい所へ行くことが出来るようになったんだ」

 

 少し離れた所で修三さんと美代さんがうんうんと頷いている。なんでそんなに距離作ってるん……?

 

 ……言いたかったことがある。今、言うべきか否か。それを考える、今、ここにいるのは久遠とその両親だけだ。話すなら今がチャンスかもしれない。

 

 そう考えて、海を眺めながら数秒。おえー! という声が聞こえて止めた。ムードじゃねぇわ。

 

「はあ、はあ……やっと吐ききったわ……ごくごく」

 

「吐ききった直後から飲んでたら意味ないと思うんですけど」

 

「解ってないわねえ」

 

 ゲロを吐いてた3位が漸く立ち上がる。立ち上がったところが漸く見れたとも言える。身長は2メートル近く、ケツとか胸のデカイ女だった。長い黒髪を束ねもせず、寝癖のまま放置しただらしない印象を与える、そんな女だ。

 

「酒は酒よ」

 

「……?」

 

「解ったかしら? そういうことよ」

 

「??????」

 

 何も理解できんが……? 本当に何も理解できないが? え、今ので論破した気になってるこの人。マジで会話成立した気になってる! 凄い! 言葉が通じるのに通じてない!

 

「ふぅ、吐いたら飲みたくなってきた……あれ……赤い海? もしかしてこれ見える範囲全部ワイン!?」

 

 欄干の外へと視線を向けると目を輝かせて海を見た。勿論、普通の海だ。ワインではないし、赤くはない。この酒ボケカスの幻覚である。というか幻覚見てるのかよ。

 

「行かなきゃ」

 

 そう言うと止めるまでもなく生身でそのままダイブしていった。数秒後、離れて仕事してたマネージャーが憤死しそうな表情でワイヤーガンを片手に追いかけるように飛び降りていった。

 

「離して!! ロマネが……ロマネ・コンティが待ってるの!!」

 

「幻覚ですよ! ほら! ウィスキーを持ってきましたから! これ飲んで落ち着きましょう! ね!」

 

 数分後、ウィスキーのボトルを哺乳瓶の様に抱えたでかい赤ちゃんを片腕に抱えたマネージャーが戻ってきた。俺たちは自然と職務を成し遂げるマネージャーに対して敬礼をしていた。

 

 マネージャーさん、アンタ凄いよ……。

 

 

 

 折角の豪華飛行船の旅なのに景色を見てるだけでは勿体無いので、しばらく風と景色を楽しんだらモールの方へと向かって探索を再開する。

 

 流石にSランカーが利用する前提で作られてるだけあって店も高級店ばかりだし、置いてある品物もなんか見たことのない値段ばかりしている。

 

 普通に手が出せない。俺、一般家庭出身だし。問題児がマネージャー伴って酒屋に入りあぁ、あそこ終わったな、とか思っていると普通にショッピングしてる仮面を見つけた。

 

「マス面だ」

 

「マス面さん」

 

「変な略し方するね君達は。探索かい?」

 

 久遠と2人でサムズアップすると微笑ましそうにされた。

 

「マス面は買い物?」

 

「ん? そうだよ。アメリカに着いてからだとお土産探すだけの時間があるかどうか怪しいからね、今のうちに見繕ってるんだ」

 

「結婚しているのか?」

 

 久遠の疑問に仮面が頷いた。

 

「あぁ、というよりこのランクになると大半が既婚者だよ。身を固めておかないとハニトラやら親戚の何やらで人間関係が面倒なことになるからね」

 

 2人で酒屋の棚を開け始めた化け物を指差す。それを見たくないのか仮面が絶対に視線を向けないようにしてる。

 

「勿論、彼女にも縁談や取り込みの類はあった。見合いだって何度もしてる。だけど結婚はしなかった。何故か解るかい?」

 

 頭を横に振る。

 

「全員急性アルコール中毒でリタイアしたからだ。30人以上の候補者を全員アルコールの力でノックアウトしてから彼女は婚姻届を役所に提出した―――酒(概念)を配偶者枠に書いて」

 

 仮面は最後に頷いた。

 

「もうどうしようもないから政府はこれを受け入れた……!」

 

「受け入れちゃったんだ」

 

「夫を飲み殺し続ける化け物が生まれたぞ」

 

