最強以外ありえない   作:てんぞー

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そう! 我である!

「何やってるんだ?」

 

「いや、モンスターのいる都市だと反射的に……」

 

「体が自動的に反応してしまって……」

 

「いやあ、染みついた癖だねぇ」

 

「修三さんまで」

 

 バスから降りた直後ガスマスクを片手に姿勢を低く、遮蔽物を探す。駆間人であれば誰もが体に染みつかせる動きである。バスや車みたいな狭い空間はデスゾーンなので、まず利用しない。利用した場合は常に扉を開ける準備をし、出る時は遮蔽物に素早く隠れる。

 

 学校で習う内容である。

 

 学校で習う!? これを!? 狂ってるのか? いいえ、生存戦略です。

 

 そういう訳で駆間式下車が暴発しつつホテルに到着する。流石に銃器の携帯は許されないので懐が寂しい。最近はこの手の馬鹿デカいホテルに来るのもだいぶ慣れて来たなぁ……というのは嘘だ。全く慣れない。アンナは早く慣れろってばっかり言ってくる。

 

 アイツちょくちょくコーヒーとか紅茶とか高級品送ってきて味に慣れろとか覚えろとか言ってくるんだよね……。明らかに将来的に上流階級に馴染ませようとしてるというか。ま、そこら辺はどうでもいいか。

 

 良いホテルに泊まるのはこれでたぶん3度目になるのだが……流石アメリカ、スケールがやはり違う。ロビーの広さはこれまで見て来たホテルの中で一番だし、普通に表にも中にも働いているモンスターがいる。

 

 駆間と似た景色なのに誰も攻撃技を使ってないのを見ると脳味噌がバグるぜ!

 

「無法都市と治安の生きてる都市を一緒にしちゃいけないよ……」

 

「ミコト、私達はファミリー用の部屋だから一緒らしいぞ」

 

「え、そうなんだ。いや、まあ、確かにそうなるか」

 

 また1人部屋にモンスター連れ込むのかなぁ、と思ったが夜月家と一緒らしい。保護者としての立場もあるからそうなるか。ちょっと新鮮な気分だ。いや、待て、久遠と同じ部屋で寝泊まりするという事なのかそれは? それはちょっと……早すぎるのではないのか……!?

 

 こういうのは卒業して社会人になってからじゃないと駄目でしょ……!

 

「―――色めき立っているようだな弟よ」

 

「はっ、この凄い自信に溢れた威厳ある声は!」

 

 声に導かれるように視線をロビーから吹き抜けのある2階へと向ける。そこには見覚えのある覇気を纏った男の姿があった。腕を組みながら上から見下ろしながら男は言った。

 

「そう! 我である! 即ちお兄ちゃんである!!」

 

「薄々察してたけどもしかして王様って滅茶苦茶弟妹大好きマンじゃない?」

 

「家族を大事にするのは人として当然の事であろう? とうっ!」

 

 2階から飛び降りた王様が膝をついて着地する。スーパーヒーロー着地は膝を痛めるから止めた方が良いと思うんだけどなあ。まあ、ケロっとしてるし結構平気なのかもしれない。何故かラスベガスの同じホテルにいる敵対派閥トップである柊清十郎に手を振って近づく。

 

「王様ちっす」

 

「元気そうだな尊。前は身分を隠しておく様にアンナに死ぬほど言われたがもはや隠す必要もないだろう……そう、柊清十郎とは我の事だ。前回呼べなかった分存分にお兄ちゃんと呼ぶが良い」

 

「キャラ濃いなぁ……」

 

「ミコトの兄君か? 失礼する、ミコトの許嫁の夜月久遠だ」

 

「む、これはどうも丁寧に……普段から弟が世話になっている」

 

「いや、私もミコトには良くして貰っている」

 

 他人を貴様呼びする人間が珍しくも2人も揃ってしまった。滅茶苦茶珍しいキャラ付けなのにこうも揃う時ってあるんだなぁ……とか思ってたけど違う違う。そうじゃない。そうじゃないだろ。

 

「王様なんでアメリカにいるの……?」

 

 俺の疑問に対して久遠に普段から弟が世話になってますムーヴをしてた王様はふ、と小さく笑みを零しながら腕を組み、それから数秒間溜めを作るように目を瞑ってからクワっと見開き、宣言した。

 

「日本代表の現地応援と観戦だッッッ!! 後柊家は日本代表チームのスポンサーもしている! つまり関係者用チケットがあるという事だ。ベガスをうろつけば他の親族にも会えるかもしれないな」

 

「あ、そういう」

 

 ウチの一族が日本どころか世界的に権力と財力を掌握してる超暗黒一族だという事をすっかり忘れてた。確かに日本代表チームにもスポンサーは必要だ。こういうのって自腹じゃなくてスポンサーが金を出してるんだよなぁ、という気づきになった。

 

「それでは我は会合があるのでこれまでだ。何か必要なものがあればこの兄に言うが良い……ただしアンナには秘密だぞ。アンナは我が関わる事を凄い嫌がるからな……代表チーム回りで必要なものは我に言うんだぞ? 必ずだぞ? 久遠よ、弟をこれからもよろしく頼む。それではな」

 

 現れた時の様に王様が唐突に去って行く。本当に自由の化身だなあの人……。

 

 アレに柊家任せれば安泰の様にも思えるけど……任せられない理由がアンナにはあるのだろうか? 少なくともあのスーパーお兄ちゃん王には特に問題らしい問題は感じられなかったけど。アンナの派閥に付いた以上、アンナを裏切る事は出来ないのだが……それはそれとしてアンナの決意表明にはちょっと興味がある。

