映画デートを楽しんで、それから船内にあったプラネタリウムなんてものも堪能したら時差対策に1回眠る。それでぐっすりと眠る頃にはだいぶ航路も進み、アメリカが近づいて来る。日本からアメリカへの空路は凡そ12時間、時間にして半日程。
クジラを使った移動は速度は出るものの、今回は輸送しているモンスターも多く、危険を避ける為に少し多めに時間を取って合計15時間。遊んで、見て回って、眠って、食べて、そうして時間を過ごしているとあっという間に15時間という時間が過ぎ去る。
そして。
「見えて来たぞ―――アメリカの西海岸だ」
長い海だけの景色を乗り越えて、ついに陸地が見えて来る。甲板でその景色を眺めていると東吾が正面の景色を指差し説明してくれる。
「ウェスト・コースト、カリフォルニア州だ。国際線ハブとしてサンフランシスコ空港があるが、俺達はこれをスルーしてカリフォルニアを横断、直接ネバダ州に入る」
「確かネバダ州にラスベガスがあるんだったな」
パンフレットを広げた久遠が確認するのに俺が頷く。
「あぁ。だから航路としてはカリフォルニアを横断して、そのままネバダへと入る形になる。ラスベガスの直ぐ近くにラスベガス空港……ハリー・リード空港がある。確かハリー・リード空港はコイツに対応してた筈……だよな?」
きゅおーん、と鳴き声が響く。デカい子が答えてくれた。
「あぁ。昔のラスベガスはカジノで盛り上がる都市だったが、現代のラスベガスはこの世で最も巨大なモンスター賭場で成り上がった都市だ。世界中から富豪が集まってはバトルやレースで金を落として行く。それに伴いラスベガスそのものが拡張し、巨大なモンスター都市へと進化した」
「ラスベガスは世界でも珍しいバトルで賭博のできる都市なんだ」
「ほー」
カジノよりもモンスター賭場。最も刺激的で最も高貴な遊びだと現代では言われている。古くからは貴族達の遊びとされ、現代では富裕層のゲームだ。
そう、モンスターバトルにはお金がかかる。
必然、興行として成り立たせると金を持つ人間が集まる。そういう人間を相手に賭場をメインにラスベガスは一気に成長した。ギャンブルが大人気なのは今も昔も何も変わらない。
「さて、降りる前に荷物を纏めて忘れ物がないか確かめようか」
修三さんの言葉にはーい、と2人で答えて部屋に戻る。乗ってから1回着替えてるからちょい荷物出てるな……と思いながら片付けをする。
片付けを終える頃にはカルフォルニア州も半ばを越えて、州境が近づく。ネバダ州に入ればラスベガスが遠くから見えてくる。
「見えた、ラスベガスだ」
遠くからでもはっきりと見える巨大都市。ハリー・リード空港へと向かおうとするとドラゴンライダー達が飛んでくる。クジラを飛ばしている航空会社の人が飛んで来たドラゴンライダーと無線でやり取りしているのが見える。
どうやらドラゴンライダー達はハリー・リード空港側のスタッフらしく、無線でのやり取りを終えると甲板にいる俺と久遠を見つけ、サービスなのか敬礼してからバレルロールで離れてゆく。
正直メチャクチャかっこよかった。現代ファンタジーでしか見られないドラゴンが都市の上を飛び、空港までの誘導を行うという光景に俺たちのテンションは嫌でも上がる。
「ミコト見ろ! あの空港凄いぞ!」
「見てる見てる。本当に凄いな……」
「そうだね、ここまで揃うのはなかなか見れないかもね」
久遠と一緒に欄干から見えてきたハリー・リード空港を眺めていると、巨大なモンスターが何体か停泊しているのが見える。
「航空戦艦アルバトロス、陰陽龍、ミドガルズオルム……ひゃー、巨大モンスターの博覧会だ。しかも全部良い感じに育てられてるな」
「世界各国の輸送、移動用モンスターだね。乗ってきたトワイライトホエールみたいに世界からモンスターや要人を連れてくるために育てられたモンスターだ」
それはつまり、世界各国のモンスターマスター達が集まっているという事でもある。もう既に一部は到着しているようだ。
ドラゴンライダー達が降りる場所へとトワちゃんを誘導する。空港上空に到着すると、他の巨大モンスター達が挨拶するように鳴き、デカデカ鳴き声が空港一帯に響き渡る。見た目の厳つさとは裏腹に、デカい連中は結構カワイイ。
「ランディングに入った。降りる準備しておけ」
「空港から出て車に乗るまでは一本道だ。マスコミやら何やらでが大量に出てくるし、お国柄パパラッチ連中はしつこいからまともに相手をしなくていいからね?」
「はあ、もう到着なの? 飲み足りない……」
髪の毛ぼさぼさのアルコール女がとぼとぼやって来て全員が甲板に揃った。日本からついてきたメディアの人もカメラを回して、到着の瞬間を撮るつもりらしい。
そこから十数分という時間をかけ、ゆっくりと空港に着地し、俺たちはいよいよアメリカに到着した。甲板からの空港へと通路が繋がり、荷物を手にそれを抜けて空港内へと移る。
そこから入国審査まで一切止められることもなく快適に進み、普通時間のかかる審査も爆速で終わった。そうやって入国ゲートをくぐれば、そこはもうアメリカだ。
クジラの上では感じなかったムワッとした熱気が空港の入り口から吹き込んでくる。
そしてメディア。
大量のメディアが行く手を遮るように陣取っている。大量のカメラとフラッシュが仮面達に向けられている。酒クズも仕事だから仕方なさそうに先頭集団の中にい……あ、3リットルの焼酎ペットボトル握ってる!