 店員が出てきて泣きながら止めてと言っているが札束で黙らせると楽園に移住してしまった。赤ワインの海はなかったが、浴びるほど飲む事はできるらしい。理解ある彼で良かったね。

 

「お前らアレ以下やぞって煽りの火力高そう」

 

「その点東吾は凄いよ。倒して上に上がったからね」

 

 煽り範囲を抜けたんだな、そういや。やるやん。

 

 しかし高ランクになるとそういう身持ちでも問題が出てくるんだなぁ、あんまり考えたことなかったな、ずっと久遠いるし。

 

 知見を得たなぁ、という訳でモール探索続行。

 

 このデカ過ぎる船のモールもデカ過ぎて、歩いて見て回ってるだけであっさり時間が過ぎてゆく。途中で夜月夫妻と合流したら一緒にランチをレストランで……そう、レストランだ! 機内食ではないのだ。なんとレストランで食事が出来るのだ。それを家族で楽しませてもらった。

 

 終わったら再び探検の旅に。

 

 モール内にあるのは勿論ショッピング用の店舗だけではなく、レクリエーション用の施設も存在している。久遠と一緒に探索していると今度は映画館から出てくるモンスターを見つけた。

 

「ラファエラとハーデスじゃん。あ、この2人は東吾のモンスターのラファエラとハーデスだよ。此方は」

 

「許嫁の久遠だ。よろしく頼む」

 

「よろしくお願いしますね」

 

「東吾共々今回は頼むぞ」

 

 任せてくれ、とサムズアップする。実は出発前に日本チームのモンスターデータ渡されてどうやって強化するのか、という話を任されている。具体的なミーティングは設備のある現地で行う予定だが、プランはある。

 

「2人は映画?」

 

 俺の問いにはい、と答えた。

 

「実は映画鑑賞が趣味なんです」

 

「元の世界にはなかった娯楽だからな。ここまでリアルかつ面白く映像を作り上げる技術と情熱……世界が復興したら是非とも多く導入してほしい所だ」

 

「マスターは私達の為にホームシアターを導入してくれたのですが……やはり現物は映画館で見るのに限りますからね。こういう機会は逃さないようにしてるんです」

 

 モンスターが映画館に入るのはほぼ不可能だし、たしかにこういう機会でもないと堂々と映画館で映画を見ることなんて出来ないだろう。

 

「ほほう、オススメはなにかあるか?」

 

 久遠の問いにハーデスは頷いた。

 

「先程見た犬が主人を探すためにダンジョンに挑む映画は泣かされたな」

 

「えーとですね、軽い説明をしますと突然現れたダンジョンに犬とその飼い主が巻き込まれてしまったんです。ですが犬が通れる程度の僅かな隙間があって……それが外に通じていたんです」

 

「飼い主を助ける事を誓った犬は飼い主の友人たちを連れてダンジョンを見せる。そこで飼い主がダンジョンに落ちた友人たちはマスターでもないのに助けに行く事を誓い、挑んだ」

 

「勿論、実話ではなくフィクションです。ですが可愛らしい犬が頑張る姿や友人たちとのドラマが本当に良くて……」

 

「一見の価値はある。暇なら見て行け」

 

 そして、と2人が続ける。

 

「これは一番大事なネタバレになるのだが」

 

「これだけは言わなくてはいけません」

 

 ハーデスとラファエラが同時に言う。

 

「犬は死にません」

 

「犬は死なない」

 

 その言葉にうむ、と久遠が相槌を打った。そして此方の腕を掴むと、そのまま映画館を指差す。

 

「ミコト、やるべき事が見つかったぞ。お勧めされた映画を見に行こうではないか」

 

「はいはい」

 

 久遠に引きずられるまま映画館の方へと行くと、ハーデスが久遠を見てから俺の方へと視線を向ける。何か言いたそうにしているから視線を返すと、ハーデスがはっ、と声を零した。

 

「何だ、確かにその娘がいるとだいぶ大人しいな。もう1人で爆走しないのか?」

 

 ハーデスに中指を突きつけながら映画館へと引きずり込まれる。これ喋ったの絶対にウェルギリウスだろ? アイツ絶対に後で泣かせてやるからな……。

 

 そう思いながら久遠と2人、広いシアターを占領するように映画を見た。

 

 デートで見るには少々ロマンチックさが足りないようにも感じたが……まあ、横で楽しそうな久遠を見られるだけで俺には十分だった。

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