 

 ま、今はいっか。

 

 部屋の鍵を貰ったら早速エレベーターに乗り込んで割り当てられた部屋へ。ファミリー用とか言いつつやはり最高級クラスの部屋が用意されていて、こういう所でスポンサーの力を知るんだなぁ……という学びを得た。

 

 駆間で住んでいる家とは違う部屋の広さと豪華さにやっぱり久遠は興味津々で、腕を引っ張って部屋の中を探索する事になる。こういう所、年相応の子供という感じがする。

 

 複数の部屋を回ってここを自分の部屋にする、あっちの方が良いかもしれない。そんな話をしながら部屋を決めてからベッドに久遠がダイブする。腕を引っ張られるように、抵抗する事無く俺もベッドに飛び込んで倒れ込み、2人で大きなベッドに横たわるように一緒になる。

 

「ふふふ、初めてだ、こんなに楽しいのは。何もかもが未知で、新しくて、歩いて見る度に発見がある。こんなにも景色が違ってくるなんて、知識と経験では全然違う。ありがとうミコト、貴様のおかげで私はもっと、たくさんを知って、もっとたくさんを経験する事が出来た」

 

 そう言って久遠はベッドに背を預ける様に仰向けになり、右手を掲げた。

 

 その薬指には誘因封じの指輪がはめられている。この指輪の働きによって久遠は今、普通の女の子と同じ機能しか持ち合わせていない。

 

「ミコト」

 

「どうした」

 

「私は、自分を1度も不幸だと思った事はない」

 

 久遠は続ける。

 

「私は父と母に愛されて生まれ、育ち、そして駆間で暮らして来た。一般的な女の子からすれば……まあ、多少変だと言える部類に入るだろう。その自覚はある。言葉遣いとか……生活とか、普通じゃないしな。だがそれで良いのだ。それで良いと父にも母にも言われた。私は愛されて育った自覚がある。それで私は満足だ」

 

「好きなんだな、修三さんや美代さんの事が」

 

「ああ、大好きな父と母だ。このような厄介な体質を持つ私の事を愛して、“普通”を犠牲にしてまで育ててくれた。それも当然のように。とても深い愛の持ち主たちだ。だから私も、それに負けないぐらいの愛を注げる人になりたいと思った」

 

 凄い少女だと思う。本当に、心の底から。夜月久遠という少女は腐っても、嘆いても、絶望してもしょうがない少女だ。望めば望む程全てが叶わない体質をしている。彼女は明確に不幸な少女だ。未来の多くを犠牲にしないと生きて行く事が出来ない。

 

 彼女は家族に迷惑をかけている。

 

 生きているだけで危険な少女だ。

 

 だけど彼女の家族は彼女を愛し、そして正しく育てた。

 

 その結果、久遠は絶対に揺るがない己という存在を手に入れた。

 

 本当に、本当に凄い事なのだ。きっと、彼女は誰に何を言われても己の在り方を変える事はない。彼女を変える事が出来るのは、彼女の心だけになるのだ。

 

「きっとさ」

 

「あぁ」

 

「久遠は本質的に他人を必要としないんだ。自己救済出来るんだ。君は、自分の力だけで自分を生かす事が出来る。とても強い人なんだ……君の人生に、俺は必要ない」

 

 仰向けになっていた久遠がごろり、と転がって此方に向き合った。顔がすぐ傍まで来ている。

 

「そうかもしれない。私が貴様に寄り添えたのは結局、私自身にそれをするだけの余裕があったからだ……だがそれは悪い事なのか? いけない事なのか? 人の在り方等幾らでも変わるし、変えられる」

 

 久遠が両手で俺の両手を握る。

 

「昔の私に、確かに貴様は不要だったのかもしれない」

 

「うん」

 

「だけど、今は貴様無しの生活は考えられない。一緒に、居てくれなきゃ嫌だぞ」

 

 ―――言うべきなのだろうか。今、ここで。

 

 目を瞑って、言うべき言葉を探ろうとして数秒、スマホが鳴らす着信音にこの時間の終わりを察知し、考えていた事を霧散させる。スマホを手に取って着信先を確認すれば東吾からだった。

 

「はい、もしもし」

 

『……なんか、機嫌悪いのか? 邪魔したみたいだな』

 

「良いよ。それよりもどうしたの?」

 

『ミーティングを行う。荷物を片付けたか? 30分後に会議室を借りたからそこでミーティングだ。お前は今回の中心人物の1人なんだ、顔を出して貰わないと困るぞ』

 

「了解」

 

『それと』

 

「ん?」

 

『デートスポットは纏めてある。送っておくから確認しておけ』

 

「余計なお世話だ馬鹿」

 

 着信を切ってスマホを投げ捨てる。その様子を久遠が正面から見ていた。

 

「仲が良いんだな」

 

「ウマが合うからな」

 

 今思うと根の国でアイツに会えたことは幸運だった。あそこで出会わなければ普通に俺は死んでたかもしれない。そう思うと本当に運が良かったんだな……基本的にラック値は最低レベルなのに。

 

 こういう悪運だけは妙に働く所がある。

 

「30分後か」

 

「まあ、荷物だけは置いたし急ぐ必要はないだろ」

 

 寝転がったまま何もせずにいると、久遠が微笑んだ。

 

「ミコト」

 

「ん」

 

「ありがとう」

 

 そう言う久遠に微笑み返した。

 

 俺からもありがとう、君と出会えたおかげで俺は漸く、この世界で呼吸する事が出来た。出会ってくれてありがとう、俺の運命……。

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