良かった、平常運転だ。
「私達はこっちよ」
「先にバスに乗ります」
久遠ママとスタッフが代表がインタビューに捕まっている間に迂回して外に出る。俺たちが乗るのを大型のバスが待っている。外にも取材に来たメディアの姿はあるものの、俺たちには興味がないらしい。
俺を撮らぬとは先を見る目がないね。
そこからエアコンの利いたバスの中に入りあー、と声が漏れる。外が暑いだけあって車内は死ぬほど快適だ。
「修三さんも結構詰められてるな」
「あぁ見えて父は結構ファンがいるからな」
自慢げにしてる久遠の様子を眺めながら代表達が来るのを待っていると、リットルボトルを飲み終えた酒クズが2本目……と3本目を取り出して二刀流で飲み始めた。
その様子にドン引きのメディアの隙を突き、代表達がバスに乗り込んでくる。
「良くやったクズ!」
「偉いぞクズ!」
「ごくごく」
「話を聞いてない……」
あれ、多分飲みたいから飲んでるだけだよね?
続いて小型や人形のモンスター達もバスに乗り込んでくる。イギリスとは違う流れだ。乗ってきたハーデスやラファエラとハイタッチする。
「モンスター乗せてもいいの?」
「ラスベガスは世界的に珍しい、モンスターが外を歩ける都市だ。それもダンジョン活性域ではない土地でな。だから別に運送するより一緒に移動していいんだ」
外を見ると大型のモンスター達も空港の別ルートから出て来たり、空を飛んで周りに待機している。こんな風に移動していいもんなんか。
凄いなアメリカ、スケールがデカい。これで空港が燃えてたりすれば実家の味なのになー!
「ウェルカム、ラスベガス……」
ラスベガスから近いこの空港からならラスベガスという都市の姿がよく見える。巨大な建造物の数々にバトル用のドームがいくつもあり、レース会場さえも存在している。
モンスターの育成と勝負に必要な全てが揃った、アメリカ最大のモンスター都市。
それこそがラスベガス。ねじれた歴史が生み出したありえない都市の姿だった。
モンスターバトルこそが世界最大の娯楽……ならそれに相応しい都市だって存在している。その答えがこれだ。アメリカの馬鹿みたいな資本が投入されたこの都市を真似する事はどの国にも難しいだろう……なにせ、駆間とは違ってラスベガスには秩序がある。
そう、モンスターと人の共存が秩序の中で行われているのだ。
「街の景観が駆間とは全然違う……!」
窓に張り付くように外を見る久遠にとっては初めての海外旅行……それでラスベガスという財が集まる都市に来れたのは幸運だったのかもしれない。少なくともゲストである限り、この都市は絶対にゲストを退屈させる事はないだろう。
はて、転生前の俺はラスベガスを訪れた事があっただろうか……いや、思い出す必要もない。中身はぐちゃぐちゃになり過ぎて誰が過去だったのかなんて今更思い出せやしない。だからこれが初めての訪問という事で処理しておく。
「凄いぞ……どの建物も大きい! 見ろミコト! あんなビル駆間だったら真っ先に破壊されてるぞ!」
「背の高い建物は隕石が当たりやすいからねぇ、高層ビルは駆間じゃ見かけないよね。後当たり判定を狭くするために土地大きめのホテルもないよな」
「そうだな! だからあんな風に横にデカいホテルも初めて見るぞ! 凄い、これがアメリカか……!」
「君達ちょくちょく気になる無法地帯の話流してくるの止めない? ちょっと興味そそられるんだけど」
駆間市は今日も地獄だけど皆たくましく生きてます。
同じモンスター生活可能な都市なのに評価がまるで違うのはどうしてだろう。
そんな事を考えながら今、バス内が酒臭くなりつつラスベガスへ―――そろそろ換気するかアイツ窓から捨てろ。